第394話 悪い子は教育しよう
大変遅くなりました。
「こ、これは!?」
デスベアーをひっつかんだまま広場に到着した俺は言葉を失う。
広場の中央には、空間にゆがみが生じていた。
地面から垂直に大きな円形の状態で空間がゆがみ始めている。
「むう・・・次元の扉が開きかけているのじゃ!」
円形のひずみの中央部分にはさらに黒い渦ができ始めている。
あの向こうが魔界、ということだろうか?
「てっきりどこ○もドアみたいに扉型のイメージだったんだが」
「イメージがどうかとか言っている場合かの!?」
俺とデスベアーがごちゃごちゃやっていると、次元の穴の中央からなんと幼女が飛び出してきた。
「ついにやってきたのじゃ―――――!!」
「・・・だれ?」
「・・・わらわは知らぬ」
俺とデスベアーはお互い顔を見合わせる。誰だ? この幼女?
「魔王様――――!! 先に一人で行ってはいけません! どんな危険があるやも・・・」
次に次元の穴の中央から、白髪のオールバックに立派なひげを蓄えた執事さんのような格好の老人が上半身だけ姿をのぞかせていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ノォォォォ!? 人間にいきなり見つかってる!?」
あ、やっぱり魔族の方ですかね? てことは、この幼女が魔王様?
「あ~デスベアーよ。あの次元の扉、とりあえずこれ以上広がらないように止められるか?」
「誰がデスベアーじゃ! と言っている暇もないの。すぐに止めて見せよう。はああ~~~~!」
デスベアーが両手を次元の穴に向けて魔力を放射し始めると、ミシミシと空間が軋むような音が止まり、どうやら次元の穴の広がりが止まったようだ。
「ぬおっ!? ぬ、抜けぬ!?」
執事さんが腰のあたりを抑えながらジタバタしている。
うん、これで世界の危機はとりあえず止まった? かな。
「おおう、セバスティールよ、なにをしておるか。早く人間界を征服しに行くのじゃ。遊んでいる暇はないぞ」
腰に手を当ててぷりぷりしている幼女。
「アレーシア様! 油断なさらないでください! そこには人間がおります!」
空間から抜け出そうにも腰が挟まって動けない執事が四苦八苦しながら叫んでいる。
「アレーシアって・・・どこかで聞いた気が」
誰かから何か説明を受けた気がしないでもないけど、覚えてないな。
俺が覚えていないってことは、大したことではないかな、だぶん。
「おお――――!? 人間なのだ! かわいいぬいぐるみ持っているのだ! それをわらわによこすのだ!」
ステテテテ~っと走ってきて俺の前で止まると、俺の持っているデスベアーを取ろうと両手を伸ばしてくる。
「ひょいっとな」
俺はデスベアーを高く持ち上げると、空中でプラプラさせる。
幼女はぴょんぴょんと飛びながらデスベアーを取ろうとするが、俺が絶妙な高さで調整しているため、届きそうで届かない。
「ぬおお~、やめれ! ぷらぷらさせるな! 目が回るわ!」
「おおっ! 喋るぬいぐるみなのだ! 絶対欲しいのだ!」
デスベアーが文句を言うが、幼女は喋るぬいぐるみだとさらに興奮する。
「いや、魔王様! 何をしているのですか! そんな人間などさっさとケシズミにしてしまえばいいではないですか! それより私を早くここから・・・」
「おお、さすがはセバスティール! わらわにぬいぐるみを寄越さぬ貴様が悪いのじゃ! ケシズミになって消えるがよいぞ! 魔王様パ――――ンチ!!」
どうやら炎の魔力を纏わせた右拳でぶん殴る技のようだ。
バシッ!
俺はデスベアーをぷらぷらさせている左手をそのままに、右手一本で魔法のパンチを受け止める。
この威力、間違いなく一般の人間ならば四散爆発しているレベルだ。
無邪気な笑顔で確実に人を殺そうとしたな。
ズオンッ!!
俺の体から可視化されるほどの魔力が溢れだす。
「ひいいっ!? なんじゃ貴様っ!?」
「今俺を殺そうとしたな? 生きているものの命を勝手に奪おうとしたその罪、自分の身で受けるがいい」
ゴチィィィン!!
「みぎゃあああああああ!!!」
俺は思いっきり幼女の頭にゲンコツを落とした。
幼女の頭には大きなたんこぶができた。
「にゃ、にゃにをするっ!! 無礼者がぁ! わらわは魔王じゃぞ! 魔王アレーシア様じゃぞ! 人間どもなぞ皆殺しにしてくれるのじゃ!!」
ゴチィィィィィィン!!
「みぎゃあああああああああああ!!!」
俺は再び幼女にゲンコツを落とした。
タンコブが二段になった。
正月の鏡餅・・・いや、3〇アイスの二段重ね・・・。
それはともかく、なんか魔王アレーシアらしい。魔王ってこんなちみっこいのが魔王なのか?
「お主・・・容赦ないのう・・・」
デスベアーがぷらぷらしながら呟く。
容赦も何も確実に殺しに来た相手だぞ。教育がなっとらん。
相手に痛い思いをさせると自分もめっちゃ痛い思いをすることになるかもしれない、とちゃんと教育しなければならんな。
その意味ではうちのリーナはホント頭いい子だな。
こんな出来の悪いちみっこ魔王とは大違いだ。
「おにょれおにょれ! もう許さぬのじゃ! この辺り一帯を灰燼に帰してくれる・・・」
「ほう・・・? まだおいたをすると?」
ゴウッ!!
俺はさらに自分の体に魔力を纏わせ、より可視化させる。
「ひゃああ!?」
じょじょ――――
なにやら幼女が漏らしている。
「き、貴様・・・一体何者じゃ・・・?」
「ま、魔王様!? ヤツは一体・・・『魔力測定』!!」
何やら執事が叫んで俺の方を見た。
「ブブフォォォォォ!?」
急に鼻血を噴いてぐったりする執事。どした?
「バ・・・バカな・・・魔力35億だと・・・? ワシでも約10万、魔王様でも30万じゃぞ・・・? 魔王様の1000倍以上? に、人間とはかくも化け物なのか・・・!?」
「わ、わらわに手を出すと666の魔界の部下がお前たちを根絶やしにするぞ!」
「ならば我の部下10万の兵士たちがお前たちを蹂躙してやろう」
「「じゅ、10万!?」」
まあ、スライム細胞細かくちぎって兵士にすればいくらでも増殖できるし。
「あなた~、次元の扉とやらは大丈夫でしたの?」
屋敷から俺を追って来てくれたのはアナスタシアとロザリーナだった。
「あら? 貴方もしかしてアレーシア?」
「ふえっ!? アナスタシアおねーさま!?」
お漏らししたまま腰を抜かして座り込んでいる幼女をアナスタシアがアレーシアと呼んだ。
「ああ、思い出したぞアナスタシア。君から説明を受けていたね。君の妹のアレーシアが今の魔王に就任したんだったか」
「ええ、そうなんですが、わざわざ次元の穴を開けてまで遊びに来たの? アレーシア」
「ふぇあ!? いえ、遊びに来たわけではないので・・・」
「あ、こちら、私の旦那様! ヤーベさんよ」
「ども」
俺の軽い挨拶に執事さんが目を丸くしている。
「え? そのバケモノ、アナスタシア様の旦那様・・・?」
「あらセバスティールじゃない、お久しぶり。だけど、人の旦那様をバケモノ呼ばわりは感心しないわよ?」
じろっと睨まれた執事さんがアナスタシアに目を向ける。光る執事の目。
「ぐはっ!? アナスタシア様が魔力53万・・・!? アレーシア様の2倍・・・!? そ、そんなばかな・・・」
「ど、どうなっておるのじゃ・・・?」
おろおろとする幼女・・・ではなく魔王アレーシア。
「すみません。全面降伏させていただきます・・・。魔王位を返上し、アナスタシア様の旗下につくことといたします・・・」
「ん?」
「え?」
俺とアナスタシアは顔を見合わせた。
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