第378話 大事な存在を守るためには容赦しないようにしよう
大変お待たせいたしました。
俺は深夜。自分の寝室に帰ってきた。
とりあえず助けた娼婦たちに食料を出して体を休めてもらうよう指示を出しておいた。
土下座していたオカマッチョたちはあの後騒動で駆けつけてきた王国警備隊に全員引き渡しておいた。全員とりあえず牢屋にぶち込んでもらうよう指示しておいたが、暗黒街を一掃してしまったので、逆に連中の嫌疑を調査できなくなり、したがってしばらくしたら釈放になってしまうかも、とのことだ。
言外になんとかしてくれません?みたいな警備兵たちの視線を感じたが、とりあえず飛んで逃げた・・・いや、帰宅した。逃げたわけではない、うん。
「さて・・・、これからどうするか」
自分のベッドに腰かけて腕を組み、思考を巡らす。
・・・なぜか自分のベッドのはずなのに、リーナが丸まって寝ていたり、起こさないようにそっとベッドに腰かけたら、「ふおおっ!? ご主人しゃまのにおいでしゅ――――!!」とすごい寝言を言いながら腰にガシーンと抱き着いてきて、そのまま寝ていたりするが、俺の寝室なんだ、うん。
『ご主人は、その、少女趣味があるのであるか・・・?』
見ればぷかぷかと俺の目の前に<死霊の女王>カラミティが浮かんでいる。
「・・・誰が少女趣味だ・・・とツッコむ以前に、貴様、なぜここにいる?」
『それはわらわがご主人に完膚なきまでに負けてしまったので、服従の意を示し、お役に立つためについて来たのじゃ』
「憑いてくる・・・?」
『ち、ちがうぞっ!? 何か勘違いしておるぞっ!?』
俺のジト目にカラミティが慌てて否定し、空中でわたわたしている。
「別に役立たなくていいから、成仏してくれ」
『ヒドイ!! わらわはもっと魔導の研究がしたいのじゃ!』
今度は空中で地団太を踏むカラミティ。器用な奴だ。
「ふーむ、まあ役に立つというのなら、証明してもらう必要があるが」
『どうすればいいのじゃ?』
「まあ、すでに役に立ってもらっているがね。とりあえずそこで見てろ」
『・・・・・・?』
俺は俺の腰に巻き着くように抱き着いて寝ているリーナの頭を優しくなでる。
鼻ちょうちんはいいけど、涎は若干勘弁してもらいたいと思う今日この頃。
「おい、起きろ」
リーナの頭を優しくなでながら、鋭い目つきで睨みつける。
「出てこないなら引きずり出すぞ?」
俺の低く押し殺すような声に<死霊の女王>カラミティがびくりとする。
そして、リーナの体からスウッと幽霊のような女が現れた。
見た目はダークエルフの女だ。リーナと違い、完全に大人の姿である。
『不遜な者よな・・・わらわに随分と偉そうな口をきくものじゃな』
「ちっ、わらわが増えたよ・・・鬱陶しいな」
「ヒドイ!?」
なぜか涙目のカラミティを無視して俺はリーナの体から出てきた幽霊のような女を睨む。
「不遜? リーナの体に寄生する幽霊風情が随分な口を利くじゃないか」
『ほう・・・? わらわが誰か知らぬと見える。世界の守護者たるわらわがいなくなれば、この世界が崩壊するやもしれんというのに・・・それすら知らぬと見える』
何も知らぬ愚か者と俺を蔑むような目で見つめるダークエルフの幽霊。
「ふふっ・・・」
『何がおかしい?』
「いや、おかしいから笑ったんだ」
『だから何がおかしいのじゃ!』
「いや、たかだかこの世界と魔界をつなぐ異次元扉の再封印を担当しているだけの鍵の分際で、世界の崩壊がどうとか・・・随分と偉くなったもんだと思ってな?」
『なっ・・・!?』
「お前の一族が前回の魔王軍侵攻時、この世界を守る側の戦士として戦ったこと、その一族の末裔がリーナだという事、お前の一族が代々魔界とつながって開いてしまった扉を封印して魔界とのつながりを断った秘術を管理していることも知っている」
『な・・・なんだと!?』
「貴様は、前回魔王軍侵攻時に封印を施した術師だろう? そして、自分の意識と封印の秘術を自分の子孫に転生して受け継がせている・・・そんなところか?」
『き、貴様! どうしてそれを!?』
「やはりそうか・・・、一つだけ聞く。正直に答えろ。“その時”がやってきて、貴様が秘術を使うために依り代であるリーナの体を使ってこの世に顕現した場合、リーナはどうなる?」
「・・・今でもわずかな時間であればその娘の意識を乗っ取り、わらわがこの姿で顕現することができる。じゃが、秘術を使うためにフルパワーで魔力を使用すれば、その余波でその娘の意識は完全に消え去ってしまうじゃろう。依り代に選ばれた娘の宿命じゃ」
いかにも世界の平和のためには仕方がない、そういった表情で首を振る幽霊。
ガシッ!
俺はダークエルフの幽霊にアイアンクローを決める。
『ぬおおっ!? 貴様、なぜ幽幻体であるわらわに触れることができる!?』
「貴様の都合など知ったことではないがな・・・リーナの意識が消し飛ぶ? そんなことさせると思ってんのか、テメェ」
バリバリバリッ!
『ヌギャッハ――――!!』
『おうおう、ご主人は幽幻体でも関係なく攻撃できるからのう・・・くわばわくわばら』
カラミティが俺を見て拝んでいるが、なんだろう、逆じゃね?
「<黄昏の魔術>・・・、<黄昏の拘束>」
金色に輝く触手がダークエルフ幽霊の幽幻体を内外から拘束して電撃を放つ。
いわゆる精神生命体のような肉体のない状態を幽幻体と称しているようだが、通常肉体が無い存在にダメージを与えたり拘束したりすることは難しい。だが、俺にはそれを可能とする<黄昏の魔術>がある。
ちなみにいわゆるアンデッドの中でゴーストやレイスのような存在はこの精神生命体を魔力(魔素)+負のエネルギーで賄っている。神聖魔法のターンアンデッドなどでゴーストやレイスを祓う場合、この負のエネルギー部分を浄化するようになる。
超上級の<死霊の女王>や<不死の王>のような連中が神聖魔法で祓いにくいのはその存在を保つためのエネルギーにおいて、圧倒的に魔力が多く、負のエネルギーが占める割合が少ないため、負のエネルギーを祓ってもその存在が消えない、消えにくいという事情がある。
ちなみに目の前の<死霊の女王>カラミティは負のエネルギーがほとんどない。純粋な魔力が大半なので神聖魔法はほとんど効果を上げないだろう。
結局、恨みつらみの多いアンデッド程負のエネルギーをたくさん取り込むので、たちの悪いアンデッド程神聖魔法が効きやすくなるんだろうな。
ちなみに、このリーナについているダークエルフの幽霊は実際のところ幽霊ではない。アンデッドではないのだ。純粋な魔法精神体、とでも言うべきか。
その存在は魔力そのものと、依り代の魂との接続でエネルギーを補給しているような状態だ。
『き、貴様っ!? わらわをどうするつもりじゃ!? わらわの存在を消してみよ! その娘の魂とわらわの意識は結びつきあっておる! わらわを消滅させるとその娘の魂の一部も消えてなくなる! つまりその娘の魂が壊れてしまうのじゃ!』
俺が本気でコイツの存在を消そうとしているのが拘束している触手から伝わったのか、まくし立てて俺を止めようと必死だ。
『それに、わらわの秘術で魔界との扉を封印せねば、魔王軍が侵攻してきてこの世の中が大変なことになってしまうのじゃぞ! この世界の平和とその小娘一人の命! どちらが大切か貴様のような矮小な存在でもすぐにわかることじゃろう!』
コイツ・・・イマ、ナンテイッタ?
「世界とリーナの命のどちらが大切か・・・だと?」
『そうじゃ! 小娘一人の命の犠牲で世界の平和が保たれるのじゃ』
「ふざけんなっ!」
ドゴォン!
俺の体から怒りで制御できない魔力が溢れ出る。
「世界なんざ知ったことか! かわいいリーナの方が大事に決まっているだろうが!!」
『・・・・・・』
『・・・ご主人? その娘が大事なのは理解できるのじゃが、世界なんぞ知ったことかというのはちょっと・・・』
まさかの<死霊の女王>にダメ出しをもらってしまった。
アンデッドに諭される俺・・・大丈夫か?
『ええい! アホには付き合っておれんわ! どちらにしろわらわを害そうとすれば、その娘の魂にも影響が出る! 貴様はわらわには手が出せん・・・』
「<分離>」
俺はダークエルフの幽霊とリーナの体のつなぎ目辺りをつかむと、魔力を放射する。
魔力化したスライム細胞に与える命令は<分離>だ。
<黄昏の拘束>で拘束している状態のため、ヤツの精神体を分析し放題だ。何せ幽幻体に触手ぶっ刺している状態だからな。
そして、ヤツの魔力とリーナの魂を解析、一部共有している部分をちぎって魔力化したスライム細胞で置き換え。リーナに必要な情報だけを戻してやれば分離完了だ。
『・・・そ・・・そんな・・・バカ・・・な・・・』
信じられないという表情の幽霊。
だが、ダークエルフ幽霊はリーナの魂と完全に分離され、現在単体で宙に浮いている。
そしてリーナはすぴーすぴーと気持ちよさそうに鼻ちょうちんを膨らませている。
「さて、これで問題ないな」
『はっ・・・!? ま、まて! わらわの秘術が無いと魔界の扉を封印できんぞ! この世界が魔王率いる魔族に蹂躙されてしまうぞ!』
ギャーギャーわめく幽霊を俺はギロリと睨みつける。
俺の視線にビクリとして言葉が止まった。
「魔王軍・・・? 魔王? 魔族? この世界に侵攻してきてリーナを脅かして俺の敵になるってんなら・・・」
『て、敵になるなら・・・?』
「鏖殺だ」
『おっ・・・!?』
『鏖殺・・・つまり、皆殺しということかの? ご主人、魔王以下魔王軍一人残らず滅殺すると・・・容赦ないの』
<死霊の女王>カラミティが両肩を抱いてぷるぷると震える。
<死霊の女王>のくせしてビビリだな。
『そ・・・そんな、バカなことが出来るわけ・・・』
ぷるぷると俺を指さして震えるダークエルフの幽霊。だかお前なんぞに用はない。
大事なリーナを傷つける存在は滅殺あるのみ。
「そんなわけでお前に用はない・・・・安心して、シネ!」
『ヒイイッ!!』
俺は拳を振りかぶった。
最近不調から抜け出せず・・・。
二週間近く更新が開いてしまいましたが、コロナで隔離されていたわけではありません(^^;)
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