閑話6 ギルドマスターの葛藤 後編
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あっさり<迷宮氾濫>が発生したとか言いやがる!
こっちの準備全く整ってねーよ!
しかも、規模が・・・
「いっ、一万!」
さすがにヤーベの声も裏返るほどの驚き。
<迷宮氾濫>の規模が一万だと・・・!?
国難の災害レベルじゃねーのか!?それは。
しかも真っ直ぐここへ向かって来ると言う。
悪夢以外の何物でもねーな。
俺とナイセーは防御に回せる人員の確認と打ち合わせを進めて行く。
くそ・・・これほどの規模の災害に対応できる冒険者グループなんぞ存在しちゃいねーっての!
そこへ、衛兵が飛び込んでくる。
「め、迷宮の魔物が氾濫しました!」
衛兵の報告が入るが、俺たちゃヤーベからの情報ですでに知っているからな。
<迷宮氾濫>の事実は認識済だ。
「それで、規模は?」
代官のナイセーが必要情報の確認を行う。
「そ、それが・・・いきなり迷宮から魔物が溢れ出し、大量に真っ直ぐこちらに向かって来ましたので、正確な規模は・・・」
あたふたと答える衛兵。
「あなた以外で規模の確認を行っている者は?」
「交代員と詰めていた者が私を含めて六人おりましたが、私はこの氾濫の情報をいち早くお伝えすべく戻ってまいりましたので・・・」
あーあ、使えねーな・・・いや、ヤーベの情報が的確で速すぎるだけだな。
一万もの魔物が溢れりゃ腰抜かしてダッシュで逃げて来るだけでも精一杯かもな。
「とりあえず間に合わなくても王都に救援を・・・」
ナイセーの言葉を遮り、ヤーベが立ち上がる。
提案があるとか言いやがったから聞いてみたら、なんと自分の手勢だけで打って出るって言いやがった。正気か?コイツは!
だが、その後自分の能力を隠したいなど、いろいろと条件や要望を言ってやがったが、魔物は跡形も無く殲滅するって言い切りやがった。その上で仕留めた結果を報告しない、自分の名誉はいらないって言いやがったぞ、コイツ。
信じられねえ。これだけの規模の災害を食い止めりゃ、どう考えても死ぬほどの褒美が出るだろ、それも国王からな。下手すりゃ叙爵だってありうるかもしれねえ。Sランク冒険者への道だってある。なのにそれらを全て放棄したうえで、町のために敵に立ち向かうっていう。なんなんだ、コイツ!俺を泣かせてーのかよ?チクショー!
ナイセーに言われ、敵を壊滅させた確認を俺がとる事になった。
出撃するヤーベに並んで俺も町を出る。
「で、ホントのトコどーなのよ? どうやって敵を殲滅するつもりなんだ? 跡形も無く・・・さ」
探りを入れるもヤーベからの回答は無し。
さすがに手の内は簡単に明かさねーか。
さっきから何度かヒヨコが飛んで来てはヤーベに報告している。どうも敵の位置を逐一報告に来ているようだ。隣のイリーナ嬢はだいぶ緊張しているのか表情が硬いな。
だが、進軍を開始してしばらく、緊急のヒヨコの連絡が来たようだ。
雰囲気がピリピリし出した。
「なんだと!!」
ヤーベがいきなり叫ぶ。
「どうした、ヤーベ」
あまりにヤバそうな雰囲気だが、聞く以外にない。
「魔物の一部・・・ゴブリンとオークが進軍方向を変えてカソの村に直接向かったらしい。その数約2000」
「な、なんだと・・・!」
そいつはマズイ!
カソの村はさらに辺境の村だ。柵すら村を覆えていない。
その時、魔力の塊が溢れ出した気がした。
ドスッッッ!
ヤーベが魔導士の杖をものすごい勢いで地面に突き刺す。
杖を中心に魔力が渦巻くようだ。
「ローガよ」
いつもよりヤーベの声にドスが効いている。
飄々とした感じは完全に失せ、使役獣の狼牙達に指示を出した。
え・・・?全員行っちゃうの?ねえ!マジで?全匹カソの村に行っちゃうわけ?ホント?
その後、何を聞いても「そうだな」としか言わないヤーベ。
「・・・おまーふっざけんなよ! 使役獣全部他へやっちまってお前だけじゃねーか!どーすんだ?どーすんのよ!死んじまう!死んじまうぞ!」
俺はキレた。
ところが、ヤーベは落ち着いた様子で四大精霊を呼び出す。
ナルホド!精霊たちがいたから落ち着いていたのか!
それにしても、精霊たちと和気藹々な感じだけど、約8000の魔物がこっちに向かってきてるんだよな?
「まあ、何とかするけど。ちょっと派手な能力を使う。ゾリアが俺を見て何を思うかはわからんが、町を守るためにはこれしかない」
「・・・何をするんだ?」
「ちょっと能力で大幅に姿が変わる。だいぶ気持ち悪くなるかもしれん」
ヤーベは若干硬い声で言った。
敵に緊張しているというより、自分の能力に緊張している感じだな。
ここはひとつ俺様がほぐしてやらねば!
「ヤーベ、心配するな。お前がどんな姿になろうと、俺たちは友達だ。永遠にな!」
いつお前と友達になったよ、みたいな目で見るなよヤーベ。尤もローブの奥の表情はわからんが、その雰囲気はわかるぞ。
お前友達いなさそうだからな、俺がなってやるぞ、お前がどんな風になってもな!
精霊の力を借りて準備を進めて行くヤーベ。
よく考えたら、精霊魔法を操る奴って、ほとんどいないよな。魔術師とか神官はいるけど。
そしてヤーベがその能力を開放した。
「変身!スライムボディエクストラ!」
ローブを脱ぎ去ったヤーベ。
何だか緑色の塊みたいな体だ。どうなってる?
まるで魔物のような体にも見えなくない。
それとも魔力の塊みたいな状態なら、精霊なのか・・・?
「全開!魔力エネルギー! スライム細胞よ、増殖せよ!」
ムリムリムリムリッ!
ヤーベの体から触手のような腕が伸びる。
その伸ばした触手がまるでマッチョな男の太腕のようにボコボコと膨らんだかと思うと、ヤーベ本体よりも大きくなっていく。
そしてヤーベの作った壁の前に巨大な触手が陣取る。
ちょっと友達宣言した事を後悔しかかった。
そしてヤーベが呟く。
「触れたものを取り込み、消化せよ」
そして魔物の第一陣が突撃してくる。
ゴブリンの大群だ。
「ギョエェェェッ!」
至る所で叫び声が溢れる。次々とヤーベが準備した巨大触手に取り込まれていくゴブリンたち。
取り込まれて大きくなった巨大触手が後ろから押し寄せる新たなゴブリンたちを次々飲み込んで消化してゆく。
「こ、これは・・・。だから、直線的に向かって来るなら策がある・・・と言ったのか」
俺は目の前の光景が現実のものか判断するのに時間がかかった。
後ろからどんどん猪突猛進してくるゴブリンたち。次々と突撃して巨大触手にぶつかって取り込まれてゆく。
だが、この策があるからこそ、自分一人で約8000もの敵を受け持ったのか。
どんな能力なのか全く分からないが、あの触手はゴブリンやオークが触れるたびに取り込まれ溶かされていく。
「ヤベェ・・・このまま約8000の魔物を完封するのか? ありがてぇがナイセーになんて説明すりゃいいんだ?」
あいつTUEEEEEE!!
マジで無双してんじゃねーか!
どんなSランクの冒険者でも魔物を8000体も一人で倒すって、どんな小説ネタだよ!
何の能力だよ、コレ!
ちょっと詳しく説明してくれませんかねぇ!
ドオンッ!
なんだっ!? と思ったらオーガとトロールの群れが襲い掛かって来ていた。とんでもねえ迫力だな!
「チッ!圧がすごいな! みんな!下がれ!」
ヤーベが指示を出す。
吸収しきれずにその後ろに次の部隊が押し寄せてくる。
ヤーベの作った土壁が軋むほど押される。
全くもってトラウマ間違いなしの情景だ。
だが、このままでは押し切られてしまうぞ!
その時だった。
「さらに倍!」
ヤーベのコントロールする巨大触手が一気に2倍に膨れ上がる。
一気に倍になった巨大触手は縦に飛び掛かる様に第二陣、第三陣のオーガ、トロールの上空から降り注ぐ様に包み込んでいく。
そして<迷宮氾濫>スタンピードの魔物は一匹残らず吸収され尽くした。
「ははは・・・、やった、やっちまったよ。8000の魔物を完封だぜ!こっちは被害ゼロだ。チクショー、こんなのSランク冒険者でもできやしねぇぜ!数の暴力ってな、どうにもならん時も実際はあるもんなのに・・・、ヤーベ、おめぇすごすぎっぞ!」
「ゾリア、落ち着け。言葉遣いが戦闘民族みたいになってるぞ」
「おおっ? 変だったか?」
自分が興奮しすぎてどんな口調かわかんねえ位だぜ。コンチクショー。
これで町が<迷宮氾濫>から救われたんだ。ただの一人も犠牲を出すことなくな!誰がなんと言おうと、ヤーベはソレナリーニの町の救世主だ!英雄だ!
「ああ、とにかく落ち着け。これで<迷宮氾濫>の対応も完了だ。後はゆっくりナイセーと上への報告を頑張ってくれ」
「ああ、それがあったか・・・」
気分が落ち込む。メンドクサイったらないぜ。
大体、こんな話、ナイセーにしても信じねーだろうな・・・。
「いや、どっちかってーと、お前の仕事はそれが本番のはずだが?」
「いや、お前、こんなすげーもん見せられて、何の説明も出来ねーんだぞ!? 本当に英雄にならなくていいのかよ? Sランク冒険者への推薦だって夢じゃねーぞ?」
どう考えたって、英雄として評価を受けて巨額の報酬貰った方がいいと思うんだががなぁ。
「いや、そんなメンドーな立場はいらん。今後ともFランクでよろしく」
「こんなFランクがいるか!」
どんな詐欺だよ!
約8000の魔物を完封するFランク冒険者とか聞いたことないわ!
てか、8000の魔物を完封すること自体聞いたことねーけどな!
「なんと言われようと上げる気はない。試験も受けないぞ」
「ギルドマスター権限で上げてやるわ!ふはははは!」
「悪の総督みたいに笑ってんじゃねーよ!」
何と言われようとヤーベはFランクなんぞに置いとけるか!
勝手にランク上げといてやる!
そのうち精霊に何か言われたヤーベは巨大触手を自分の体に引き戻す。
・・・そしてヤーベは巨大化した。
どーなってんだぁぁぁぁぁ!!
ゆうに3mはあるぞ!
わたわたしている間にシュルシュルと小さくなって、元の大きさに戻った。
そしてイリーナ嬢が抱きついて泣いている。
まあなんだ、とりあえず元の大きさに戻ってくれてよかったよ。
3mもあるとギルドの建屋に入れねーよ・・・そんなレベルの話じゃないか。
「ねえねえ、ヤーベ? ローガ達が心配だし、そろそろカソの村へ様子を見に行った方がいいんじゃない?」
精霊の一人がヤーベに言う。
そうか、こっちが片付いてもまだ、カソの村に向かった一団がいたか。
「よし、カソの村へ行こうか」
ヤーベが宣言する。
よし、こっちもついてくぜ!
「イリーナ、掴まれ」
「わかった!」
なんだか緑の塊になったヤーベの頭あたりを抱きしめる様に掴まるイリーナ嬢。
その背中を触手みたいなもので支える。
「シルフィー、力を貸してくれ」
「うん!お兄ちゃん任せて!」
<高速飛翔>
ドギュン!
ヤーベが浮き上がったかと思うと、一瞬にして豆粒の様に小さくなっていく。
速ぇ!
・・・あ。
「待ってくれ~!」
俺は慌てて馬に乗ると追いかけた。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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