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閑話69 騒然となる夜会(前編)

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キルエ侯爵に試作品の化粧水と乳液を渡して数週間後―――――



ある夜会にて。


「キ・・・キルエ侯爵・・・」

「いや・・・元々美しいのは存じ上げていたが・・・」

「なんともはや・・・」

「あのシルヴィア嬢の輝きと言ったら・・・」

「まるで輝く美の化身ではないか!」

「いや、天使・・・否! 女神である!」


ドレスを身にまとい夜会の中央でワインを嗜みながら他の侯爵家の面々と言葉を交わすキルエ侯爵を周りで見つめている若い男性貴族たちが口々に賛辞を述べては盛り上がっている。


開かれているのはドルミア侯爵の誕生パーティ。

ドルミア侯爵自体は自身の誕生パーティを大きな規模にしたくなかったようだが、さすがにドルミア侯爵家の当主誕生パーティをこじんまりとしたものにはできぬと家臣たちの企画もあって華やか且つ大規模な夜会が開かれている。

 テーブルには色とりどりの酒が並び、つまみとなる高級な珍味なども所狭しと並んでいた。


この夜会に来ていないのはワーレンハイド国王を筆頭とした王家の人々と多忙を極めるスライム辺境伯、領地に戻っているコルーナ辺境伯以外の主だった上位貴族の面々、新進気鋭の若手貴族たちなど、この王国の有力者たちが集まっていた。

だが、主役であるはずのドルミア侯爵への挨拶が一通り終わると、夜会の主役はもっぱらキルエ侯爵へと移っていった。

否、パーティ会場に登場した時からキルエ侯爵は主催者のドルミア侯爵より目立っていたと言っても過言ではない。それほどにその美貌は輝いていた。


「・・・この夜会、(ぬし)の話題で持ちきりじゃの」


笑みを浮かべながらパーティの主催者であるドルミア侯爵がこの夜会で話題になっているキルエ侯爵の話を本人に振った。


「はは、まあ悪い気はせぬがな」


キルエ侯爵は手に持ったワイングラスを揺らし、中のワインを一気に煽った。


「だが、若い貴族たちも残念なことよ。何しろ容姿端麗な主は侯爵家当主にあらせられるからな。おいそれと下の者が声をかけるわけにはいかん」


ドルミア侯爵はキルエ侯爵をからかうように笑った。


「そうだな、それもシルヴィア嬢と同じような年齢で貴族当主となれば、いるのはせいぜい男爵くらいか? これでは誰もお主に声をかけられんな」


壮年という言葉がぴったりなダンディーさを振りまくエルサーパ侯爵が笑う。


「ふむ、だがスライム辺境伯も主と同じ年ごろであったであろう? どうだ? 彼の御仁は?」


そこにスライム辺境伯を推す発言をしながらこの夜会の開催主であるドライセン公爵がやってきた。


「しかし、彼の御仁にはカッシーナ王女を始め、かなりの人数の奥方がおりますが・・・」


スライム辺境伯の実力、立場に何の問題もないが、すでに相当数の奥さんがいますけど、と当然の心配をするドルミア侯爵。

すでに七十近いドルミア侯爵にとってみれば、キルエ侯爵は長年付き合いのあったキルエ侯爵家の唯一の生き残りであった。

ドルミア侯爵はもはやキルエ侯爵に孫娘にも近い感覚を抱いていた。シルヴィア嬢が十六歳でキルエ侯爵当主を継がなくてはならなくなってからすでに六年。最も相談に乗ってきたのもこのドルミア侯爵であった。孫娘の様に思うシルヴィア嬢が奥さんの多いスライム辺境伯に嫁ぐのはいろいろと気苦労が多く大変なのでは・・・と心配したような表情になる。


「・・・ほほう、まんざらでもないようだな」


だが、ドライセン公爵の言葉に顔を向けてみれば、キルエ侯爵は頬を赤く染めて少し俯いていた。


「なんと・・・彼の御仁はどこまで美女の心を盗めば気が済むのか。しまいに稀代の大怪盗などと揶揄されぬ前に退治したほうがよいのではないか?」


「はっはっは! うまいことを言う」


ドルミア侯爵の孫を心配するかの方な発言にドライセン公爵は高らかに笑った。


「おいおい、俺を忘れちゃいないかよ?」


ムスッとした顔でワインを片手に歩み寄ってきたのは四大侯爵最後の一人、フレアルト侯爵だった。


「忘れてはおらん。この話題には上らせる必要がないだけだ」


「なんでだよ!」


ドルミア侯爵の連れない説明によりむっとした表情で突っかかるフレアルト侯爵。

キルエ侯爵がすっと表情を戻し、切れ長の美しい瞳に氷のような冷たい光を灯し出す。


「お主がシルヴィア嬢と釣り合うとは思えんのでな」


しれっと本音をぶちまけるドルミア侯爵にフレアルト侯爵の顔が赤くなる。キルエ侯爵とは別の意味で。


「そうだな・・・。フレアルト侯爵ではなぁ・・・」


この場で最も偉い立場にいるドライセン公爵がため息をつきながら自分ではだめだと口にしたことに衝撃を受けるフレアルト侯爵。


「ど、どうしてです!? 私も十七の時に父を亡くし、その家督を継いでここまでやってきました! キルエ侯爵になんら変わるところはありません!」


「そうか。それで、お主はシルヴィア嬢との婚姻を打診されれば、受けると?」


冷たい目で見つめるキルエ侯爵の顔を見て、それでも顔を少し赤らめながらフレアルト侯爵は言葉を口にする。


「同じ侯爵家同士ですし、家柄も問題ないですから、受け入れるのにやぶさかではありませんが」


顔を赤くしておいてやぶさかではないも何もないわと呆れ顔のドルミア侯爵だったが、ドライセン公爵はより辛辣だった。


「だからお主はダメなのだよ」


「ど、どうしてです!?」


ハッキリと駄目だと面と向かって言われたフレアルト侯爵は血相を変える。


「なぜ、お前がキルエ侯爵の婚姻に関して上から物を言える立場にいると思っているのだ?」


お主、と今まである程度敬意をもって呼んでいたドライセン公爵がフレアルト侯爵をお前と呼んだ。これは対等な話ではないと周囲にわからしめるための言葉でもあった。


「そ、それは私が男子であれば・・・」


「それ以前に、我らは貴族社会に生きている。本音はどうであろうと、建前上は貴族の階級と対面を大事にせねばならん。お前とシルヴィア嬢は同じ侯爵家当主だが、彼女は十六から当主を引き継ぎすでに六年。

十七から引き継ぎわずか二年のお前とは年季が違うわ。それこそ先達に対する敬意がお前にはない。当主になりたてのころからお前はシルヴィア嬢に突っかかっていたことをもう忘れたのか?」


「くっ・・・」


「女だからと言って自分よりも先輩であったシルヴィア嬢に対してきた態度を鑑みれば、今美しく成長したシルヴィア嬢に婚姻を受け入れてもらえないことなど、確認するまでもなく明々白々。だから話題にものぼらぬのよ」


「・・・・・・」


ぐっと拳を握るフレアルト侯爵。返す言葉が見当たらないようだ。


「それにお主はシルヴィア嬢の命の恩人であるヤーベ卿に対して、当初から敵対的であったな。誰しもが恩人をけなされたりすれば腹もたつというもの」


エルサーパ侯爵もドライセン公爵を擁護する。


「何よりな、最も違うのは、その気概よ」


ドライセン公爵はフレアルト侯爵を諭すような口調で続けた。


「気概・・・ですか?」


「そう。彼の御仁は当初から貴族にはなりたくないと常々口にしておったそうだ。そんな柵の強い世界になど身を置きたくないとな」


「そんなばかな・・・誰しも平民ならば貴族になるというありえないような夢がかなうとなれば・・・」


フレアルト侯爵が信じられないと俯くが、その反応にドライセン公爵は溜息を吐く。


「そもそも、その凝り固まった視野からしてお前はだめだな。ヤーベ卿の実力があれば、この国の貴族などという小さな枠組みにとらえられることこそ不利益。望めば小国の王になどすぐにでもなれる男だぞ?」


「そういえばワーレンハイド国王も愚痴っておられますな。ヤーベ卿に「王を変われ」というと、決まって「そんなメンドクサイ立場は嫌だ」と返されるそうです。ワーレンハイド国王が苦笑しておりましたよ。国王という立場は面倒くさいそうだ、確かにな。わしは今、心の底から実感しておる」と」


「いや、国王の大事な仕事を面倒くさいと言われても困るのだが・・・」


エルサーパ侯爵の言葉にワーレンハイド国王にも困ったものだとドライセン公爵は嘆息する。


「それにヤーベ卿はラードスリブ王国の国王の座を打診されておったはずですぞ。奥方の一人、フィレオンティーナ殿がラードスリブ王国の第一王女だったとかで」


「ああ、そうだったな。思いっきり即断で断ったらしいが。そういえばタルバリ伯爵も奥方がラードスリブ王国の第二王女だったか。タルバリ伯爵も国王の座を打診されて断ったとか」


「欲のない話ですな」


ドライセン公爵を始めとしたお偉方が大きな声で笑い、キルエ侯爵も微笑む。

フレアルト侯爵だけが肩を落としていた。


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