投稿450話達成記念 リーナの成長日記⑥ 奴隷女王リーナ、爆誕!(後編)
・・・南山(みなみやま。大爆誤字)
「マジか! 辺境伯様ご自身が大々的に視察!?」
「ヤーベ様が視察に!?」
「この街来るの!?」
「キャー! おめかししなくっちゃ!」
「ヤベェ! 鳥肌立ってきた! 武器の手入れしてこよう!」
「お前、それは普段からやらないとダメなヤツだからな?」
その日、鉱山都市マーロに駆け巡った『ある噂』。
この領地を治める辺境伯党首であるヤーベ自身が家族を引き連れ、この鉱山都市マーロを視察に訪れるという話であった。しかも数日の滞在を見込むとあって、普段からヤーベに会えない者、姿を見たことのない者たちでさえ、もしかしたらヤーベのご尊顔を拝むことができるかも・・・と期待していた。
ちなみにその前日にはこのバルバロイ王国、ワーレンハイド国王がこの鉱山都市マーロを視察にやってくるという噂が流れ一時騒然としたのだが、今ではその噂はあっという間にかき消えてしまっていた。
代官邸。
ここに各部門の責任者たちが集められていた。
この鉱山都市マーロを取り仕切る重要な立場の者たちが一堂に揃った会議が行われていた。
「・・・これで、国王視察時の注意事項説明を終了する」
代官のゴッセージが国王視察時のスケジュールおよび注意事項を説明し終わる。
だが、各部門の責任者たちはゴッセージの話を聞き終わっても緊張した面持ちを崩さない。
だがしかし、それは何も国王の視察という通常であればビッグなイベントに緊張しているというわけではなかった。
「次に、領主ヤーベ様のマーロ視察に関するスケジュールを申し伝える」
会議室内の全ての者たちにより一層の緊張が走る。
彼らにとってみれば、国王の視察などよりも領主の視察はよほど重要な事のようだった。
とくに領主であるヤーベの名のもとに集められた奴隷たちはそれが顕著であった。
国に仕えるというよりは、領主であるヤーベ自身に買われているという意識の強い者たちがほとんどであり、奴隷という立場に落とされた者たちにとってみれば、救いの手を伸べなかった『国』という存在よりも、直接手を差し伸べてくれた『ヤーベ』という存在に傾倒してしまうのは致し方のないことであろう。
まして、その奴隷待遇が奴隷になる前よりもずっと良い待遇であったならば、もはや仕方がないというよりは当然の結果とも言えた。
「ふふふ・・・ついにこの私をその目に映していただける日が・・・」
エフィルは両手を胸の前で組むと、祈るようにつぶやいた。
「そうですね! お仕事ぶりを見ていただけるとなるとテンションが上がりますね!」
狐人族のソフィアがふんすっと両手でゲンコツを握る。
「そうさねー、思いっきり恩を受けているから、頑張って働いているところを見てもらえるのはうれしいことさね」
狼人族のスザンヌが両手を頭の後ろで組んで後方へそらした。
「ううむ・・・ヤーベ様の期待に応えられているかどうか・・・」
そうつぶやくのは一般奴隷のアーロンだった。
アーロンは街を守る「衛兵」の下に着く奴隷たちで編成された「衛士」隊の隊長に抜擢されていた。「衛兵」が何かあった時に出動する機動隊のようなイメージだとすると、「衛士」は街を常に警邏するお巡りさんのようなイメージで構成されている。
「ガッハハハッ! ついにワシの雄姿をヤーベ様に披露できるというわけだな!」
恐ろしい程の筋肉ダルマであるガイラスが豪快に笑う。
この男、身長二メートル越えの巨漢筋肉ダルマでありながら、衛士ではなく町の流通システム担当であった。
「ふふふ・・・誰がヤーベ様の奴隷として最も優れているか・・・」
誰かのつぶやきに多くの者たちの目が光った。
「キャー! 来たわよ!」
「ついにヤーベ様のご尊顔が!」
「落ち着いて! 落ち着くのよアタシ!」
沿道に多くの人が集まる中、ヤーベたちの乗った豪華な馬車が到着した。
ちなみに昨日はワーレンハイド国王一行が到着しているのに、沿道にはたいして人がいなかったことを付け加えておく。
さらに付け加えておくと、この時ワーレンハイド国王一行は鉱山の見学に出かけており、街の盛り上がりは多くの歓声程度にしか聞こえてなかった。
領主邸の前に馬車が到着し、ヤーベを先頭に次々とその姿を現す。
ヤーベの姿に大興奮する沿道の人々たち。
馬車から次々と現れる美しい奥方たちへの感嘆の声も上がる。
そして・・・
「とおっ! リーナ参上でしゅ!」
馬車の扉から空中へ飛び出し、くるんと一回転してすたっと地面に着地したリーナが笑顔で空に指を一本本立てた。
「おおっ、リーナ今日も元気だな!」
ヤーベが笑顔を浮かべるとリーナはさらに「とうっ!」と飛び上がると、ヤーベの肩に着地した。いわゆる肩車状態となる。
「はっはっは、高いだろう?」
なんと子供がヤーベの肩に乗ったではないか!
「おおっ! まさかヤーベ様にお子様が!」
「一体いつの間に!?」
沿道でヤーベに子供がいたと騒然となっていると、その声がリーナにも届いた。
「ふおおっ!? リーナはご主人しゃまの子供じゃないでしゅよ?」
リーナ自身の言葉に沿道がシンッとなり静寂が訪れた。
「リーナはご主人しゃまの一番奴隷でしゅ!」
―静寂、のち喧騒―
「「「「「えええええっ!?!?!?」」」」」
「イ、イチバンドレイ・・・?」
「そ、そんな・・・」
「ば、ばかな・・・」
領主邸前で出迎えのために待機していたエフィル、ソフィア、スザンヌがそろって崩れ落ちる。鉱山都市マーロでバチバチと凌ぎあっていた奴隷たちだったが、まさか王都にすでに奴隷がいるとは考えていなかったのである。
その後、マーロの街の主要施設を見て回ったヤーベ一行。
多くの奴隷たちから感謝と尊敬の念を込めた視線を浴びていたヤーベだったが、その次に視線を集めていたのはリーナであった。
その夜、領主邸で行われた晩餐会。食事の席にリーナの席があったことに奴隷たちが驚き、
「一番奴隷のリーナでしゅ!」
「二番奴隷のシーナです!」
と、まさかの二番奴隷までいたことにさらに衝撃を受けた奴隷たちだった。
「あの・・・リーナ様?」
食事が終わって部屋に引き上げるリーナを呼び止めたのはエフィルたち奴隷の中でも要職に就く者たちだった。
「どうしたでしゅか?」
ヤーベではなく、リーナに話しかけてきたエフィルたちをリーナの後ろに立ってヤーベは見守った。
「我々ヤーベ様の奴隷になって働き始めた者たちばかりなのですが・・・ぜひヤーベ様の一番奴隷としての奴隷の在り方というものをぜひ私たちにご教授ください!」
エフィルたちがそろって頭を下げる。
ヤーベはリーナのような子供に何の言葉を期待しているんだろうと訝しんだが、当のエフィルたちは一番奴隷という立場の矜持が聞きたいようだった。
「ふみゅう・・・いいでしょう! リーナがご主人しゃまに仕えるイチバンドレイとしての心得を伝授するでしゅ!」
ばばーんと無い胸を思いっきりそらし、仁王立ちするリーナ。
エフィル以下二十名以上の奴隷ながらも各部署の責任者級の者たちがずらりと並び、ごくりとつばを飲み込むと、リーナの言葉を待つ。
「ご主人しゃまの奴隷とは、主人しゃまのご主人しゃまによるご主人しゃまのための奴隷になることでしゅ!!」
すこばーん。
「「「「「「?????」」」」」
エフィルたち、ポッカーン。
「おおう、リーナさんや。いつのまにエイブラハムさんの名言を引用するように?」
ふんぞり返っているリーナの後ろで、ヤーベがおいおいとリーナにツッコミを入れるが、多分自分が似たようなことを言ったのをリーナ自身が
覚えているんだろうな~と思うと自業自得なせいかツッコミも弱くなってしまう。
「前進をしない人は、後退をしているのでしゅ!」
「うん、今度はゲーテさんかな?」
「どんなに悔いても過去は変わらないのでしゅ! どれほど心配したところで未来もどうなるものでもないのでしゅ! 今、現在ご主人しゃまに最善を尽くすことこそがご主人しゃまの奴隷に求められているのでしゅ!」
「うん、ジョブズさんだよね? 俺そんなこと言った事あったっけ? もしかしてリーナさん地頭でスティーブさんと並んでます?」
「自分で自分をあきらめなければ、人生に「負け」はないのでしゅ! 今こそご主人しゃまに全力で尽くす時なのでしゅ!」
「うん。手塚先生の名言だよね? 俺、ア〇ムのお話したことあったかな?」
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
「おおう、エフィルちゃんたちの琴線に触れてしまったぞ・・・」
ヤーベがなんとも言えない顔で困っているが、エフィルたちはリーナの言葉に感動し号泣していた。
「全てはご主人しゃまのために!」
「「「「「全てはご主人様のために!!」」」」」
「全てはご主人しゃまのために!」
「「「「「全てはご主人様のために!!」」」」」
「やべぇ、リーナがどこかの怪しい宗教先導者に見えてきた」
この後、鉱山都市マーロの奴隷たちからリーナは奴隷女王とあがめられることになる。
そして、涙を流しながらシュプレヒコールを上げるエフィルたちを鼓舞するリーナを見ながら、リーナ自身のものすごい成長を感じるとともに、このままでいいのかと思わないでもないヤーベであった。
更新に間が空いてすみませんでした。
私生活が暴れたのもありますが、前後編をオチまでまとめずにエフィルたち新しい奴隷キャラの話をかさマシに持ってきたうえで見切り発車してしまったのが最大の問題点でした。おかげで中途半端な話になってしまったと反省しきりです。
次回からはまた王都生活編。王太子の婚約者・・・また出てくる?かも?