投稿450話達成記念 リーナの成長日記⑥ 奴隷女王リーナ、爆誕!(前編)
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投稿450話達成記念 リーナの成長日記をお届けいたします!
ヤーベには直属の奴隷が二人いる。
すなわち、ヤーベが直接奴隷商から金貨五枚で購入したリーナと、オークションにて金貨七千万枚で落札したシーナである。
「すぴー、すぴー」
「ふみゅみゅみゅみゅ・・・」
「すぴー、すぴー」
「ふみゅみゅみゅみゅ・・・」
朝、緩やかな日差しが寝室に差し込んでくる。
朝の訪れを優しく告げる柔らかな光に、先に目を覚ましたのはリーナであった。
「ふおおー、ご主人しゃまのニオイでしゅ~」
いつものごとくヤーベのベッドにもぐりこんで腰に抱き着いて寝ていたリーナは、腰に顔をグリグリ押し付けながらクンカクンカしていた。
「ふああ~、お、リーナ、またベッドにもぐりこんだか」
「にへへー」
にぱっと満開のひまわりのような笑顔を見せられると、ヤーベもそれ以上小言を言えなくなる。尤もヤーベ自身はリーナに口うるさく小言を言うつもりはさらさらないのだが。
「あ~~~~! またリーナちゃんヤーベさんのベッドにもぐりこんでる!」
「リーナちゃん、抜け駆けは禁止ですよ!」
柔らかい朝日を浴び、優雅な寝起きを微睡みの中で楽しんでいたヤーベだが、その静寂は破られ、サリーナとルシーナがけたたましくヤーベの寝室へと入ってきた。
にへへーと笑いながらもごまかそうとするリーナのほっぺをルシーナが軽く引っ張る。
「ヤーベさんのベッドに行くときはみんなで一緒です!」
リーナのぷにぷにほっぺをちょっぴりつまみながらルシーナがぷんすこ怒っている。
いや、みんなでって、リーナも巻き込んで何を言っているんだとヤーベは頭を抱えた。
「リーナにはご主人しゃまがちゃ~んと寝ているか確認する大事なお仕事がありましゅ!」
ふんすっと胸を反らしてドヤ顔するリーナ。
そんな仕事があったんだとヤーベは感心していた。
もちろん奴隷にそんな仕事はない。
「あ、それズルイ! ボクもその仕事やりたい! でもって朝まで一緒にベッドに入るんだー!」
サリーナもヤーベがちゃんと寝ているか確認の仕事をしたいという。
そんなに自分がちゃんと寝ていることを確認するのが大事な仕事なのかと改めてヤーベは感心するのだが、もちろんそんなわけはない。
「あと、ご主人しゃまの体調が悪くないかクンカクンカして確認する大事なお仕事がありましゅ!」
「な、なななんですって!?」
声を上げたのは後からやってきた正妻のカッシーナであった。
「だ、旦那様の体調を確認するためにクンカクンカ・・・わ、私も毎日実践しなければ・・・」
「いや、しなくていいから」
ヤーベは笑って手を振った。
「なぜです!? リーナちゃんは毎日あなたのことをクンカクンカしているのに私は駄目というのですか!」
カッシーナの鬼気迫る勢いに押され、ヤーベは奥さんズの面々からもクンカクンカされてしまうことになってしまった。
(・・・クンカクンカして俺の体調がわかるモノなのか・・・?)
ヤーベは首を捻っていた。
「今日はご主人しゃまの一番ドレイであるリーナがドレイとは何かを教えるのでしゅ!」
「ハイ! よろしくお願いします!」
どこからか運んできた木製のみかん箱の上に立ち、胸を張って声を張り上げるリーナ。
その前に立って元気に返事をしたのはシーナであった。
「ちなみにリーナがご主人しゃまの一番ドレイでしゅので、シーナしゃんはご主人しゃまの二番ドレイになりましゅ!」
「わ、私が二番・・・なんだか偉くなった気分です!」
なぜか二番で嬉しそうなシーナ。
ちなみにこの屋敷にこの二人以外にヤーベが直接買い付けた奴隷はいない。
そう、つまり、この屋敷に奴隷はこの二人だけなのである。
ゆえにヤーベの直属の奴隷は一番ドレイであるリーナと二番ドレイであるシーナの二人しかいなかった。
とどのつまり、二人しかいない奴隷において、一番、二番と順をつけているのである。
ちなみに一番ドレイと二番ドレイという区分けも認識もヤーベ自身は持っていなかった。
その認識はリーナとシーナの中でのみ存在する。
「一番ドレイであるリーナのお仕事は常にご主人しゃまのおそばにいて、ご主人しゃまのお役に立つことでしゅ!」
「なるほど!」
「なので、二番ドレイのシーナしゃんはお屋敷のお仕事を頑張ってくだしゃい!」
「ハイッ・・・って、あれ? 私はヤーベさんのお世話は・・・?」
「ご主人しゃまのお世話はリーナのお仕事なのでしゅ」
「私は・・・?」
「お屋敷のお掃除やお洗濯を頑張るでしゅ」
「え~~~~~!?」
シーナはそれではメイドと一緒に働く現状となんらかわらないのではと肩を落とした。
ところかわって、ここは鉱山都市マーロ。
ここにはヤーベの名の下に購入された多くの奴隷たちが働いていた。
一般奴隷組は町の様々な場所で仕事をするために、重犯罪者奴隷は鉱山での採掘作業のために、集められた奴隷の数は優に一万人を超えていた。
その多くは一般奴隷になるのだが、重犯罪者奴隷も二千人を超える規模で集められている。
そんな多くの奴隷たちの中で、最近とみに話題に上る内容がある。
それは、「ヤーベ様は奴隷の中で誰を重要視しているか」といった話題である。
その話題から派生して、今では誰が最もヤーベの近くにいるか、だの、奴隷の中での順位はどうだなど、はては奴隷の中でのナンバーワンは誰だなど、その系統の話は話題に事欠かなかった。
重犯罪奴隷たちは「我こそはヤーベの右腕なり!」と気合を入れて働いている。
一般奴隷たちの中ではその仕事の成果や与えられた役割から順位を想像していた。
その中でもよく話題にあがる数名の名があった。
まず、『狐人族のソフィア』である。
なにしろ、ほかの領地から貴族や王都の王城勤めの文官たちがこぞってそのシステムを勉強したいと大勢やってきては見学を申し込む。
そんな多くの貴族や王城勤めの文官たちを案内して施設を丁寧に説明する仕事を請け負う部署のリーダーをソフィアは務めているのだ。
まさしくこの鉱山都市マーロの鉱山施設部の顔といってもいいかもしれない。
次に『狼人族のスザンヌ』の名があがっている。
お玉一本で重犯罪者奴隷をコントロールする手腕は見事だと、ヤーベ本人が現場を視察した後に彼女の給料が倍になったという噂だった。彼女自身も給料をもらうときに驚きすぎて魂が抜けたようになっていたという話もある。なにより肝っ玉姉さんといった雰囲気で同じ奴隷仲間からの信頼も厚い。
その他にも何人か名前があがったりはしているのだが、噂をすれば必ず名があがる人物がいた。
エフィル・ローズ元子爵家令嬢。
奴隷に落とされたため、フォンが抜けているが、間違いなく名門ローズ子爵家の令嬢である。
なぜそんな高貴の生まれである彼女が奴隷として鉱山都市マーロで働いているのか。
それは半年前までさかのぼらなければならない。
その日、相手側の立っての申し出によりさる伯爵家へと赴いたエフィル。
表向きは父の認めた手紙を持っての訪問であったが、実際はさる伯爵家次男がどうしてもエフィルを妻に迎えたいと自身の父親へ強く要望したため、お見合いとまではいかないまでも顔合わせの意味が込められていた。
もともとローズ子爵家にとってさる伯爵家はそれほどゆかりもなく、どうしても縁談をまとめて貴族間の関係を深めたいわけでもなかった。また次男坊自体は女癖が悪いとあまり良い評判が聞こえてこなかったため、顔合わせでエフィルが気に入れば・・・程度の訪問であった。
案の定、次男坊は結婚を体よく断られ、短い滞在期間でエフィルはローズ子爵寮へ帰ることになった。次男坊の対応があまりにひどかったため、エフィルが我慢できなくなったのである。本来ならばある程度相手の顔を立ててと、貴族の淑女としての対応が可能なエフィルであったが、正直自分の身の貞操の危機すら感じる状況では、相手を気遣う余裕などなかったのである。
だが、ここで悲劇は起きた。
伯爵領を離れる途中、エフィルたち一行は大規模な盗賊に襲われてしまった。
誰も帰ってきた者がいなかったローズ子爵家は激怒し、王国へも調査依頼を出し、さる伯爵家へも全貌の調査を要請した。
だが、王国側が調査に入った時には、エフィルを始めとしたローズ家の人々は大金で奴隷商人に売り飛ばされていたのである。
だが、ここで誤算が生じた。
伯爵家の次男坊は奴隷落ちしたエフィルを自分で買って、自分を振ったエフィルに凌辱の限りを尽くすつもりであった。つまりは盗賊たちもこの次男坊の手引きであったのだ。
だが、次男坊が奴隷に落ちたエフィルを購入しようと話をつけていた奴隷商に向かうと、ローズ子爵家関連の奴隷はエフィルを始め全員が購入された後だった。
なんでもどこかの貴族の使いが来て、全員売らないと殺すと脅されたから仕方なく売ったと説明したのだが、実際には奴隷商に相場の二倍以上を払うということで奴隷商自身が次男坊との約束を破棄して喜んで売ってしまったのだった。
だが、それに激怒した次男坊は奴隷商をその場で切り殺し、その商会が犯罪まがいの奴隷商いを行っていると告発し、取り潰しに動いたのだった。
そのころ、奴隷として売られてしまったエフィルを始めとしたローズ子爵家の人々は、鉱山都市マーロに到着していた。
この街は現在進行形で発展中であり、どのような事情で奴隷落ちしたかは知らないが、子爵家で働いていたことがあるような経験値の高い人材をヤーベが欲しがったのである。
それこそ給金等もローズ子爵家で働いていたころよりもたくさん出すと説明したのだが、すべての奴隷たちがなぜ奴隷になったのか実情を話し、なんとかローズ子爵家に戻れないかと打診してきた。
これに驚いたのはヤーベの方であった。子爵家の人に事情があったとは思ったのだが、このバルバロイ王国にて、まさか子爵家クラスの人材を堂々と闇奴隷商に流すような真似をする輩がいるなどとは夢にも思わなかったのである。
慌ててヤーベはローズ子爵家とワーレンハイド国王、ルベルク宰相に連絡した。
そしてローズ子爵家には全員を無償で奴隷から解放し、領地に送り届けると連絡した。
当主であるロレント・フォン・ローズ子爵は感激し、ヤーベの屋敷に多くの贈物を持参してあいさつにやって来た。
だが、ここでも想定外の事態が起こる。
当のエフィル子爵令嬢が奴隷からの解放を望まなかったのである。
「エフィル、どういうことだい? スライム辺境伯はみんなを無償で奴隷から解放してくださるとおっしゃっているんだよ?」
「お父様、ローズ子爵家と致しましてはスライム辺境伯様の恩情にのみ縋り、恩恵を受けるのみなどと、子爵家にあるまじき行為ではございませんか」
「エフィル、あなたの気持ちはよくわかるわ。だから、スライム辺境伯家へはたくさんお礼をしなくてはなりませんね。ですが、あなたが奴隷を続ける理由はないのですよ? お礼なら私たちに任せておきなさい」
だが、父親、母親の説得にもエフィルは頑として首を縦に振らなかった。
エフィルは父親と二人っきりになると小声で父親にだけ聞こえる様に言った。
「これはローズ子爵家にとって千載一遇のチャンスですわ。このまま奴隷から解放されれば、これ以上スライム辺境伯様とのつながりは無くなってしまいますが、私がヤーベ様の奴隷のままであれば、少なくとも私はヤーベ様の所有物となります」
「エフィル・・・お前」
「家のためだけではありませんわ。奴隷として献身的に働いて、ヤーベ様に私を認めてもらいますわ!」
エフィルは父親に笑顔で告げた。
高い教養と美しい容姿で仕事を完璧にこなすエフィル・ローズ元子爵令嬢の評判は奴隷仲間の中でもダントツだった。
「ふふふ・・・私はヤーベ様の所有物ですわ・・・」
マーロで働く多くのスタッフから、頬を染めながら胸に手を当て、たまに独り言をつぶやいているエフィルの姿を見たと噂が広がっていた
リーナの成長日記なのにリーナが最初にちょっとしか出てこない件。
あいてっ! モノを投げないでください。
後編はきっと!たぶん!出てくる・・・はず?
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