閑話68 異世界シンデレラストーリー(後編)
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王城の正門は巨大な石の扉が開かれていた。
入口には多くの兵士たちが並んで立っている。
そんな真正面に空飛ぶスライムに連れられてやってきた私。
・・・どうしよう、モンスターの手先とか言って捕まえられて牢屋に入れられたりしないかしら。
「おお、あれはスライム神!?」
「以前、王都スイーツ
空に権限なされた時より小さいな・・・」
「まさか、使徒様か!?」
王城の正門警備にあたっていた兵士たちがにわかにざわめきだす。
・・・というか、スライム神? 使徒様? あなたスライムなのに神様やってるの?
もしかしてチートではっちゃけちゃってる人なのかしら?
「・・・スライム伯ご推薦のご令嬢でござい。後よろしくね~」
そう言って私を正門前に下ろすと、そのまま飛び去ってしまうスライム野郎。
こら、待て! 最後まで責任とれー!
「おお、白いバラは紛れもなく特別招待枠推薦者の証。なるほど、スライム辺境伯様のご推薦ですか」
え? え? なに? スライム辺境伯様? あのスライム野郎、神様じゃなくて辺境伯? 貴族なの? あれが? この国大丈夫なのかしら?
「ささ、どうぞ中へ。すでにダンスパーティーは始まっておりますぞ。だれかご令嬢を会場までエスコートしてくれ」
その言葉に兵士ではなく、スーツのようなものを着た人がわざわざ馬車まで用意して連れて行ってくれた。
・・・もう言葉も出ない。
何と言っていいかわからない私は、案内されるままダンスパーティーが行われている会場へ。
ダンスホールではすでに何組もの男女が優雅な音楽に合わせて踊っていた。
そういえば前世でも私は運動が苦手だったな・・・。
この異世界では生き延びるだけで必死だったし、ダンスなんて言わずもがな。たとえダンスを申し込まれてもどう踊っていいかもわからない。
そんな私と踊らせてしまったら、きっと相手にも恥をかかせてしまうだろう。
せっかくの王太子様の生誕祭だけど、私にはワンチャンすらないかな。ちょっと残念。
「お嬢さん、今こちらの会場に?」
いきなり声をかけられて驚いた。ふと見ると、すぐ近くにすごいイケメンが。
「え、ええ。こういうパーティになれていなくて・・・」
慣れてないどころか、前世を含めても初めてですけどね!
後、こんなイケメンに声をかけられるのも前世を含めて始めてですけれども!
最初緊張してうまくしゃべれなかったのに、落ち着いて喋ればいいよと優しく諭してくれるイケメンさん。超イイ人!
ダンスはおろか、こんなきらびやかなパーティも初めてだと伝えるとイケメンさんが笑って、
「それならば、僕と踊りましょう。ダンスパーティーなのですから」
なんて誘ってくれた。もう心臓が止まるかと思った。
「えええっ!? ですが私は踊りなど一度も踊ったことがなく・・・」
しどろもどろに答えると、
「なんと、ダンスも初めてなんですね! それでは私が手取り足取りお教えしましょう」
満面の笑みで私の手を引き、ダンスホールの中央まで歩いていくイケメンさん。
いや、ちょっとこのイケメンさん積極的すぎません?
私全く踊れないって言ってるのに。
イケメンさんが生オーケストラの人達に合図すると、音楽がスローテンポに変わった。
やだ、私のために曲調変えてくれたの? 気遣い凄すぎ。
その後イケメンさんに手を引かれ、足を出すタイミングを教えてもらいながらよたよたとダンスのステップを踏む。
大変だったけど、ずっとイケメンさんに手を握られて踊るのは正直楽しかった。
だけど、楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。
気づけばキショスライムさんと約束した十時の鐘が鳴っていた。
「いけないっ! 時間だわ!」
「どうしたんだい?」
イケメンさんが首を傾げて聞いてくるが、私には答えている余裕はない。
きょろきょろとあたりを見回した私は思い立ってバルコニーへ飛び出る。
なぜか私の感がバルコニーを指示していた。
「やあ、パーティは楽しめたかい?」
バルコニーにでた私は空から聞こえてくる声に視線を上げる。
そこには大きな翼を羽ばたかせて宙に浮いていたあのキショスライムさんが。
「さ、帰る時間だよ」
そう言ってあっという間にまた触手でぐるぐる巻きにされて大空に飛び立つ。
夜空はさらに深い闇の色をしながらも満天の星空が輝いている。
「夢みたい・・・」
・・・せっかくロマンチックな気持ちに浸ってるんだから、触手でプーラプーラさせないでよね。辛い現実に引き戻されちゃうから。
「じゃね~~~~」
軽いあいさつで私を家まで送ったキショスライムさんは空に飛び立っていった。
私はすでにいつものボロを纏っている。
夢の時間はもう終わり。
現実に帰る時。
・・・地獄という現実にね。
あのクソッタレな連中が帰ってきたらどうせうまくいかなかった腹いせに私に暴力を振るうだろう。
・・・もしかしたら、この先私の人生は続いていないのかもしれない・・・。
私の意識は朦朧としていた。
あのクソッタレな鬼婆とクソ三姉妹に殴る蹴るの暴行を受けた上に、ろくに食事に与えられなくなった。どうやら旦那様が珍しく商談で数日開けているらしい。
そこで、これ幸いにと私を餓死させるつもりのようだ。
・・・もう、なんでもいい。
・・・誰かが、私を抱きしめて泣いているようだ。
でも、体が動かない。手も、足も動かない。感覚がない。
私の意識は、闇に沈んでいった。
「もがっ!?」
気が付けば、口の中に何かが突っ込まれていた。
そして口の中にゼリーのような何かが強制的に流し込まれた。
「んぐぐぐぐぐ~~~~~!!」
驚いてしまって思わずむせてしまう。
「げはっ!」
どぴゅっ!
わっ!? 顔になにかべたべたするものがかけられた。
「あうう・・・なにコレ・・・ねばねばする・・・おいしいけど」
口の周りのゼリーみたいなものをすすると、ちょっと甘くておいしい。
なんだか少しだけ元気が出そう。
「栄養満点のスライムゼリーです」
目を開ければ、そこには謎のローブの人が。でも中身はキショスライムさんでしょ?
「え・・・ああ! 神様! もしくは魔法使いの人!」
「えー、俺は神様でも魔法使いでもありません」
「え? それじゃああなたは?」
謎のローブの人はババーンとローブを脱ぎ捨てる。
「ボクは悪いスライムじゃないよ! えへっ!」
やっぱりキショスライムさん。翼がないけど、しまっているのかな。
「やっぱりあの時のキショスライムさん!! あいかわらずキショイ系」
「うるさいやい!」
キショスライムさん、ちょっとすねちゃった。
「はい、鏡見て。ピッカピカのツルツルスベスベになったよ。もう元気になったろ?」
キショスライムさんが手鏡を構えてくれるので、その手鏡を覗き込む。
そこにはキラキラツヤツヤした私の顔が。
私は顔をいろんな方向に向けてはぺたぺたと自分のほっぺを触る。
「すごい・・・お肌ツルツルスベスベ。髪もサラサラ・・・」
「スライスキャンで状態を調査した上でスライパックでお肌改善、さっきの口から投入したスライムエナジーとあわせて君の体の内外から完全メンテナンス完了済み」
「うん、ちょっと何っているかわからないかな」
キショスライムさんが何言ってるかちょっとわかんない。
でも、私を助けてくれたことだけは確かだと思う。
「キミ、転生者かな? いつの時代から来たの?」
キショスライムさんが問いかけてくる。
「・・・転生者の事、知ってるんだ」
もしかしたら、この世界には私やキショスライムさん以外にも転生者がいるのかもしれない。そのことをキショスライムさんは知っているのかも。
「まあ、ね」
「もしかして、あなたも?」
「多分。俺は神様に会えなくて、気づいたらこの世界にいたから」
多分って・・・ぜったい転生者でしょ。
「わあ、それ辛いね。私は女神様に会ったよ。どんな能力が欲しいかって聞かれたから、<調教師>の能力をもらったんだけど、この王都から出られなかったから、なんの役にも立たなかったかな。あなたに救ってもらえなかったら、きっと死んでたね」
「・・・女神もアホだね。<調教師>の能力を十全に振るえる場所に転生させてくれなきゃ、宝の持ち腐れだよね」
「正直、そう思う」
ふふっ、思わず笑顔になっちゃう。
「でもね、君に会えたから」
「?」
「そんな、悪い人生でもなくなったのかなって。ちょっとだけ女神様に感謝したくなったかな」
「・・・感謝ならアホの女神より、あの人にした方がいいかもね」
「あの人?」
「君が無事かどうか、気をもんでるあの人さ」
ドアがノックされる。
その瞬間、キショスライムさんが人間の姿に変わった。
「わ、キミ、その姿が日本人のころの姿なの?」
「そう、基本はこの姿で生活してるから、さっきの姿はナイショにしてね!」
そう言ってウインクしながら唇に人差し指を当ててシー、と伝える。
「どうぞ」
ノックに対してキショスライムさんが入室許可を出した。
「やあ、ヤーベ卿。彼女の容態はどうかな?」
「あ・・・あの人は・・・」
「ああ、元気になったんだね! よかった・・・」
私の顔を見て笑顔を浮かべるイケメンさん。
近づいてきていきなり両手を握られてドギマギしてしまった。
このイケメンさん、この前パーティで私にダンスを教えてくれた人!
「また、一緒に踊ってくれないかい? 元気になったらでいいから・・・」
「は、ははは、はぃぃぃ!」
思わず声が裏返っちゃう。
緊張しちゃうなー、だってすごいイケメンさんだし。
あ、私を見てキショスライムさんが笑ってる。
あなた、人間の姿でもフツメンですからね?
「なに笑っているの? あなたと違ってこんなイケメンさんに近寄られたら緊張しちゃうの!」
文句を言うけど、この人が私の命を救ってくれたんだろうな~、と思うと、あまり無下にもできないんだけどね。
「それで・・・こちらはどなた?」
私は最も疑問だったことを口にする。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はカルセル・アーレル・バルバロイ。この国の第一王子で王太子です」
「え・・・えええええええええっ!?」
お、王子様!? しかも第一王子!? 王太子!? 次期国王様!?
私は目一杯驚いた顔のまま、ギギギギ・・・と音がしそうな動きで首を動かし、キショスライムさんを見ながら訪ねた。
「マジ!?」
「マジ」
あっさりと王子を肯定するキショスライムさん。
「お・・・王子様・・・本物の王子様・・・」
思わず王子様に指を指しちゃう。
「いや~、ライラックさんうらやましいね~。王子様に手取り足取りダンス教えてもらったんでしょ? なかなかないよ? いきなり王子様にあんなパーティでダンスレッスンって」
キショスライムさんがニヤニヤと笑いながらからかう。
そういえば私のダンスレッスン、王子様がしてくれたんだった!
「いや、ヤーベ卿だって王女だったカッシーナに手取り足取りダンスを引っ張ってもらってたじゃない」
「あうっ!?」
!? え、なに? このキショスライムさん・・・ヤーベさんっていうの? しかも王女様と踊ってるの!?
「ええっ!? というか、ヤーベさんって何者?」
「あれ? ヤーベ卿も自己紹介してないの?」
カルセル王太子様が機微を傾げる。
「そう言えば、してませんでしたね。はっはっは」
笑ってるわよ、このキショスライム。
「いや、笑い事じゃないような・・・。ヤーベ卿はこのバルバロイ王国の貴族で辺境伯を賜ってもらってるよ。まあこの国ナンバーワンの実力者だね」
マジか!? このキショスライムが貴族!? それも王国ナンバーワン!?
「あ、あなた貴族だったの!? 偉い人!?」
「ああ、偉くないです。ハリボテです。貴族イヤです。パーティメンドイです。挨拶もういいです。しがらみ死ぬほどウザイです」
「・・・目が死んでるけど・・・」
地球時代ブラック企業にでも務めてたのかしら? 明らかに急に目が死んだわ。
そんなヤーベさんを尻目に、カルセル王太子様が私の前に跪づいた。
「ライラック嬢。この私と結婚して頂けませんか?」
「ふぁっ!?」
「私はこの国の王太子です。私この結婚は妃としてともにこの国を支えていく手伝いをして欲しいという事になります。この選択はあなたの人生に大きな変化を与えることでしょう。返事は今すぐでなくてかまいません。熟考頂いて、悔いのない選択を頂けませんか? 願わくば、この私の手を取っていただけたら、これに勝る喜びはないのですが・・・」
・・・結婚申し込まれた―――――!!
異世界シンデレラ物語、完結!
しかもハッピーエンド?
これ、ホントの事? ドッキリとかじゃないよね?
「あうあうあう・・・」
うまく声が出ない。
その時、部屋の扉が少し開いて、金髪のダンディーなおじさまが顔をのぞかせる。
「ヤーベ殿、ちょっとちょっと・・・」
呼ばれてなんだかこそこそ話をしてる。
そしてヤーベさんがこちらを向いた。
「これでカルセル王太子も正妻を持つ身になると。つまり、ハーレム形成への第一歩ですな!」
ああ、王族ってやっぱりそんな感じなんだ。
やだなー、私平民だよ? 第二夫人とかに超いじめられそうじゃない。
また人間関係でギスギスするのかぁ。
「ああ、私はライラックがいれば十分ですから」
「ヒドイ裏切り!?」
ヤバッ! この王子様、私だけで十分って・・・。
イケメンすぎる! あとこのヤーベって人やっぱサイテーね!
「うむうむ、よい人が見つかってよかったな」
王子様の肩を叩く、金髪ダンディーオオジサマ。この人もイケメンだねえ。
「父さん、ありがとう」
「!!」
ええっ!? てことは、この人国王様!? 偉い人急に来すぎですけど!?
キイイ・・・
その時、扉がちょっとだけ開き、うつくしい女性が扉の隙間からじっとこちらの様子を伺っていた。
「ひいいっ!?」
「お肌・・・ツルツル・・・髪・・・スベスベ・・・」
「「おわっ!? リヴァンダ(王妃)!?」」
ヤーベさんと国王様が抱き合って飛び上がった。
王妃って・・・王太子のお母さん!?
「ヤーベさん・・・こちらへ・・・私にも・・・ね」
「「ヒィィ!?」」
ヤーベさんと国王様が目に涙を浮かべて抱き合っている!?
「お母様・・・」
王太子様が苦笑している。
もしもシンデレラみたいに王太子様からの結婚の申し込みを受けたら、今の方がお姑さん!? めっちゃ綺麗な人だけど、ちょっと怖くない!?
・・・ま、大丈夫か。リヴァンダ王妃様がどんな人でもいままでいたクソ鬼婆よりは絶対ましだろうし。
私は、楽観的な未来想像をして笑った。
お母さんたち、私、これからとっても幸せになれそうな気がするよ!
これで異世界シンデレラ物語編は終了となります。
この後はリーナの成長日記、本編日常編、魔王襲来編へと進んでまいります。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
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