閑話67 異世界シンデレラストーリー(中編)
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私は日が落ちる中、市場へ向かう途中の水路街あたりの裏通りを歩いていた。
足を引きずるように歩く。
思わず、前世の日本人だったころに好きだった歌を口ずさむ。
少しでも心を奮い立たせたくて。
歌詞の様に、奇跡でも起こればいいのに・・・。
でも、それは、あまりにも唐突に私の前に現れた。
「お嬢さん」
急に声をかけられてびくりとしてしまう。
見れば、水路にかかったレンガの端の欄干にもたれかかっているローブ姿の怪しい人物が私に声をかけてきた。
「随分辛そうな人生だね。どうだい、私に君の人生を話してみないか? もしかしたら、何かが変わるかもしれないよ?」
「・・・あなたに何がわかるのかしら? 何ができるのかしら? 放っておいて・・・」
私は胡散臭そうなローブの人物の前を通り過ぎようとした。
怪しい占い師だろうか? あることないこと言って見料でも取ろうというのか。
・・・私がお金を持っているかどうか、見ればわかるだろうに。ああ、それとも、お使いでお金を持っていると思われたのか。
「何がわかるのか・・・かね。少なくとも君が異世界から来た転生者ってことくらいは、わかるよ?」
「!!」
思わず目を見開いてローブの人物を見る。
心臓がキュッと掴まれたほどに驚いた。
この人物は今何と言ったか!? 異世界からの転生者!?
どうしてわかったの!?
「どうしてわかったのか驚いているようだね? だが、それはそれほど大事な事ではないよ」
私は声も出ないまま、それでもわずかに首を傾げた。
私が転生者だとなぜわかったのか、それが大事な事ではない?
「大事な事は、今、君が辛い人生を送っているのなら、それをもしかしたら変えられるかもしれない出会いが目の前にある・・・その事の方が大事だとは思わないかい?」
ああ・・・なるほど。そういうこと。
今のどん底にいる私にとって、このローブの人物が誰でどんな人なのかはそもそも関係がない。私は死ぬ寸前のような人生なのだから。
だから、まるでこのローブの人物が親の仇だとでも言うかのように私の思いを叩きつけた。
話し終えた時、私は泣いていた。
このローブの人が悪いわけじゃないのに、それでも黙って聞いてくれていた。
「・・・それで、君はどうしたい?」
「どう・・・って」
「この先の人生、君はどうしたい?」
ローブの人物は同じことを聞いた。
私は、この先、どうしたいのか・・・。
漠然とした想いでもいい、言葉にしてみよう。
「私は、幸せになりたい。私が幸せになることを、お母さんたちも望んでくれたから・・・」
私は涙を拭くと、キッとローブの人物を睨みつける。
「あなたは、叶えられるというの? 私の幸せを」
じっとローブの人物を見つめる。
少しの間があって、ローブの人物はもたれていた欄干から体を起こし、ふわりと飛び上がると橋の欄干に降り立った。
そしてばさりとローブを翻し、仰々しく両手を広げる。
「はっはっは、私は月下の魔術師。君の望みを叶えよう!」
「どっかの怪盗みたいな名前ね? もしかして泥棒さん?」
「ふっふっふ、一国の女王の母親から盗み出したこともある!」
「なんで母親!?」
意味わかんない。女王本人じゃなくてなんで母親から盗んでるのかしら・・・?
あ、きっとその母親が身に着けていた高価な宝石とかかしら?」
「それで、女王の母親から何を盗んだの?」
「彼女の心です!」
「カリオストロは宮崎さんだけで間に合ってるわ」
そう言って立ち去ろうとする私の襟首をぎゅっとつかむ。
見れば、人の手ではなく綺麗な薄緑の触手?ぽい何かに捕まれていた。
思わず叫び声が出そうになったのをのみ込む。
なに、この人? というか、人じゃないのかしら?
でも、普通にしゃべっているし、何より私を転生者と見抜いたし・・・。
まあ、この人が魔物とか悪魔だとしても、私にはどうにもできないけど。
「ちょっと待って! ホント! これホントだから!」
ローブの人が必死になって本当に女王の母親の心を盗んだと力説する。
なにこの人? この人も私と同じ異世界転生者? そうでなければ相当イタイ人なんだけど。よく考えればここは大国の王都のはず。ヘンな魔物がのうのうといられる場所じゃないはず。もしかしたらいい魔物なのかも。それとも、魔物に異世界転生した主人公クラスの人? だとしたら、本当に助けてもらえるかも!
・・・ちょっと、ラノベ脳しちゃったかしら。
でも、本当に落ち込んで、もう何もかもがどうでもよくなっていた私が、この人との会話で笑っていた。笑ったのなんて、いつ以来だろう。
ちょっと楽しくなったので、この人ともう少しお話してみよう。
「あなた、魔術師って、もしかして冒険者の人?」
「ああ、冒険者もやってるよ!」
冒険者も・・・って、兼業なんだ。やっぱり冒険者だけで食べていくのは大変なのかしら。異世界も世知辛いわね。私も<調教師>能力で冒険者として一旗揚げるって夢もあったのだけど、それも厳しそう。
「冒険者なのね。それで、どんな冒険をしてきたの?」
兼業冒険者さんなんだから、それほど大した冒険してないんだろうけど。
ゴブリン退治? オーク退治? まさかドラゴンなんて言わないわよね?
「先日は天空城の探索に行ってね! 国家間で三つ巴のバトルの結果天空城墜落させちゃって怒られたよ!」
「思ってたよりずっと冒険がハード! しかも天空のお城墜落してるし!」
目の前で「そーなんだよー」とか言って触手を伸ばしてローブで隠れた後頭部をカキカキしてるこの人、嘘つきなら絶対に地球、いや、日本人の転生者だわ! 天空の城なんて、またもハヤオ案件じゃない! カリオストロの次は天空の城って、城好きなうえにハヤオ好きな嘘つき転生者ね!
「まあ、墜落したおかげで天空城を兵器として使えなくなったから、世界平和に貢献できたと説明してるけど。技術者たちはめちゃくちゃ残念がってたけどね!」
それ、笑って話していいことなのかしら?
この人、稀代の大ぼら吹きか、詐欺師に違いないわね。
「ほかにはどんな冒険譚があるのかしら?」
「ほかには? うーん、なんだろ? 進〇の巨人的なヤツとか、ミッション・イン・ポッシブル的なヤツとか、インディー・ジョー〇ズ的なヤツとか?」
はい決定! この人確実に地球からの、というか日本人の転生者だわ! しかも超大ぼら吹きのね!
「あなたが地球からの転生者で超大ぼら吹きだというのはわかったわ。しかも触手って魔物の類? 何が目的なの? もし私を襲おうって言うなら、大声上げるわよ?」
「いやいや、ウチのヒヨコちゃんがね? 久しぶりに人助けをってね?」
? 何を言っているんだろう?
「ピヨピヨ~(お譲さん、大丈夫?)」
私の肩に一羽のヒヨコが止まった。
「わ、かわいい!」
「その子がね、君がいじめられて死にそうになってるから助けてあげてって」
「ヒヨコちゃんが私を・・・?」
「うん、俺の使役獣だから」
「えっ!? あなた<調教師>能力持ってるの!?」
「えっ!? ああ、うん、持ってる? 的な?」
横を向いて口笛を吹く怪しいローブの男。無駄に口笛がうまいのが余計癪に障るわ!
「ピヨピヨピヨ!(ボスと我々は能力などではなく、もっと深い心の絆で結ばれているのです!)」
やたらヒヨコちゃんが暑苦しい。なんで?
「ちょうどいいわ! 私も女神から<調教師>の能力をもらったの! 使いかた教えてよ!」
「ぬうっ!? クソ女神がぁ! スキル付与だとぉ! 俺にはスキルどころか顔も見せずにノーチートのまま異世界放り出しやがってぇ!!」
急にローブの人が触手を振り回して暴れ出す。なんだか触れてはいけない話題だったみたい。
「とりあえず、君が幸せになれるようにちょっとだけ手助けするよ。同じ異世界人だしね、仲良くしてほしいからね」
「同じ異世界人って・・・あなた人じゃないでしょ?」
へんな触手出してるし。
「ぐはっ!?」
胸を押さえて片膝を大地について崩れ落ちるローブの人。あ、これも触っちゃいけない話題だったかしら。
「えーい、サッサとやって送り込んでやるわ!」
にょいん。
私は悲鳴を上げることすらできず、大きく口を開いた触手に全身を飲み込まれた。
「もががっ!?」
「スラチェンジモード!」
謎のローブの人が、謎の呪文?を唱える。
私の体をヌメッと何かが這いまわる感触。
すぽん。
触手から解き放たれた。全身ヌメヌメ。最悪と思ったのだけれど・・・。
「あら? ちょっとすっきりしてる?」
なんだが、だるかった体がだいぶ楽になった感じ。
「髪も肌もスベスベツヤツヤで準備OK! 君の体調はこれで完璧に仕上がったよ。はい、これ。そこのハンバーガー屋で買ってきたチーズバーガーね。食べて食べて。腹が減っては戦はできぬってね!」
はむっ!
「おいしいっ! 地球時代に食べたものよりおいしいかも!」
「そうでしょ、だいぶ苦労したしね」
なぜかローブの人がドヤ声で答える。これ、そこの通りに出てたアローべ商会ってお店の屋台で売ってたヤツでしょ? でもすごくおいしい。
「お腹膨れたら、ダンスパーティーに出られるようにメイクアップするよ!」
今度は触手でぐるぐる巻きにされたかと思うと、次の瞬間私のボロ布のような服が消えてなくなり、代わりにすごくきれいなドレスを身にまとっていた。それに透明な靴。もしかしてガラスの靴?割れたら足ケガしない?
・・・なぜか下着まで変わっているのは一言文句を言ってやりたい気持ちもあるのだが、とても清潔な感じがするので我慢しておく。
最後にその不思議なローブの人は、どこからともなく白いバラを取り出した。
・・・それをいうなら、瞬間的に着替えさせられたこのドレスや下着もどこから取り出したんだとツッコミを入れないといけないのだが。
いるんだなぁ、こーいう女神に愛されたチート野郎。うらやましい。
でも、なんかさっきクソ女神だのノーチートだの憤ってたけど。
その白いバラをそっと私の胸に飾る。
「さ、その白いバラがきっと君を幸せに誘ってくれるはずさ。さて、君の目的地に行くとしようか?」
「え? まさか王城の王太子様生誕祭へ!? でも・・・招待状が・・・」
バサリ!
不思議な人はローブを脱ぎ去る。
「ひぃぃ!?」
見ればでろーんとした三角形の体から左右に長い触手が生えていた。
どこからどう見ても気持ち悪い系のスライムじゃない!
やっぱりこの人は人間じゃなかった!?
バサリッ!
そんなキショスライムの背中に大きな翼が生えた。
きれいな薄緑の翼がとっぷりと暮れた夜空に輝くように羽ばたいた。
「さ、出発」
いつの間にか触手でぐるぐる巻きにされていた私は、夜空に舞った。
「ひええっ!? 空飛んでる!!」
「飛んでるよ~」
見れば横にヒヨコちゃんも。
「ピヨピヨ~(よかったね!)」
なんだか嬉しそうだった。
「あ、一つ言い忘れてたことがあった」
バサバサと翼を羽ばたかせて空を飛んでいるキショスライムさんが独り言のように呟く。
夜空を飛んでいるというロマンチックなシチュエーションなのに、全然ロマンチックじゃないのは、触手でぐるぐる巻きにされてぶら下げられているからだろう。
「この服は今日の夜十時、夜会が終わると同時に消えてなくなる。君が家に帰っても証拠のドレスは残らない。目一杯今日の夜会を楽しんでおいで!」
え、消えてなくなるの?
そりゃ、この姿のまま家に帰ったらあのクソババアたちにどんな目にあわされるかわかんないけど。これじゃまるでシンデレラみたいじゃない。
これで王子様と結婚出来たら、まるで、じゃなくて本当にシンデレラね。
・・・さすがに、そんな童話みたいな物語、実際にはないかしら。
・・・ないわよね?
・・・でも、もしかしたら・・・
・・・あったら、いいな・・・。
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