第368話 苦労した分幸せになろう
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「お・・・王子様・・・本物の王子様・・・」
ぷるぷると震える指先をカルセル王太子に向けるライラック。
人を指さしてはいけませんよ。
「いや~、ライラックさんうらやましいね~。王子様に手取り足取りダンス教えてもらったんでしょ? なかなかないよ? いきなり王子様にあんなパーティでダンスレッスンって」
俺はニヤニヤと笑いながらからかう。
「いや、ヤーベ卿だって王女だったカッシーナに手取り足取りダンスを引っ張ってもらってたじゃない」
「あうっ!?」
そういや、第二王女のカッシーナにダンスステップリードしてもらいながら踊ったっけ。
「ええっ!? というか、ヤーベさんって何者?」
「あれ? ヤーベ卿も自己紹介してないの?」
「そう言えば、してませんでしたね。はっはっは」
「いや、笑い事じゃないような・・・。ヤーベ卿はこのバルバロイ王国の貴族で辺境伯を賜ってもらってるよ。まあこの国ナンバーワンの実力者だね」
「あ、あなた貴族だったの!? 偉い人!?」
「ああ、偉くないです。ハリボテです。貴族イヤです。パーティメンドイです。挨拶もういいです。しがらみ死ぬほどウザイです」
「・・・目が死んでるけど・・・」
俯きながらブツブツ呟く俺にライラックが心配そうにのぞき込む。
「まあ、彼はこう見えて強い人だから」
苦笑しながらもヤーベの肩にポンッと手を置くカルセル王太子。
「どう、体調は? 起き上がれるかい?」
「あ、はいっ! 大丈夫です」
そう言ってベッドから降りてその場に立ったライラックの前に跪くカルセル王太子。
「えっ?」
「ライラック嬢。この私と結婚して頂けませんか?」
「ふぁっ!?」
「私はこの国の王太子です。私この結婚は妃としてともにこの国を支えていく手伝いをして欲しいという事になります。この選択はあなたの人生に大きな変化を与えることでしょう。返事は今すぐでなくてかまいません。熟考頂いて、悔いのない選択を頂けませんか? 願わくば、この私の手を取っていただけたら、これに勝る喜びはないのですが・・・」
謙った―――――!!
王太子が謙った―――――!!
商会の妾の娘に謙った――――!!
王太子、マジじゃん!!
「あうあうあう・・・」
カルセル王太子に突然求婚されてライラックは顔を真っ赤にして頭から湯気を噴出して思考が完全に停止した。
「ヤーベ殿、ちょっとちょっと・・・」
呼ばれて振り向けば、ドアの隙間からワーレンハイド国王が手招きしていた。
なんで国王様そんなにこそこそしてるの?
「あのライラック嬢、ヤーベ殿の推挙だよね? 大丈夫なの?」
単純かつ明快、ドストレートにライラックの事を聞いてくるワーレンハイド国王。
彼女がカルセル王太子の生誕祭に白バラをつけて現れたことを知ったうえで、あの白バラを用意したのはヤーベだろ? 彼女の人となりとか大丈夫なんだよね? という念押しだな。
「・・・大丈夫だと思いますよ? あの娘は、これからの人生、これまでよりもずっと、ずっと幸せになる権利がある。カルセル王太子にとっても、それは良い方向に向かう事でしょう」
「・・・ふむ、ヤーベ殿がそう言うのなら大丈夫だろう。あまり表に感情を出さず、自分の希望を言葉にしないカルセルがあれほどの情熱を見せるのだ。できるだけその意を汲んでやりたい」
優しい目で息子を見つめるワーレンハイド国王。
「これでカルセル王太子も正妻を持つ身になると。つまり、ハーレム形成への第一歩ですな!」
ここはあえて空気を読まず、望まぬハーレム形成への仲間として引きずり込まねばと俺はカルセル王太子の肩に手を置いた。
「ああ、私はライラックがいれば十分ですから」
「ヒドイ裏切り!?」
俺が慟哭の涙を流す中、カルセル王太子は顔を真っ赤にして思考停止しているライラックを愛おしそうに見つめていた。
それからしばらくして、王太子カルセル・アーレル・バルバロイとドムラン商会の一人娘、ライラック・ドムランとの婚約が発表された―――――
バルバロイ王国のとある辺境―――――
ダマーレ・フォン・ヒステリーク男爵はドムラン商会から不当ともいえるほどの価格引き下げを要求していた。自分の娘をドムラン商会の会頭ゴドルフに嫁がせていることで、後ろ盾となったことに対し、笠に着た態度で取引を行っていた。
そのヒステリーク男爵領に先日、ドムラン商会に嫁いでいたルベリアとその娘三人が帰ってきた。聞くところによると、夫にほとほと愛想が尽きて離縁することにしたらしい。
「まったく、誰のおかげでバロバロイ王国有数の商会に育つことができたと思っているんだ」
「そうですわ! お父様。あんな男には目にもの見せてやってくださいませ!」
「そうだな! 離縁による賠償をたっぷり請求せんとなぁ」
ニヤニヤと笑うダマーレに満足そうにうなずくルベイラと三人娘。
だが、彼らに想定外の訪問者が現れる。
「お、お待ちください! 何の権利があって男爵家の屋敷に無断に立ち入るのですか!」
執事のあわただしい声が聞こえてくる。
「なんだ! 何があった!」
当主のダマーレが声を荒げるが、それに答える声は聞こえず、リビングの扉がバタンと開かれる。
そしてリビングに大勢の男たちが押し入ってきた。
「な、何だ貴様ら!」
「私はバルバロイ王国諜報部捜査官、リッケ・ブランデと申します。ルベイラ氏とその娘三名に傷害罪及び恐喝、商業取引法違反の容疑がかけられております。王都まで捕縛、移送させていただきます」
「な、なんですって!?」
「どういう事なんですの? お母様!?」
声を荒げるルベイラと取り乱す三人娘たち。
「貴様ら! 我が娘や孫を捕縛だと! 貴族であるワシに立てつくとどうなるかわかっておるのか!」
ダマーレが激昂してソファから立ち上がった。
「ほう、ドムラン商会に嫁いでいたはずの娘さんが離縁されて実家に戻って来ているわけですが、男爵家として迎え入れると?」
「あたりまえだろうが! 王都の木っ端役人が、貴族を舐めたことを後悔させてやるぞ!」
「そうですか、それでは話が早いですな」
リッケと名乗った諜報部捜査官とは別の男が横から出てきた。
「バルバロイ王国諜報部査察官、マドベと申します」
「どういうことだ!」
「カンタンな事ですよ。ルベイラ氏の数々の犯罪行為はヒステリーク男爵家ぐるみの犯罪と認識いたします。つまりは当主であるあなたにも嫌疑をかけさせていただくことになりますな」
「な、なんだと!?」
「ああ、そういえば先日カルセル王太子様が、ルベイラ氏が離縁されたドムラン商会ですが、ドムラン商会の一人娘であるライラック・ドムラン令嬢との婚約を発表なされましたよ」
「な、なんですって!!」
怒髪天を衝く勢いでルベイラはマドベの胸倉をつかんだ。
「あのバカ王太子が! よりにもよってあんな妾の穢れた娘などと婚約だと!」
ルベイラの言葉にさすがにダマーレ男爵も顔色が変わる。
「明らかな不敬罪だ。罪を追加しておけ」
マドベの言葉にリッケが懐から罪状を取り出し、筆で追記していく。
「・・・先ほどの話だが、離縁した娘を男爵家で受け入れることを見送ることにする」
明らかに不敬な発言をした娘を切り捨てる判断をしたダマーレ。
「お、お父様!?」
驚愕の表情で目を見開き、信じられないと暴れ出すルベイラを捕縛してリッケたちが連れて行った。三人娘も連れて行かれる。
「ふん、もういいだろう! さっさと出ていけ!」
シッシッと手を振って退室を促すダマーレ。
「そうですね。私の仕事は完了しましたので、これで失礼いたします」
そう言って捜査官であるリッケは部下を引き連れてリビングを後にした。
「・・・なぜ貴様らは残っている? さっさと出ていけ!」
声を荒げるダマーレに冷たい目を向けるマドベ。
「私の仕事はまだ終わっておりませんので」
「な、なんだと!?」
「先ほども自己紹介しましたが、私はバルバロイ王国諜報部査察官のマドベと申します。私の仕事はこちらですよ」
そう言って胸の内ポケットから羊皮紙を取り出すとダマーレに突きつけた。
「・・・!?」
「あなたがドムラン商会に不当にかけた圧力によって行われた取引によって生じた不当な利益を隠匿したことを告発する書状です。今からこの屋敷を査察させていただきます」
「なっ、なっ!?」
「始めろ」
「お、おいっ!? やめろ!」
ダマーレが悲鳴のような声を上げて査察を妨害しようとするが、マドベの部下にあっさりと抑えられる。屋敷からは裏帳簿や不当に利益を上げたと思われる隠し金などが出てきて、ダマーレ男爵自身も捕縛されることになったのであった。
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