第354話 その実力をいかんなく発揮して邪竜を討伐しよう
今回の話もいつもの2倍以上のボリュームでお届けします!
一気に邪竜討伐まで決着できるのか!?
西園寺のヤル気がヤバイ!止まらない!
そんな西園寺の応援よろしくお願いいたします!
邪竜シュバルツィングスターは火竜山の河口にある洞窟のねぐらに戻ってゆっくりと休んでいた。
数百年の眠りから覚め、しばらくねぐらの近くを飛んでいたのだが、自分よりも強い存在に会う事はなかった。
山の麓に矮小な人間どもが集落を作っていたので、連中の飼っている家畜を頂いてやった。だいたい家畜は食べ尽くしたから、次は人間どもを少しずつ食べていってやるか、そんなことを考えていた。
眠りにつく前は自分よりも圧倒的強者な<古代竜>がいた。いつも子ども扱いされ、邪険にされたことを思い出し非常に嫌な気分になった。その脅威となる<古代竜>の存在も近くにはいないようだった。邪竜シュバルツィングスターは自分の天下を悠々と満喫することにした。
そして麓の村を襲ったせいか、人間どもが討伐に何度も来るようになった。だがそれらの全てを弾き返し、強者である自分の存在を十分に示すことができた。
もう自分に逆らうような存在など現れないだろう。そう思いゆっくりと自分のねぐらで眠りにつこうとしたその時。
ドオオオオン!
「ギャワワワワッ!」
凄まじい衝撃とともに、自分のねぐらが大きく揺れて天井から岩が落ちてくる。
邪竜シュバルツィングスターは慌ててねぐらから外へ出た。
「あら、でかいトカゲが出てきましたわよ?」
「これが邪竜シュバルツィングスターなのか?」
「きっとそうでしょうね」
「や~~~、凶悪そうな顔してるね!」
カッシーナの問いにイリーナ、ルシーナ、サリーナがそれぞれ反応する。
彼女たちは乱暴にも河口付近に<火球>の魔法を何発もぶち込み、巣穴の邪竜を追い立てる作戦を取っていた。
「グゥア!?」
見れば矮小な人間の、しかも弱弱しいメスが数匹たむろしていた。こんな連中が自分のねぐらを襲ったのか。邪竜シュバルツィングスターは怒りの咆哮を上げた。
「ギャオオオオオオッッッ!!!!!!」
「やかましいっ! <竜撃投槍>!!」
ドゴオッ!
「ギャフッ!」
ロザリーナが自身の闘気を槍状にして投げたものが邪竜シュバルツィングスターの顔面にぶち当たる。思わずのけぞる邪竜シュバルツィングスター。
「まるっきり話し合いに応じられないほど知能が低いようだな。きっと<古代竜>にまで達していないのだろう」
ロザリーナがバカにしたように肩を竦めるが、その推測は間違っている。邪竜シュバルツィングスターはその実力と生きた年数だけならば十分に<古代竜>に達していると言えた。だが、世の中にはさらなる強者がいる、それだけの事であった。
「ならばさっさと倒すか」
イリーナが邪竜シュバルツィングスターを前に一人で歩み出る。
「スライム戦闘術究極奥義<勝利を運ぶもの>!!」
イリーナが光に包まれると、黄金の鎧を身にまとった姿に変身する。今回は黄金の翼も装着され、なんとイリーナは邪竜の目の前に飛び上がった。
もちろんここにヤーベはいないため、「おお!黄金聖衣!」というツッコミが入ることはない。
「そりゃあ!」
ドゴッ!
空中で回し蹴りを放ち、邪竜シュバルツィングスターの横っ面を蹴り飛ばす。
作戦も何もなく、いきなりイリーナが邪竜を蹴り飛ばした。
「闇の精霊よ、その深淵なる衣で我らを守れ~、<闇の祝福>~」
アナスタシアの唱えた呪文により、一同の体に黒い靄がまとわりつく。
「その闇の衣はダメージを受けていくと薄くなり、効果が無くなると消えちゃいます~、気をつけて~」
説明は長閑だが、相当強力な防御魔法をかけてもらったと一同が活気づいた。
「私も負けられませんね!」
次に歩みを進めるのはルシーナ。ヤーベ特製のバレッタを触ったルシーナは<死神の鎌>を手に持ち、華麗に振り回す。
<死神の鎌飛行形態>」
スッと宙に浮いた<死神の鎌>に横座りするルシーナ。
ここにヤーベがいれば「どこかの魔女っ娘かよ!」とツッコミを入れていたことだろう。
ちなみに元辺境伯令嬢のルシーナは<死神の鎌>に跨って跳んだりはしない。優雅に横座りであった。
そのまま邪竜の周りを高速で回ると、竜巻を発生させる。
「<死の嵐>!」
<死神の鎌>から生み出される真空の刃と化した嵐に皮膚を切り裂かれる邪竜シュバルツィングスター。
「ギャオオオオオオッ!?」
自分の無敵の鱗が切り裂かれているのか、まるで理解できない邪竜シュバルツィングスターは癇癪を起した子供のように叫び声をあげてのたうち回る。
「うわ~ん、ボクは飛べないからどうしよう・・・」
頭を抱えて落ち込むサリーナ。
普通誰も空は飛べたりしないのだが、奥さんズの面々は事情が違うようだ。
「我の背にお乗りなされよ」
サリーナの横に来たのは氷牙だった。
「ありがとっ! 早速僕の必殺技を出すから、アイツの頭上をとってくれる?」
「おまかせあれ! スキル<天歩>!」
空中を走るように駆けていく氷牙。姿は見えないが森の木々の奥から「あ、アイツキタネェ!抜け駆けでやんす!」「チッ!その手があったか!」などと声が聞こえて来たが今は邪竜との戦闘中のためスルーされた。
空を縦横無尽に走り回る氷牙の背に乗ったサリーナはヤーベがスライム細胞で作った亜空間圧縮収納機能を持っている特製カチューシャから武器を取り出した。
「じゃん!<天使の弓>!」
サリーナが取り出したのは、まさかの<天使の弓>であった。もちろんポニテ美少女の如月アスカから取り上げたものではない。彼女が女神とやらからもらった神器<天使の弓>をスライム細胞に取り込んでコピーしたものである。尤も、さすがのヤーベも神器を解析、フルコピーすることは叶わず、その模倣は形だけにとどまっている。ただし、ふんだんにミスリルなどの希少金属やスライム細胞を使用して魔改造してあるのだが。その結果神器を超えるような恐ろしい弓が完成したかどうかは定かではない。
サリーナが持ち手の上に羽が付いた弓を引き絞るように構えると、弓と引き絞る弦の間に魔力の矢が生成される。
「<竜貫通撃>!!」
ボッ! ボボボッ!!
ドスドスドスドス!!
「ギャ――――ス!!」
ルシーナの放った<死の嵐>を食らって表面の皮膚を切り裂かれて血を噴出した邪竜シュバルツィングスターは怒りに任せて翼を羽ばたかせ空へ舞い上がった。そこへサリーナの放った<竜貫通撃>の魔力矢が邪竜シュバルツィングスターの翼や足を貫通する。
「すごいな!ドラゴンの鱗を貫通するとはな!」
イリーナがサリーナの放った矢を見て感心した。
「ならば早々とトドメと参りましょう」
優雅にその歩を進めるのはカッシーナ。軽装の皮鎧を着ているもののその下は優雅なドレスである。
バンッ!
光とともに薄いグリーンの美しい翼がカッシーナの背中に現れる。
優雅に羽ばたき空中に浮きあがるカッシーナ。
そのカッシーナの目の前に邪竜シュバルツィングスターが血を噴きながらも雄叫びを上げて宙に舞い上がった。
「ギョガァァァァァ」
邪竜シュバルツィングスターの咆哮に合わせ、邪竜から黒い霧が吹きだし、無数のインプが出現する。
「何という数だ!」
ロザリーナが声を上げる。
インプは数十というレベルではないほどの数が現れていた。
「クスッ・・・自分の力だけでは私たちに勝てないと悟り、眷属でも召喚したということかしら・・・。哀れなトカゲですこと」
カッシーナが優雅に笑うと両手を捻るように腰近くまで引き、手のひら同士を向けて合わせる。
キィィィィィン!
カッシーナの両手の平の間に魔力が凝縮されていく。
「マナよ!彼の敵を討つ光となれ!<魔法の矢>!!」
カッシーナの手のひらの間に生まれた圧縮された超魔力から光の矢が高速で何本にも分かれ弧を描いて無数のインプを蹴散らし邪竜シュバルツィングスターに着弾した。
ドドドドドン!!
「ギュゴアアアアアアッ!!」
再び煙を上げ、血を噴出しながら地面に墜落する邪竜シュバルツィングスター。一体誰が<古代竜>が手も足も出ずに一方的にやられているなどと信じることができるだろうか。尤もここにいる奥さんズの面々だけはその疑問にとらわれることもなかったが。
ドシャリ。
なぜか何もしていなかったフィレオンティーナがその場で膝をつき崩れ落ちる。
(まずいですわ―――――! わたくしなぞ、戦闘能力と戦闘経験値以外はお乳くらいしか取り柄がありませんのに! このままではヤーベ様からのチート能力を与えられたカッシーナさんたちに追い抜かれてお乳を揉まれる以外では旦那様のお役に立てなくなってしまいますわ!)
恐ろしい程意味不明の自虐で落ち込むフィレオンティーナ。
実際の所、奥さんズの全員を信用しているヤ―べではあるが、ストレートに最も頼りにしているのはフィレオンティーナである。
何を頼んでもそつなくこなし、期待以上の結果をもたらしてくれる存在であり、あまり一般常識が身についていないカッシーナやイリーナたちに比べれば元王女とはいえ、冒険者として一般社会の荒波にもまれ、わずか数年でAランクに上り詰めた才能と経験はまさしくヤーベのあらゆる戦略の根幹を支えていると言っても過言ではないほどの信頼を置いている。だが、フィレオンティーナにはそれが全く伝わっていないようである。
(このままではお乳を揉むとき以外は呼ばれなくなってしまうのでは!)
大地に膝を屈しただけでは飽き足らず、両手を大地について拳を握りしめる。
(ヤーベ様自身はいつもいつもご自身がノーチートノーチートと嘆いておられますが、ご自身が奥さんたちに凄まじいチート能力を与えているではありませんかっ! なぜわたくし目にもチート能力を授けてくださらないのですか!)
なぜかフィレオンティーナは涙目である。
(わたくしのお乳など、アナスタシアさんの魔乳に比べればとりたてて大したこともないもの・・・。きっとそのうちお乳すら揉んでいただけなくなるのですわ―――――!!)
ここに自虐極まれり。
なぜかフィレオンティーナは戦闘中にも関わらず絶望した。
膝から崩れ落ち、四つん這いになって震えるフィレオンティーナに奥さんズの面々が驚く。なにせ戦闘中の指示を一手に請け負う戦術の要であり、奥さんズの冒険者メンバーの中ではリーダー的存在であったフィレオンティーナの意味不明な戦線離脱に衝撃が走る。
「フィレオンティーナさん!? まるで生まれたての小鹿の様ですわ!」
「言いえて妙!」
カッシーナの物言いに突っ込むサリーナ。
「どうされたのです? 貴女らしくもない」
横に歩みを進めて来たのは見事な竜槍を担ぐロザリーナだった。
「ううう・・・わたくしは旦那様にとっていらない子になってしまいますわ・・・」
グスグスと泣きながら自分が感じたことを話すフィレオンティーナに思わずロザリーナは噴き出した。
「な、なにがおかしいのですっ!?」
「いやいや、失礼を・・・貴女ほどの実力者でも御屋形様が絡むとこうなってしまうのかと・・・。しかし御屋形様も罪なお方ですな」
にこやかな笑みを浮かべながらロザリーナはフィレオンティーナを見下ろした。
「どういうことですの・・・?」
「簡単な事です。戦闘能力が高くなって危険を跳ね返せるだけの力が付いたのは誠喜ばしいこと。ですが、貴女も私も知っているはずです。戦いとはそれだけでは推し量れないことを。我々は彼女たちと違い、実際に修羅場を幾重も潜り抜けているはずですぞ?」
「た、確かにそれは・・・」
「力をつかいこなすことがどれほど難しいことか・・・、そして敵を見極め、最適な戦略を練ることは経験無くしてはなしえないことなのでは?」
フィレオンティーナの目に再び光が灯る。
「何より、ガーデンバールの王城で我々を守り通し、一人で最後まであの凶暴で理不尽な存在だった勇者白長洲久志羅に立ち向かい、御屋形様の到着まで時間を稼いだのは貴女ではありませんか。貴女がいなければ我々は全員殺されていたかもしれなかった。そしてやって来た御屋形様がいの一番に抱きしめ、いちばん優しい目で見つめたのも貴方ではありませんか。そんな貴女が御屋形様の信頼がないわけがないではありませんか。一体何を悩んでいるのやら」
少し呆れ気味に伝えるロザリーナ。生まれて生きてきて、あの時ほど屈辱で悔しい思いをしたことはなかった。奥さんたちの護衛を任されながら勇者に叩きのめされ、倒れながら一人で立ち向かうフィレオンティーナの背中を見つめることしかできなかった自分。あの時ほどふがいないと思ったことはない。それ以降、時間を見ては自分でも、そしてヤーベやゲルドンにも声をかけて研鑽に励んでいる。あの時の思いを繰り返さぬように。そしてうらやましいと思ったフィレオンティーナの隣に戦士として並び立つために。
そんなロザリーナに指摘されてフィレオンティーナが立ち上がる。
「そうですわね、わたくしが間違っておりましたわ」
パンパンとスカートの裾を払う。
「終わらせましょう」
力強く立ち上がったフィレオンティーナが一歩踏み出す。
ドゴォ!
その瞬間フィレオンティーナから魔力が吹き荒れる。
「(ふふふ・・・貴女もそれほどの力を与えられているではないですか・・・実にうらやましい。何も落ち込むことなんてないのに)」
圧倒的な魔力を迸らせているフィレオンティーナを後ろからまるで転んだ子供が一人で立ち上がったことを喜んだ母親のような優しい目でロザリーナが見つめていた。
「ギエル・シ・アール・キース・レボルティア! 古の契約に基づき、神霊の祭壇に再び力よ満ちよ! 数多の精霊たちよ、天空より輝けしその断罪の剣を解き放て! <六芒轟雷>!!!」
ギュガガガガガ―――――――ン!!
邪竜シュバルツィングスターの頭上に現れた巨大な六芒星。先端の一つ一つに眩い程の雷の力が凝縮されていき、それぞれ隣の雷とつながり、輪のように輝き始める。
そこから迸る超巨大な稲妻が邪竜シュバルツィングスターの全身を貫いた。
元々真っ黒な巨体であったが、黒い煙を噴き上げながら墜落、轟沈する邪竜シュバルツィングスター。
「やったぞ!」
「私たちの初冒険初勝利ですね!」
イリーナとルシーナが嬉しそうに喜んだ。
「ほう・・・この程度のトカゲでは役にたたないのですか・・・思ったよりも地表には優秀な戦士がいるという事ですかな・・・」
不意に年老いた男の・・・それでいて不快で耳障りな声が響いた。
邪竜シュバルツィングスターの後ろから姿を現したのは黒い燕尾服に身を包んだ老執事・・・のように見える男だった。
「そなた・・・闇の公爵ダカ―リス! そなたがなぜこんなところにいる!」
怒声を上げたのはまさかのアナスタシアだった。
いつものふわふわぽよぽよの雰囲気は一切なく、宙に浮く怪しい男に厳しい目を向けている。
一同はいかにも怪しい出で立ちの男よりも普段声を荒げることのないアナスタシアの豹変の方に驚いていた。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
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