第351話 登録のために全員テストしよう
年内の本編更新はここまでとなります。
今年も一年「まさスラ」をご愛読、応援頂きまして誠にありがとうございました。
今年は特に長期更新ストップに陥ったりとリズムの悪い創作生活ではございましたが、世の中コロナ騒動であまり良いニュースの無い中、少しでも皆様の楽しみの一環に加わることが出来ればこれに勝る喜びはございません。
それでは皆様どうぞ良いお年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願い致します。
・・・ちなみに明日からは『年忘れ!ゲルドン祭り』開催予定です!毎日チェックを怠るな!ゲルドンの雄姿をその目に焼き付けよ!
「いやはや・・・とんでもねーな」
「全くですねぇ・・・ギルドとしては実力者の登録は大歓迎なのですが」
「・・・信じられません。スライム伯爵の奥方様はみんなAランク冒険者をあっさり倒せる実力者ばかりなのですか・・・」
人垣の後ろから訓練場を見ていたのは副グランドマスターのゾリア、グランドマスターのモーヴィン、受付嬢リーダーのリリィであった。
「7万5000・・・なんつー魔力だよ、まったく」
フィレオンティーナの魔力を測定したゾリアが呟く。
「すごいのか?」
「普通の宮廷魔術師750人分だな」
「・・・そりゃすごい」
スキル<魔計眼>でフィレオンティーナの魔力を測定したゾリアの説明に凄さを通り越してあきれるモーヴィン。
リリィは目が点になっている。
「それも<魔力圧縮>勝負が終わった状態でだな」
「信じられんな・・・」
モーヴィンが呟くが、ゾリアが驚くほどのことではないと肩を竦める。
「ヤーベの魔力に比べればな・・・」
「それほどなのか」
「ああ」
「ちなみに数値はいくつなんだ・・・?」
「俺がソレナリーニの町で初めて会った時でさえ途轍もなかった・・・」
若干青い顔をして肩を落とすゾリア。
「ちなみに今は測定不能だ。あまり計測しようとスキルを強くするとこっちがいかれちまいそうだ」
「そ、そんなに・・・」
モーヴィンが呆れたようなうめき声を出した。
「それで、どうする? 残りの二人」
「ああ、王女様二人か・・・」
テストに残っているのはこのバルバロイ王国の王女カッシーナと、ドラゴニア王国の王妹ロザリーナである。
「どちらもやんごとなきお方だな・・・」
もう二人してどっちもAランクに推薦してテストを完了させたい気分の二人だが、正直そうもいかない。
「かといってけがをさせるわけにもいかないしな。とくにカッシーナ王女は戦闘力としては大したものは持ち合わせていないはず」
「ならばわしがカッシーナ王女の相手をしよう」
モーヴィンは地下訓練場の中央へ歩いていく。
「冒険者ギルドグランドマスターのモーヴィンじゃ。カッシーナ王女様。冒険者登録を希望されますかな?」
「ええ、ヤーベ様の正妻として、他のみんなが登録を済ませているのに私が登録しないわけにはいきませんので」
カッシーナも中央へ歩み出た。
「それでは私がテストのお相手を務めましょう。<魔力圧縮>では弾き飛ばされてケガをする可能性もありますので、<魔力力場>でカッシーナ王女様の実力を判定いたします」
「具体的にはどのようにすればよいのです?」
「<魔力力場>を展開しますので、その中でカッシーナ王女様はご自身の魔力を最大まで高めてみてください」
「わかりましてよ」
「カッシーナ殿、何だか喋り方がフィレオンティーナ殿に近くなってないか?」
「あら、そうかしら?」
ロザリーナのツッコミにもしれッと澄まし顔を見せるカッシーナだが、Aランク冒険者の余裕を見せるフィレオンティーナをバリバリ意識しているのは間違いなく、若干奥さんズの他のメンバーも生暖かい目で見ていた。
「<魔力力場>!」
モーヴィンが魔力力場を展開する。力場は訓練場を覆いつくすほど大きく展開されたが、力場の中には術者のモーヴィンとカッシーナだけで観客まではギリギリ届かないようになっていた。
(うまいぜモーヴィン。これなら魔力差が百倍でも問題ないぜ・・・)
<魔力圧縮>でのぶつかり合いは魔力差が大きくなるほどその影響は大きいが<魔力力場>は言わば魔力を入れるタンクを作るようなものだ。そのため少ない魔力でも大きくフィールドを作る技術があれば中に貯め込める魔力は大きくできる。今回はフィールドを破るための攻撃魔法を禁止し、魔力を高めてフィールド内に魔力を充満させることだけに限定しているため、力場に魔力が溢れるくらい充填されない限り大丈夫なはずであった。
「いきますわよ!」
バサリッ!
「ええっ!?」
「ウソッ!?」
「何あれ!?」
観客たちが騒ぎ出す。
何せカッシーナの背中に淡く輝く薄いグリーンの翼が出現したのだ。
「はあああっ!!」
ばさりと翼を一度羽ばたかせると、カッシーナの体がわずかに宙に浮いた。
ゴゴゴゴゴッ!!
ビリビリビリッ!!
「な、なななな・・・」
モーヴィンの額に脂汗が浮かび上がる。あっという間に力場の中に魔力が充填されていく。
「こ、これほどとは・・・」
(まさかカッシーナに魔力総量のテストとは・・・これほど都合のいいテストもありませんわね)
壁にもたれかかったフィレオンティーナは笑みを浮かべる。
(どうしてかは知らないけれど、魔力総量が最も多いのがカッシーナなのですから・・・)
空間の空気がびりびりと振動していく。
「70000・・・80000・・・まだ上がるのかよ」
「ゾリアよ、数値はどれくらいだ?」
「10万を超えたよ」
「ば、ばかな・・・」
ピシリ。
「こ、こんな・・・」
ピキピキピキ・・・パリィィィィン!!
「まいった・・・文句なしにAランクの実力と認めよう」
<魔力力場>が完全に破られたモーヴィンは肩を竦めながら両手を上げて負けを認めた。実際、魔力総量だけでAランク認定することはないのだが、けた違いの魔力量に加え、他の仲間の実力も圧倒的なうえ、カッシーナ自身が冒険者としてソロ活動をする可能性がほとんどないことに鑑みての判断だった。
「ふうっ!」
カッシーナが一息つくと、張り詰めた魔力が霧散し、翼も消えてしまった。
「カッシーナも見事に合格だな!」
ええ、よかったですわ」
なぜかドヤ顔でカッシーナを迎えるイリーナ。自分だけFランクのままという可能性は考えていないようだ。
「では最後は私の出番だな」
ロザリーナが前に出る。
「では俺が相手をしよう」
そう言って中央へ足を進めたのは副グランドマスターのゾリアであった。
「ようねーちゃん、そのゴツイ槍はこの空間ではあぶねーから、そっちの訓練用の武器から選んでくれるか?」
ゾリアの指さした方には木剣などの木製武具と刃引きした金属武具が一通り準備してあった。
ロザリーナは自慢の竜槍をイリーナに預けると、おもむろに金属武具の中から槍のいくつかを手に取り感触を確かめる。そして1本のミドルスピアーを手に取る。
「これでいい」
ゾリアも刃引きした金属武器からブロードソードを二本手に取った。
「双剣のゾリア、おめーさんの腕前試させてもらうぜ?」
「ドラゴニア流竜槍術免許皆伝ロザリーナ、いざ参らん!」
どちらともなく一歩を踏み出す。瞬時に間合いが詰まるが、先に攻撃を仕掛けたのはロザリーナだった。
「はあああっ!!」
ミドルレンジからの高速連突きでゾリアの足を止める。
ゾリアも両手の剣で槍先を打ち落としていく。
足を止めて槍を打ち落としながらしばらく、不意に槍の一突きを両手の剣で同時に大きく打ち払う。
跳ね飛ばされた槍に体勢を崩すロザリーナ。その隙をつきゾリアがロザリーナに肉薄しようとするが。ロザリーナはするどく体を回転させ跳ね飛ばされた勢いそのままにぐるりと回って槍でゾリアを薙ぎ払おうとした。
その払いを寸でで見切って躱すゾリア。
今まで一方的な展開ばかりだったため、両者の拮抗した打ち合いに見学者たちが熱狂する。
「なかなかのお点前」
「おめーさんも、な!」
ロザリーナの評価に言葉を返すと同時に攻撃を仕掛けるゾリア。両手の剣は独自の生き物のように高速で動き、まるで風神のごとき勢いでロザリーナに迫る。今度はロザリーナが槍を棍のように操り、ゾリアの二刀流の斬撃を悉く防ぐ。
超ハイレベルな攻防戦に見学者たちも固唾を飲んで見守った。
何度目かの攻防の後、ゾリアが仕掛けた。
連撃のタイミングをずらし、一瞬ロザリーナの構える槍の動きが止まる。
「スキル<双剣乱舞・交差>!!」
ゾリアの双剣がロザリーナの槍の同じ位置に同時に打ち込まれる。
ガキィィィンという鈍い音を響かせて槍が折れた。ゾリアの武器破壊を狙った一撃であった。
(よし、勝った!)
狙い通り槍をへし折ったことで一瞬勝ちを意識したゾリア。
だが、その視界からロザリーナが消える。
「!?」
バキィッ!
視界外から回し蹴りをくらってしまい、もんどりうって吹き飛ぶゾリア。
吹き飛ばされながら一瞬見えたのは、床から尻尾で体を支え、空中で回転して回し蹴りを決めたロザリーナだった。
「イッテェ・・・参った、俺の負けだ」
剣を手放し大の字で転がっていたゾリアが上半身を起こして負けを宣言する。
「いやはや、全員Aランク登録の冒険者がこれほど大人数誕生とは・・・今後の活躍に期待したいですな」
言葉とは裏腹に期待半分、これからの厄介ごとの不安半分・・・といった表情のモーヴィンだった。
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