第350話 誰もが感じていた疑問を考察してみよう
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フィレオンティーナは思う。
Aランクパーティ<黄金の道>のメンバーの実力は、フィレオンティーナからみても、お粗末と言わざるを得ないものだった。だが、だからと言って彼らの実力がAランクとしてまったくもって荒唐無稽なものであるかと言うとそうではないとも感じ取っていた。
(Aランクとしては些か実力に疑問符がつきますが、ギルドの査定は戦闘能力だけではありませんからね・・・)
フィレオンティーナは腕を組み壁にもたれたまま思考の海に飛び込む。
(イリーナさんもルシーナさんも、サリーナちゃんだって戦闘訓練は全くしたことがない経験値ゼロだったはず・・・。それが、こんな高いレベルで戦闘できるようになるには、何か特別なことが必ず影響しているはず・・・)
フィレオンティーナは周りを見渡した。
(私よりも早く旦那様と一緒にいたイリーナさん、ルシーナさん、サリーナちゃんの変化が特に顕著だけど・・・、元々わたくしやロザリーナさん、アナスタシアさんは魔力も多く戦闘能力があった・・・。そうなると、私よりも後からヤーベ様のそばに来て、戦闘能力がそれほどないはずのカッシーナ王女の状態が気になるのだけど・・・)
フィレオンティーナはちらりと横目でカッシーナを見る。
(内包魔力が最も増大しているのがカッシーナ王女なのですよね・・・)
時間という意味ではイリーナやルシーナの方がはるかに多い時間をヤーベのそばで過ごしているはずだった。
(ただ、わたくしも以前に比べると、圧倒的に魔力が増大しているし・・・)
フィレオンティーナは冒険者時代も、占い師時代も、そして現在でも毎日魔力を高める修練は
行っている。ただ、ある時期を境に魔力が劇的に増大していることがわかった。
(だ・・・旦那様と閨を共にしてからというもの・・・加速度的に魔力が増えてますわ・・・)
ヤーベとの夜を思い出したのか、ニヨニヨしながらフィレオンティーナは左手で自分の胸を抱えるようにして、右手を頬にそえてほう・・・と吐息を漏らした。
周りの見学者たちの中でも、フィレオンティーナに注目していた連中がなぜか前かがみになった。
(ただ・・・魔力の増強だけならば旦那様と閨を共にすることで魔力が上がると説明できなくもないのですが・・・)
通常ならばそれすらもあり得ない事ではあるのだが、フィレオンティーナの頭の中では「ヤーベだから」の一言である程度片付けられてしまう領域があった。
(それだけだと、イリーナさんやルシーナさんの戦闘能力の説明がつかないのですわ・・・)
再び小首をかしげて難しい顔をし始める。
(戦闘能力が足りないものには補助的に思考がプラスされる・・・。今のところ、わたくし自身は戦闘時に思考がひっぱられるような意識はないですわ・・・。自分の判断で体は動いている。とすれば、ロザリーナさんやアナスタシアさんもそうなはず。自分の戦闘経験を比べて他の思考が追加されれば必ず違和感が出るから・・・。と、すればこの戦闘能力の思考追加は戦闘経験がゼロの人にしか作用しない・・・、逆に言えばわたくしやロザリーナさんのような戦闘経験が豊富なものには影響しないという事・・・?)
再び深く思考の海に漂い始めるフィレオンティーナ。
(旦那様が類稀なる実力者であることは疑いの余地もないのですが・・・。はっ!? まさか、旦那様が愛すべき者たちだけがその庇護の元、強力な加護を受けられるようになるのでは・・・?)
ポンッと手を打ってそうでしたのねっと言わんばかりの笑顔を浮かべるフィレオンティーナ。
(そうしますと・・・旦那様と閨を共にすることは愛して頂けることのまさに証明でもあるわけで・・・だからこそ旦那様の妻となる者たちの力が増大しているのですわ・・・!)
両手で自分の肩を抱きしめてクネクネしだすフィレオンティーナ。
大きな胸をギュムッとつぶして自分の両肩を抱きしめ顔を赤らめてクネクネしているため、フィレオンティーナを見つめていた見学者の男連中の姿勢は90度お辞儀をしたような格好になった。
(むむっ・・・でも、そうしますとチェーダさんたちミノ娘のメイドさんたちの能力が増大しているのも、古参のメイドさんたちが「最近体調がよくて疲れにくいのよね~」なんて話しているのも、み~んな旦那様のお手付きがあった・・・!?)
急にはたとクネクネが止まり、深刻な表情で顔を上げるフィレオンティーナに、見学者たちが一瞬ビクッと体を硬直させた。
(あ、でも狼牙族のメンバーやヒヨコさんたちもその能力は途轍もなく上がっていそうですし、そうなると閨を共にする以外でも旦那様の加護が浸透する原因があるという事ですわ・・・)
再び落ち着いた表情に戻り、両手を組んで壁に再度もたれかかったフィレオンティーナはまたまた思考の大海原に船を出す。
そして見学者たちの張り詰めた空気も解け、ホッと息を吐いて落ち着きを取り戻して行く。
「ふむ・・・あの女が連中を纏めていると見て間違いないだろう」
無口な魔術師、『無限の魔力』の異名を持つフーリンが呟いた。
「ど・・・どうするんだよ・・・?」
「俺があの頭を張っている女とやる。頭を止めれば俺たちの面目はとりあえず立つだろう」
「だ、大丈夫なのか・・・?」
「俺を誰だと思っている? 俺は『無限の魔力』、魔術師フーリンだ」
そう言うと訓練場の中央に足を進めたフーリンは持っていた杖を壁にもたれかかっていたフィレオンティーナに向ける。
「お前がこの連中を纏めているトップだな? 俺と勝負してもらおう」
魔術師フーリンの申し出に、キョトンとするフィレオンティーナ。
「わたくしは冒険者ギルドに登録済みで、一時停止解除の手続きだけなのですが・・・」
「そんなことは関係ない。お前はパーティのリーダーだろう。相手をしてもらうぞ」
静かに、しかし押し殺したような圧力のある声でフーリンがフィレオンティーナを指名する。
「ちょっと! 正妻は私ですわ! 私が皆を纏めているのですよ!」
横でカッシーナが地団太を踏みながらプンスコしているのだが、フーリンはもとより奥さんズの面々も華麗にスルーを決め込む。
「まあ、相手をしろと言うならばお相手致しましょうか。わたくしも鈍っていると思われるのも嬉しくはありませんしね」
フィレオンティーナは壁に立てかけてあった魔導士の杖を持つと、訓練場の中央に歩み出る。
「どのように優劣をつけましょう?」
「<魔力圧縮>を知っているか?」
「ええ、もちろん」
フィレオンティーナの問いかけにフーリンは<魔力圧縮>での勝負を提案してきた。
<魔力圧縮>は無属性呪文の一つで、魔方陣を形成し、そこから圧縮魔力を打ち出すというものである。
一定間隔を保った魔術師同士がこの<魔力圧縮>を打ち合うと、魔力の塊で押し合うようになり、魔力の弱い方が押し負けて弾き飛ばされるため、魔術師の魔力勝負にはうってつけの方式であった。
「術式は自由、魔方陣形成時間は30秒・・・どうだ?」
「結構ですわ」
<魔力圧縮>勝負において、術式自由とは魔方陣の形成方式が自由という事である。大きさもさることながら複数の魔方陣を形成しても良いことになり、それだけ術者の実力が試されることになる。
そしてその魔方陣を構築して魔力を圧縮する時間を30秒としているのである。
術者は30秒以内にすべての準備を終えなければならない。
どんなにすごい魔方陣を形成しようと、30秒後先に敵に打たれてしまえば吹き飛ぶのは自分なのである。
地球で言えば荒野のガンマンがコインを投げて決闘するようなイメージであろうか。
すでにギルドマスターのセコルスキーはその場で腰を抜かしていたため、フーリン自身がこの場を仕切った。
「この魔導具は魔力を込めて点滅が始まるときっちり30秒後に破裂する。それを合図とする。どうだ?」
「問題ないですわ」
「よかろう、では始めよう」
そう言ってフーリンは魔道具の球に魔力を込めると、自分とフィレオンティーナの間くらいに放った。
球が点滅を始める。
「マナよ!我が魔方陣に満ちよ!」
フーリンが呪文の詠唱を行うと魔方陣が1つ、また1つと目の前に現れていく。
フィレオンティーナの方も無詠唱で魔方陣が1つ、また1つと増えて行った。
そして数秒後、フィレオンティーナの前には5つの魔方陣が展開された。
だがフーリンの前には7つもの魔方陣が展開された。
「ふははっ!5つが限界か? だか、俺の7つの魔方陣より多くの魔力を凝縮出来たら勝てる可能性があるかもなぁ!」
通常魔力は一つの魔方陣に強力に溜め込むよりは、複数の魔方陣を展開した方がより多くの魔力を凝縮させやすい。そういう意味ではフーリンの言ったように数多く魔方陣を展開できた方が圧倒的に有利ではあるのだが・・・。
周りにいる観客たちは彼らの決闘を横から見ていた。
そして、誰もがその震え慄きながらその状態を見守っていた。
フーリンとフィレオンティーナはお互い正面を向き合っているため、正面に展開した魔方陣は当然ながら正面からしか見ることが出来ない。
だが、横から見ている観客たちには見えていた。
フーリンが平面の魔方陣を展開しているのに対し、フィレオンティーナは積層型立体魔方陣を組んでいたのである。
横から見れば一目瞭然である。
ペラペラの紙を7枚持っていい気になっているフーリンに対し、まるで大砲をかまえているかのようなフィレオンティーナ。薄っぺらな瓦を持っているフーリンに除夜の鐘でも突くかの如く準備しているフィレオンティーナ・・・。そんなイメージであった。
わずか30秒の間にあまりにも美しく複雑な積層型立体魔方陣を展開するフィレオンティーナの実力に、その誰もが驚きを隠せない。
ここに宮廷魔術師長のブリッツがいれば大興奮でフィレオンティーナを研究室に拉致しかねないであろう。
パンッ!
魔道具の球が割れる!
「<魔力圧縮>!!」
「<魔力圧縮>」
ドゴォン!
瞬間、フーリンは地下訓練場の壁まで吹っ飛ばされて叩きつけられた。
これはもうふらふらと一輪車で道路に出たら巨大ダンプカーが来て跳ね飛ばされたようなものである。ただし、跳ね飛ばした後ダンプカーがきっちり急停止したため、建物などが崩壊せず大きな影響がでなかったのである。当然あのまま放っていればこの場所が消し飛んでしまうため、うまくフィレオンティーナが<魔力圧縮>をコントロールした結果であった。
「うふふ、久しぶりの<魔力圧縮>ですが、うまくいきましたわね!」
フィレオンティーナは満面の笑みを浮かべるのであった。
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