第346話 冒険者ギルドでのテンプレは不可避なものであると認識しよう
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トンカントンカン。
「精が出ますな、ダンナ」
「ああ」
常連の親父さんに声をかけられて俺は曖昧に返事をする。
トンカントンカン。
「伯爵様~、窓枠到着しましたぜ」
「ああ、ここに設置頼む」
そう、俺は昨日水の精霊ウィンティアと闇の精霊ダータレラがぶっ壊した喫茶店<水晶の庭>の扉と壁を修理していた。迷惑をかけたのはウチの精霊たちだし、めっちゃ涙目のリューナちゃんをほっておくことなどできないしな。
「玄関、一回り大きな扉に替える予定だよね。親方、用意の方は?」
「もうすぐ到着する予定でさ」
「そうか、今日中に完成させないとな。臨時休業も今日一日にしておかないとね」
「伯爵様がわざわざトンカチ握ってお手伝いいただかなくても、俺たちに任せてもらえれば・・・」
「まあまあ、ウチの精霊たちが迷惑かけたことだしね。お手伝いくらいは気持ちとしてね」
俺は親方にウインクする。実際職人さんたちに任せた方が早い気もするが・・・。
「ヤーベさん、お店を直していただいてありがとうございます」
後ろを振り返れば、喫茶店<水晶の庭>のオーナーである銀狼族のリューナちゃんが。
「ああ、リューナちゃん。ウチの精霊たちが迷惑をかけたんだからね。修理するのは当然の事さ」
ガンッ!
「ノォォォォ!!」
リューナちゃんに振り向いたままトンカチを振り下ろした俺は思いっきり自分の指をぶっ叩いた。
「だ、大丈夫ですか?」
トンカチでペッちゃんこになった親指をフーフーしながら答える。
実際、スライム細胞で出来ている俺は痛みを感じないようにできるが、普段の生活の中で人間らしくふるまうためにそれぞれの部位で細胞から刺激を人間と同じように処理できるように指示している。
そのため、ちゃんと五感処理ができるのだ。もちろん戦闘などの特殊状況ではその限りではないけどな。
「まあ、俺は大丈夫なんだけどね・・・どっちかといえば奥さんたちの方が心配かなぁ」
「奥様方・・・? 奥方様がどうかされたのですか?」
「いやね・・・今朝ね・・・」
俺は今朝の話を脳裏に思い出す。
「冒険者登録・・・?」
「そうですわ、旦那様」
フィレオンティーナが自身の爆乳を持ち上げる様に腕を組む。
その体勢でのフィレオンティーナに俺がNOを突きつける事が出来た試しはない。
「なんでだい?」
「最近、他の皆様も戦闘力が上がっている気がしますので、その確認をと思いまして」
「戦闘力の確認だけならわざわざ冒険者に登録しなくてもいいんじゃない?」
「いえいえ、ぜひ私も登録プレートを手にしてみたいですわ!」
「はい!」
「うむ!」
なぜかものすごく前向きなカッシーナとルシーナとイリーナ。
「私も冒険者登録をしたことはありませんな。楽しみです」
「私も~楽しみ~」
ロザリーナやアナスタシアが嬉しそうにしている。
「どうせならマーロの街で登録してくればよかったんじゃない? そうすればモンスターの討伐とか実戦すぐ行けたんじゃない?」
鉱山都市マーロ。俺は先日国王の視察があった旧リカオロスト公爵領のリカオローデンの名を改めた。すべての道はマーロに続くってね!ミスリル鉱石の各町への出荷を便利にするために街道の整備も予定しているしな。
「ああ・・・あの町ではちょっと・・・」
「うむ・・・」
「さすがに・・・」
「ボクも恥ずかしいかなぁ」
フィレオンティーナ、イリーナ、ルシーナ、サリーナが顔を赤らめて口ごもる。
カッシーナ、ロザリーナ、アナスタシアはその時にいなかったので首を傾げた。
「あの町ではリカオロスト公爵の反逆後、復興救済のため旦那様と現地で働いているのですが、その時にだいぶ顔が売れてしまったのですわ・・・」
ちょっと遠い目をしてフィレオンティーナが語る。
「(あの時一緒に炊き出しした地元のオバちゃんたちから夜のテクニックをどれだけ授けてもらった事か・・・)」
「(その後根掘り葉掘り聞かれましたわね・・・)」
「(ギルドの受付嬢たちにもだいぶいろいろ聞かれたもんね・・・)」
イリーナ、ルシーナ、サリーナも遠い目をして天井を見上げる。
「そう・・・、まあ気を付けて行ってきてね」
とりあえず俺はフィレオンティーナたちに好きにしていいと送り出すと、喫茶店の修理に出向くことにしたのだ。
「・・・冒険者登録か・・・、どう考えてもテンプレを回避することはできない気が・・・。でも逆に王都の冒険者ギルドなら奥さんズの面々の顔も割れているから大丈夫なのか?」
俺は王都のどこまでも広がる青空を見上げた。
カランコロン。
「ここが王都の冒険者ギルドですわ!」
嬉しそうに扉を押し開けてフィレオンティーナが説明する。
「うむ、ソレナリーニの町では私もヤーベと一緒に冒険者ギルドに行った事があるぞ。あれが冒険者たちへの依頼票が掲載されるボードだな。あっちが酒場や軽食を取れる場所で、あそこのカウンターが受付だろう」
ドヤ顔でイリーナが説明する。
「その通りですわ」
「イリーナさん物知りですわ~」
フィレオンティーナの肯定、アナスタシアの褒め言葉にさらにドヤ顔感が増していくイリーナ。
フィレオンティーナは受付カウンターまで足を進めると、若い受付嬢に話しかける。
「冒険者登録をお願いしたいんですけど」
「ぼ・・・冒険者・・・登録ですか?」
受付嬢はカウンター越しにフィレオンティーナを見つめる。
声をかけてきたフィレオンティーナはもとより、その後ろに並ぶ美女軍団。
この美女軍団が今から冒険者登録・・・。あまりにも無謀なのではと受付嬢は不安に駆られた。
「後わたくし、一度冒険者登録を停止させてますの。再び活動できるよう再登録をお願いしたいんですの」
「再登録ですか?」
「ええ」
そう言ってフィレオンティーナは胸に手を突っ込んで何かを取り出そうとした。
その時、
「ようようねーちゃんたち、こっち来て酌しろや」
「俺たちが冒険者のイロハを教えてやるよ!」
「他の事もいろいろ教えちゃうけどよぉ」
ギャハハハと下品に笑う盗賊と見間違えそうな男たち五人組が酒場のテーブルから声をかけてきた。
「おお!これが御屋形様の言っていた・・・」
「そう、テンプレってヤツですわね」
手をポンと打つロザリーナ。
そしてフィレオンティーナはニヤリと笑うのであった。
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