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閑話57 精霊たちの休日(後編)

※後日談が抜けておりましたので修正しました(2020/12/12 15:06)

あーんとホットケーキをパクつこうとしていた水の精霊ウィンティアと、ホットケーキをキコキコとナイフとフォークで切り分けていた闇の精霊ダータレラがピタリと止まる。


喫茶店<水晶の庭>(クリスタルガーデン)に三十人以上のチンピラがどやどやと入り込んで好き放題宣ったのである。


「ギャハハ、このショートカットの女の子は俺がもらおうかな!」

「あ、じゃ俺は黒髪の娘ね!」


ゲハゲハと下品に笑う男たちにオーナーであるリューナと精霊二人を案内してきたメイドのソラは涙目になる。

だが、精霊二人の表情は無表情に変わり、目に冷たい光が宿りだす。


「バカ野郎!味見はこの八輝星が先だ!」

「へ、へい・・・」


どうやら傭兵師団「バトルホーク」には師団としてまとめる人間が八人おり、そのそれぞれの頭を八輝星と呼ぶようだった。


「・・・オモテ、出なよ」


口に入れる寸前だったホットケーキの刺さったフォークを皿に戻し、立ち上がるウィンティア。ダータレラもナイフとフォークをさらに戻して立ち上がる。


「はあ?」


「店内で暴れると店に迷惑がかかるから、外に出ろって言ってるんだよ、ボクは」


ウィンティアがすごむが、どちらかというと可愛いを出ない範囲であった。


「ひゃはは!お嬢ちゃんがなんか言ってるぜ!」

「もう我慢できねーよ!引っぺがせ!」

「俺が先だ!」


店の外に出るどころか、歯向かった小娘をいたぶろうと逆に襲い掛かって来る傭兵たち。


「<大津波(アクアウェーブ)>!!」



ドパァァァァァン!!



ウィンティアが右手を一閃したその瞬間、凄まじい水の壁が襲い掛かり、店の入り口や壁を吹っ飛ばし、三十人以上の傭兵たちが通りに押し出された。


「お・・・お店が・・・お店が・・・」


お盆を落とし呆然とするリューナちゃん。


「八輝星?だっけ? バカどもの頭はボクがヤる! 雑魚は任せるよ」


「・・・ん、了解」


びしょぬれになって立ち上がる傭兵たちの前に立つ精霊二人。


「てめぇら!もう容赦しねぇ!やっちまえ!」


下っ端が起き上がり、こちらに向かってこようとしたその時、


「闇の精霊王、顕現」


ぼそりとダータレラが呟くと、その後ろに漆黒の天使が姿を現した。


「<死黒天使の羽ばたき(ダークエィンジアー)>」


漆黒の天使が大きく羽ばたくと、黒い羽が雨の様に降り注ぐ。


「ギャアア!」

「ぐわぁ!」

「ギエェ!」


雑魚たちに黒い羽が刺さり、次々と倒れていく。


「ななな、なんだ!?」

「一体・・・?」


そしてあっという間に立っているのは八輝星と名乗った八人だけとなる。


「ヤーベが殺しを好まないから命は取らないけど・・・これで魔力は根こそぎ無くなったはず・・・」


黒い羽が刺さった男たちはその羽から魔力が漏れ出し、あっという間に枯渇して気絶(スタン)状態に陥った。


「君たちの相手はボクがしようか」


不敵に笑うウィンティアに恐怖した傭兵リーダーたちは逆に見境なく襲い掛かろうとする。


「う、うおお!」

「こ、殺せっ!」


「水の精霊王、顕現」


ウィンティアが天に向かって人差し指を立てると、その背後に八首の竜が姿を現す。


「<八首の水龍(アクアヒュドラ)>」


次の瞬間、八首が八輝星を名乗る傭兵リーダーたちを一瞬にしてのみ込む。



「「「「「ゴボゴボゴボ!」」」」



そして、ぺっと吐き出した時には八人の傭兵リーダーたちは意識を失っていた。


「えーと、トラブルに巻き込まれた時はどうするんだっけ・・・? あ、そうだそうだ!」


ウィンティアが出かける前にヤーベから伝えられていたトラブル時の対処方法を思い出す。


「ボクらは王都警備隊の特戦隊だ! 悪党を捕まえたから引き取るように王都警備隊に連絡お願いね!」


通りに集まっていたやじ馬に声をかけると、店の中に戻っていくウィンティアとダータレラ。


「さー、ホットケーキがやっと食べられるよ!」


嬉しそうにまだ十分に温かいホットケーキをパクつくウィンティア。


「・・・美味しい」


ダータレラもパクパクとホットケーキを食べていく。


「お店が・・・お店が・・・」


涙目のリューナちゃんはぶっ壊れた店の入り口と壁を見つめたまま呆然としていた。






「いや、相当買ったな・・・」


山のような荷物を背負わされている炎の精霊フレイアがぼやく。


「そりゃあ、子供たちにお腹いっぱい食べてもらいたいじゃない?」


両手を後ろ手に組みながらルンルンとスキップするようにフレイアの前を歩いているのは土の精霊ベルヒアだった。ちなみにベルヒアは手ぶらである。


二人が市場で鬼のごとく買い漁った食材や大鍋を全てフレイアが背負いながらやって来たのは西地区の教会であった。


この教会は敷地自体大きいものの、牧師が真面目すぎて運営は苦しい状態が続いていた。その上孤児たちが集まっており、ますます運営が厳しくなっていた。

先日は女神クリスティーナの像も借金のカタに取り上げられてしまったのだが、その像はオークションでヤーベが落札、当教会に寄付していた。


・・・尤も、女神像は賊の襲撃(正確には賊の襲撃を退けたフィレオンティーナ)によって真っ二つにされてしまったので、鎹を打ち、つなぎ合わせて補修したものが飾られていた。

その隣にはもちろんスライム神像が飾られているのは言うまでもないことである。


「さ、このお鍋にたくさん材料を切っていれるわよ~」


そう言ってベルヒアが土から作り上げたのは超巨大鍋であった。

ヤーベがここにいれば、山形県の芋煮会もかくやという超巨大鍋に驚いたことだろう。


そしてフレイアが背負っていた野菜などの食材を素手で砕いて鍋に放り込んでいく。


「どんどん放り込むぞ~」


ニンジーンやナナースを一握りで砕いていくフレイア。


「味付けはどうするんだ?」


「ヤーベ様から預かって来たわ~」


ベルヒアが懐から出したのは調味料の数々。

そしてヤーベから切り札的に預かった「味噌」である。

ウィンティアが用意した美味しい水で味噌を入れて煮込んでいく。


「これは肉だな」


シュパパパパパッ!


フレイアは炎を纏わせた手刀で肉を一口大に一瞬にして切り分ける。


「さー、火をつけるぞ!」


フレイアが手をかざすと巨大鍋を包むような炎が立ち上がる。


「わ――――!」

「すごい~~~!」


教会の孤児たちが集まってきて、立ち上る炎に驚いている。


「すみませんですじゃ、こんなにたくさんの食料を」


ひげもじゃの神父が現れてベルヒアとフレイアに頭を下げる。


「いえいえ、お気になさらずですわ」

「ああ、アタイたちはヤーベに頼まれてやってるだけだから」


子供たちと触れ合いたいと思ってやって来たベルヒアとフレイアだが、その理由をヤーベのせいにしていた。


「わ~~~いい匂い!」

「美味しそう!」

「わくわく!」


大きな鍋の周りに集まった子供たちが器をもって並びだす。

ざっと見ても50人近い子供たちが集まっている。


「こりゃあ近くの子供たちも集まっておりますなぁ」

「大丈夫ですわぁ。肉野菜芋煮はた~くさんありますから」

「ああ!ジャーンジャン食ってもらって大丈夫だぞ!」


「「「「「わ~~~~い!!」」」」」


「おうおう、うまそうな匂いじゃねーか」

「結構広い場所だな、丁度俺たちの根城にちょうどいいんじゃねーか?」

「ああ、こんなジャリみてーな子供どもは片づけちまおーぜ!」



子供たちがお腹一体食べていると、そこに現れたのは明らかに盗賊チックな男たちだった。

驚いた子供たちがベルヒアやフレイアの後ろに逃げてくる。


「あらあら、お呼びでないお客様の様ですわねぇ」


ベルヒアが現れた盗賊を見回す。

ざっと100人はいる大所帯の盗賊たちであった。

この格好で王都に入ってここまで来られた事に驚きを隠せないベルヒアとフレイアであった。


「王都って平和なのね~」

「ああ、これもヤーベの威光ってヤツかなぁ?」


100人もいる盗賊に囲まれつつある状況に「平和だ」と宣うベルヒアとフレイア。

子供たちだけでもなんとか逃がさないとオロオロしていた神父はあんぐりと口を開け顎が外れそうになる。


「ギャハハハハ!」

「こいつら頭の中がお花畑らしいぜ!」


大声で下品に笑う盗賊たち。何せ数が多いため、威圧感が子供たちに恐怖を呼び込んでしまう。


「うわわわ~ん」


泣き出してしまう子供たちをベルヒアとフレイアが慰める。


「大丈夫よ~、あんな不細工な連中怖くないから~」

「ああ、アタイが速攻でぶっ飛ばしてやるよ!」


「面白れぇねーちゃんだなぁ。やってもらおうじゃねーか」

「お、オデ、ぶっ殺ロス!」


盗賊の人垣が分かれ、二メートルを超えるような大男と、その肩に乗った小柄な男が現れる。


「ボス!」


子分たちが騒ぎ出す。どうやら大男とその肩に乗った小柄な男の二人が盗賊団の頭のようだった。


「俺たち盗賊団ハゲワシに偉そうな口を聞くじゃねーか」

「お、オデ、あの女のカラダにワカラセル!」


鼻息荒く大男が興奮する。


「盗賊団ハゲワシねぇ・・・貴方たちが強気なのはもしかしてたくさん人がいるからかしら?」


「おお、100人の子分どもがお前らを数秒で片づけてやるぜ!」


「<大地の騎士(アースナイト)>」


ベルヒアが一言唱えると、なんと盗賊の後ろにアースナイトが現れる。その数200体。


「あらあら、こちらの方が数が多いわねぇ」


「なっ、なっ!?」


ズドドン!!


100人からの盗賊が一瞬して200体の<大地の騎士(アースナイト)>に押し込まれ、地面に埋まって首だけになる。


「数秒で片付きましたわねぇ」


「お前らの相手はアタイがしてやるよ。もちろん数秒でカタをつけてやるよ」


ズイッと前に出て中指を立て、クイクイとカモンカモンするフレイア。


「クククッ!子分どもをやったからって調子にのるなよ!」


そう言って肩に乗った小柄な男が叫ぶ。


「弟よ、俺の体を使え!」


「オオ!」


小柄な男につけられたひもを振り回し、まるでモーニングスターのような武器を振り回すかのように攻撃してくる男たち。


「<獄炎拳弾(ファイア・ラグナック)>!!」


ヒュウウウ!と一呼吸。

炎を纏った拳の弾幕が一瞬にして男たちを吹き飛ばす。


「コッチも数秒、いや一瞬で片付いたな!」


ベルヒアとフレイアは顔を見合わせてにっこり微笑む。


「さあ、お代わりあるわよ~」


「「「「「わ―――――い!!」」」」」


再び器をもって並ぶ子供たちに肉野菜芋煮を配っていく。


「あ、神父様」


「なんでしょう?」


オロオロしていたら次の瞬間盗賊たちが速攻で無力化され、何事もなかったように芋煮を配り始めるベルヒアたちに驚いた神父だが、さらに驚きの説明を受ける。


「わたくしたち、王都警備隊の特戦隊なんですの。盗賊を捕まえたって王都警備隊にご連絡お願いできますかしら?」


「は、はははい!すぐに!」


神父は警備隊の詰め所に駆け出していくのであった。





その頃、王都の大通りでは、悪徳商人一味が風の精霊シルフィーと光の精霊ライティールにふん縛られていた。


「王都警備隊のみなさんよろしくね~」

「・・・ところで、ボクたちの扱いだけ雑じゃない?」


悪徳商人一味をひっ捕らえて連れて行く王都警備隊に手を振るシルフィーと、どこまでも済んだ王都の青空を見上げるライティールだった。




後日―――――


「王都の盗賊やならず者の連続検挙、見事であった。ここに褒章を授ける」


王都警備隊隊長のクレリア・スペルシオはなぜか王都の治安を見事に守った立役者として国王様直々に褒章を受けていた。


「どうして・・・どうして・・・こんなことに・・・」


冷や汗をかきながら褒章を受けるクレリア。


「こ、こんな大きな恩・・・ど、どうやって返せば・・・」


勲章とずっしりとした報奨金を受け取ってクレリアは涙目になるのであった。






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