第342話 心配ならば査察に行こう
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「こ・・・こんな・・・一体・・・」
ワーレンハイド国王は提出されてくる資料を握りしめながら言葉を失う。
「・・・何か?」
宰相ルベルクがしれっとワーレンハイド国王に問いかける。
「何か、じゃないだろう!何かじゃ! なんだこの報告書は!」
資料をテーブルに叩きつけるワーレンハイド国王。
「・・・スライム伯の飛び地となっている領地・・・旧リカオロスト公爵領の報告書ですが・・・」
「知ってる!それは知ってるよ!だって報告書の一番上に領地名が書いてあるからね!旧リカオロスト公爵領ってスライム伯爵がまだ新しく名前を付けていなかったことにも驚きだけど!」
バンバンと手をテーブルに叩きつけながら激昂するワーレンハイド国王。
横で見ている王妃のリヴァンダも国王が叩きつけた資料を手に取り目を通していく。
「・・・確か、旧リカオロスト公爵の保有するミスリル鉱山にある坑道は3本・・・。ですが、この報告書には7本のミスリル坑道があると記載がありますわ・・・」
資料から顔を上げてリヴァンダ王妃が発言する。
ここにいるのはワーレンハイド国王、リヴァンダ王妃、そして宰相のルベルクだけだった。
「これはリカオロスト公爵がミスリル坑道を隠していた・・・ということでしょうか?」
「いいえ、旧リカオロスト公爵統治時にも査察は行っており、その当時は坑道が3本であったことは間違いありません」
「・・・では、スライム伯が統治をおこなってから4本もミスリル坑道が増えたという事・・・?」
「国に納められるミスリル銀の量も3倍に跳ね上がっておる!」
ワーレンハイド国王が興奮というよりは、怒りに近い感情で声を上げる。
「・・・王国に収められるミスリル銀が増えているのです。喜ばしいことでは?」
「これがなければなっ!」
宰相ルベルクの問いかけに別の資料をバンッとテーブルに叩きつける。
「その資料が何か・・・?」
リヴァンダ王妃はワーレンハイド国王がテーブルに叩きつけた資料を手に取って目を通す。
「これは・・・」
それは奴隷契約の取引を示す資料であった。
スライム伯爵はバルバロイ王国全土から凶悪な犯罪奴隷を購入していた。それもすさまじく大量にである。
「これほどの量の犯罪奴隷・・・しかも重犯罪者ばかり・・・」
バルバロイ王国で犯罪を犯すと、基本的に犯罪奴隷として処理される。軽微なものは地元の街で仕事に就き、刑期が終わると犯罪奴隷から解放される。
だが、繰り返し犯罪を犯したり、非常に重い罪を犯した者たちは重犯罪者と呼ばれ、二度と犯罪奴隷から解放されることはなく、危険度も高い人物と判断されるため街中での作業に着くことは許されず、多くは鉱山などに送られ、非常に劣悪な環境の中厳しい監視の元、死ぬまで働かされることになる。どんなに凶悪な犯罪者も奴隷契約や厳しい監視の元、死んだような目をしながらノロノロと作業をするようになる・・・それが重犯罪奴隷となった者たちの末路であった。
「つまり、スライム伯爵が王国中の重犯罪奴隷者を買い付けて自身のミスリル鉱山に送り込み、使いつぶすように働かせて無理にミスリルを掘っていると・・・。自身の利益のために無茶をされていると思われる・・・と?」
宰相のルベルクは溜息を吐きながらワーレンハイド国王に目を向ける。
「しかし重犯罪奴隷なのでしょう? 王国のために一生懸命ミスリルを納めるために頑張ってくれているのでは・・・?」
「そういう問題ではない!」
リヴァンダ王妃がスライム伯爵が王国のためにしていることなのだからと暗に示せば、そうではないとワーレンハイド国王は切って捨てた。
ある部分では国のために必要な事をすっぱり切ることができるリヴァンダ王妃に比べてワーレンハイド国王は人情家で甘い一面もあった。
「救国の英雄と呼ばれるスライム伯爵が王国のためとはいえ、重犯罪奴隷者をかき集めて無茶な仕事をさせ、使いつぶすような真似をして王国のためにやっています、などと言えば、国のためなら何をしてもいいのかと横やりを入れてくる者も出るだろう。なによりスライム伯にはすでに多くの恩を王国は受けているのだ。王国のためにこれ以上無理をしてもらう必要などないのだ!」
暗にスライム伯爵が後ろ指を指されるような状況が嫌・・・という、どこまでもヤーベを思いやったワーレンハイド国王の反応に宰相のルベルクは苦笑し、リヴァンダ王妃は優しい笑顔を浮かべる。
「・・・そんなに心配ならば査察に出向いてはいかがですか?」
「・・・査察?」
宰相のルベルクからの提案に顔を上げるワーレンハイド国王。
「ええ、いつぞや神都ヴィレーベに出向いたようにお忍びではなく、国王の命で正々堂々正面から査察に伺えばよろしいかと」
「それでスライム伯爵に問題があれば・・・」
「逆ですよ。問題があればワーレンハイド国王自身で指摘し、改善させればよいではないですか。それこそ救国の英雄であるスライム伯爵にも物言える国王として他の貴族たちも安心することでしょう」
「うむ・・・。そのようなことがないといいのだが、心配でもある。査察を行うことにしよう。早速手配してくれ」
「わかりました」
恭しく礼をして部屋を出ていく宰相ルベルク。
「ま、問題などありえないのですがね・・・」
部屋を出ていく瞬間、宰相ルベルクはつぶやき、にやりと笑った。
その頃―――――
「旦那様、陳情書が届いております」
「ん~~~~?」
セバスが俺に封筒を渡してくる。
封を開けて中を見てみる。
「リカオローデンを任せているゴッセージからだな」
ゴッセージはリカオロスト公爵統治時代、政治経済を一手に引き受けていた男だった。
リカオロスト公爵の裏での暗躍にはかかわっておらず、与えられた仕事を淡々とこなす老練な男であった。
ヤーベは旧リカオロスト公爵領を受け持つ際、悪党や裏で暗躍していた連中を一掃したのだが、その他普通に働いていた人々は希望があればそのまま採用していた。ゴッセージはそのうちの一人だが、思った以上に有能だったため、その内政をほとんど丸投げしたのだった。
「ふーむ、できれば領内の視察をお願いしたい、とあるな」
「なるほど、あの計画を始めた時以来旦那様はリカオローデンに出向いておりませんからな。報告書は届いておりますので計画は順調だとは思いますが、旦那様のお姿を見せることにより、より活性化を狙っているのか、もしくは集めた者たちが旦那様のお言葉を拝聴したいと要望が出ているのかもしれませんな。何しろあの演説は伝説と化しているとの噂ですし。吟遊詩人たちもざわめいているとか」
「・・・それはそれで恥ずかしいが」
「それに、イリーナ様やルシーナ様のご両親からもご要望が出ておりませんでしたか?」
「・・・ああ、そう言えばあったな」
イリーナのご両親であるルーゲンベルグ伯爵夫妻やルシーナのご両親であるコルーナ辺境伯夫妻、フィレオンティーナの妹さんが嫁いでいるタルバリ伯爵夫妻などは、この屋敷には招待しているが、神都ヴィレーベや旧リカオロスト公爵領には呼んでいない。俺の統治に変わってから一度も行っていないので案内して欲しいと要望があった。
俺だけなら転移でリカオローデンに出向いてもいいが・・・。
「よし、せっかくだし観光ツアーでも組んでみるか」
俺はにやりと笑うと頭の中で旅行プランを練り始めた。
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