閑話53 とある聖女の苦悩
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「くっ・・・」
私は全力で大規模魔法陣に魔力を込めていく。
「せ・・・聖女様!もう魔力が持ちません!」
「こ・・・こちらも枯渇します・・・」
多くの神官たちから泣きごとが漏れる。
「もう少しです!踏ん張ってください!」
ここで召喚魔法陣の執行をしくじるわけにはいかない。
ここでしくじれば死ぬ・・・私が、物理的にも、精神的にも。
私、セフィリナ・サンクレストはトランジール王国サンクレスト侯爵家の長女であり、このトランジール王国にて聖女の称号を与えられている神官になります。
私自身は女神クリスティーナ様を信奉する敬虔なクリスティーナ教信徒であると自負しています。
ですが、なぜか女神クリスティーナ様は私に無慈悲なる試練をお与えになられました。
問題の一つは商業国イーサカを挟んで西にあるグランスィード帝国との戦争です。
今までは小競り合いの延長でしかなかった戦争ですが、ここ二年ほどでグランスィード帝国の国内事情が大きく変わりました。グランスィード帝国の愚鈍な帝王が排除され、その娘が女帝となったことです。女帝ノーワロディ・ルアブ・グランスィードの即位以降、国内は急速に整備され、軍部の再編により、より効率化され強化されたのです。
さらに、西方三国同盟、そして西方大同盟により、グランスィード帝国の背後には多くの西側諸国がついてしまい、グランスィード帝国は大きく国力を増す形となったのです。
そのため、トランジール王国の上層部はトランジール王国の東にあるリセル・ローフィリア神聖国への協力を求めています。そのリセル・ローフィリア神聖国からの要求は「私」。つまりこの聖女セフィリナ・サンクレストをリセル・ローフィリア神聖国大神殿に寄越すように、とのことでした。
・・・リセル・ローフィリア神聖国の教皇は一度だけお会いしたことがあるのですが、とても褒められた人物ではありませんでした。まさしく俗物。
それどころかリセル・ローフィリア神聖国の多くの枢機卿や司祭たちが物欲、色欲に走り、その権力を振るい、市井の民を苦しめているのです。正直、リセル・ローフィリア神聖国を訪れた時に地獄のような現実を突きつけられたことを今でも覚えています。そんな国へ売られてしまえば、私の人生など木っ端微塵に吹き飛ぶでしょう。私を見ていた教皇の目を思い出すだけで怖気がします。
そんな国に行くくらいなら死んだ方がマシです・・・いえ、死ぬのは怖いのでこの国を出奔しましょう。
そしてもう一つの懸念事項・・・それは。
「聖女様!魔法陣に魔力が満ちます!」
おっと、心の整理をしながら召喚魔法陣に全力で魔力を込めていましたが、ついに完成できそうです。
「・・・出でよ、世界を救う者・・・勇者召喚!!」
圧倒的な光が弾けるようにまばゆく光ります。
そして・・・召喚魔法陣に現れたのは三人の人間。
男性が一人に女性が二人。
「・・・ちょっと、コータ。アンタまたなんかやったでしょ!」
周りをキョロキョロしながら、茶髪のポニーテールにスカートの短い女性が男性の腕をとりながら文句を言っています。とってもチャーミングで可愛い女性です。
「おいおいアスカ・・・なんでも俺のせいにするのはよくないな」
ちっちっち・・・と口の前で指を左右に振る男性。なにかちょっとイラっとします。
「アスカさん・・・なんでもコータ様のせいにするのはよくないと思いますよ?」
男性を挟んで茶髪ポニーテールの女性の反対に現れた女性。
黒髪ストレートのとても綺麗でお淑やかなお嬢様といった感じの雰囲気です。
「そうだぞ、レイの言うとおりだな!」
フフンとドヤ顔で腕を組みながら胸を張る。黒髪の男性。
男性というよりは少年・・・いわゆるイケメンボーイといった感じでしょうか・・・。
教会を回ればシスターたちがキャアキャアと騒ぐことは間違いなしでしょう。
尤も私はこういったイケメン顔の方はあまり好ましいと思えないのですが。
いえ、ブサイクな方が好きとか、そういったことではないのですよ?
しかしながら、顔のいい方は得てして下心も丸出しで、あまり好ましい性格をしている方が多くない気がしてしまうもので・・・。
「ところで・・・この状況はなんなのかしら?」
アスカと呼ばれた茶髪のポニーテール少女が周りを見回しながら私の方へ眼を向ける。
どうやらこの少女が一番判断力が高いようですね・・・落ち着きはあまりなさそうですが。
「ようこそレーヴァライン大陸へ、勇者様。私はトランジール王国サンクレスト侯爵家長女であり、聖女の称号を賜っておりますセフィリナ・サンクレストと申します」
丁寧に挨拶します。
なにせ異世界から召喚した勇者様たちですから・・・たち?
「あの・・・勇者様を召喚したのですが、三名来られてますね・・・?」
召喚魔法陣にはイケメン少年と茶髪ポニテ少女と黒髪ストレート少女・・・呼び方が不敬でしょうか?
「あー!アンタが私のコータを連れて行こうとしたのね!びっくりしたわよ!いきなり光に包まれて!でもアタシのコータを奪えるとは思わないことね!」
腰に左手を当て、右手でビシッと私を指さす茶髪ポニテ少女。
コータさんというのですね、このイケメンさん。
私はいりませんので、お気になさらず。
「ちょっと!誰が私のコータさんですか!いつアスカさんのコータさんになったんですか!?」
ぷんぷん怒ってますというアピールなのか、ほっぺを膨らませて文句を言う黒髪ストレート少女。
「ふふん!コータは私の幼馴染なんだから私のモノに決まってるでしょ!レイ」
「決まってません! アスカさんは横暴ですよ!」
茶髪ポニテさんはアスカさんで黒髪ストレートさんはレイさんですか。
このコータさんを取り合っているという事でしょうか・・・。
異世界では一夫多妻ではないんでしょうかね。
「皆さま、お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
私は先に自己紹介しましたからね。名前は呼び合っているので想像つきましたけど、ちゃんとご本人たちから紹介いただきたいものです。
「あ、俺は皇洸太です」
「如月飛鳥だよ!」
「綾小路麗と申します」
皇洸太、如月飛鳥、綾小路麗、イケメンボーイとその幼馴染に転校してきた超お嬢様の高校生トリオ。
ここにヤーベがいれば、「ぬお―――――! まさかのイケメンチート野郎がしょっぱなからチーレム全開だとゥ! いきなりラノベの主人公が物語始めやがったぜぇ! チックショ――――!!」とテンションとち狂って暴れだすこと間違いなしである。
三人が自己紹介してくれます。
どの方も基本的に温和でいい人そうです。よかった。
「皆さまは女神様より神託を受けられましたか?」
ここが大事なところです。
異世界から勇者を召喚する魔法陣。伝説の魔法陣で私も初めて使ったものですが、圧倒的な魔力を必要としさらに複雑な魔法陣を構築しなければなりませんでした。約五十名もの神官たちに協力してもらって初めて実行できた召喚魔法陣。文献によればこの召喚魔法陣でよばれた異世界人は女神様より特殊な能力を授かるらしいのです。
「ああ・・・そういや美人のお姉さんが言ってたな・・・俺は『勇者』だって」
「あ、アンタも会ったの?あのきれいなお姉さん。私は『聖弓』だって」
「私は『賢者』でしたわ」
よしっ!
思わず私はぐっと右手で拳を握ってしまいます。
彼らを戦争で利用するのは大変心苦しいのですが、建前はいまだ復活していない魔王への抑止力としてこのトランジール王国に滞在してもらう。その『勇者』という脅威がグランスィード帝国、ひいてはリセル・ローフィリア神聖国へのけん制になる。これで私が人身御供になる必要はないはず。
これで一息つける・・・、そう思ったのですが。
「おおーーーー! こんなところにいたのか聖女セフィリナ!」
甲高い声が聞こえます。
この声の持ち主こそがもう一つの懸案。
クランジール・フォン・トランジール十三世国王。
国名にジールが入っているのに名前にもジールを入れられている国王様。
まだわずか十二歳。
一年前トランジール王国を強国に育て上げた、クランジール王の父親であった前王が急逝してしまったことが発端。血を引く直系がクランジール王太子しかおらず、宰相のトーウも副官のような地位が合っていると一時的にも国を預かることを拒否。かくしてわずか十二歳のクランジール王太子が国王の座についた。
このクランジール王、まじめで大人しければよかったのだが、まさしく十二歳の子供全開でわがまま言い放題なのです。
それに振り回される家臣たちも日に日に疲弊している。そして国王、引いてはトランジール王国への不満も募っていっています。非常に悪い雰囲気になりつつあるのです。
「聖女セフィリナ! 空にお城が浮いていたのだ!すごいぞ!」
はあ?この小僧・・・国王様は何を言っているのでしょうか?頭がおかしくなったのでしょうか?
「そうだよな?トーウ」
「はっ!さようにございます」
コイツ!宰相のトーウは何かと「はっ!さようにございます」しか言わない。
究極のイエスマンですね。腹が立ちます。
「余は命じるぞ!聖女セフィリナ!空に浮く城を手に入れてまいれ!」
・・・女神クリスティーナ様。この国王の座に居座る小僧を殺したいと思ってしまったことはいけないことでしょうか?
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