本編300話達成記念 ヴィレッジヤーベ開拓記 その② 神都ヴィレーベ 爆誕!(中編その②)
お久しブリーフ! とおもむろにトランクス派なのにギャグで間が開いた謝罪で始める西園寺でございます。なかなかに書けない心の病?を引きずりながら自分にムチ打って(※注 気分だけです。本当にムチで打っているわけではありません)一文字一文字紡いでおります。
今後もガンバリますので応援よろしくお願い致したく。春まだ遠し、寒戻り。皆様もご自愛ください。
「まずは本神殿に向かうです! 神都ヴィレーベに来られたからには、何はともあれスライム神様にお参りするといいのです」
馬車の御者の隣に座ったマコは御者に道順を説明する。
面白そうな演劇場や大衆向けの食事処の混み合い具合を見ながら、馬車は町中を通りすぎ、郊外の方へ向かっていくようだった。
御者台の後ろにある小窓を開けてグウェインはマコに声をかける。
「本神殿ってのは、あの大きな石造りの建物か?」
前方には一言で言うなら荘厳、という他に言葉が出ないほど大きな神殿が立っていた。
入口には大勢の人が列を形成していた。
「・・・むう、あれに並ぶのは大変そう」
顔に不満ありありの表情を浮かべながらフカシのナツが文句を言う。
「ギルマスから、皆様は高貴な出の方々のようだからくれぐれもよろしくと言われているです。通常であれば案内しない、VIP御用達の本神殿の方へご案内するです」
「本神殿?」
「そうです。昔は本神殿しかなかったのですが、あまりに多くの参拝客が訪れるようになったので、大神殿を建造して新たにスライム神様の神像を設置してもらったです。ですが、今でも昔から訪れる方々や、スライム伯爵に近しい人々は本神殿の方へ伺うことが多いのです」
「なんと、そのように分かれているとは」
「本神殿はヴィレーベの郊外でも、限られた者しか入れない特別地区にあるです。有名な奇跡の泉や旧カソの村の奇跡の野菜畑なんかもこの特別地区にあるです」
「そうなのか、一般客は近づけぬのだな」
ワーレンハイド国王は納得するように呟く。
「残念なのですが、盗賊や泥棒が捕まえても捕まえても後を絶たず、やむなくそのような措置になったとのことなのです」
「そりゃあ仕方ねぇなあ・・・」
グウェインは特別区域の措置に理解を示した。
「皆様にはその特別地域内を案内するです。マコから離れないでくださいなのです。マコの持つ特別地区立入許可証がないと、最悪の場合騎士隊につかまってしまうのです」
「了解」
グウェインがおどけるように返事をした。
「お、マコじゃねーか。そちらはお客さんか? VIP客ご案内なんて久しぶりだな」
本神殿と呼ばれた丸太でできた神殿風建物にやって来た一行を迎えたのは元気な少年だった。
「カンタ殿。元気があるのはいいことなのですが、お客様への礼儀がイマイチなのです」
マコは眉をひそめてカンタに苦言を呈す。
そんなカンタの頭をぽかりと殴る美人な巫女様が。
「カンタ!なんて口の利き方ですか! 皆様遥々スライム神様の本神殿へようこそ。この本神殿の管理を任されておりますライナと申します」
優雅に挨拶し頭を下げる巫女様に思わずつられて頭を下げる一同。
涙目になるカンタの後ろには妹のチコもやって来た。
「いらっしゃいませ!」
「ど、どうも」
珍しくワーレンハイド国王も頭を下げたことにグウェインとグラシアは驚いて目が点になる。
「さあどうぞこちらへ。本神殿のスライム神様の像の前でお祈りなさってください。こちらには大神殿には置いていない、特別バージョンのスライム神様ストラップと、ヤーベ様ストラップも販売していますよ」
ニコニコと営業トークを繰り広げるライナ。
「むう・・・ヤーベのデフォルメ人形ストラップ・・・悔しいがカワイイ・・・」
見ればいつの間にかフカシのナツが売店前のストラップ売り場にかじりついていた。
ヤーベのデフォルメ人形はともかくとして、かわいい物には目が無いらしい。
本神殿のスライム神様像にお参りを済ませた一行は、奇跡の泉の水で喉を潤すと、次の目的地に向かうため馬車に乗り込んだ。
「・・・お前、全種類買ったのな・・・」
ゲンナリした顔でグウェインはフカシのナツをジト目で睨む。
見れば、フカシのナツの腰にはスライム神様ストラップとヤーベストラップが全種類ぶら下がっていた。
「コレ、経費で落ちる・・・?」
「落ちるか!」
「むう・・・」
ぷっくり頬を膨らませて不満を顔全体で表すフカシのナツ。
「まあまあ、それくらいであればワシが買ってやろう」
「やったー! 王様太っ腹!」
「シ-----! 声がデケエよ、ボケ!」
上司であるグウェインからゲンコツを落とされ涙目になるフカシのナツ。
越後のちりめん問屋設定を自分で無視して王様呼びしてはゲンコツも致し方ない処置であろう。
「ワシの腹は太いか?」
「いえ、そういう事ではないと思いますよ」
ワーレンハイド国王の疑問に真顔でツッコミを返すグラシア。
「こ・・・ご隠居も甘やかさないでくださいよ」
やれやれといった表情でボヤくグウェイン。
「ははは、ヤーベ殿の出身情報をもたらした貴重な人材だからな」
少し悪い顔でワーレンハイド国王にやりとする。
そう。実はフカシのナツはヤーベが所謂「異世界人」だということをばらしていた。そして自分もそうであることもワーレンハイド国王に話していたのである。
このことを知っているのはワーレンハイド国王に宰相であるルベルク、騎士団長のグラシア、そして諜報部統括のグウェインの四人だけであった。
最初グウェインはフカシのナツの説明をまったく信じていなかった。だが、あまりにも突拍子のない話だけに逆に、という気持ちが起こり、ルベルク宰相に報告したところ、国王とともに詳しく話を聞きたい、ということになり、フカシのナツの話を根掘り葉掘り聞いたのである。
そして、この別世界から来たという「異世界人」のことは「秘中の秘」として、四人及びフカシのナツの合計五人だけの秘密ということにした。特にグラシア、グウェインとフカシのナツのナツには情報漏洩の場合の厳しい罰則についても説明があった。それほどまでにワーレンハイド国王とルベルク宰相はヤーベが異世界人である、という情報を重要視したのである。
ちなみに、ヤーベが初めてフカシのナツと対面したときはすでに<変身擬態>をマスターした後であり、スライム状態の姿は見られていない。
その時はラノベのトークでお互い異世界へやってきてしまったことだけがわかっている状態であった。そのため、異世界人であることを明かすことは場合によっては危険を招く、と考えていたヤーベはフカシのナツも当然同じように考えると思ってしまったため、異世界から来たことをお互い口止めする必要性を感じなかったのである。
だが、フカシのナツはそう考えておらず、自分を重要視させて売り込みためにあっさり異世界人であることをばらし、当時救国の英雄を騒がれ始めたヤーベの貴重な情報としてこちらもあっさり売り飛ばしたのであった。
当のヤーベは奥さんズの全員には自分が人外っぽいとスライムの姿を見せて説明しているものの、自分が異世界人であり、地球という所から来たという説明はしていなかった。さすがに「別の世界から意識だけ飛ばされてきました」的な説明をするのもどうだろう?と思ったのだが、自分が気づいたらこの世界にいたため、実際は詳しいことがヤーベ自身わかっていなかったことと、異世界人と分かれば特別な能力があり、それを利用するために様々な柵や圧力が発生するかもしれないと慎重になったためである。
だが、フカシのナツがあっさりバラしたことにより、ワーレンハイド国王やルベルク宰相、グウェイン、グラシアに異世界人であると認識されることになった。
「・・・でもヤーベはチート能力がないって言ってた・・・不思議。あれほど強いのにチートが無いなんておかしい」
フカシのナツが馬車の窓から外を見ながらつぶやいたその言葉は、誰の耳にも届かなかった。
「ここは特別保護区なのです。先の特別区域と違って一般の人でも問題なく入れるのです。ただし一部亜人を特別保護しているため、その亜人たちに危害を加えようとするとたちまち警備につかまるのです」
そう言ってマコが案内したのは大きな牧場のように見える施設だった。柵の内側はとても広く、見事な芝が生い茂っていた。
建物は真っ白で四角く、巨大な箱のような形になっている。
「まるでビルみたい・・・」
「ビル?」
フカシのナツが漏らした呟きにグウェインが首をひねる。
その時、元気な女性の声がした。
「さー、ランニング行くわよ~! ピッ!ピッ!」
笛を吹きながらタンクトップの女性が建物から走り出してくる。そしてそのあとを次々に同じようにタンクトップの女性が何人も続いて走っていく。
「うお~~~~!カマンベールちゃ---ん!」
「ゴーダちゃんサイコー!!」
「モッツァレラちゃん、愛してるよ―――!!」
走り出した女性たちの奥、柵の間が通路になっており、どうやら牧場内をランニングする女性に声援を送れる場所があるようだった。
「・・・ミノタウロスハーフ・・・なのか・・・?」
グウェインがランニングする女性たちを見ながら唖然として呟く。
「そうなのです。一般的には忌み嫌われるミノタウロスハーフの女性たちなのです。どの子たちもヤーベ様が保護なさったのです。保護なさった時には本当に悲惨な状態だったと聞いていますが、ヤーベ様の保護を受けて、この施設で暮らすミノタウロスハーフの女性たちは元気いっぱいになったのです」
むふーと胸を張り、ドヤ顔で説明する狸人族のマコ。亜人に対する偏見がまだまだ横行する世界で、狸人族に仕事を与え、ミノタウロスハーフの女性たちを保護するこの街はまさしく亜人たちにとっては楽園だろう。
「・・・なんだろう、あの声援を送る男たち。女性の顔が書かれた団扇を持っている」
グラシアが首を傾げながらその様子を伺う。
見れば熱狂的ともいえる声援、大きく振られる団扇。
そして美人のミノタウロスハーフの女性たちはわざわざタンクトップで豊満な胸をバインバインと揺らしながらゆっくりランニングしている。
フカシのナツにはまるでアイドルを応援するファンが群がっているように見えた。
そしてその推測は外れていなかった。
「こちらでは先程の女性たちが搾乳した栄養満点の「ミノミルク」が買えるのです」
そう言って建物内に一行を案内したマコが売店を指さす。
その売店にはたくさんの木樽がおいてあり、「新鮮!搾りたてミノミルク!」と看板が出ており、絞りたてが飲めるのはここだけ!とあおりポップらしき看板まであった。
そして商人らしき人や観光客だろうか、並んでミノミルクを購入していく。
だが、そこから少し離れた場所にある別の売店はまさに戦場と化していた。
「ゴーダちゃんのミノミルク5つ!」
「こっちはカマンベールちゃんのミノミルク10個だ!」
何やら人の名前を連呼して購入している人だかりが。
「あっちは自分の応援するミノ娘が搾乳した専用のミノミルクが買えるです。通常はミノ娘たちから搾乳されたミルクをブレンドして味を均一化して販売するです。それがあの通常売店で売られている「ブレンデットミノミルク」、いわゆる通常のミノミルクなのです。それに比べてこちらの売店は担当ミノ娘から搾乳したミノミルク100%で他のミルクを混ぜて味を調えていない、いわゆるそのミノ娘本来のミルクの味が楽しめるです。こちらは「シングルモルトミノミルク」と呼ばれてるです。こちらの方がずっと値段が高いのですが、通の人に人気があるのか、飛ぶように売れるです」
「ウイスキーか!」
珍しくフカシのナツが大声を上げたので他の三人はびっくりしてフカシのナツを見る。
「はーい、担当ミノ娘のミノミルクを五本以上買われた方はこちらで担当ミノ娘と握手ができますよ~!」
「十本以上買われた方は握手の時に三十秒間お話しできまーす!」
[A●B商法!?]
フカシのナツが再び大声を上げるが、今度はその単語が理解できない一行。
「ヤーベ、どこまでも恐ろしいヤツ・・・まさかヤツのこの商才こそチート・・・?」
明後日の方向へ思考を飛ばすフカシのナツに戸惑いながらも、人々がミノミルクの片手に持てるほどの小さな木樽を五個も十個も買い求めながら嬉しそうにミノ娘の立っている場所に列を作る大勢の男性客を見つめるワーレンハイド国王一行。
「すげえ人気だな・・・どれどれ・・・えっ!? あの木樽のちっちゃいの銀貨1枚もするのか!?」
グウェインが見たのはシングルモルトミノミルクの販売コーナーだ。約二百ミリリットル程度の小樽に担当ミノ娘の似顔絵が張り付けてあるようだ。それが一本銀貨一枚。
ちなみに通常売店のミノミルクは五リットルで銀貨1枚だから、いかにミノ娘単体から搾ったシングルモルトミノミルクが高いかがわかる。
「むう・・・あの木樽に貼られたミノ娘の似顔絵が曲者・・・表情が違うのもあるし、ファンは全部欲しくなる・・・」
ヤーベがファンの収集心理をついた商売としていると唸る。
「たくさん購入してくれてありがとー! 私のミルクを飲んで元気いっぱいになってね!」
そう言って両手で相手の手を握り笑顔を振りまくミノ娘たち。
たくさんの小樽を抱えながらデレデレの顔になって出てゆく男たち。
「・・・なんだろうな・・・恐るべき社会の縮図を見た気がする」
「言いえて妙であるな」
活気はあれども、何か釈然としないものを感じるワーレンハイド国王一行であった。
「今日はこちらの宿でご宿泊いただくです。ギルマスが太鼓判を押す、隠れた名宿なのです」
そう言って案内役のマコはワーレンハイド国王一行を宿に案内すると冒険者ギルドに帰っていった。時刻は夕方、今日の案内はここまでになった。
一行は各々部屋で一息入れると、夕食のために食堂に集まった。
「しかし、恐るべき発展速度だな・・・」
「速度もそうですが、発展の仕方が・・・」
「うむ、尋常ではないな」
じるじると前菜のスープを飲むフカシのナツ以外の面々は今日見て回ったヴィレーベの街を思い出しながら嘆息していた。
その時、食堂に姿を現した人物がいた。
「・・・ヤーベ卿!?」
たまたま食堂には何人も客がおり、ワーレンハイド国王一行のテーブルは食堂の端であったため、入ってきたヤーベの視界には入っていなかった。慌てて姿を縮こまらせる一行。
「支配人、ヤツは来ているか?」
「はい、奥の個室にご案内しております」
ヤーベはこの宿の支配人と何かをしゃべっていた。
「そうか」
返事をしたヤーベは小脇に布をかぶせた箱のような何かを抱えていた。
おもむろに食堂を通り越し、そのまま奥の部屋へと向かっていく。
「ククク・・・これで大陸制覇への第一歩が踏み出せる」
ニヤリと口角をあげて笑いながら通り過ぎたヤーベを見た一行は絶句した。
「ま・・・まさか・・・う、噂は本当だったのか・・・!?」
ワーレンハイド国王一行のテーブルを絶望が襲った。
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