本編300話達成記念 ヴィレッジヤーベ開拓記 その② 神都ヴィレーベ 爆誕!(前編)
・・・感想欄にコメントで立て続けに西園寺の性癖についてツッコミを頂きましたが・・・
違いますからね!? 前話は西園寺の性癖とは全くの無関係ですからね!? 関係ないったらないんだからね!?(ツンデレ風に否定)
とりあえず、ブックマーク、評価、感想等うれしく思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
「何を馬鹿な・・・ヤーベ卿が我が王国に反意を翻すなど・・・」
馬車に揺られながらワーレンハイド国王は何度も同じ言葉を呟く。
「全くです。根も葉もないデマに間違いないですね」
こちらも同じ言葉を繰り返すのは騎士団長のグラシアだ。
「だといいんですがね・・・」
馬車の窓から遠くを見つめるのは諜報部を統括しているグウェインである。
「ヤーベの謀反が本当なら一大事。調査は必要」
なぜかドヤ顔で言い放つのは通称「フカシのナツ」。バルバロイ王国諜報部に所属する諜報部員である。
・・・なぜか忍者の格好をしているが、誰もツッコまない。
なぜならツッコミができるヤーベがこの場にいないからである。
なぜこの一行で馬車に揺られているのか。
それは、ある伯爵、子爵、男爵の数名が「ヤーベ卿に王国への反意あり」と密告してきたことに由来する。
なんでもヤーベ卿は自領の都市を「神の都」と称し、自ら神を名乗っているらしい。そして王国を滅亡させ、大陸を支配する野望に取りつかれている・・・、というものであった。
ヤーベ卿の領地は飛び地になっている。旧リカオロスト公爵領と、カソの村より西の魔の森を一帯としている。そのうち、旧リカオロスト公爵領は王都より比較的近く、旧リカオロスト公爵からの引継ぎという形もあり、王都からの査察も頻繁に行っている。
だが、王都から最も西にある魔の森開発に携わっている領地はあまりに遠く、王都からの監視の目が届きにくいのも事実。そんな折、不穏なうわさが流れてしまったのである。
宰相のルベルクは「馬鹿馬鹿しいにも程がありますな」と取り合わなかったのだが、どうにもこうにも気になってしまったワーレンハイド国王は少数の人数でヤーベ卿の領地である西の果て、魔の森開拓を行っている「ヴィレッジヤーベ」へと向かうことにした。
「しかし、娘のカッシーナに聞いたら「ヤーベ様は神なのですから、それも致し方ないことかと」なんて言うんだぞ」
溜息交じりにワーレンハイド国王が愚痴る。
「カッシーナ王女様はヤーベ卿に首ったけですからな」
グウェインが苦笑しながら呟く。
「むう・・・ヤーベは女ったらし」
フカシのナツはヤーベをディスっていた。
「それにしてもルベルクのヤツ、「国王の影武者を立てておきますから、どうぞご存分に物見遊山してきてください」だと。遊びに行くのではないぞ、まったく」
「本当ですね。私も妹のクレリアに「兄様だけヤーベ様の領地視察に行くなどズルイ!ズルすぎます!」と目を(><)にして文句言われましたが、仕事ですよ、まったく」
グラシアもあきれたように肩を竦める。
「そうだなぁ、ウワサが本当なら王国を揺るがしかねない一大事だしな。確認するのはとても大切な仕事だな」
グウェインもウンウンとうなずく。フカシのナツは無言で肯定の表情をしている。
それぞれがまじめ腐った顔をして仕事を強調しているが、誰もが内心でヤーベ卿の領地に行けば、王都バーロンを凌ぐような、死ぬほどおいしいものが食べられる・・・そう考えてワクワクしていたのである。
「・・・なんだこりゃあ・・・」
開口一番、グウェインの口から出てきたのは信じられないほどの発展を見せるヴィレッジヤーベの姿に驚きを通り越して唖然としてしまった一言だった。
「こ・・・これほどとは・・・」
「王都バーロンを上回る規模ではないか・・・」
グラシアも目を見開いて驚き、ワーレンハイド国王は王都バーロンを上回る規模の都市を信じられないような表情で見つめた。
「むむ・・・さすがヤーベ。ぬかりなし」
なぜかフカシのナツはどや顔でここにいないヤーベを褒めていた。
「よう、お前さんたちはここに来たのは初めてかい?」
見れば街の巨大な門は開かれっぱなしで、王都のように入出のチェックは行われていなかった。多くの往来がある中、馬車を止めてしまっていたので、門近くにいた警備騎士らしき人物が馬車に寄って声をかけてきた。
「む・・・、あの男・・・」
「どうした、知った顔か?」
グラシアの反応にグウェインが問いかける。
「ええ、騎士団の第八部隊の副隊長を務めていたグレゴリー・フェニクスです。ヤーベ卿に心酔して、ヤーベ卿の領地で再就職を希望するということで騎士団を退団した男です」
「じゃあグラシアは顔バレするから、馬車の奥に引っ込んでな」
「了解です」
グラシアとグウェインはお互い言葉を交わすとグラシアは馬車の奥の席に身を寄せた。
「ああ、初めてだ。すごく発展しているのだな、このヴィレッジヤーベは」
代表してグウェインが応対した。
「ははは、ヴィレッジヤーベか、古い名だな」
「古い?」
「ああ、今ではこの都市を「神都ヴィレーベ」と呼ぶ人の方が多いんだ」
「神都・・・」
「ああ、領主であるスライム伯爵様からそうお達しが出ているわけじゃないんだが、あまりに奇跡の多いこの都市をそう呼ぶ者たちが多くなって来たんだよ。今ではその名の方が定着しているってわけさ」
そういって男は快活に笑った。
「俺はこの都市の警備隊長を任されているグレゴリーってんだ、よろしくな」
そう言ってグウェインに握手を求めてきたグレゴリー。
グウェインが握手を返すと、グレゴリーの背後から声がかかった。
「グレゴリー殿」
そう発せられた声の主を見れば、大きな狼牙がそこにいた。
「おお、ゼウス殿。今日は貴殿がこの正面門の警備地区担当であったか」
「いや、我は都市全体の情報を集約する役割を賜ったのでな、先日から地区担当は外れておるよ」
「おっと、そういえばそうだったな」
グウェインは正直腰を抜かしそうになるほどの驚きを隠すのに精いっぱいだった。
警備隊長を名乗ったグレゴリーと大きな狼牙が普通に会話しているのだ。それもこの大都市の警備に関する重要な事を。
「貴殿に午前の報告をな。大きな問題はない。軽微な犯罪は4件、すべてヒヨコたちの通報により警備隊が処理済みだ」
「了解、頼りになるね」
「当然だ。ボスより都市の治安に対し貴殿とともに全権を与えられている身だ。常にその期待にこたえなければならぬ」
(おいおい・・・この街では狼牙が堂々と街中を歩いて人の言葉をしゃべってしかも報告までするのかよ・・・?)
グウェインは大柄な狼牙が街中をやってきて入の言葉をしゃべっただけでなく、目の前の警備隊長に警備報告を行ったことにさらに驚きを受けた。
そこへさらに別の狼牙が二頭やって来た。
「ゼウスよ、西地区の報告だ」
「あ、貴様ずるいぞ! 我の方が先に報告するつもりだったのだぞ!」
ゼウスと名乗った大きな狼牙の前にやって来た狼牙二頭はそう言ってニラみ合う。
「アポローンにアレス、またお前たちか」
やれやれと言いながらゼウスはため息をつく。
「いつもいつも貴様は!」
「なんだやるのか!」
お互い額をぶつけ合いながら罵り合う二頭に周りの観衆が騒ぎ出す。
「さあさあ、賭けた賭けた! ヴィレーベ十二守護神のトップであるゼウス様の前でアポローン様とアレス様がナンバー2を決める一騎打ちだ! これを見逃す手はないよ!」
「俺はアポローン様だ!」
「いや、アレス様に俺は賭ける!」
どうやら賭けの胴元が現れたらしく、大通りの一角が人であふれ盛り上がっている。
(おいおい・・・ヴィレーベ十二守護神って、あんな化け物クラスの狼牙がまさか十二頭もいるっているのか!? 一体ヤーベ卿は何を考えている? しかもなぜか街の住人からは様をつけて狼牙達が呼ばれている・・・つまり、それだけ信頼されている・・・?)
目の前の状況にグウェインは頭を抱えたくなった。
「一体全体・・・?」
「なんですかね、この盛り上がりは」
馬車から顔を出したワーレンハイド国王は苦い笑顔を浮かべるグウェインと顔を見合わせる。
「それだけ、街に活気があるという証拠」
ぼそりと呟くフカシのナツに全員が腑に落ちる。
胴元を中心に街の人々が集まり、ヒートアップして盛り上がっている様子を見つめながら、この街に活気があることを肌で感じていた。
「神都の往来で何をしておるか!」
盛り上がっていた観客たちも、にらみ合っていた二頭の狼牙もぴたりと静まる。
見れば一際大きく立派な狼牙が往来の中央に佇んでいた。
それを見たゼウス、アポローン、アレスの狼牙三頭は素早くその狼牙の前に傅く。
「ローガ様、ご無礼を致しました」
代表してゼウスが発言する。
その言葉に観客たちが一斉にざわめきだす。
「うおおっ! あれがスライム伯爵の右腕、最強の配下と呼ばれるローガ様か!」
「俺、初めて見た!」
「なんて立派なお姿・・・」
突如現れたローガに多くの人々が感動している。
「よう、お前さんたち超ラッキーだな!」
グレゴリーがグウェインやワーレンハイド国王に向けてにやりと笑みを浮かべる。
「初めて神都ヴィレーベに来て、ヤーベ様の直属の部下筆頭であるローガ様を拝めるなんざぁ、運がいいな!」
「そうなのか?」
「ああ、ローガ様は普段王都バーロンにいらっしゃるからな。ここに住む連中でさえそれほどお目にかかれることはねぇよ」
ニコニコしながら説明するグレゴリーの話を聞きながらグウェインとワーレンハイド国王はヤーベ卿がこの町でどれほど慕われているのかその一端を垣間見るのだった。
その後、ローガはちらりとワーレンハイド国王たちが乗る馬車に目を向けるが、そのまま踵を返し姿を消す。
「おお、さすがローガ様だ!」
大通りの人々が感動しているのをしり目に、ワーレンハイド国王たちは今のうちに馬車を街の中へ進めることにした。
「おお、大通りの店はどこも活気があるな!」
ワーレンハイド国王は馬車から首を出し、店を眺めている。
「店に幟が立っているのですが・・・」
グウェインが馬車の窓から指をさす方向を見ると、確かに店には幟を立てているところが多かった。
「何々・・・『ホットケーキあります』・・・なんだと!?」
ワーレンハイド国王が馬車の窓から顔だけではなく身を乗り出して幟を見つめた。
「ああ、王都では喫茶|<水晶の庭>《クリスタルガーデン》でしか食べられない、あのスイーツの事ですか」
それほど甘い物が得意ではないグウェインは落ち着いた口調で呟いた。
「・・・それは調査せねば」
真顔で馬車の窓からワーレンハイド国王を押しのけるようにして上半身を乗り出すフカシのナツ。
「こらこら、それは後でだ」
そういってグラシアはフカシのナツの首根っこをつかんで席に戻す。
「む~~~~~」
「王都でもなかなか食べられないものがこの街ではどこでも食べられるのか・・・」
「とりあえずどこかに馬車を停めて調査してみますか?」
「そうしよう」
グウェインの提案にワーレンハイド国王はうなずいた。
その後、ホットケーキや食事など、腹ごしらえをした一行は武器屋、防具屋などの店を見て回っては嘆息していた。
「どの店も王都より品質がいいものを取り扱っているな・・・」
顎をさすりながらグウェインが呟く。
「うーむ、王都よりも発展しておるのか・・・」
「ある意味それも仕方のないことかと」
「どういうことか?」
騎士団長であるグラシアの言葉に説明を求めるワーレンハイド国王。
「ここは辺境。魔の森に近い言わば危険な場所ですからね。おのずと武器や防具は高品質の物が望まれましょう。そうでなければ生き残れない場所ですから」
「そう言えばそうか、ここは最果ての辺境・・・であったな」
そう言ってワーレンハイド国王は大通りをぐるりと見まわす。
「・・・とてもそうとは思えないが」
苦笑するワーレンハイド国王に同じく苦笑しながらうなずく一同。
「ヤーベ卿の手腕といえばそうなのでしょうが、通常であれば魔の森の強力な魔獣におびえ暮らさねばならないところ、強力な狼牙たちの守りがあり、襲われる危険性が少なく、しかも狩られた魔獣の貴重な素材が出回るとなれば、商人たちはこぞってこの都市を目指しましょう。そのうえ奇跡の野菜などの魔獣以外の特産品も他に類を見ないほど貴重とくれば、この場所が発展しない理由を探す方が難しいくらいでしょう」
「なるほどな・・・」
「ですので、ここの発展を王都へも還元してもらえばよいかと」
「どういうことだ?」
「税は金銭もそうですが、貴重な魔獣の素材を優先的に王家へ納めるとか、です」
「なるほど・・・」
「後は、この美しく仕上げられたこの街自体の技術を還元してもらう・・・とかですね」
「そう言えば、ゴミが全く落ちておりませんな」
グウェインが足元を見ながら感心する。
「嫌な臭いもしない。もしかしたら都市全体で上下水道を完備しているのかも」
「なんと・・・」
フカシのナツの推測に驚くワーレンハイド国王。
「誰かに都市の案内を頼めるといいのだがな・・・」
きょろきょろと周りを見回しながらグウェインは思案する。
「冒険者ギルドで案内を雇うか・・・」
「もしかしたら、あれが冒険者ギルドか?」
グウェインの指さす方向にあったのは王都をはるかにしのぐ巨大な建物だった。
「・・・すごいな・・・」
ワーレンハイド国王は建物を見つめながら何度目かの溜息をついた。
・・・思ったより、この話長くなりそうな気が・・・(汗)
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