特別読み切り編 爆発感染に対処せよ! 後編
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「ぐふふふふ・・・ヤーベ・フォン・スライムゥゥゥゥ・・・王家の連中もぉぉぉ・・・みんな死ねばいい・・・」
黒光りする怪しい像を眺めながら、黒いローブを纏った男は呪いの言葉を吐く。
『フハハハハ・・・お前の憎しみ、実にいい。その調子で呪いの力を高めるのだ』
男の後ろには揺らめくように悪魔が現れていた。
「もちろんだ・・・。俺の楽しみを奪ったヤーベも、王家の連中も、すべてお前のいけにえに差し出すぜ・・・」
異様に目だけがギラギラしている痩せこけた男は愉悦の笑みを浮かべる。
この男、元はプレジャー侯爵の館で働いている執事の一人だった。だが、いつしかメイドをいたぶる側に回り、自分の欲望を満たしていた。
そんなプレジャー侯爵を粛清するきっかけを作ったヤーベと王家をこの男は逆恨みしていた。
『魔界序列十三位、上位悪魔であるこのグレオールが力を貸すのだ。この世はすべてお前の思い通りになる』
「フハハハハ! すばらしい・・・すばらしいぞ・・・この力でこの世界を闇に染めるのだぁぁぁ!」
男は自ら呼び出した悪魔に心を乗っ取られながら、それでも自らの復讐を果たすべく憎悪の炎を燃やすのだった。
南の市場に調査に出た俺とグラシア隊長率いる騎士団だったが、結果的には空振りに近かった。
「黒いローブの男が格安で珍しい果物を売っていたとのことですが・・・」
グラシアは聞きこんできた中で複数の人々が怪しい雰囲気の人物として挙げた情報だった。
「間違いなくその黒いローブの男が犯人だと思うね。どうやったかは分からないけど、病原菌か何かを客を集めてその人たちに放ったんだろうね」
「許せないですね・・・。何とかして捕まえてやりたいのですが・・・」
苦り切った顔を見せるグラシア団長。
「難しいだろうね。他国からのスパイなら間違いなくすでに国外へ逃亡しているだろうね。この国に恨みがあって顛末を見届けようとしているなら、まだスラムに潜伏している可能性もあるから、しらみつぶしに当たれば犯人にたどり着けるかもしれないね」
「なるほど! それではまずローラー作戦でスラム街を当たってみます!」
俺の推測にグラシア団長は他国のテロより、自国への恨みを持つ者の可能性の方が高いを判断したのか、スラムを隈なく探索するつもりのようだ。
ちなみにこの王都バーロンのスラム街は他国と比べても頓に縮小傾向にあり、他国からのスパイや裏ギルド、闇組織といった悪党連中は次々に捕縛されているか、王都バーロンを逃げ出していた。
なにせ、ヒヨコや狼牙が王都内を巡回しているのだ。
そしてヤバイ打ち合わせをしていたり、犯罪行為に走る連中を捕まえては王都警備隊に突き出していた。そしてなぜか悪党が警備隊詰め所前に俵積みにされているといった事もしばしば発生しており、悪党には極めて住みにくい街となっているのだ。
俺は調査をグラシア団長率いる王国騎士団に任せ、屋敷に帰った。
一通りセバスに状況を聞いたうえで指示を出した俺は、すぐにイリーナの部屋に入った。
イリーナは高熱にうなされるように汗をかきながら寝ていた。
俺はそっとイリーナの額の汗を拭くと、頭を撫でてやる。
「・・・ヤーベ・・・?」
「おう、ヤーベさんだ。早く良くなってくれよ? イリーナが元気ないと俺も元気でないぞ?」
努めて明るい声で俺はイリーナに話しかけた。
「ふふふ・・・そうだな。早く元気になってヤーベに活を入れないとな・・・」
弱弱しくも笑顔を作るイリーナを見て、俺の心が締め付けられる。
俺は大切な者たちが苦しんでいるのに、何をしているのか。
「・・・くそっ!」
つい握りこぶしを自分の太ももに打ち付けて怒りをぶつける。
その時、俺の後ろに精霊たちが顕現した。
「ヤーベ様。闇の力が王都に蔓延しております」
そう言ったのは闇の精霊ダータレラだった。
「闇の力・・・」
「はい。闇の力が広がっております。ただ、細かく広がる闇の力そのものを捕らえるのが難しいです、うまく説明できませんが」
「闇の力なら、ダータレラの力と相殺させるか、ボクの力で打ち消せるけどね!」
そう力強く宣言してくれるのは光の精霊ライティール。
「ただ、力というものは、どのように働いているかがわからないと、それに影響を及ぼしにくいもの・・・」
「そのためには闇の力そのものの存在を特定できればよいのですが・・・」
土の精霊ベルヒアねーさんと風の精霊シルフィーだ。
「闇の力が相手なら、ボクの浄化の力も役に立つよ!」
「オレの力もいつでも貸すぜ!」
水の精霊ウィンティアに炎の精霊フレイア。
本当に頼もしい仲間たちだ。
問題は充満していると闇の力がどのように影響を及ぼしているのか・・・。
「あ」
これが病原菌なら、体内に入り細胞に影響を及ぼしているはず。
その力の源が闇の力・・・「呪い」だとしたら。
俺はイリーナの口に細くした触手を差し込んでいく。イリーナの体内で粘膜からイリーナの細胞へ触手を接続。イリーナの体内の情報をスキャンするべく、スライム細胞をイリーナの細胞と同期させていく。
「これは・・・」
同期させてしばらく。自分のスライム細胞が攻撃される感触を得た。
その力、エネルギーを一部スライム細胞へ取り込む。
「これが闇の呪いの力か・・・」
わかったことはとてもシンプル。小さな小さな「核」に呪いの力を付与させていた。
それを市場でテントを訪れた人々に果物を配る際に、接触させて拡散させたのだ。
この「呪いの核」は人の体内で爆発増殖し、咳などでさらに拡散させていくのだろう。この辺りは病原菌、ウイルスといったものと似通っていると言えるだろう。
「わかったよ。闇の呪いの力が」
「なら、オレたちの力を貸そう」
フレイアが力強く宣言する。
「ボクの力で闇を打ち消す!」
「私の力で闇を中和します」
「ボクの力で浄化を」
「私の力で魔法の核を」
「私の力で広く遠くへ」
「オレの力でその効果を高める!」
俺は六大精霊たちの力強い言葉に胸が熱くなる。
「ありがとうみんな! さあ用意しよう、闇の力を振り払う魔法を!」
「「「「「「おおっ!」」」」」」
俺は魔力パワーを高めて両手を大きく広げる。
「闇呪浄化聖域!!」
真上に突き出した俺の両手のひらから圧倒的な魔力が放出される。
そして王都バーロンをドーム状に包み込むように結界が張られていく。
そしてイリーナの体が淡く光り輝く。
光が収まるとイリーナの呼吸が落ち着いていく。
そっとおでこに手を当てると、熱く熱を持っていたのがウソのように引いていた。
「これで、もう大丈夫かな?」
俺は精霊たちと顔を見合わせ笑った。
ちょうどその頃、グラシア率いる王国騎士団はスラム街の一角に集まっていた。
「この建物内に当該人物がいる可能性が高い。気を付けて突入する!」
聞き込みの情報及び多くの建物への踏み込み調査を経て、この建物に黒ローブの男が隠れていることを突き止めたグラシアたちはまさに突入する直前であった。
ドカンッ!
いきなり建物のドアをけ破り、騎士達がなだれ込む。
日本のように「武器を捨てて出て来なさ~い」みたいな優しい投降呼びかけはない。即刻力で制圧が基本のようだ。
「もう逃げられんぞ!」
そう言って剣を構えるグラシアの前で急に黒ローブの男は苦しみだす。
「ギャアアアアア! 体が熱い!燃えるようだ!」
叫びだす男からゆらりとまがまがしいオーラが噴き出たかと思うと、<悪魔>がその姿を現す。
「まさか<悪魔>が人間を操っていたのか・・・」
「団長、しかもあれば<上位悪魔>では・・・?」
「クッ・・・まずいな・・・」
普通<悪魔>は魔法の武器でないと傷つかない個体が多い。それも<上位悪魔>ともなれば通常の武器で戦える相手ではない。
だが、
「グオォォォォッ!」
姿を現した<上位悪魔>も苦しみだした。
「な、なんだぁ!? この力は!?」
苦しみながら雄たけびを上げるようにうなる<上位悪魔>。
「この魔界序列十三位であるグレオール様がぁぁぁ! こ・・・こんなバカなぁぁぁ!!」
そして<上位悪魔>は消滅した。
残されたのは抜け殻のようになって倒れた黒いローブの男だけ。
「団長・・・すでに死んでいます」
「なぜかはわからんが、<上位悪魔>が消滅して王都が救われたことだけは確かなようだな・・・」
グラシア団長はホッとため息を一つ吐いた。
もちろんこれは、ヤーベの放った魔法が王都中の闇の力を打ち消し、<上位悪魔>さえも消滅させた結果なのだが、それを知る者は誰もいなかった。
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