特別読み切り編 爆発感染に対処せよ! 中編
「アンリちゃん大丈夫か!」
大聖堂前で陣頭指揮を執るアンリちゃんに声をかける。
「ヤ、ヤーベさん! 大変なことに!」
俺を見つけて涙目で抱き着いてくるアンリちゃん。
「とりあえず魔力を渡すよ」
そう言ってアンリちゃんの両肩に手を当てて魔力を送る。
「ふあうっ!?」
驚いて声をあげるアンリちゃん。だけどアンリちゃんは魔力回路に異常をきたしてないからね。いつぞやのアナスタシアの時のような感じにはならないはず。たぶん、きっと。
「わあ、ヤーベさん、こんなこともできるのですね・・・。感覚では朝起きた時のように魔力が満タンになりました!」
嬉しそうに微笑むアンリちゃん。よかった、だいぶ疲れた顔してたからな。
「ところで、いつからこんな状況に?」
「二~三日前から風邪のような症状で体調不良を訴える方が続々と・・・」
「魔法ですぐに全快しないのかい?」
「<回復>では体力回復になりますが・・・。実のところ病気の根治には影響がないのです」
弱り切った顔でため息を吐くアンリちゃん。
「俺も原因を調査してみるから・・・あきらめないで頑張ろう」
「はいっ!」
大神殿を出た俺を待っていたのはローガだった。
『ボス、お迎えに上がりました』
「ああ、ありがとう」
街中なので、ローガは俺に念話で話しかけてきた。
「お前は何ともないのか?」
『そう言われれば、多少なりとも違和感があります』
「ん? どんなだ?」
俺はローガの違和感という言葉に引っ掛かりを覚える。
『我らは魔獣ですので、魔力がいわゆる生命力になるわけですが、その魔力を削られている・・・そんな感じを受けます』
「魔力を削られる・・・」
病原菌のようなものが原因かはわからんが、何かが対象者の魔力を枯渇させている・・・そういうことか。と、なると、内包魔力の少ないものほど命の危険があるのか・・・?
「とりあえず王城へお連れ致します。一刻も早くボスに来て頂きたいようで」
俺が考えにふけっていたせいか、ローガは声に出して俺を呼んだ。
「わかった、急ぐとしよう」
俺はローガに跨ると一路王城へ向かった。
「おお、ヤーベ卿! 待ちわびておったぞ!」
そう声をかけてくれたワーレンハイド国王だが、会議場の奥、長いテーブルの反対側に居てこちらへ近づいては来なかった。
ワーレンハイド国王の横に宮廷魔術師のブリッツ、そして魔術師らしき人物が四人。
「すまぬ、この城から出ていない者たちで結界を張っている。市井の者たちに風邪に似た病気が流行っているのでな。王家の人間を守るための対策だ。ご理解いただきたい」
そう説明したのは宮廷魔術師のブリッツだ。
「ちなみに私はこちら側です。自宅から通っているので」
会議室の入り口側テーブルで座っているのは宰相のルベルク殿だ。
「すまぬの、ルベルク。結構王城に詰めてもらっておることも多いというに」
「ははは、こればかりはタイミングというものでしょう。気にしておりませんよ」
国王の言葉に笑って返すルベルク。大人だね~。
こういう時、たちの悪い貴族とか、俺も入れろ入れろって集まってきたりしそうなもんだけど。
「ちなみに無理やり保護を求めて集まってきた貴族数名はすでに拘束して牢獄に拘束してある」
対応早っ! そしてやっぱりいたのね、そういう貴族。
「それでヤーベ卿。この状況に何か心当たりはないかね。城塞都市フェルベーンの奇跡を起こした君だ。何かいい案がないかと思って呼んだのだ」
おっと、ずいぶんと懐かしい話が出て来たな。
城塞都市フェルベーンで街中を駆けずり回っていた時がもうだいぶ前のように感じるね。
「あの時は比較的早い段階で原因が毒だと突き止めることができました。今回の風邪らしき病気の症状の原因がどこにあるのか、発生源の特定と拡大防止の対策が必要になりますね」
「それはどうしたらいいのかね?」
「発生源の特定は比較的早い段階で症状を発症している者たちへの聞き取り調査が必要です。日々の行動を思い出してもらって、どの行動の後具合が悪くなったのか、例えばだれかと会った後、何かに触った後、どこかに行った後具合が悪くなったのか、等です」
「なるほど・・・」
「聞き取り調査の中で、同じ意見が多数出てくるところは調査が必要です。病原菌の元となるものが発見、特定できるかもしれません」
「おおっ!」
「ただし、対策とも被ってきますが、聞き取り調査を行うものはその魔術結界?とか、マスクとか・・・ああ、マスクというのはですね・・・」
俺はマスクとか公衆衛生概念を簡単に説明した。
「何と!」
「そのようなことが・・・」
「聞き取り調査を行う人たちが感染しては元も子もないですから。十分な予防対策をおこなった上で聞き取り調査を実施しなくてはなりません」
「なるほど・・・」
「そして対策とはその延長線上にあるものです」
「どういうことだい?」
「一人一人がうがい手洗いなどを徹底して病原菌を体の中に取り込まないこと。また、実際に発症した者たちへの接触はできる限り避けるために、隔離を行う事。しかしながら発症者への看病なども必要でしょうから、接触者は聞き取り調査を行う者たちと同様に、できるだけ病原菌が移らない対策を行う必要があります」
「うむ、すぐにヤーベ卿の指示の元対策を実施しよう。聞き取り調査の実施を頼む」
「畏まりました」
宰相のグラシア殿が頷くと、すぐに席を立ち指示のため会議室を出ていった。
「しかし・・・参りましたね」
そう声をかけてくるのは王国騎士団の団長グラシアだ。
彼は王城の警備を任されている身だしな。
「近衛兵たちだけでは正直不安な面も・・・」
ああ、あの貴族出のひょろい連中で構成された集団ね。百害あって一利なし的な。
「王族の方々に近づけませんので、警護にも多少支障が出ています」
「それについては、王城を出ていない人間でやりくりするしかないな。原因がわかれば、王城の外の人間でも大丈夫かどうかの判定ができると思うが・・・」
「・・・それまでは致し方ありませんか」
俺の説明にグラシア団長は大きくため息を吐いた。
「ちなみに・・・」
ワーレンハイド国王が俺に向かって口を開く。
「君にはすまないと思っているが、先日王城へ戻っていたカッシーナは部屋で軟禁している」
そう言えば先日王城へ出かけて行ったままカッシーナは戻ってきていなかった。
なんだか数日かかるとか手紙で連絡がきたとセバスが言っていたが、王城から出してもらえなかったのか。カッシーナなら暴れそうだが。
「君の元へ絶対に帰るとものすごい勢いで暴れてね・・・。レーゼンが命がけで止めさせてもらった・・・」
苦悩の表情のワーレンハイド国王。
娘であるカッシーナが心配なのだろう。それは否めない。
「かまいませんよ。王都が落ち着くまで実家でゆっくりしてくるよう伝えてください。こちらは大丈夫だからと」
手紙なども病原菌やウイルスなどを媒介してしまうかもしれないしな。口頭で伝えてもらうのがいいだろう。
・・・もっとも、カッシーナたち奥さんズの面々に贈っている指輪や、カッシーナの髪留めは俺の細胞から作ったアイテムだからな。魔力を込めれば俺と念話ができるはずだが、それもしてこないという事は隔離されることになって相当にしょげているな。
・・・ここはそっと放置しておこう。こちらから連絡するとうるさそうだしな。
さて、調査で何かわかるといいのだが。
俺はとりあえず自宅で奥さんたちを看病しながら情報を待つことにした。
そして、グラシア団長から情報がもたらされた。
「南区の市場・・・?」
「はい。特に症状が早くから出ていた者たちからの聞き取りで、重なった情報がそこでした」
「よし、すぐに調査に出向きましょう。その市場で何があったのか、市場でどの店に訪れたのか、何を買ったのか、再度情報を確認の上出発します」
「畏まりました」
さて、南区の市場で何があったのか・・・。
俺は気を引き締めて調査にあたることにした。
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