特別読み切り編 爆発感染に対処せよ! 前編
世界で新型コロナウイルスの脅威が報道されています。
皆様もどうぞ体調にはご注意いただければと思います。
そして、特に本編とは脈絡もなく、ウイルスなんかに負けるな人類!応援キャンペーンとして特別読み切りを投稿いたします。
また、気がつけば250万PVを突破しておりました。
皆様に読んでいただけている結果ですので、本当にうれしく思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
「風邪?」
想定になかった単語を聞いた俺は思わず問い返した。
「はい。お二方とも多少発熱し、咳き込んでおります」
パナメーラの説明に、釈然としないものを感じながらも、「そうか」とだけ返す。
イリーナとルシーナがともに風邪をひき、自室で休んでいるという。非常に珍しいこともあるものだ。
ルシーナはともかく、イリーナは出会ってから長旅を続けてきたが、風邪はもとより、へこたれたところすら見たことなかったのに。
「まあ、風邪なら温かくしてゆっくり休んでいればすぐに良くなるだろう。後で顔を見に行くよ」
「ご主人様が顔を見せれば、きっとすぐ良くなることでしょう。ですが、長居はしないようお願いいたします。万一ご主人様もお風邪を召されてしまえば、大変なことになりますので」
「ははは、気を付けるよ」
そう言って俺は笑うと、パナメーラに手を振って自室である執務室に戻った。
そこから転移してヴィレッジヤーベに出向き、様子を確認してくるつもりだったため、特段風邪の話に気を回さなかった。
よく考えれば、奇跡の泉の水を飲用してきたイリーナや、健康効果の高いお風呂に入っているルシーナが簡単に風邪など引くはずがない。だが、俺はこの時、二人の異変が通常ではないことに気づくことができなかった。
「よう、イリーナ」
ノックして、イリーナの返事を待たずに部屋の扉を開け、俺は中に入った。
「ゴホッ・・・ゴホッ! ヤ、ヤーベか・・・」
「なんだイリーナ、風邪ひいたのか。珍しいな」
「すまない・・・、多少咳が出て熱がある程度なんだ。寝ているなんて大げさなんだが・・・」
そう言って上半身を起こそうとするイリーナの肩を俺は手で押さえる。
「いいから・・・、今はゆっくり休め。後で消化にいい食べ物を作ってもらって持って来てもらうから」
「はは・・・、すまないな。迷惑をかけて」
「気にするな。病人はたくさん寝て早く良くなることだけを考えてな」
そう言って俺は立ち上がるとイリーナの部屋を後にする。
風邪とは言え、イリーナに元気がないのが気になった。
「それで、二人は急に咳と熱が出たのか?」
「はい、昨日お二人が市場へ買い出しに出かけられて、戻られてから体調が悪くなったようです」
「市場へ買い出しね・・・」
まあ、そこで病原菌など拾ってきたりしてなければいいが、そんなに急に症状出たりしないだろうしな。
俺はそう楽観的に考えたのだが、後々それを後悔することになる。
「何!? 風邪をひいた者が増えた?」
「はい」
イリーナたちが風邪で寝込んで三日後、セバスから報告があった。
「どういうことだ?」
「どうも、イリーナ様とルシーナ様を看病した者たちにうつったものと・・・」
「何名だ?」
「メイドが四名、ミノ娘からも三名が発熱などの体調不良を起こしており、強制的に休ませております」
「強制的に?」
「メイドもミノ娘たちもご主人様のお役に立ちたい一心ですので、多少の咳や発熱では休もうとせず・・・。やむなく、ご主人様や他のメイドたちにうつったらどうするのかと叱責し、給金の減額もなしと明言して休ませました。問題があれば私の給金から補填をお願い
致します」
セバスが恭しく頭を下げる。
「問題などあろうはずもない。給金もいい判断だった。安心して休めねば良くなるものも良くならんからな」
「はっ」
「それはそうと、この風邪はうつりやすいようだな。マスクとかした方がいいな」
「マスク・・・ですか?」
おう、そこからか。この世界の衛生技術どうなってるのかな。
「風邪などの病は病人の咳や痰に病原菌が含まれていることが多くてな・・・。咳やくしゃみ、それらを処理した拭き物などを介して健康な者も病原菌をもらってしまう可能性があるのだ」
「病原菌・・・とは風邪などの病気の元・・・ということでしょうか?」
おう、そこもか。
「そうだな。おおむねその認識で間違っていない」
「初めて聞きました。旦那様は博識でいらっしゃいますな」
セバスが驚いた顔を見せる。
「それはそうと、マスクというのは布巾などを鼻や口に当てて、病人からでる病原菌を取り込まないようにするものだ。詳しくは後で説明するが、今はできる限り目の細かい布などで鼻と口を覆ってから発症者に近づくように指示を出してくれ」
「畏まりました」
礼をして執務室を出ていくセバスを見ながら、俺は何となく不安を覚えた。
「ちょっと確認してくるか・・・」
そう言って俺は転移をしてヴィレッジヤーベへと向かった。
「ふう、他では特に病気が流行っているところはなかったな」
俺が転移で移動したのはヴィレッジヤーベ、ソレナリーニの町、城塞都市フェルベーン、ドラゴニア王国やガーデンバール王国にも出向いたが、病気が流行っているような話は聞けなかったし、そのような様子もなかった。
「考えすぎか・・・」
「旦那様!大変です!」
一言ぼやくなり、セバスが飛び込んでくる。普段冷静沈着なセバスだけにこの慌てぶりは珍しい。
「どうした?」
「王城から使者が参っております! すぐに登城していただきたいとの国王様よりの書状が」
「ワーレンハイド国王が?」
「ご使者のお話では、王城内の騎士や女中たちに風邪が蔓延しており、その対策に知恵を貸していただきたいとのことです」
「なんだと!? 王城でもか!」
「それと、旦那様・・・」
セバスが言い淀む。
「何だ? セバスが言い淀むとは珍しいな。どうした?」
「この館の約半数の者が風邪らしき病を発症しました・・・」
「な、なんだとっ!? 半数もか!?」
「は、はい・・・。奥方様もサリーナ様、フィレオンティーナ様、アナスタシア様、ロザリーナ様が発症し寝込んでおります。リーナ様とミーティア様はお元気です。旦那様にご指導いただいたマスクを着け、看病に当たっております」
「そ、そんなにか・・・」
「それと・・・」
「まだあるのか?」
「最初に発症して寝込んでおられますイリーナ様とルシーナ様ですが・・・」
「どうしたんだ?」
「重症化の傾向にあり、衰弱が進んでいるとのことです」
「!!」
なんてことだ・・・。
「水に塩と砂糖を少量混ぜて飲ませてくれ。くれぐれも脱水症状に陥らせるな!」
「はっ」
「俺は教会に出向く。城に行くのはその後だ。留守はセバスに任せる。緊急事態になったらヒヨコに連絡を頼んでくれ!」
「了解しました」
俺はセバスに指示を終えると、王城からの使者には教会によってから登城すると説明し、アンリちゃんのいる王都聖堂教会へ向かった。
「こっちへ! こっちにまだスペースがあります! 運び入れてください!」
「枢機卿、まだまだ患者が運ばれてきます!」
「奥の礼拝堂を解放して!」
「しかし、あそこはっ!」
「四の五の言っている暇はありません!」
「ははは、はいいっ!」
「アンリ枢機卿! 聖女フィルマリーがぶっ倒れました!」
「回復ポーションを口に突っ込んででも起こして!」
「了解です!」
教会に着いた俺が見たもの・・・。それは王都中から病を発症して倒れた人々が担ぎ込まれる状況だった。
「こいつは・・・『爆発感染』だ・・・」
俺はその場でしばし呆然と立ち尽くした。
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