閑話48 王制会議その2 件の伯爵が自重知らずでとんでもない結果をもたらした件
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ヤーベ・フォン・スライム伯爵の報告が終わって、当人が退出し、報告会議は終了となった。だが、バルバロイ王国のかじ取りを行う者たちの会議はまさにこれからであった。
ワーレンハイド国王以下重鎮や大臣たちが別の会議室へと集まってくる。
全員がそろったところで、ワーレンハイド国王が真っ先に口を開いた。
「いやはや・・・どうしたものかな」
その表情はうっすらと笑みを浮かべているようにも見えるが、一言で表現するなら、まさしく『苦笑』という言葉がふさわしい。
「どーなってんだよ・・・あの野郎は」
いつもヤーベ卿に文句ばかり言うフレアルト侯爵が文句ではなく、あきれた気持ちを紡ぐようにつぶやく。
「規格外・・・という言葉ではもはや語れぬのぅ、あの御仁は」
キルエ侯爵も端正な唇を歪めるように『苦笑』を浮かべる。
会議に列席した面々は一堂に同じ表情を浮かべていた。
先ほどヤーベ卿が報告したその内容―――――
誰しもが驚嘆し、声も出ないほどの内容。
その結果は文句のつけようもないほど。
同盟国ガーデンバール王国を襲ったラードスリブ王国を主体とした侵略戦争。
ヤーベ卿からヒヨコでの緊急連絡があったときは誰しもが大陸の情勢の激変を覚悟した。そしてバルバロイ王国も戦火の渦に巻き込まれていくものと戦慄した。
だが、その火種はまさしく炎と燃えることなく、摘み取られた。
ヤーベ・フォン・スライム伯爵の活躍によって。
ガーデンバール王国の国民に死者はゼロ。
迎撃に出た騎士団の死者は2万5千のうち84名とまるで奇跡のような成果で完勝する。
攻めて来たバドル三国の敵兵を一人も殺さず、許すという対応の結果、三国ともがバルバロイ王国とガーデンバール王国の下につくと宣言。
ラードスリブ王国に至っては宰相の首を討たれ、国王がその座を放り出して逃げ出した。
今では幽閉されていた前国王が返り咲き、新たな宰相とともに国を再編中だ。そしてバルバロイ王国、ガーデンバール王国と恒久的な平和同盟を結びたいと書簡をよこしてきた。
「・・・完璧・・・ですな」
宰相ルベルク・フォン・ミッタマイヤーはため息を吐きながら褒める。
輝かしいまでの戦績を果たしたヤーベ卿の活躍を手放しで喜べぬ要因は主に2つある。
「褒章をどうすべきか・・・」
1つはヤーベ卿への褒章であった。
これほどまでの圧倒的な武功に対し、どれだけの対価を用意すればいいのか、前例がないのである。
「白金貨で1000枚以上は用意せねばなるまいな・・・」
ワーレンハイド国王がぼそりとつぶやく。
「しかし、一度にそれほどの金貨を放出してしまうと、国の財政に影響しますぞ!」
財務大臣であるロドリゴ・フォン・ドラブスタ伯爵が声を上げる。
王国の財務を預かる者として、一度にこれだけの白金貨が出てしまえば、少なからず影響が出ると声を上げる。
「その程度であれば国の事業に影響は出まい」
「それはそうですが・・・」
「問題なのは、ヤーベ卿の武功がこれだけで済むか、ということでしょうな」
別の切り口で話すのは内務大臣を務めるトラン・フォン・コレスト伯爵である。
「というと?」
「1年以内に、これと同じような規模で活躍されると、今後の褒章に影響が出るでしょうな」
「それは確かに・・・」
軍務大臣であるフォレスト・フォン・ゲラルーシ伯爵もうなる。
「かといってこれほどの戦果をもたらしたヤーベ卿に報いぬというわけにはいかん。何しろコーデリアのいるガーデンバール王国を無傷で救った英雄なのだからな」
自分の長女が嫁いだ国であるからか、特別な感情があるワーレンハイド国王。
「それでは、特別に勲章をあつらえてはいかがでしょう?」
貴族の一人が特別褒章を提案する。
「そりゃあいい、特別に設定した勲章なら過去の実績にも影響しないし、何より金もかからねえ」
フレアルト侯爵が嬉しそうに同意する。
勲章の特別設定という事は、過去の大きな実績に対して贈られてきた名のある勲章と別にすることで、ヤーベ卿の名声を抑えようとする思惑も見て取れた。
「そうか、ならばお主達も活躍してくれた暁にはその勲章だけを贈るとするか」
冷たく言い放つワーレンハイド国王に一言も返せず、シンとなる諸侯一同。
フッとキルエ侯爵が笑う。
自分たちが活躍した時に勲章一つだけで褒章が済んでしまえば、自領の繁栄などとても望めない。そんなこともわからずヤーベへの褒章を勲章でいいなどとほざいた連中を冷たい目で見つめる。
ドライセン公爵は仕方のない奴らだといった表情で諸侯を一瞥すると、口を開いた。
「ヤーベ卿の意向も組まねばならぬが・・・、褒章の金貨を分割とするのは外聞が悪い。王国がケチったと取られかねないしな。そこで、ヤーベ卿から王国側へ貸し出し、もしくは一部預かりとしてもらうのはどうだろうか?」
「ほう、体裁が整えばそれも悪くない案だの」
キルエ侯爵が追従した。
「ふむ・・・」
ワーレンハイド国王が顎をさすりながら思案する。
「一介の成り上がり貴族が王国に金を貸すなどと!」
「やはり褒章を縮小しては?」
「目録だけ与えておいて、必要分を王国で召し上げるのはどうだろうか?」
再び随分と勝手な議論をぶつけ合う連中が出た。
「自分の褒章がそうなってもいいのなら提案せよ」
ワーレンハイド国王の一言に再び黙り込む諸侯一同。
「それに、かの御仁はこのバルバロイ王国に伯爵位を受けてもらっている」
「「「なっ!?」」」
ワーレンハイド国王のその言葉に多くの貴族が驚きを隠せない。
なにしろ、国王がヤーベに貴族になってもらっているとはっきり明言したのである。
「かの御仁がこのバルバロイ王国に、引いてはレーヴァライン大陸にもたらした恩恵を考えた時に、だれかあの御仁がこの国を見限った時、責任が取れる者がこの中にいるか?」
ジロリと一同を睨むワーレンハイド国王。
文句を言っていた連中が一斉に下を向く。
フレアルト侯爵も悔しそうにうつむく。
少なくとも、ヤーベ卿がこの国を見捨てる、と判断した時、それを止められるかといえば答えは否だろう。
まして、この国の敵に回った時、その責任を問われたら文字通り自分の首が飛ぶ。
どれだけやっかみを覚えようと、嫉妬しようと、その存在を認めたがらなくても、ヤーベという男の存在を無視することはもはやかなわない現実であった。
「実際のところ、褒章内容はまあ何とかなると思いますが・・・」
宰相のルベルクがのほほんとした口調で話し出す。
「どういうことだ?」
「ヤーベ卿はそれほどお金に固執している様子がありませんのでな。商売も絶好調のようですし、辺境の開拓も順調、旧リカオロスト公爵家の領地引継ぎも元々いた人材を大切にし、恙なく完了しているとのこと。お金には困っていないかと」
「うむ、だが、だからと言って褒章を無しにはできぬぞ?」
「ですので、目録にはきちんと額を乗せ、それを下賜しますが、実際に渡すのは待っていただき、話し合いを持てばよろしいかと」
「例えば?」
「領地も順調であれば、報奨金の一部を増税という形で王国へ戻してもらう・・・などです。ヤーベ卿であれば話し合いには応じてくれると思いますし、戻した分のお金の使う当てを福祉に充てるなど使い先を説明すればかの御仁ならば納得してくれるでしょう」
「なるほどな・・・自領も繁栄しているし、増税という形をとるか・・・」
「名目は寄付という形でもよいかもしれませんな。また英雄の名が轟いてしまうやもしれませんが」
屈託のない笑顔を見せるルベルク宰相。
「ははっ、それはよい。頭を下げて寄付を願うか。かの御仁にはまさしく頭が上がらぬわ」
そう言って豪快に笑うワーレンハイド国王。
「ですが、こちらは笑ってばかりはいられませぬぞ?」
宰相ルベルクが指摘したもう1つの問題。
それは、各国との取り決め、詳細な調整がこれから行われるという事だ。
ヤーベ卿により、バルバロイ王国は圧倒的に優位な条件が整った。
言うなれば、大陸の約半分の国に対し、このバルバロイ王国は同盟の『盟主』という立場を得た。いや、得てしまったといってもよい。それもまるで何も準備ができていない状況で、唐突に、である。
「各国へ派遣し、交渉・調整を行わなければならん。その人選が必要だな・・・」
ワーレンハイド国王が重いため息を吐く。
ヤーベ卿はこの議題に対し、国に丸投げしてきたのだ。
「後はよろしく」・・・と。
国王の座ですら「メンドクサイ」の一言で切って捨てるヤーベ卿の事だ。
親善大使という立場すら何とかお願いして引き受けてもらっている状況下で、この上各国との調整に駆り出したら、それこそ負担が増えて出奔しかねない。
そういった不安を一同は感じていた。そのため、ヤーベ卿でなければどうしても対応できない事案以外を無理に押し付けることは大きな葛藤があったのだ。
「この機に何としても各国との同盟を成立させ、平和を勝ち取る。協議を任せられる人材を推挙せよ」
ワーレンハイド国王の元、バルバロイ王国は望むどころか、想像すらしなかった『大陸の盟主』への道を歩みだすのであった。
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