第291話 スゲート卿と語り合おう
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ゴンゴン。
翌日、俺はアビィ・フォン・スゲート伯爵の屋敷にやってきた。
ちなみに一人だ。
アビィ・フォン・スゲート伯爵とやらが、どのようなヤツかわからんからな。とてつもなく美人ぞろいの奥さんズを連れて行くのは、いささか危険な気もする。警戒するに越したことはない。
アビィ・フォン・スゲート伯爵邸には門番がおらず、門が締まっているだけだった。そこで門を開けて敷地内に入ると、大きめの屋敷が見えたので玄関まで歩いていき、ドアノッカーで叩いたのだ。
しばらく待つと、「はい」と可憐な声が聞こえて、扉が開く。
「うおっ!」
思わず驚いてのけぞる。
扉を開けて顔をのぞかせたのはストレートロングの金髪が美しい、まるでビスクドールのような絶世の美女だったからだ。
・・・ビスクドールを見たことはないけどさ。後、メイド服が似合ってるけどさ。
「・・・どちら様でしょうか? 先触れを頂いておりませんが?」
少し咎めるような視線を送ってくる金髪美女メイドさん。その視線がご褒美です、と言えるほど俺は業が深くない。
「すみませんね、私、バルバロイ王国にて伯爵の地位を預かりますヤーベ・フォン・スライムと申します。昨日の戦勝パーティにスゲート伯爵がお越しになられなかったとのことで、セルジア国王より様子を窺ってくるように申し付かりまして」
俺は正直に説明する。
「・・・少々お待ちください」
そう言って一度扉を閉められてしまう。せめて中に入れてから待たせてくれないかな~なんて思っていると、金髪美女メイドさんがすぐ戻ってきた。
「ご主人様は元気だから問題ない、会う必要はないので国王様によろしくお伝えください、とのことでした」
金髪美女メイドさんは能面のような表情を張り付けてそう答えた。
ほう、誰とも会う気はないということか。生粋の引きこもりだな。
だが、テキがそう来るならこちらにも考えがあるぞ。
「それではアビィ卿に伝言をお願いできますか?」
俺は努めてにこやかな笑顔を保持したままお願いする。
「承ります」
「アビィ・フォン・スゲートなんてドストレートに深淵卿を名乗っているのはぜんぜんありふれてないと思うんだが、その辺りどーなの? とお伝えください」
「・・・?」
キョトンとする金髪美女メイドさん。
「お願いできますか?」
再度にこやかにお願いすると、「とりあえず承りました」といぶかしげな表情をしながらも戻って伝言を伝えに行ってくれた。
・・・やっぱり入れてもらえない。扉の前で待つ。
ダダダダダッ!
けたたましい足音が聞こえたかと思うと、ドバンと玄関の扉が開かれる。
そこに現れたのは、俺よりも少し背の低い金髪マッシュルームカットの男だ。
「お、お前・・・転生者か?」
「おう、ヤーベさんだ。そういうお前さんは?」
「いや、その自己紹介ありふれた魔王様のマネだろうけど、初対面の人間に対する挨拶じゃないからな?」
「いちいち細かいな。お前も転生者なんだろう? いろいろ情報交換しようじゃないの」
ウキウキしながら金髪マッシュルームを見る。よかった、存在が薄いヤツだったらどうしようかと思ったぜ。
「・・・とりあえず入れよ」
そう言って背を向けて館に入っていく。それに続いて俺も屋敷に入る。
・・・やっと館に入れたよ。
「・・・それで? 君はどうやってこの世界に?」
ビスクドールのような金髪美女メイドさんがお茶を入れてくれる。
しつこいようだが、俺はビスクドールを見たことはないが。
「実はわからん。気が付いたらこの世界にいた」
「・・・それは難儀だね。ボクは一応女神さまに説明を受けたよ」
「むうっ! お前も女神に説明を受けたクチか! フカシのナツといい・・・何で俺だけ!」
俺がブツクサ文句を言っていると、アビィが思わずテーブルに手をついて前のめりになる。
「他に転生者がいるのか!?」
「ああ・・・忍者みたいな女の子が。そいつは俺から金貨200枚もふんだくったくせに、俺の情報を国に売って諜報部に雇われたっていう極めて図々しいヤツだ」
「・・・何だか個人的に恨みが根深い感じだが」
「否定はしない」
二人して腕を組みながら、唸りあう。
俺が他の転生者と協力関係にないのが不思議なようだ。
「それにしても・・・家名がスライムってどうなんだ? ボクもあまり人のことは言えた義理じゃないけども・・・」
そりゃ、家名がスゲートって何だよって話だよな。
だが、コイツが女神とどう話をしてチート能力をもらったのかわからんしな。
それに俺がスライムだってことはまだ言わない方がいいだろう。そうすると、家名にスライムとつけた理由を何か説明しないといけないわけで・・・。
「そりゃ、お前さんが『あり〇れ』ファンなように、俺も『転〇ラ』ファンだからだよ」
元々数あるラノベの中でも、トップクラスに好きなラノベだからな。何も間違ってはいない。
「なるほど、君は転〇ラファンなわけか。それで家名にスライムって、安直すぎないか?」
「ほっといてくれ」
それにしても、まるで分からない話をしているだろうに、眉一つ動かさずにお茶を入れ、お茶菓子を置いていく金髪美女メイドさんには感嘆の念を禁じ得ない。
その後、ラノベの話に移ったのがいけなかった。
「神ラノベと言ったら『転○ラ』だろうが!」
「神ラノベは『あり〇れ』だろうよ!」
完全に『転〇ラ』派の俺様と『あり〇れ』派のアビィでモメた。
「だいたいリ〇ルみてーなスライムに転生してからスライム伯爵を名乗れよ!」
もうスライムに転生してんだよ! ・・・とツッコめない俺は歯ぎしりする。
「アビィ・フォン・スゲートって深〇卿こそ、その存在が消えるほどになってから名乗りやがれ!」
「なんだと!大体スライムなんて物語の最初に出てくる雑魚だろうが!」
「伏〇先生に謝りやがれ!」
「お前こそ白〇良先生に謝れ!」
お互い額をぶつけ合い自分が心酔するラノベの方がいいと文句を言い合う姿は美しくも見苦しい。
しまいにぶつけあう額から摩擦熱で煙が吹き上がる。
「だいたいメイドがビスクドールみたいな金髪美人って、あきらかにヤベーだろうが!お前あっちの世界なら確実にドパンッ決定だぞ!」
「うるせーうるせー! ファンである以上憧れだってあるんだよ!」
「その割に兎人族のバグチートボンキュッボンがいねーなぁ」
「ぐううっ!痛いとこ突きやがって!」
「ちなみに俺の方にはいるがな、兎人族のボンキュッボンが」
「おまっ・・・ふざけんな!今すぐ俺に引き渡せ!」
「誰が渡すか!」
「そっちに兎人族関係ないだろーが!」
「不勉強だな!スピンオフにはフラ〇アちゃんがいるんだよ!ウチの兎人族ちゃんにカワイイ帽子を作ってプレゼントするのが夢なのだ!」
「そりゃスピンオフの方だろうが!こっちは本筋だぞ!」
「それこそ知るか!変態竜でも捕まえてじゃれてやがれ!」
「お前この世界の竜知ってんのか!?ガチで死ぬぞ!竜の変態とかねーから!速攻ブレスで灰だから!」
「ハッハーッ!すでにコッチは古代竜が嫁に来ているからな!もちろん変態じゃないぞ!のじゃロリだけどな!」
「バッ!バカなッ!?のじゃロリのドラゴンだとぉぉぉ!お前なんかオーガに食われて死んじまえ!」
「それを言ったらオーガ族は言葉も通じねーヤベー連中だったなぁ。オーガって聞いて一瞬でもランクアップして鬼人族へ!なんて考えた俺が馬鹿だった・・・あのスタンピードは地獄だったからな・・・。千切っては吸収千切っては吸収・・・」
「え、マジか・・・なんだかだいぶ苦労してるんだなぁ。やっぱラノベの世界のようにはいかねーよなぁ」
「そうだよなぁ」
二人して急に溜息を吐く。
「いや、何をそんなに言い合っているのかまったくわからないのだが、どちらも素晴らしいのだろう?素晴らしいものが一つだけとは限らないではないか」
驚いて振り向けば、イリーナが腕を組みながら首を傾げて呟く。というか、イリーナを先頭に奥さんズの面々が勢ぞろいだ。いつの間に来たんだろう?
「先ほど、ヤーベ様を追ってこちらに来られたとのことで、お屋敷にご案内させていただきました」
「ああ、それはご丁寧にどうも」
俺は金髪美女メイドさんに頭を下げる。
「おおっ! 君は物事がよくわかっているようだ!」
イリーナの言葉にアビィが感激したようだ。
「確かに、神ラノベが一つとは限らないよね。いいものはどちらもいい!」
俺もその意見に乗っかる。
肩を組み合い、笑いあう二人。さっきまでの剣呑な雰囲気は何だったんだという目で俺たちを見ている奥さんズとメイド隊。
ラノベ通りにいかないのも仕方ない。この世界はこの世界なんだ。たが神ラノベが心の寄りどころであることは間違いない。何より異世界で生き抜くって苦行、他に頼る知識もあまりないしな。
「旦那様。ゲラが刷り上がりました。ご確認下さい」
「ん?」
唐突に金髪美女メイドさんとは別の美人メイドさんがやってきてアビィ君に持ってきた紙の束を渡す。ちょっとのぞき込む。
『あたりまえの職業で大陸最強』
ビリリッ!!
俺はその原稿の束を破り捨てた。
「ああっ!ボクチンの大作が!」
「何がボクチンの大作だ!! 神ラノベを丸パクリして異世界で作家活動してんじゃねー!!」
「異世界に地球の著作権は影響しないのだ!」
「だからって勝手に販売すな!」
「大体パクリじゃないぞ!オマージュだ、オマージュ!」
「タイトルからしてほぼパクリなんだよ!」
そこへ再び別のメイドが紙の束を持ってやって来る。
「旦那様、ゲラが刷り上がりました」
メイドの持つ紙の束に目をやる。
『転生したらオークだった件』
ビリリッ!
「ああっ!また!」
「だから、異世界だからって神ラノベを丸パクリして儲けようとするなっ!!」
「儲けなど二の次だ!まずはラノベの布教から始めるのだ!」
「だがこれはイカン!ウチのゲルドンが泣いてしまう!」
「ゲルドン・・・?」
「俺達と同じ転生組だ。まさかの転生したらオークで、滅茶苦茶苦労しているヤツだ。マジで可哀そうすぎるヤツなんだ・・・」
「・・・そりゃ、転生したらオークだったら絶望するよな・・・」
俺たちは急に現実に引き戻されてお互い肩を落とした。
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