第283話 その現実を教えよう
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「フフフ・・・・ウフフフフ・・・・ウァーッハッハッハ!」
ラードスリブ王国、黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーは上機嫌であった。
思わず笑いの三段活用が出てしまうくらいに。
それも仕方のないことかもしれない。
黒衣の宰相、などともてはやされ、ラードスリブ王国の国内外にまつわるあらゆることを自分の手で仕切ってきた。自分が思い通りにならない事など無くなっていたのである。
合従軍を発生させた手腕も自画自賛するところであるが、その自分の策略を打ち破ったものがいたことに心底驚いた。
ヤーベ・フォン・スライム伯爵。
しかもその手腕は得体がしれない。
レオナルドは戦慄した。
だが、敵はただの愚か者であった。
戦場において非常になれない、甘ちゃん。まさしく愚か者と呼ぶにふさわしい男であった。
「はははっ・・・まさか口約束の停戦協議に、本気で少数の手勢だけでのこのこやってくるとは・・・。愚か者というより、ただの馬鹿よな」
馬の手綱を持ち、ゆるゆると1万5千の兵団の先頭を行くレオナルド。
通常の隊列であれば、あり得ない宰相の位置取りであるが、これもヤーベという男を完膚なきまで叩き潰し、殺して始末できたこと、勇者をガーデンバール王国の王都に出兵させて事により、自分たちへ敵対できる戦力など残っていないと確信しているからこその位置取りであった。
これだけの兵団に盗賊が襲い掛かってくることなど自殺行為に等しいであろうし、もし仮に万一ガーデンバール王国の残党が襲い掛かってきたとしても、それこそ1万5千もの兵団がいるのだ。残党程度どうとでも対処できる。
レオナルドには確固たる自信が沸き上がっていた。
「いや~、ついには宰相様も王座に上がられますか。これからは宰相様ではなく、王と呼ばねばなりませんな」
嫌らしく卑屈な笑みを浮かべる将軍。レオナルドの腰巾着であるこの男はレオナルドがガーデンバール王国を乗っ取り王位に就いた際には大将軍の地位を賜ることになっていた。
「はっはっは、そうだな。宰相などと呼び間違えたら大罪だぞ?厳罰をくれてやるわ」
そう言ってお互い笑い声をあげる。
レオナルドには自分の未来が前途洋々であることに一片の疑いも持っていなかった。
「申し上げます! この先ガーデンバール王国王都ログリアまで、敵兵の姿なし!危険はありません」
そう言って斥候より戻った男は片膝をつき、報告した。
ポルポタの丘を過ぎて数日、王都ログリアは目前であった。
だが、さすがは、というべきか。前回ヤーベに手玉に取られた時には予期せぬ伝令の言葉を鵜呑みにして進軍したことが油断につながったとレオナルドは考えていた。
確かにそのことも原因の一端ではあるのだろうが、ヤーベ自身の能力に対して正確な判断ができないのはレオナルドという男の器の小ささを露呈しているといえよう。
だが、それでもレオナルドは前回の失敗を繰り返すことは良しとしなかった。
自分の隊から斥候を出し、王都ログリアまでの様子を探らせたのである。
「ご苦労。それで、王都の様子は?」
これもレオナルドが知りたかったことだ。
勇者がメチャクチャに暴れてしまっていたら、王都は瓦礫と化しているかもしれなかった。
「王都は一時混乱をしておりましたが、今は落ち着きを取り戻しております。王城での勇者との戦闘が終わり、王家の生き残りが国民に平時の暮らしを保つよう通達を出したとのことです」
「ほう・・・」
レオナルドは何か引っかかるものを感じた。
女とみれば襲う事しか考えない勇者の対応ではない。
ともすれば、王家の生き残りとやらが、自分に除名の嘆願とともに、落ち着いた王都を引き渡そうとでも考えたか。
「ふふっ・・・多少知恵が回るか? だが、王家の血など残すはずもあるまいに」
レオナルドは唇をいびつにゆがめ、ほくそ笑んだ。
その目は唇と同じく、大きくゆがみ、真実を見抜く力は残っていないようだった。
王都ログリア、その城門前。
「さあ、城門よ開け!新たなる主を迎え入れよ!」
朗々と声高らかに叫ぶレオナルド。
示し合わせた通り、城門が大きく開かれる。
だが、その様子は予期していたものと違っていた。
自分をほめたたえ迎え入れる人垣があると想像していたレオナルドは、大きな狼に跨った真っ黒な鎧を着た騎士らしき人物が歩み出てきたことに戸惑いを覚える。
「・・・どういうことだ?」
レオナルドはすぐに理解することができなかった。
自分の存在そのものが風前の灯であることに。
「・・・突撃せよっ!!」
レオナルドが呆然としていると、黒い騎士がこれまた真っ黒な長剣を振りかざして号令をかけた。
ジャーンジャーンジャーン!
その瞬間、激しく銅鑼の音が鳴り、城壁の陰から騎馬隊が突撃してきた。
レオナルドの率いてきた軍を左右から挟み撃ちにするように。
「なっ!? なんだ!?」
レオナルドはまだ、何が起こっているのか理解できない。
「て、敵だぁ!敵襲うぅぅぅぅぅ!!」
レオナルドよりも先に隣にいたお飾りの将軍が声を上げる。
「て、敵襲!? バカな!!」
レオナルドはまだ現実が受け入れられないようだった。
だが、現実をいかに否定しようと、待ってはくれない。
「今だぁ!突撃せよ!」
「今こそ乾坤一擲!敵を粉砕するぞ!」
左右から騎馬隊が突撃を敢行する。
完全に不意を突かれ、烏合の衆のごとく討たれていくラードスリブ王国兵。
「何だ!?何なんだ!?」
「どこから敵が!?」
「わ、わからねぇ!」
お飾りの将軍からまともな迎撃指示が出るはずもなく、頼みの綱であるレオナルドがパニックを起こしている状況では、ろくに戦えるはずもなく、次々と打たれていくラードスリブ兵。左右から奇襲で挟み撃ちを行ったガーデンバール王国の兵士たちはここが剣が峰とばかりランスを抱えて突撃し、槍を振るった。
完全に油断しきったラードスリブ王国兵1万5千に対して、左右から奇襲を敢行したガーデンバール王国の兵士たちはそれぞれ1万5千。ヤーベが王国に温存を指示した王都ログリアの兵3万全軍を二手にわけた軍だった。
あっという間に瓦解する兵たちを見てパニックに陥っていたレオナルドが再び呆然とする。
「こ・・・こんなことが・・・」
気が付けば真っ黒な鎧に身を包んだ騎士が目の前にやってきていて、これまた真っ黒で巨大なグレードソードを突きつけていた。
「チェック・メイト」
つぶやくように放たれる言葉。
その次の瞬間、兵士たちに組み伏せられ、地面に叩きつけられるレオナルド。まるで幻想の世界から解き放たれる魔法の言葉のようだった。
「な、何で・・・誰だ貴様は!?」
組み伏せられ押さえつけられながらも顔を上げ、レオナルドは怒鳴り声をあげた。
「誰とは冷たいな。もう俺の顔を忘れたのか?」
黒衣の騎士、とでも言うべきか、真っ黒な鎧に身を包んだ騎士が、巨大な黒剣を背中に仕舞い、両手で兜を脱いだ。
「・・・ばかな・・・貴様は死んだはずじゃ・・・」
目を見開き、驚愕の表情を浮かべるレオナルド。
「まさか、この俺があれしきで死んだとでも?」
不敵に笑みを浮かべる黒衣の騎士は、先日ポルポタの丘で罠に嵌め、レオナルドが殺したと思っていた、ヤーベ・フォン・スライム伯爵だった。
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