第280話 敵の思惑に乗せられたフリをしよう
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時はしばらく遡る―――――
「いや~、平和だねぇ」
大きなローガにまたがって、ポクポクと歩みを進める。
目指すポルポタの丘まで一週間程度かな?
『しかし、ずいぶんローガ殿らしくなりましたね。他の狼牙族もそうですが』
俺の肩に止まるヒヨコ隊長がローガたちを見ながらそうつぶやく。
「ふふん、努力の賜物だな」
『最初見たときは子供の落書きかと思いましたよ』
「ぐっ」
存外にヒヨコ隊長の厳しい突っ込みに俺は声が出なくなる。
まあ確かに、言い訳できないクオリティだったしな。
・・・そう、俺とヒヨコ隊長がしゃべっている通り、今俺がまたがっているローガは実際のローガではなく、その後ろについてきている数頭の狼牙族も狼牙族ではない。
それが何かと問われれば、俺のスライム細胞で作った偽物、という事になるだろう。
俺様はついに出張用コントロールボスをメタモルフォーゼさせることにより、影武者を製作することに成功したのだ!
・・・まあ、最初に作ったローガたちが、あまりにひどかったのでローガたちにあきれられたのだが。
・・・・・・
「ボス・・・もしかしてこれは我でありましょうか・・・?」
目を点にしてローガが俺に尋ねる。
ローガの目の前にあるもの。それは俺がスライム細胞で作ったローガの影武者、というか、偽物である。その他狼牙族も数体製作している。
「・・・ボス」
「なんだ?」
「もう少し何とかなりませんでしょうか・・・?」
申し訳なさそうに俺の方を見てつぶやくローガ。
『あれ、もう少しで何とかなるレベルなのか・・・?』
『うむ、リーナ殿がお絵かきしてももう少しマシなのでは・・・?』
『まるで悪魔の呪いでも受けたかのような造形だ・・・』
『お前らボスのことメチャクチャ言うでやんすね・・・』
四天王たちはさらに辛辣だった。俺に彫刻家とか、芸術関係の才能はないらしい。
「こうなったら、だれか1匹取り込んでいただいて・・・」
ローガのトンデモ発言に四天王はおろか、他の狼牙族もざわつきだす。
『そ、それはあまりにも無体な!』
『ボスに協力するのは当然ですが、取り込まれて消化される・・・』
『プルプルプル・・・』
『こういう時絶対リーダーは自分を外すでやんす!』
「うるさいぞお前ら!」
ローガのひと睨みでシーンとなる狼牙達。
「そうだな・・・造形を記憶した方が早いか」
「ですよね、ボス。それでは栄えある協力者を・・・」
一度後ろを振り返ったローガがこちらを再度見る。
「うむ、どうせなら一番立派なローガにしよう」
「へっ?」
すでにデローンMr.Ⅱの姿に戻った俺は体を倍化してローガに覆いかぶさる。
「ノォォォォォォ!!」
ドプンッ!
ローガが悲鳴を上げるが、お構いなしにローガを全身で包み込む。
(モガッ!モガッ!モガッ!)
ローガが何か叫んでいるが、聞こえないったら聞こえない。大事なことだから二度言おう。
「ペッ」
ドサリ。ローガが俺から解放される。
四天王以下他の狼牙たちはドン引きして、しっぽを股に挟んでプルプルと震えている。
「ううう・・・もうお婿にいけない・・・」
失敬な。外側の形を覚えただけで何もしていないぞ。
ちらっと狼牙達に目を向けると、全員サッと目をそらした。
そして、誰もローガの元へ寄ってこない。
・・・まあいいか。とりあえず俺は再びスライム細胞でローガの偽物を作る。そこから少しダウンサイジングして狼牙族を何頭か製作する。
『おお、素晴らしい出来ですな!』
『これなら見た目にも偽物だとはわかりませんぞ!』
『お見事!』
『さっきの落書きとは雲泥の差でやんす!』
「・・・これならば我の犠牲も報われるというものよ・・・」
遠い目をしながらしみじみとローガがつぶやく。
だから、何もしてないって、失敬な。
・・・・・・
「・・・まあ、苦労があってこの狼牙達ができているからね。そう簡単に見破られないよ」
俺は自信満々にヒヨコ隊長に説明した。
「それで、後ろの黒騎士軍団もボスの細胞でできて
いるのでありますか?」
ヒヨコ隊長は後ろを振り返り、歩いて付いてくる全身を黒い甲冑に包まれた真っ黒な騎士を見る。
「それは、土の精霊魔法<大地の騎士>で作った騎士たちだよ」
「あれ、こんな真っ黒でしたっけ?」
「ある程度強力な力を持たせたかったからね、ベルヒアねーさんと相談して、土から騎士を作り上げる時に、土の中に含まれる微量な酸化鉄を集めて表面コーティングしてるんだよ。だから、表面だけはアイアンゴーレムみたいに鉄っぽいんだ。だから、非常に騎士らしく見えるだろ?」
土の精霊ベルヒアねーさんと相談して<大地の騎士>の魔法生成時の土組成に変更を加えて、酸化鉄を増やしたのだ。思った以上に強力な騎士に仕上がった。
「ま、尤も敵の奇襲であえなく散る・・・そんな予定になるんだろうけどね」
今のままでは敵が弓矢を放ってきた場合、はじき返してしまう。敵の攻撃タイミングで組成を解除して強化を解かないとな。
『・・・やっぱり攻撃されますかね?』
ヒヨコ隊長がため息交じりにぼやく。
「そりゃね・・・。君の部下からの報告を聞く限りはね・・・」
俺も深くため息を吐いた。
・・・・・・
ポルポタの丘到着直前。
敵は「魔力感知隠微シート」なる魔導具を使って伏兵を隠す戦略に出た。
伏兵が弓矢隊なのを見れば、奇襲戦法に打って出るのは明々白々である。
「魔力感知隠微シートね・・・。俺の索敵が<魔力感知>に頼り切っているという大前提が必要だよね、その判断には」
そう言って俺はポルポタの丘上空からの映像を見ていた。
「<魔力感知>の他、<気配感知>もできるけど、何より今実際に見てるしね」
そう、隠微もくそもない。何せ今上から実際にその場を見ているのだ。
『敵からすれば悪夢のような状況ですな』
ヒヨコ隊長が笑う。
「それもお前たちヒヨコ軍団が俺に力を貸してくれているからできることだ。感謝している」
『もったいなきお言葉・・・!』
深く感銘を受けたのか、深々とヒヨコ隊長は頭を下げた。
「さて、最悪の選択をしたあのバカ野郎がどんなシナリオを描いているのか、ショボイ舞台に乗ってみるとするか」
俺はヒヨコ隊長と苦笑いを浮かべあうと、ポルポタの丘へ向かって足を進めた。
・・・・・・
「あーっはっはっは! お前本気か!? バカなのか!? 斥候からの報告を聞いたときは耳を疑ったぞ!? 俺の戦略を見事破っておきながら、こうもバカだとは!」
大笑いを始めるレオナルド。
(はあ・・・やっぱりこうなるんだな)
((どうにもならないクズですな。約束を守るというどころか、ボスに打ち首を見逃してもらった感謝もありません))
俺はヒヨコ隊長と念話で会話する。
(この後、攻撃されたら死んだふりするから、魔力感知をかいくぐるため、ボディ表面を魔力遮断するから)
((了解です))
さて、仕方がないからアイツと会話してやるか。
「なんだ? どういうことだ?」
俺は迫真の演技・・・とは言えないが、頑張ってセリフが棒読みにならないようにする。
うん、この後いけしゃあしゃあと奇襲してくるのがバレバレだからな。バレてますよ~と顔に出すわけにもいかないしね。
「はっはっは、俺は忙しい身なんだ。お前のようなバカを相手にしている時間は惜しい」
そう吐き捨てると右手をサッと上げる。
ばさりと周りの天幕が落ち、魔力感知隠微シートを跳ね上げて弓兵たちが立ち上がる。
ずらりと矢をつがえこちらに狙いを定めていた。
「まさか・・・貴様! 約束をたがえる気か!」
(いや、たがえる気満々だってわかってますけどね!)
心の中で苦笑しながらも驚いた演技を頑張る俺。
「ぶわぁ~っはっは! これだから愚か者は! 我々は戦争をしているのだぞ!? 約束? 信頼? まさに負け犬の戯言よな!」
愉悦の表情を浮かべ笑い続けるレオナルド。
(ここまでくると、いっそ気持ちいいほどのクズだな。今ならなんのためらいもなく首を落としてやれそうだ)
「貴様っ・・・俺が命を救ってやったことを忘れたか!」
まだまだ頑張って演技を続ける俺。結構努力家だな。
「命を救う・・・? はははははっ! 人を殺す覚悟を持たぬ愚か者が戦場に立つな!!」
いきり立ち席をけ飛ばすように立ち上がると、右手を振り下ろす。
「討てぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
その瞬間3千からの弓兵が矢を放つ。
ドスドスドス!!
あっという間に俺の体に突き刺さる無数の矢。
俺の後ろにいた狼たちや騎士たちにも容赦なく矢が突き刺さる。
(人を殺す覚悟ね・・・。覚えておくとしよう。俺もコイツのようなクズを殺さないと、俺の大事な人たちの安寧が脅かされてしまうかもしれないしな)
ドサリ。
俺はその場に倒れた。もちろん死んだふりだな。俺様の得意技だ。
「火矢を放て!消し炭にして死体すら残すな!!」
俺だけでなく、狼たちや騎士たちの体にも火矢が放たれ、燃え上がる。
(火矢のおかげで死体の演技が楽だな。見分されると面倒だと思っていたところだし)
「はーっはっは! 愚か者の末路など、このようなものよ!」
黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーは一際大きく高笑いすると、黒いマントを翻した。
(うわ~~~、だいぶ悦に入ってますな。これ、俺側から見たら滑稽極まりないな)
「急げ!すぐに出立するぞ!あの勇者のことだ。全力を出していいと言ったからな。今頃は王都の形も残っておらんかもしれんなぁ」
(!!)
そう言ってレオナルドは騎士の一人が連れてきた馬に乗る。
「まあいい、更地になったとしても、一から再建すればいいだけのことだ・・・何なら俺が王にでもなるか!」
(どういうことだ! 王都への進軍は偵察隊を出していたはずだろ!)
((そのはずですが・・・ポルポタの丘へ到着する前までに念話での報告はありませんでしたが・・・))
お互い死んだふりをしながら念話であわてて会話をする。ヒヨコ将軍は俺の体で炎から守っている。
(しかも勇者だと!? 情報が入っていない一番ヤバイ奴が・・・クソッ!)
((確かに勇者の情報は全くと言っていいほど集まっておりません・・・))
「まああの勇者のことだ。男どもは皆殺しだろうが、女たちは生きているだろう・・・まともかどうかは知らんがな」
そう言うとレオナルドは馬の横腹に蹴りを入れ、ポルポタの丘を下り始めた。
(クソッタレ!さっさと失せろ! お前が行かねーと俺が起きられないだろ!)
((まさか・・・このポルポタの丘を通る進軍経路をとらないで勇者とやらは移動したのでしょうか?))
俺は焦りながら考える。
(まさか・・・ラードスリブ王国の王都から直線的に王都ログリアに向かってきたのか!)
勇者が飛行魔法などの能力を持っていた場合、進軍経路が陸地の影響を受けない可能性がある。ポルポタの丘あたりを必ず通ると思ったからヒヨコ十将軍の一部を索敵に出したのだ。だが、直線的に移動したとなると、ここよりも遥か北、山裾の深い森に影響されずその上を通過して行ったことになる。
やがてレオナルド一行はポルポタの丘を下って王都ログリアの方へ進軍を開始した。
「クッソ!やっと行きやがった!ヘラヘラ笑ってモタモタしやがって!」
苛立ちから口が悪くなる。
俺は急いで魔力遮断を解除すると、ヒヨコ隊長も開放する。
『ボス!ボス!聞こえますか!!』
魔力遮断を解除した瞬間、長距離念話がけたたましく届く。
『今までずっと念話をご連絡しておりました!フィレオンティーナ様が殺されます!』
『風牙様もすでに退けられ、守り手がおりません!』
『奥方様たちにも敵の剣が!』
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
しまった!!魔力遮断を発動していたから、念話が届かなかったんだ!
ヒヨコ隊長とは実際にくっついて包み込むように魔力遮断していたから念話がはじかれなかったんだ。完全に俺のミスだ。念話に影響が出ることを失念してしまったわけだからな。
『ボ―――――ス!!!!』
『今行く!!!!!』
クソッタレ! 間に合えっ! いや、絶対に間に合わせる!!!!
俺は全力で転移した。
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