第277話 急襲!絶体絶命の王都を守り切ろう
時はしばらく遡る―――――
「ヤーベはそろそろ到着する頃だろうか?」
王城の最も高い位置にある『豊穣の間』にやってきていたイリーナたち奥さんズの面々。
この場所は王城の謁見の間の上階にあり、360度王都を見渡せる作りになっていた。
「会談がうまくいってくれるといいのだが・・・」
セルジア国王は不安そうにポルポタの丘の方へ視線を向ける。
もちろん、見える距離にはないのだが。
「まあ、相手が話を聞いてくれるかだよね~」
一国の王様に話しかけるにはあまりに不敬な言い回しのサリーナ。
こんな時でも態度を変えることはない。
「現状、ヤーベ様のご指示通り、城下には厳戒態勢を敷いております」
セルシオ王太子が改めて説明した。
ヤーベの指示通り、3万の兵力は第一線級の厳戒態勢を敷いたままにしている。
「と、いうことは旦那様が最も警戒しろと言っていたタイミングになりますわね」
武装した状態のフィレオンティーナが緊張した声を出す。
ベヒーモスの皮で作ったローブに、ゴツい魔晶石がついたイカつい魔杖を持っている。
通常こんな重装備で王族の周りにいることなど許されるものではないが、これはヤーベからの指示でもあった。万が一の時は王家の人間を守ること。そして、ヤーベが出立する前に残していった予測。
「俺が会談をしている間に王都が狙われる可能性が一番高い」
奥さんズや国王たちに最も危険なタイミングを教えていった。
もうすぐその時を迎える。
「何事もなければいいのですが・・・」
祈るようにバルコニーから空を見つめるカッシーナ。
だが、その祈りは空しくあっさりと破られる。
「・・・何か・・・来る!」
最初に気づいたのはフィレオンティーナだった。
何かが東から飛んできた。
「鎧を着た騎士・・・?」
だが、飛んできた騎士らしき男は空中にとどまった。
「なんだっ!?」
巨大なバトルアックスを構えたチェーダが空を睨む。
光り輝く鎧をまとった男が叫ぶ。
「ギャハハハハッ!いいオンナいっぱいいやがるなァ!レオナルドの野郎、もったいぶりやがって」
「・・・レオナルド?」
「ラードスリブ王国の宰相ですよ。ヤーベ様が停戦協議の会談に向かっているはずですが」
イリーナが首をかしげたので、ルシーナがフォローを入れる。
「ならば、あの空に浮かんでいる者はラードスリブ王国の関係者・・・?」
「しかも黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーを呼び捨てにする立場のものですよ・・・」
セルジア国王とセルシオ王太子の顔色が悪くなっていく。
敵は最悪の戦力を投入してきたらしい。
「全力出していーってんだからな!野郎どもはもとより、爺も婆も皆殺しだっ!かわいい女だけ生かしてやるよ!俺の性奴隷だけどなぁ!ギャハハハ!」
「・・・あれが人類世界を守るために女神より遣わされた勇者などとはとてもではありませんが信じられないのですが」
まるで汚物を見るような眼を空に向けるカッシーナ。
「さあおっぱじめるかぁ!四聖獣よ、その姿を現せ!破壊だ!破壊だぁぁぁぁぁ!」
空に浮かぶ男が一際輝くと王都ログリアの東西南北にとてつもない光の柱が立つ。
その光が消えた次の瞬間、
「「「「グァァァァァ!!」」」」
すさまじい獣の咆哮が響き渡る。
北には黒い巨大な大岩亀「玄武」が
東には青い首長の天空竜「青龍」が
西には白い巨大虎「白虎」が
南には赤く染まった大きな羽を広げる鳳凰「朱雀」が
王都ログリアを取り囲んだのである。
「ひ・・・人族を守護する四聖獣が・・・」
セルジア国王はその場でへたり込んだ。
四聖獣は全てこちらを向いている。ガーデンバール王国の敵として現れたのだ。
「そ・・・そんな、バカな・・・」
セルシオ王太子も膝をつく。
その時である。
『者ども!聞こえるか!』
『ははっ!』
『敵をすでに補足しております!』
『いつでも、ご命令を』
『久々にホネがありそーなヤツらでやんすな』
ローガの念話に四天王が即座に答える。
『オレが最も魔力保有量の高い火の鳥を相手にする!氷牙は白い虎を、雷牙は青い竜を、ガルボは黒い亀を相手にしろ!他の者たちは戦闘時に一般人が巻き込まれないように守れ!風牙は奥方様たちの護衛だ!』
『『『ははっ!』』』
『アイアイサーでやんす!』
『全力の戦闘を許可する!行けい!』
ローガの念話ながら頭に怒声のごとく響く言葉にはじかれるように飛び出す四天王。
この時、ローガは相対する敵への戦力検討を瞬時に行い、対応する部下の配置を決めた。
最もスピードに優れる風牙を奥方への護衛に向かわせた事、自分が四聖獣のうち、最も手ごわそうな朱雀に向かったことは決して悪くはない判断だった。
だが、この後この判断をローガは悔いることになる。
「フハハハハッ! 受けよ勇者の一撃!<勇者の一撃>!!」
とてつもない光が集まり、空に浮かぶ男が振り下ろした剣に宿ると、それは振り下ろされた。
「レイ・オブ・ザ・ラネストリー!神霊の祭壇を背に破邪の力よ方陣に満ちよ!<絶対なる聖域>!」
「マナよ!集積、収束し何物も通さぬ壁となれ!<物理障壁>!」
アンリ枢機卿の神聖魔法最強防除呪文<絶対なる聖域>とフィレオンティーナの物理衝撃高度防御魔法<物理障壁>を重ねがけする。
ドゴォォォォォン!!
「キャア!」
「グウッ!」
超高度な二種類の防御魔法が一撃で打ち破られる。
だが、その防御魔法があったからこそ誰も吹き飛ばされずにその場にとどまることができた。
「信じられない・・・神聖魔法の中でも、<絶対なる聖域>は最上級の防御魔法なのに・・・」
「多分、勇者の一撃は魔法力だけじゃなくて、物理+αの力が乗っているみたいですわね・・・」
呆然とするアンリ枢機卿に声をかけるフィレオンティーナ。
供に最強の防御魔法を一撃で打ち破られた。
この後、打てる手立ては果たしてあるのか・・・。
「ギャハハハハ! 中々やるじゃねーの! 尤もこれで消し炭になってたらオレが楽しめねーから、ちょうどよかったけどよぉ!」
白く輝く長剣を肩に背負い、光輝く鎧に身を包んだ男が下りてくる。
「俺はこの世界に召喚された最強の勇者・・・白長洲 久志羅だ。とりあえず男どもは死ね。女は俺に股開いたら命だけは助けてやるぜ?」
どれほどのクズだとしても、その身に宿すは人類最強の力、『勇者』。
今、ガーデンバール王国に絶望の時が訪れる―――――