閑話2 ギルドマスターの憂鬱 後編
バンッ!
冒険者ギルドの大扉が勢いよく開かれる。
存外に早くイリーナ嬢が戻って来た。
てっきり売り言葉に買い言葉で悩んでいるとばかり思っていたのに。
イリーナ嬢の隣には、肌色っぽいローブをすっぽりかぶり、魔導士の杖を持った怪しいヤツが。
「ギルドマスターはいるか! 師匠を連れて来たぞ!」
「来たか・・・こっちへ来い」
といってカウンターを指さす。俺はカウンターの内側に陣取る。
「そこへ座れ」
指示してやるとイリーナ嬢はドカリと座る。
そして隣のローブを指さして俺に食って掛かる。
「さあ!我が師匠のヤーベ殿を連れてきたぞ!」
いたのかよ!師匠!マジか?マジなのか?
「で、お前の師匠とやらがその怪しいローブの魔導士ってことか?」
「怪しいとは失礼な!我が師匠のヤーベ殿は素晴らしい方なのだぞ!」
イリーナ嬢が立腹しながら立ち上がる。
こりゃ、適当なヤツを連れて来たってワケじゃなさそーだな・・・。
「で、名前は?」
「・・・ヤーベだ」
魔導士の杖をカツンと床について名を答えてくるヤーベとやら。
少なくともこんな怪しいヤツがいるとは報告を受けていない。
「師匠は何でも知っている、まさしく森の賢者と言っても過言ではないぞ!」
イリーナ嬢は自分の師匠のヤーベを賢者だと持ち上げる。
「いや、俺は賢者ではない」
「師匠?」
「そう、俺を呼ぶなら大魔導士と呼んでくれ」
・・・何だコイツ? 自分で大魔導士とか言ってるぞ。
自分で大言壮語を吐く人間ほどダメなヤツが多いのはもはやお約束だ。
「何が大魔導士だ・・・」
俺はこのヤーベとやらの化けの皮を剥ぐべく、<魔探眼>を発動させる。
「ぐわわっ!やっぱり目がぁ!目がぁ!」
くそっ!もしかしたらもしかすると<魔探眼>を発動させたが、先ほどイリーナ嬢のリュックが眩しく光っていたのに、今はまったく光っていない。
代わりに超強烈に眩しく光っているのはこの怪しいローブ、ヤーベだ。
「くそ・・・!やはり分離している・・・」
右目を抑えぼやく。
てか、リュックの中に隠れてたんかーい!
どういうつもりだよ! 意味不明だよ。何で最初リュックの中にいたんだよ!
よくリュックの中なんかに入っていられたな?
というか、明らかに今のローブ姿はリュックに入っていた時より大きいですが!?
もう悪い予感しかしないが、仕方ない、確認のためだ。
俺は<魔計眼>を発動させる。
そしてイリーナ嬢を見る。
「むうっ? ・・・たったの5だと・・・?」
やはりイリーナ本人は大したことがないようだ。
さっきはリュックの魔力に何か秘密があるのかと思ったが・・・。
そしてヤーベを見る。
ブバッ!
いきなり鼻血が吹き出る。
じょろろろろろ~
「ごごご・・・53万だと・・・? やはり間違いないのか・・・?」
心配そうに覗き込んでくるイリーナ嬢。
私は再び体の震えが止まらず、鼻血を吹き出し、下半身は粗相してしまった。
あの53万の魔力・・・それはイリーナ嬢がリュックに隠した切り札的な魔道具などではない。このヤーベという男だ。姿は見えないが、声から男だと判断する。
つまり、このヤーベという男が53万もの魔力値を保有する「存在」だということだ。
この男が味方となれば圧倒的な戦力をこの冒険者ギルドは手に入れることができるが、逆に敵対すればソレナリーニの町は跡形もなく消し去られることにもなりかねない。
為政者ほどその傾向は強くなるだろう。
この男を取り込もうと躍起になるか・・・それとも、脅威となる前に抹殺するか。
「ギ、ギルドマスター大丈夫ですか? 裏で少し休みましょう」
副ギルドマスターのサリーナが肩を貸してくれる。
ああ、優しい彼女を副ギルドマスターに据えておいて今日ほどよかったと思った事はない。
「お、おおい!換金はどうなるのだ!?」
イリーナががたんと椅子から立ち上がる。
「換金査定は終わっておる・・・カウンターで受け取れ」
とりあえずギルドとしてどうすべきか対策を練らねばならぬ。それも早急にだ。
とりあえず魔物討伐分の買い取りを行った金額を渡して少し落ち着いてもらうとしよう。
こちらにも時間が必要だ。
そして金を受け取り、ヤーベはギルドに冒険者登録をせずに出て行った。
ふうっ、このギルドに所属しないとすれば、この俺の監督も不要ということだ。
と、思って一息入れようとサリーナにお茶を入れてもらったのだが・・・
「お姉さ~ん、やっぱり冒険者登録お願いね!」
「ブフォッ!」
俺は飲みかけのお茶を全力で噴いた。
あいつが戻って来た!? しかも冒険者登録だと!?
あ、頭痛ェ・・・。
そのうち、受付嬢のラムが部屋へやってきた。
「ギルドマスター、申し訳ありません。こちらの冒険者申込書を見て頂きたいのですが・・・」
そう言って俺の目の前に申込書を置く。
「な、なんだこれは!」
頭の痛さが倍増だぜ・・・さすがは53万の男ってところか。
「すまないが、連中を呼んで来てくれるか?」
ラムが奴らを呼びに部屋を出て行く。
くっそ・・・なんて声を掛ける?俺はヤツがこの冒険者ギルドに登録するとして、どうする?
ちょっと腕の立つヤツ、将来期待の持てるヤツ・・・そんなレベルの話じゃねェ。
あんな魔王みてーなヤツ、扱いきれねェぜ・・・。
「やあ、ギルドマスターじゃないか。どうした?」
入って来るなり、のうのうと言い放ちやがる。
「どうしたじゃねーんだよ!なんで登録に戻って来た!」
バンッ!申込書を机に叩きつけて怒鳴りつける。
理不尽な気がしないでもないが、さっき登録をせずに出て行ってホッとしてしまったから余計イラつき加減が増してしまう。
「え~、だって身分証がないと町の出入り困るじゃん」
くっそー、そんな理由で登録しやがって!
「そりゃそーだけどよ・・・、でお前、何がしたいんだ?」
「え? 別に何も。魔物狩ってお金に替えてもらう以外特に用はないな」
金か?それだけチカラ持ってりゃなんでもやりたい放題じゃねーのかよ!
なんで魔物狩って金に換えるなんてチマチマしたことやってんのよ。
どっかの王様でも宮廷魔術師でもやってろよ・・・冒険者ギルドじゃ扱いきれねーよ・・・。
「名前はヤーベ・・・何だよ、年齢が「謎」って。ふざけてんのか・・・。職業大魔導士・・・頭痛ェ・・・」
クラクラする。頭痛薬持ってきてほしいぜ。
「<調教師>?<召喚士>?」
「そう、いいだろ」
ドヤ顔で自慢してやがる。まあ、ローブで包まれてるし、顔はわかんねーけどな。
「使役獣は狼牙族一族郎党60匹・・・召喚は四大精霊・・・おまーホント何でもありかよ!」
思わずキレちまう。なんなんだコイツは! 魔力値53万なだけじゃねーのかよ!?
使役獣60匹に四大精霊召喚・・・コイツ一人で戦争おっぱじめられても勝てる気がしねェ・・・。
「友達だけは増えたな」
ちょっと嬉しそうに言いやがる。
「普通使役獣や召喚精霊は友達って言わねーんだよ・・・」
溜息が止まらねェ。
「そうするとものすっごく寂しくなるから却下で」
そりゃこんな化け物じみた魔力値じゃあ友達だって出来やしねーだろーよ。
「はあ・・・登録は認めてやるから絶対問題起こすんじゃねーぞ! 何かわかんねーことがあったら絶対俺に相談しに来い! 勝手な行動すんじゃねーぞ!いいな!」
「ああ、うんうん、わかったわかった。じゃあよろしく」
と言ってさっさと出て行こうとする。コイツ、ゼッテーわかってねーだろ!?
「ちょっと待て、後一つ質問だ。お前、冒険者ランクを上げる気あるのか?」
「ないよ」
間髪入れず回答しやがる。ねーのかよ!
ランクを上げる野望がねーってことは、コイツは名声や権力に全く興味がねーってことだ。
ならば、何を求める・・・求めている・・・?
「・・・わかった。行っていいぞ」
「じゃあな。また魔物の買い取り頼むぞ。イリーナ、買い物に行こう」
「わかった師匠、早速買い物に出かけよう」
(とにもかくにも様子を見るしかねェ・・・)
出て行く二人を見送りながら、俺は覚悟を決めた。
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(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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