閑話1 ギルドマスターの憂鬱 前編
俺の名はゾリア。現役時代は双剣のゾリアと呼ばれたAランク冒険者だった。
今はソレナリーニの町の冒険者ギルドにてギルドマスターを賜っている。
この町は今まさに発展途上にある。辺境にあるこのソレナリーニの町だが、北には迷宮があり、辺境の町の中では交通の要所にもある。この町の冒険者ギルドを任される事は誉れでもある。
そんなある日の事、ギルドの看板受付嬢でもあるラムがギルドマスター室に駆け込んで来た。
「ギルドマスター大変です。衛兵の詰所より連絡があり、<オーガキラー>のメンバー3人がFランクの女性冒険者1名に迷惑行為を働いた挙句、返り討ちに会い衛兵の詰所に連れて行かれたそうです!」
あのバカども!最近Dランクに昇格してからというもの、態度はデカいわ、他の連中にケンカを売るわ、ロクでもない対応ばかりでギルドマスターとしても制裁発動を検討していたところだ。ただ、冒険者同士の諍いだし、ギルドが表立って出ることはないか。
「その上、<オーガキラー>のリーダー、ドンガがキレてその冒険者に決闘を挑むとギルドを飛び出して行ったと・・・」
「バカがっ!」
俺はすぐさま席を立ち、ギルドを後にする。
さすがに決闘などとばかげたことは止めないと。まして相手はFランクの女性冒険者1人。
・・・Fランクの女性冒険者1人だと? まさか・・・先日登録したばかりのポンコツそうな女騎士っぽいヤツか!?
大通りを走って行くと、そこにはすでにぶっ倒されていたドンガが。そして衛兵と話していた1人の女性冒険者。
衛兵が話しかけて来るが、半分も耳に入ってこない。
まさか、こんなひ弱そうな女騎士っぽいやつが
ドンガを倒す?
「うむ、それでかまわぬ」
とにかくギルドに戻って話を聞かない事には埒があかぬ。
ギルドに入ってからもきょろきょろと落ち着かない女性冒険者に、明らかに不審なものを感じる。とにかくカウンターに座ってもらい話を聞くことにしよう。
「フム・・・、イリーナ。Fランク冒険者か・・・」
やはりこの前登録したばかりのやつじゃないか。
どう考えても<オーガキラー>の連中を倒せる実力があるように思えない。
騒ぎの理由を聞けば、<オーガキラー>の連中に非のある話ばかり。騒ぎ自体に問題はないのだが・・・。
「なるほど・・・あの連中には厳しい措置が必要だな。それにしても君一人でよくあの5人を退けられたな。特に3人を相手にしたのもそうだが、<オーガキラー>のリーダーである斧使いは戦闘力だけならCランクにも届こうかと言った実力だったが」
「まあ、なんとかなった」
目を泳がせながら言うイリーナ嬢。どうかしてるぜ、この娘。
「どうなんとかなったのだ?」
突っ込んで聞いてみたのだが、討伐した魔物の買い取りなどと抜かしてきおった。リュックにどれほどの討伐部位があるのか知らんが、見てやろうじゃないか・・・と思ったのだが、出るわ出るわ、まさかの収納魔法から山のような魔物が出てくる。この辺境では最強クラスのCランクモンスターまで。しかもとんでもない量だ。この女、どんな魔力をしているんだ!?もともと収納魔法の使い手など、ほとんどお目にかかれない。そして、収納魔法の要領は魔力量に比例するはず。とすれば・・・。
「というか、これ全てお前が倒したのか!?」
「え、ああ、倒した?かな」
「なぜに疑問形!?」
やっぱりこの女、ヘンだ。しまいには師匠の使いだとか言い始める。たとえモンスターを師匠とやらが討伐していたとしても、<オーガキラー>の連中を跳ね返したのはこの女のはずだ。
ここは俺の切り札を使おう。
俺には冒険者時代を支えた虎の子のスキルがある。
それが<魔探眼>と<魔計眼>である。
我が<魔探眼>は魔力を探すことが出来る。魔力の強さによりその魔力は明るさで判別できる。そのため迷宮探索などでは我が<魔探眼>により魔力を伴う罠などの発見や、魔力の強い魔獣の襲撃を察知することが出来た。我が冒険者としての実績を支えた正しく虎の子のスキルといえよう。
そして、あからさまに怪しいリュックを背負った女を<魔探眼>で調べた時だ。女の魔力はごくわずかしかなかった。それがどうだ、リュックに目を移した瞬間、
「ぐわわっ! 目がぁ!目がぁぁぁぁぁ!」
あまりの眩しさに目が眩むどころか、潰れるかと思った。
一体どれほどの魔力があればあれほどの輝きになるのか!?
以前この国の宮廷魔術師を<魔探眼>でサーチした時も「ああ、明るいな」程度の感覚だったのに。
「ど、どうしたのだ?」
イリーナという女冒険者が心配したのか俺に声を掛ける。どーなってんだよ!お前のリュックは!
「ぐうう・・・、なんだかとんでもねーな、ちくしょう」
こうなったら<魔計眼>を発動させてやる。これは魔力そのものを数値化して認識することが出来るスキルだ。<魔探眼>に比べると地味なイメージだが、魔力を数値化できることは案外有用なことが多い。明りで漠然と判別するのではなく、はっきり数値化することでわかることも多い。例えば魔力強度を測ることにより、罠の危険度を判別したり、魔道具の威力を推定できたりする。
ということで<魔計眼>を発動させたのだが・・・
「ブフォッ!」
鼻血が噴き出す!
「ご、ごごご53万だと・・・?」
じょろろろろ~
まさかの下半身がコントロール不能だ。ちくしょう!
我が<魔計眼>で捉えた魔力を数値で見た時に、大体一般人は1~5程度、冒険者で鍛えている者でも5~15あたりだ。
ちなみに目の前のイリーナ嬢は魔力数5だ。
魔術師のように魔力を常にフルで使用するような職業はさらに魔力が高い者がいる。30~50程度を示す者もいる。それ以上となると、そうざらにはいない。
過去100を超える者を確認したのは2名だけだ。
最高値は134、この王国の宮廷魔術師だ。
それがどうだ、このイリーナ嬢が背負っているリュックから感じられる魔力数は「53万」である。私は体の震えが止まらず、鼻血を吹き出し、下半身は粗相してしまった。
53万だぞ・・・、確認できた最高の宮廷魔術師ですら134なのに・・・。
一体何倍なのだ! 53万って! 凄すぎてピンとすら来ぬわ! 規格外にも程があるだろう!?程が!
一体、リュックの中に何を隠しているんだ!?コイツ・・・一体何を企む?
「師匠と言ったな・・・?本当に師匠がいるのか? 自分の力を隠しておきたいがための嘘ではないのか?」
このイリーナという女本人の力がまるでないように感じられる。そしてリュックからの化け物じみた魔力。一体何を隠しているのか?
ともすれば体の力という力が抜け落ちて倒れそうだが、倒れてしまうわけにはいかない。
「とんでもない!本当に師匠のヤーベ殿は実在している! 理由あって町にはなかなか来られない方だが、本当にすごい人なんだ!」
何だよ師匠って?何の設定なんだ? それともそのリュックの中に師匠とやらがいるのか? いっそリュックの中を見せろと言うか・・・、いや、それはヤバすぎる気がする。長年生き抜いて来たギルドマスターとしてのカンが囁いている!あのリュックの中身はヤバいと!
「・・・ならば連れてこい!今すぐだ!師匠とやらを連れてくれば信用してやる!できなかったときはお前の秘密を喋ってもらうぞ!」
どうせ明かせないからこそ、師匠という架空の存在をアピールしているのだろう。
ギルドを飛び出て行くイリーナ嬢を見送りながら、俺は心を落ち着けるように深呼吸を繰り返した。
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(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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