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投稿250話達成記念その2 リーナ、初めてのおつかい(裏)

前回の「リーナ、初めてのおつかい」のヤーベ側から見たお話です。これで、全体の流れがわかるかと思います。

また、ブックマーク追加や感想誠にありがとうございます!

大変励みになります。

今後もコツコツ更新して参りますのでよろしくお願い致します!


ヤーベの執務室。


豪華なデスクに両肘を乗せ、組んだ両手で顔を隠すように座っているヤーベ。

傍から見れば、非常に重要な用件をこれから伝えようかといった雰囲気だ。


そのせいか、集められた奥さんズの面々にも多少緊張の色が見えた。


「で、ヤーベよ。我々を呼んでどうしたのだ?」

「何か御用がありましたか?」


イリーナとルシーナがヤーベに問いかける。

サリーナとフィレオンティーナも黙ってヤーベを見つめた。


「非常にインポータントなミッションを発動する・・・。このミッションに失敗は許されない」


厳かにヤーベは告げた。


「ちょっと何を言っているのかわからないのだが?」


素直にイリーナが首を傾げる。


「リーナのご主人様断ちの修行の一環として、一人でコルーナ辺境伯家までおつかいに行かせる・・・、そう、たった一人でだ!」


いきなり椅子から立ち上がって右手の拳を振り上げ、そう宣言するヤーベ。無駄にテンションが高い。


「えっと・・・つまり、リーナちゃんに一人でコルーナ辺境伯家までおつかいに行ってもらう、と?」


フィレオンティーナが要約して確認する。


「そうだ!たった一人でだ!」


一人を強調するヤーベ。


「おつかいですが、何を申し付けるおつもりですか?」


「俺が焼いたお手製のクッキーをメーリングメイド長にお裾分けと言って届けてもらうという非常に難解なミッションだ」


フィレオンティーナの問いにヤーベが目をギラリと光らせながら回答した。

フィレオンティーナはどこが難解なミッションなのか全く理解できなかったが。


「・・・それくらい問題ないのではないか? リーナはしっかりしているしな」


「そうですね、私の実家は歩いてもそんなに遠くないですし。道も大通りを歩けば迷わないでしょう」


イリーナにルシーナがどこに問題があるのかと言った表情で応じる。


「甘―い! ホットケーキに蜂蜜2リットルぶっかけてその後アイスをてんこ盛りにトッピングしたくらい甘い!」


やたらと美味しそうな例えでイリーナとルシーナの反応を切って捨てるヤーベ。


「随分美味しそうな甘さだね・・・」


苦笑しながらサリーナが呟く。


「きっとリーナの優しさなら、迷子で泣いている子供を見つければ、クッキーを分け与えて慰めてしまうかもしれない! それにリーナの可愛さなら変態紳士が現れてリーナを攫って行こうとするかもしれん!」


ダンッ!とデスクに両拳を打ち付けて絶叫するヤーベ。


「いやいや、ここは貴族街だぞ? ヤーベ」

「そうですよ、そんな迷子も変態も出ませんって」

「ちなみにはぐれ狼とかも出ませんわ、あしからず」

「まあ、安全って事だね!」


イリーナ、ルシーナ、フィレオンティーナの言葉にサリーナが太鼓判を押す。


「・・・まあいい、リーナの成長を陰ながら応援する事にしよう」


そう言ってチリンチリンとベルを鳴らすヤーベ。


コンコン、とノックの音がする。


「入ってくれ」


「お呼びでしょうか?旦那様」


入って来たのはこの屋敷のメイド長であるリンダであった。


「このクッキーの入ったバスケットを渡しておく。後は手筈通りに」


「了解致しました」


バスケットを受け取り、恭しく礼をしてリンダが退室する。


「獅子は可愛い我が子を千尋の谷に落として這い上がるのを見守ると言う。我らもリーナに苦難を与えその成長を見守るとしよう!」


「苦難って・・・」


ヤーベのテンションにイリーナの呟きはかき消された。




「リーナちゃん、これ、メーリングさんにちゃんと渡してね?」


「了解なのでしゅ!」


玄関先でリンダから説明を受け、クッキーの入ったバスケットを受け取るリーナ。


「行ってきましゅ!」


「気を付けてね~」


リンダの見送りに手を振り、玄関を出ていくリーナ。

次の瞬間、ヤーベが玄関の隙間に張り付き、リーナの後姿を見守っていた。


「きゃ、だ、旦那様」


びっくりするリンダ。

だが、次の瞬間奥さんズの面々も玄関の隙間から覗くヤーベの頭に重なる様に玄関にへばりついて行く。リンダが地球の人間だったらこう呟くだろう。

「トーテムポールみたい」

と。



とて とて とて ドテッ



いきなり転んでしまうリーナ。バスケットも転がってしまう。


「リ、リーナァァァァァァァァァァ!」


いきなり飛び出そうとするヤーベを奥さんズの面々が押し止める。


「ダメだって!」

「いきなり出て行ったら一人でおつかいになりませんよ?」


イリーナとルシーナにダメ出しされるヤーベ。


「ぐむむ・・・」


ヤーベが冷静な第三者であったらきっとこう言うだろう。

「お前もぐむむって言うんかい!」

と。


だが、リーナは一人で起き上がると、服の埃を払い、バスケットをもって再び歩き出した。


「えらいぞ!リーナよ!さすが我が娘だ!お前なら出来ると信じていたぞ!」


感極まって泣くヤーベを見ながらイリーナが首を傾げる。


「・・・いつからリーナはヤーベの娘になったんだ?」

「奴隷とご主人様という関係ではありませんね」


イリーナの疑問に笑ってルシーナも返した。

リーナはすでに家族の一員のようなものであった。

それを誰もが感じ取っていた。


ピィィィィ!


「お呼びですか、ボス」


ヤーベの口笛に風の様にローガが推参する。


「俺を乗せてリーナの後をつけてくれ。気取られるなよ?」


「ははっ!」


奥さんズの面々しかいないため、普通に会話するローガ。狼牙族はローガを筆頭にどんどん賢くなって恐ろしい事になっていた。


「それでは行って来る。俺の頭と、ヒヨコ隊長、それからヒヨコ十将軍のクルセーダーにもライブカメラ・・・じゃなくて、出張用ボスを持たせておくから。その出張用ボスが見ている映像は俺の執務室で確認できるようにしてある。リーナが無事おつかいを果たせるよう祈っていてくれ!」


そう言うとローガに合図をして飛び出して行くヤーベ。


「・・・過保護すぎないだろうか?」

「まあ、映像があるならそれを見ていましょうか」


イリーナの若干呆れた様な反応に、フィレオンティーナが執務室へとりあえず行こうと踵を返すのであった。



屋敷を出て大通りを目指して歩いて行くリーナ。

ちゃんとヤーベの教えた「道路の真ん中は馬車が走ったりして危ないから道路の隅を歩くように」という教えをきちんと守っているようだった。


「うむうむ、きちんと理解しているな」


建物の屋根の上からローガに跨ったままリーナを見下ろしているヤーベ。


「ボス、人の姿では些か目立ってしまうのでは?」


「おお、なるほど。ローガよ、お前賢いな!」


「ははっ!お褒めに預かり恐悦至極!」


尻尾をブンブンと振って嬉しそうなローガ。

そしてヤーベはローガの背に乗ったままデローンMr.Ⅱの姿に変わる。

そのまま屋根伝いにリーナの尾行を開始するのであった。






「・・・どうしたでしゅか?大丈夫でしゅか?」


大通りを歩いていたリーナは、道端でしゃがんで泣いている子供を見つけた。


「迷子キタ―――――――!!」


約1km近く離れた場所から観察しているヤーベ。

その映像は拡大されて屋敷の執務室に送られている。


「・・・本当に迷子が出たぞ」

「ここ、貴族街のはずなんですが・・・」

「貴族街だと迷子が出ないんですか?」

「貴族の子供が一人で通りを歩いたりしないから・・・」


げっそりとしたイリーナを横目に、ルシーナの説明に疑問を挟んだサリーナは、さらにルシーナの回答に納得する。


「家族で近くのお店に来て、退屈になって子供だけ一人でお店を出てしまった・・・といったところですわね」

「そうでしょうね・・・移動も通常なら馬車でしょうから」


フィレオンティーナの想像をルシーナは肯定した。



泣いていた子供に話しかけていたリーナだったが、バスケットの中のクッキーを一つ取り出すと、泣いている子供に与えた。


「はい、これ食べるでしゅ!」


泣いていた子供はびっくりしたように顔を上げる。

とてもいい匂いのするクッキーが気になるのだろう、しげしげとクッキーを見つめる。


「一緒に食べるでしゅ。美味しいでしゅよ?」


リーナもクッキーを出して食べ出すと、泣いていた男の子もリーナからクッキーを受け取って食べだす。


「おいしい!」


「ご主人しゃまの作ってくれたクッキーは天下一品なのでしゅ!」


ドヤ顔のリーナは泣き止んで笑顔になった男の子にまたクッキーを渡した。

自分もクッキーを取り出して二人で仲良く並んではむはむと食べている。


「ぬおおおおお!リーナかわいいぃぃぃぃぃ!! それになんて優しい子なんだ! 泣いている男の子にクッキーを分け与えるとは! だがしかし!リーナに色目を使ったらその存在は危うくなると知れ!男の子よ!」


ヤーベはローガの上に乗ったままテンション爆上がりで感動している。


「・・・いや、お届け物のクッキーを食べてしまっていいのか?」

「・・・難しいところですね」


イリーナとルシーナが首を傾げながら悩む。


「あまり良くはありませんが、旦那様の事ですから。きっと手を打たれている事でしょう」


フィレオンティーナはニコニコしながら画面を見つめていた。




「レオパルド、センチュリオン」


『『ははっ!』』


「大至急部下を近隣の調査に向かわせて、あの迷子の男の子の親を探し出せ。多分子供がいなくなって慌てて探している可能性が高い。通りの場所を教えるのと、見つけたら俺が話すから出張ボスを預けているクルセーダーを行かせてくれ」


『『了解!』』


あっという間に飛び立つヒヨコ達。

そして親はすぐに見つかった。


「テッドちゃんどこに行っちゃったの!?」


キョロキョロと通りに出て周りを見回している母親。


『こんにちは!』


出張ボスを乗せたクルセーダーが母親の周りを飛んでいる。


「ええっ!? ヒヨコさんが喋っている?」


『ええ、大通りへ出て左に行ったところで男の子が泣いていましたので、保護しています。うちの子がとっておきのクッキーを分けてあげたので、今は泣き止んで落ち着いていますよ。早く迎えに行ってあげてください』


「あ、ありがとうございます、不思議なヒヨコさん!」


そう言って駆け出す母親。




「何であんな説明したんだ、ヤーベは?」


イリーナがまどろっこしいと首を傾げた。


「多分、リーナちゃんがクッキーを上げたからでしょう。知らない人から食べ物をもらうという行為は貴族からすれば一歩間違うと毒殺にも繋がりかねませんから。通常なら厳しく怒らなければならない可能性もありますし、リーナちゃんに文句を言う可能性もありますから」


「なるほど、だから先手を打って泣いている子供にクッキーを与えて落ち着かせたから大丈夫と説明を入れたのだな!さすがヤーベだ!」


フィレオンティーナの説明にイリーナが指をパチンと鳴らして納得した。


「テッドちゃん!テッドちゃんどこー?」


大通りに母親が到着した。


「まあ~、こんなところに居たのね? よかった。あら、クッキーもらったの? よかったわね。ありがとうね、お嬢さん」


「どういたしましてなのでしゅ」


母親に抱かれて手を振りながら帰って行く男の子。母親もリーナにお辞儀をしてお礼を伝えてくれたようだ。リーナも嬉しそうにしている。


「立派だ・・・立派だよリーナ・・・お父さんはもうお前に教える事は何もない・・・」


そう言ってローガの背に乗りながら号泣するヤーベ。


「ボスはいつからお父さんになったのですか・・・」


ローガは困惑していた。




チラリとバスケットの中身を確認して困ったような表情を浮かべたリーナだったが、再びコルーナ辺境伯家を目指して歩き出した。


しばらく歩き、次の交差点を曲がればコルーナ辺境伯家の通りに出られるところまで来た時だった。


ヒヒヒーン!


急にリーナに横づけするように一台の豪華な馬車が止まった。


バタン!


馬車からなんだか高そうな服を着たジジイが降りて来た。


「キュラシーア! お前は王都の全貴族の名前と顔を覚えていたな? あれは誰だ!」


ヤーベは肩に止まっているヒヨコ隊長の後ろに控える、序列八位の将軍キュラシーアに尋ねる。

このキュラシーアは王都にある貴族名鑑を熟読し、全貴族の名前と顔、爵位などを全て覚えたスーパーヒヨコであった。


『ははっ! イエスタッチ伯爵であります。メイドに小さな女の子ばかり採用することで有名であります』


「それ、もうアウトだな!」


ヤーベが勝手にアウト宣言をするが、状況は正にアウトと言ってよかった。


「おお、お嬢ちゃん! 一人歩きは危険じゃ! 馬車に乗せてやろう」


「目的地がすぐ近くなので大丈夫でしゅ。お気遣いありがとうなのでしゅ」


ぺこりとお辞儀をしてイエスタッチ伯爵を無視するリーナ。


知らない人にはついて行っちゃいけないって教えた事をちゃんと守っているリーナに、再び感極まるヤーベ。


「素晴らしい!リーナの成長ぶりは天元突破だ!」


すでにヤーベのテンションが天元突破しているとも言えなくもない状況に、モニター越しに多少引き気味の奥さんズの面々。


「・・・おいおい、危ない変態紳士まで出て来たぞ?」

「ヤーベ様があんなことを言うから、『ふらぐ』というものが立ってしまったのでしょうか?」


イリーナのやるせないツッコミに『ふらぐ』という単語で答えるルシーナ。


「あー、『ふらぐ』って奴は、恐ろしく強力だってヤーベさん言ってたな~」


サリーナがうんうんと頷く。

だが、『ふらぐ』が強力なのか、変態紳士は強硬手段に出ようとしていた。


「グフフフフ、生意気なガキだ! いいからこっちへ来い! 可愛がってやろうぞ!」


「お断りでしゅ!」


手を伸ばしてきた変態紳士をひらりと躱して走り出すリーナ。


「逃がさんぞ!ワシを誰だと思っておる!お前達そいつを捕まえろ!」


「「へい!」」


リーナを追って捕まえようとする変態紳士と部下の男二人。




「テメエらの血は何色だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ドギューン!ドギューン!ドギューン!


スライム的狙撃術(スライフル)>で非殺傷弾をぶち込むヤーベ。

山での薬草採取や鉱物採取の時にゴムに似た材料を手に入れたので、テスト用で作っていた物を容赦なくぶちかました。


ダダダダダダダダダ!!


その後馬車にしこたま弾丸をぶち込んで破壊し、馬の連結部も破壊してしまう。

驚いて逃げてしまう馬二頭。


「・・・いいんですか?」


「あの逃げた馬が迷惑をかけたら、イエスタッチ伯爵のせいだな」


すでに頭から煙を上げて倒れているイエスタッチ伯爵と部下二名を見ながらそんなことをさらりと宣うヤーベ。

ちなみに、体の一部をラッパの様に伸ばし、遠くの音をピンポイントで聞く<スライム的収音術(スライミミ)>で会話を聞いていたため、ヤーベの怒りはひとしおだったようだ。


「大体、イエスタッチとかいう名前がダメだな。ノータッチでなければ紳士とは言えん。キュラシーア、あの変態の家を調査して報告書を纏めろ。内容によっては王に報告(告げ口)する。


『ははっ!』




「・・・おいおい、ホントに出たぞ・・・変態」

「ヤーベ様の『ふらぐ』は神がかり的ですね」


イリーナとルシーナが嘆息する。


「・・・ねえ、ヒヨコに報告書纏めろって言ってたけど・・・?」

「・・・ヒヨコは随分と頭が良いようですわね・・・」


ヒヨコに報告書をまとめさせようとしているヤーベにドン引きするサリーナとフィレオンティーナ。あまりのヒヨコ使いの荒さに驚きを禁じ得ない。




走って逃げたリーナは振り返って変態紳士たちが倒れて動かず、馬車がなぜか木端微塵になっているのを見て、安心して歩き出した。

そしてコルーナ辺境伯家の門まで無事到達する。


「こんにちはでしゅ。スライム伯爵のお使いでメーリングメイド長しゃまにお届けものでしゅ」


シュタッと敬礼して挨拶するリーナ。


「はいこんにちは、ご苦労様です。入っていいですよ。玄関でノックしてくださいね」


「了解なのでしゅ!」


門番に許可をもらい、バスケットを抱えて玄関まで歩いて行くリーナ。


「く~~~~! やっと無事にここまで来れたんだ! 後ちょっとだぞ!」


ローガの上に乗っかったまま、デローンMr.Ⅱの体でぐにょぐにょ暴れながら応援するヤーベ。カメラはヤーベの頭のものではなく、その後ろにいるヒヨコ隊長の頭に乗せているカメラの映像が流れているため、奥さんズの面々はヤーベが暴れながらリーナを応援している姿を見ていた。


「あーあ、すっかり娘を応援するお父さんですわねぇ・・・」


フィレオンティーナが溜息を吐きながらも温かく見守っていた。


「これで本当に自分の娘でも生まれたら、どれほど可愛がってしまうんだろうな?」


何気ないイリーナの一言に、一斉に引きつった笑いを見せる奥さんズの面々。


「リーナちゃんでしっかり練習してもらいましょう・・・」

「ああ、それがいいな」


ルシーナの発言に頷く一同。


「何人生まれても変わらない気もしますわね・・・」


フィレオンティーナだけはヤーベのテンションが変わらないだろうと予測した。




リーナは玄関のドアノッカーを叩きたいようだったが、若干高い位置にあり、リーナが背伸びをして叩くため、足元にバスケットを置いた。


「(今だ!)」


亜空間圧縮収納から新しいバスケットを取り出して触手を超高速で伸ばし、リーナの足元に置いてあるバスケットと入れ替える。


「よし!」


回収したバスケットの中身を確認する。

クッキーが半分くらいに減っていた。


「だいぶ食べたんだな」


ヤーベはクスッと笑うと、クッキーを一枚掴んで、自分で食べた。


「うん、うまいね」


「ボス、我も一つ頂きたいですぞ!」


『『出来ましたら我らも!』』


ローガもヒヨコたちもおねだりしてきたので、ヤーベはローガの口に頬り込んでやり、ヒヨコ達には一枚ずつ口に咥えさせてやった。


「ああ!うまそうにクッキーを食べているぞ!」

「羨ましいです!」


イリーナとルシーナがクッキーをもしゃもしゃ食べているヤーベ達を見て憤る。


ポンポンッ!


映写していた受信用出張用ボスから、リーナが持っていたバスケットと全く同じ物が二つ飛び出てきた。


「食べていいよ」


画面の向こうでヤーベが触手を振って合図していた。


「ふふ、やっぱり旦那様は同じものをたくさん用意していたのですね」


「どういうことだ?」


フィレオンティーナの微笑みにイリーナが尋ねた。


「リーナちゃんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということですわ」


バスケットからクッキーを取り出すと、にっこりと微笑みながら一口食べるフィレオンティーナ。


「なるほど!最初から何かあった時のために予備をたくさん用意してあったのか!」


手をポンッと叩くと腑に落ちたのか笑顔でクッキーを漁り出すイリーナ。

ルシーナとサリーナもクッキーに手を伸ばす。


コンコン。


「誰だ?」


ノックの音にイリーナが答えた。


「リンダです。よろしければお茶をお持ち致しましょうか?」


執務室の扉を開けることなく、そう告げるリンダに、クッキーを食べる手が止まる奥さんズの面々。


「・・・よろしく頼む」


イリーナが返事を伝える。


「畏まりました。すぐに準備致しますのでしばらくお待ちくださいませ」


そう言って扉から離れていくリンダ。


「・・・優秀なメイドですわね・・・」


フィレオンティーナが溜息を吐いた。


「なんでわかったのでしょうか?」


「多分、元々リンダメイド長からリーナちゃんにおつかいを頼んでいましたから、旦那様がクッキーの予備をたくさん焼いている事も知っていたのでしょうね。無事にリーナちゃんがコルーナ辺境伯家へ到着する頃には、予備のクッキーもお役御免と言う事になりますから、そうすれば旦那様が余ったクッキーを私たちに食べさせることを想定していたのでしょう」


ルシーナの疑問にフィレオンティーナが推論を述べた。


「ふえ~~~、その気遣いすごく優秀!」


サリーナは舌を巻いた。


「さすがは元公爵家のメイドさんだな。頼りになる」


イリーナは笑った。




その後、コルーナ辺境伯家のメイド長であるメーリングにバスケットを渡し、クッキーがちょっと減った?と伝えたようだが、バスケットの中身はクッキーがぎっしり詰まっており、それを見たリーナは目を丸くして「魔法のバスケットでしゅ!」などと驚いていた。その後メーリングに誘われてゆっくりお茶とクッキーを堪能してからリーナは帰路につくのであった。


「・・・無事、家に帰るまでが遠足です!」


「・・・遠足ってなんですか? ボス」


ヤーベとローガがわけのわからない会話をしていたが、リーナ自身、帰りは何事も無く無事に屋敷に帰って来たのであった。


ヤーベが帰って来たリーナをギューっと抱きしめて頭をワシワシと撫でてやると、にへへーとものすごくいい笑顔を見せた。


「すごいな! リーナは一人でおつかいに行けたんだな!」


「えっへん! リーナは一人でおつかいにもいける大人の女なのでしゅ!」


ものすごくドヤ顔で腰に手を当ててふんぞり返るリーナにヤーベも奥さんズの面々も大笑いした。




ちなみに、リーナが戻ってきた後メイド長のリンダは元より、他のメイドや料理長、職人たちにもクッキーがぎっしり詰まったバスケットを配っていたヤーベを見て、どれだけ予備を用意していたんだと苦笑する奥さんズの面々であった。


今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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