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閑話30 王国の内情

ブックマーク追加、感想、評価等誠にありがとうございます!

皆様の応援にとても感激しています! 本当に感謝です。

今後もコツコツ更新して参りますのでよろしくお願い致します!


2019/3/31 誤字脱字報告誠にありがとうございます。大変助かります!


「それでは、今後半年間は各領土が王国へ納める税の5%を旧リカオロスト公爵領の復興及び領地統括のために当てる事を了承する」


「「「「ははっ!」」」」


ヤーベ達がリカオローデンの救済作業に向かっている頃、王都バーロンでは国王ワーレンハイドを筆頭に上級貴族が集まり、今後の王国運営について話し合いを行っていた。


すでにプレジャー公爵家が取り潰され、その寄り子の貴族もいくつかまとめて潰すことが決定している。その上でさらにリカオロスト公爵の取り潰しが決定したため、王国領を統括する人員が足りなくなっていた。


「すでに旧リカオロスト公爵領全域及びコルーナ辺境伯領の一部及びその北西をスライム伯爵領として統括してもらうと連絡したわけだが・・・」


ワーレンハイド国王は諸侯を見回す。


「本当に大丈夫なんですかね? この前まで貴族でもなかった素人ですよ?」


フレアルト侯爵がスライム伯爵の個人資質に疑問を投げかける。


「ははは、大丈夫な訳なかろうよ。素人であるスライム伯に魔の森の開拓はともかく、旧リカオロスト公爵領の統治などすぐにできようはずも無かろう」


今や唯一となってしまった公爵家であるドライセン公爵が笑い飛ばす。


「おいおい、じゃあどうなるんだよ? 旧リカオロスト公爵領の統治は?」


心配そうにフレアルト侯爵が問いかける。


「心配いらぬよ。プレジャー公爵家と違って、リカオロスト公爵家はその部下たちは非常に優秀な者達が多い。リカオロスト公爵の狂気が止められなかっただけで、内政自体に大きな問題があったわけではない。税が比較的重くリカオロスト公爵家に金が集まり気味だったことを改善すれば、それほどスライム伯が新たにかじ取りする必要はないのだ」


宰相ルベルグがその内情を説明する。


「なんだ、誰がやっても同じなんじゃないか。それなら俺でもよかったのに」


フレアルト侯爵は腕を組んで毒づいた。


「はっはっは、お主では役者不足だよ。『救国の英雄』であり、リカオロスト公爵の反逆を止めた男であり、何よりすでに被災したリカオローデンの復旧に向かっている。これほど人望を集める男は他におらんだろうよ」


ドライセン公爵が笑い飛ばす。


「そうだな。自分たちの主が王国反逆という、最大の犯罪を犯したのだ。連座が適用されて部下である自分たちも処断されてもおかしくない中、その主を打ち破り、王国を守った英雄が自分たちの領土を守るためにやってくる。そしてその英雄を支えるために働くのであれば部下たちの罪は問わない。これほどの条件に首を縦に振らぬものなどおらぬだろうよ」


キルエ侯爵は腕を組み、目を瞑ったままフレアルト侯爵に言い聞かせるように説明を続けた。


「ふんっ」


拗ねたようにそっぽを向いて足を組みなおすフレアルト侯爵。

侯爵の中ではキルエ侯爵についで若い男であり、父親の急死により急遽後を継いだ長男という意味からもまだ侯爵当主として二年も経っていなかった。


「ふふふ、王国領を任されるという意味では、一日の長があるとはいえ、お前さんもまだまだ若造の域だ。スライム伯と切磋琢磨して王国領土を発展させてくれねば困るぞ?」


侯爵の中では最も年を取っているエルサーパ侯爵が笑いながらフレアルト侯爵に話しかけた。


「誰があんなポッと出の男と切磋琢磨するか!」


あっさり激昂するフレアルト侯爵に、諸侯の面々はまだまだ若いと嘆息気味だ。


「実際のところ、実務は部下に任せれば問題ないとはいえ、突拍子もない事を思いついて我々を驚かせてくれるのではと楽しみにしているのですがね」


宮廷魔術師長であるブリッツが笑った。


「ほう、お主もか」


宰相ルベルクも同じように笑う。


「くくっ! なんだ、そちらも同じような事を考えておったか」


愉快そうにワーレンハイド国王までもが笑う。


「どういうことです?」


怪訝な顔のフレアルト侯爵に代わり、ドルミア侯爵がワーレンハイド国王に尋ねた。


「考えてもみよ、『救国の英雄』ヤーベ卿はどれほどの成果をこれまでに上げて来ておると思っておるのだ? 圧倒的な戦闘力による敵討伐だけではない。先日の精霊王スライム神様の降臨にも驚いたが、信じられないほど美味しいスイーツのメニュー開発もそうだし、『アローベ商会』で販売され始めている見たことも無いような道具や武具や食材の数々、そういった素晴らしい発想が領土運営でも生かされるのではないか・・・と期待しておるのだよ」


ワーレンハイド国王は嬉しそうに笑いながら説明した。


「すでに娯楽遊戯アイテムとして、ゴールド オア シルバーなるボードゲームが流行っているようですな。アローベ商会から販売製造委託の一部を受けたスペルシオ商会がある程度の数を販売したことによって急速に王都内に広がっているようです。単純なルールながら、奥深い戦略性があるとかで、商人たちの間でも爆発的に人気が高まっております」


「ほう!」


宰相ルベルクの説明にワーレンハイド国王も感嘆の響きを漏らす。


「庶民の娯楽など少なかったですからな」


「貴族向けには金と銀を使用した高級駒を使用した物を、平民向けには樫の木を削って磨いた駒に色を塗って作った物を販売しているようです。価格差がありますが、樫の木を削って作った物の方は価格を抑えて平民たちでも気軽に購入できるようにしているようです」


「さすがはヤーベ卿だな。同じものでも貴族向けと庶民向けに分けるとは」


宮廷魔術師長のブリッツが唸る。


「そう言えば・・・王家にも一つ上納されておるな。なんでもアダマンタイトとミスリルを使った、この世に二つとない代物だとか・・・」


ぼそりと呟いたワーレンハイド国王に一同が目を剥く。


「な、なんですと!」

「ミスリルとアダマンタイトを使った駒!?」

「いやはや、ぜひこのような駒でゲームを楽しんでみたいものですな!」


すっかり一同が盛り上がってしまい、しまったという表情のワーレンハイド国王。

ミスリルも貴重ではあるが、アダマンタイトはミスリルをも上回る強度を誇る金属の一種でまるで黒曜石のように黒光りするのが一つの特徴であった。そのような希少な金属で出来たゲーム駒である。やってみたいと盛り上がるのも仕方のない事であろう。


「そう言えば、三頭黄金竜スリーヘッドゴールデンドラゴンの皮で作るバッグや防具はいつ販売になるのでしょうな?」


盛り上がる諸侯をけん制する意味も込めて、宰相ルベルクが話題転換を図る。


「販売予約の正式な受付もまだのようでしたが・・・」


タルバリ伯爵が現状を説明する。タルバリ伯爵も三頭黄金竜スリーヘッドゴールデンドラゴンの皮で作る鎧と盾が欲しくて早く予約をしたいのだが、商会はまだ予約も受け付けていない状態であった。


「だが、調味料や食料の販売は増えておりましたな。特にカソの村産の『奇跡の野菜』はバカ売れしているようでしたな。店頭に並ぶや否や飛ぶように売れて売り切れるとか」


「カソの村から王都へはかなりの距離がありますからな。今まではピクルスなど加工した物の販売に留まっていたようですが、アローベ商会が新鮮な野菜を仕入れてきたとのことで、他の商会は戦々恐々としておりましたよ」


ルーベンゲルグ伯爵がアローベ商会に顔を出した時の様子を語れば、その情報を仕入れていた宰相ルベルクが補足する。


「まあ、あの御仁の事だ。王都周りの農家が全滅するような販売の仕方はせぬだろうよ。せいぜい高級志向のレストランなどが高値でも飛びつく程度の量に抑えてくれるだろうさ」


ワーレンハイド国王はヤーベの販売方針について楽観視していた。


「そう言えば・・・先日我が家の食卓に並んだサラダに「マヨネーズ」なる調味料が用いられておりましたが、これが絶品でしたな。アローベ商会の新製品はすぐ試すように申し伝えておいて正解でしたよ」


キルエ侯爵が嬉しそうに話す。


「まよねいず、とな? それはいかな物なのかな?」


エルサーパ侯爵が興味津々で前のめりに聞いて来た。


「そうですね・・・、白っぽいクリーム状の調味料で、何に掛けてもおいしくなる魔法の調味料・・・といったところでしょうかな」


「なんと!魔法の調味料・・・!?」


「本当に魔法が掛かっているわけではありませんぞ? 何に掛けてもおいしくなるので、魔法のようなイメージがあるという話でありますから」


「なるほど・・・それは是非とも購入してみなければ・・・」


あまりの食いつきに慌てて説明を追加するキルエ侯爵。だが、エルサーパ侯爵はもうマヨネーズに心を奪われているようだ。


「そう言えば、僅かばかりだが『蜂蜜』も販売を始めたようだな」


「「えっ!? あの蜂蜜ですか!?」」


ワーレンハイド国王の何気ない一言に食いついたのはフレアルト侯爵とコンデンス伯爵であった。二人とも大の甘党でホットケーキの信者と言っても過言ではない。


「うむ、先日王家に上納されて来た。まだまだ流通は希少ではあるが、アローベ商会で取り扱いを始めるとのことでな・・・」


二人のあまりの食いつきに若干引き気味に答えるワーレンハイド国王。


「あの甘味を我が屋敷でも味わえるとなれば・・・」


コンデンス伯爵が腕組みをしながら思案していると、宰相ルベルクがクギを刺す。


「何でも蜂蜜は僅か100gで金貨25枚という高級品らしいですぞ。しかも、それでも半年以上予約待ちだとか」


「ななな、なんですとっ!?」


絶望の表情を浮かべるコンデンス伯爵。


「そう考えると、東街にある喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>のホットケーキについているオプションの蜂蜜銀貨1枚というのは、随分と安く感じるな。あの店のためというよりは、庶民の楽しみのため、儲けなく出しているのであろうな。ヤーベ卿はどうやら庶民の味方のようだ」


快活に笑うワーレンハイド国王。


「くっ・・・! 蜂蜜ばかりは量が少ないんだ、貴族優先でもよかろうに・・・」


苦虫を噛み潰すように呪詛の呟きを放つフレアルト侯爵。


「はっはっは、英雄には程遠い感覚よの? 努々気を付けるが良いぞ? 『救国の英雄』殿が振り上げる断罪の剣は、常に敵を殲滅するが、その敵は『庶民』にとっての敵であろうからな。我らが庶民を蔑ろにする時は、その剣が我らに向けられると心せよ」


少しばかり冷ややかに告げるキルエ侯爵。尤もフレアルト侯爵が蜂蜜欲しさに本気で商会に圧力を掛けるとは思っていないのだが。


「わかってるよ・・・英雄サマは庶民の味方だからな・・・」


不貞腐れる様に椅子に沈み込むフレアルト侯爵を見ながらワーレンハイド国王が口を開く。


「何も庶民に限った事ではないだろう。我ら王国貴族も彼に救ってもらったのだからな」


そうにっこりと微笑むと、宰相ルベルクも追従する。


「そうですな。我らが国民を蔑ろにせず、安心して暮らせる国を運営している限りは、彼の御仁も我らに仇なす事無く、そのお力を貸して頂けるのでは、と思いますな」


「そういう意味でも、旧リカオロスト公爵領の人事は王国内政官のサポートも含めて迅速に行う事とする。魔の森の北西に関しては、コルーナ辺境伯、どのようにまとめるか?」


ワーレンハイド国王に意見を求められ、ここまで口を開かなかったコルーナ辺境伯が説明する。


「はっ! ヤーベ卿が住んでいたと思われる魔の森近くのカソの村は、ヤーベ卿の加護を得て急速に発展しております。そこで、このカソの村を我がコルーナ辺境伯領から切り離し、ヤーベ卿・・・スライム伯爵領の拠点として頂ければと思います。すでに我が部下のソレナリーニの町の代官であるナイセーが現在カソの村の代官代理を務めておりますが、急速な発展に伴い、彼の者より改革案や人材の確保の依頼が来ております。また、このカソの村の発展を自らの手で成し遂げて行きたいとの希望もありましたので、スライム伯爵家への家臣としての移動も認めるところであります」


「ほう、それほど急速に発展しておる村をスライム伯爵領へ変領すると?」


ドライセン公爵が不思議に思ったのか問いかけた。


「ええ、カソの村の急速な発展は私に一片も功績はありません。すべてヤーベ卿のなしえたことです。カソの村の住人もすでにヤーベ卿とスライム神様を崇める神殿まで立てております」


「そこまでとは・・・」


「それに、正直に申しまして、我がコルーナ辺境伯家としてもメリットが無いわけではありません」


「どういうことか?」


ドルミア侯爵が尋ねる。


「元々カソの村は魔の森に近く、魔獣の被害に晒され続けた村でもありました。そのため、魔の森の魔獣を討伐する戦力を常に維持せねばならず、開拓に力を注ぐことが難しい状況でした。そのカソの村から北西一帯をスライム伯の領土として管理してもらえるということは、魔の森の魔獣対策をお任せする事と同じことになります。魔獣対策を丸投げするのは心苦しいところでもありますが、スライム伯は狼牙族という高い戦闘力を誇る魔物を使役していることもあり、魔獣狩りが得意でもあります。そこで魔獣対策をお任せすることにより、我々は南西の肥沃な平原の開拓に全力で乗り出せるようになるのです」


これは、ワーレンハイド国王とも宰相ルベルクとも事前に打ち合わせしていた内容であった。魔獣の襲撃も意に介さないヤーベ卿を魔の森の開発担当に据えることが出来れば、コルーナ辺境伯家は南西の肥沃な平原の開拓に集中できるのである。バルバロイ王国としては、正に一石二鳥、最高の人材配置であった。魔の森は実際にヤーベ卿が手腕を振るい、旧リカオロスト公爵領の統治は救国の英雄という存在だけを生かして実質運営を今までの者達で賄う。ワーレンハイド国王はヤーベという存在を王国で最大級に生かし切る戦略を考え、実行したのであった。


「これにて会議を終了する。彼の御仁に無理な負荷や、やらせなければならないようなことは無いな?」


「はい。これまで通り、ヤーベ卿には自由に過ごして頂いて問題ありません。城への出仕義務はありませんし、旧リカオロスト公爵領の統治のために縛られることもありません。カソの村の防衛に関しましては、魔の森の魔獣退治、開墾と共に、スライム伯爵としての領土と説明しておけば、最低限の手を打たれる事と思いますので、報告だけ上げて頂くようすれば良いかと」


宰相ルベルクの言葉に大きく頷くワーレンハイド国王。


「それでは解散。今後ともよろしく頼む」


「「「ははっ!」」」


こうして、ヤーベの知らぬところでヤーベは王国最大の領土を誇る伯爵になったのであった。


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