第202話 己の才覚を頼りにノーチートを脱却しよう
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2019/4/26 誤字ご指摘誠にありがとうございます。
俺の名は矢部裕樹、多分28歳。ノーチート野郎である。
多分28歳だと思うのは、地球で社畜の様に働いていた頃の最後の記憶が28の時だからである。
異世界に来てゼロ歳からカウントすると、現状はとてもまずい事になるため、28歳で通そうと思う。精神的にもそれがいい。
ノーチート野郎と叫んでいるのは、この異世界に飛ばされた?呼ばれた?時に、神だか女神だかに会えなかったからだ。そして、スキルもチート能力も全くない。正しくノーチートである。
スキルとか、チートとかいうのは、ラノベによくある異世界へ飛ばされた人が神から貰えるハイパー能力の事だ。そして俺にはそのスキルだの、チートだのといった能力が全くなかったのである。そりゃそうだ、異世界に知らぬ間に放り出されたのに、神に会えなかったんだもんな。神から何の説明も無い。あまりにもヒドくないか?ノーチートだぞ!? ノーチート!
オノレカミメガ!って神様恨みたくなる俺の気持ちがこの異世界で誰にわかってもらえるだろう?
まして、気づいたらスライムだったからね!ホント、俺の心のバイブル「転〇ラ」が記憶に無かったら発狂して死んでいる自信があるぞ、全く。
今は夕暮れに近くなって、空が茜色に染まり始めている。
奥さんズとチェーダやミーアたちが夕飯の準備をしている。リーナも張り切ってお手伝いするつもりだったようだが、ミノ子たち(まだまだ子供の小っちゃいミノ娘たちが5人いる)に懐かれて、お姉さんぶって色々と教えているようだ。微笑ましいが、闇のなんとかとかは教えないで欲しい。
さて、ミル姉さんに赤ちゃんがいるとなると、この粗末な小屋しかないここでは衛生面で不安がある。城塞都市フェルベーンで30人以上のミノ娘達を住まわせるのはちょっと大変かもしれん。ここにミノ娘達の村を起こしてやるにしても時間がかかるしな。
手っ取り早いのは王都のデカイ屋敷にしばらく住まわせることだな。30人くらい大柄なミノ娘達が来ても大丈夫な部屋数や別宅がある。
だが、30人以上のミノ娘達を王都まで運ぶとなると、ローガの狼車でも乗り切れないし、時間もかかる。そんなわけで、別の移動方法を考えなければならない・・・ノーチートの俺が。
先日、イリーナが誘拐された時、ブチ切れてよく覚えていないが、俺は王都からリカオロスト公爵領まで「転移」してイリーナを助けに行くことが出来た。
つまり、俺は「転移」をマスターしたのだ。
だが、悲しいかな、しつこい様だが俺はノーチート野郎だ。スキルウィンドゥがブンッとか開いて、レベルとかスキル名とかが確認出来るようなことは無い。
だから、理論を構築して、唯一と言ってもいい、魔力エネルギーでスライム細胞を操る能力を生かして生き延びるしかなかった。
そのおかげか、理論で考えて出来そうだ、出来るかもと思いつくことは練習すれば何とかできるようになった。その中でも俺のイチオシ能力が、「亜空間圧縮収納」だ。
これはラノベのお約束チート、「無限収納」と呼ばれたりする能力に近いと思っている。
ついでに、俺の能力はありがたいことに鑑定して情報が取れるようになった。
これも魔力エネルギーの賜物だな、うん。
さて、俺が何でブツクサ独り言を呟いているかと言うとだな、今から新たな能力の開発実験を行おうと思っているのだ。
すでに、ヒヨコ隊長たちに協力してもらって、出張用ボスと呼ばれる俺の分身をいくつかの場所に置いて来てもらっている。
もともと、この出張用ボスというのはローガ達狼牙族が狩りに出かける時に、獲物を咥えて持って帰ってこなくてはならない面倒な状況を改善するために考え出したものだ。
カソの村近くの泉で生活していた頃はローガ達が各々口に咥えて持って帰って来た。獲物によっては血が垂れて転々と続いていたからな。ローガに至っては魔物がこちらにおびき寄せられるから楽でいいなどと抜かしおったので叱りつけてやった。安心して眠れないだろうが!
そんなわけで、こんな状況を旅に出た町先でやったら即事案発生だ。間違いなく衛兵沙汰である。
そこで俺が開発したのが「出張用ボス」だ。俺のスライム細胞を千切って俺の分身を作ったのだが、核をコピーしていないので自分で動くことが出来ない。このスライム細胞に与えた命令は「亜空間圧縮収納の出入り口になること」だ。ちゃんと収納を念じて獲物を「出張用ボス」の前に置けば亜空間圧縮収納へ回収される。ちなみに中に入っている物を把握していれば、取り出しを念じる事で「出張用ボス」から取り出すことが出来る。もっぱらローガ達は獲物を狩って収納する一方だけどな。
ちなみに、この「出張用ボス」今ではver.3までランクが上がっている。
最初のver.1は予定通り亜空間圧縮収納の機能のみだったのだが、ver.2ではそれに付け加えて通信機能を追加してある。魔力を込めて話しかければ俺に通じるのだ。こちらから話しかける時は魔力による念話の他に、スピーカーとしての役割を持たせて周りに聞こえる様に声を伝える事も出来る。
そして、ver.3だ。これは中々苦労した逸品だ。先日やっと完成した自分の意識を切り離したボディに残す「核のコピー」技術で作ったワンパンマンの劣化版と言ってもいいか。ver.3の出張用ボスにはカメラ機能が備わっているのだ。おかげで動くことは出来ないが、視覚情報を取ることは出来る。これは実に大きい。そして、位置検索もできるようになった。俺の<魔力感知>を超薄く広範囲に広げても、その俺の分身はちゃんと反応する。実際にはあまりやってないが、王都内なら「出張用ボス」がどこにいるかはわかるだろう。
ちなみに似たようなver.3機能を持つ物として、カッシーナに渡した髪留めと、ルシーナに渡したリングがある。指輪と言わずにリングと呼んでいるのは(意味は変わらないだろうけど)、石をつけていない、薄緑のシンプルなリングだからだが、なぜかルシーナはそのリングを左手の薬指につけて一時も外そうとしない。
そして、リングを意味深な目で見ながら大事そうに撫でるルシーナを見て他の奥さんズから大クレームが来たことは実に不本意だ。
結婚式までに、宝石とミスリルを加工した指輪を製作するつもりだと伝えたのだが、それはそれとして、俺の分身のリングが欲しいと口をそろえるので、現在製作中だ。別に時間がかかる物でもない、すぐにでも出来るのだが、それだとありがたみが無いかと思って少し待つよう伝えた。
それに、ルシーナと全く同じデザインでは外した時に区別がつかないだろう。と言っても、石の無いシンプルなリングにどれだけデザインを持たせられるのだろうか?俺にそんな才能はないが、思ったイメージ通りにスライム細胞が変化してくれるので、造形自体は問題ない。問題は俺のイメージ力だな。28年もモテて来なかったんだ。指輪のデザインをいくつも思いつくはずがない・・・。ちょっと後で誰かに相談するか。
さてさて、独り言が長くなったが。新たな世界の扉を開こうか。
俺が無意識で行った「転移」。これは亜空間圧縮収納を利用していると考える。
つまり・・・
現在、狩りに出かけるローガ達は王都の外で獲物を狩り、出張用ボスへ獲物を収納する。
俺本体は王都の中にいる。
そして、収納された獲物は即座に王都にいる俺が取り出すことが出来る。
これは、見方を考えれば、獲物が正しく空間移動、つまり「転移」していると言えないだろうか?
だが、亜空間圧縮収納へは生き物の収納を行って来なかった。あまりにも怖いしな。
しかし、それすら行わなくてもいい画期的な理論を構築した。
ヒントは22世紀の未来にあった。
チャララチャッチャチャ~ン! どこ〇もドア~!
俺は自分のスライム細胞で一枚ドアのような物を作った。
亜空間圧縮収納は生きている生物をしまう事が出来ない、それを前提としたとして、それならば、取り込まずに入口と出口を表裏一体、くっつけてしまえばどうか?
そこを通る存在は収納されることなく、出口へ直通すれば、それは正しく空間移動、つまり「転移」となるのでは?
と思って試したのがこのドアである。ぶっちゃけ、俺自身はドアが無くても意識下で入口を開けるけどね。
試しに念じるのはカソの村の外れの泉近くにある本神殿の二階にある、俺の自室に置かせた出張用ボスだ。
ドキドキ。緊張の一瞬だ。
ガチャリ!
俺はドアを開けて飛び込む!
「どわあっ!」
「ぐはっ!」
俺はいきなり誰かにぶつかった。
「村長?」
「あいたたた・・・って精霊神様!」
おや? 今までカソの村の村長は俺を精霊呼びだったはずだが、神様が付いてしまったぞ。
「おおお、私のお祈りが通じたのか、精霊神様が顕現なされたぞ!」
いきなりテンションフルマックスで騒ぎ出す村長。
ていうか、ここ俺の部屋だよね?
一階の祭壇でなく。
「村長何してんの?ここ俺の自室のはずだけど?」
「あ、いや、毎日のお祈りの時間でしてな」
「お祈りって、下に俺の木彫りの像置いてあるじゃん」
俺は首を捻る。
「木彫りの像はもちろんあるのですが、何と言ってもこちらに本物の精霊神様の分身を置かれる事に相成ったわけで・・・。ともすれば、こちらにもしっかりお祈りをと・・・」
「お祈りいらないから!これはそのための物じゃないから!」
「いやいやしかし、精霊神様の一部と聞き及んでおります。ともすれば、下の木彫りの像を撤去して、この精霊神様の神像を下にお祀りさせて頂きたく・・・」
「ダメ!お祀りダメ絶対!」
そこへバタバタと走って来る声がする。
「ヤーベか! 今の声はヤーベか!? 帰って来たのか!?」
「スライムさん来たのかなぁ?」
ノックも無くガチャリとドアを開けて走り込んできたのはカンタとチコであった。
「ヤーベ? ヤーベなのか?」
「う~ん、スライムさんだよ!間違いないよ!」
ああ、矢部裕樹の姿をしているからわからないのか。
「人の姿をしている時はこんなだよ? どうかな?」
「ヤーベはカッコよかったんだな!」
「スライムさん、かっこいい!」
フフフ、子供と言えどもちゃんと忖度する事を教育されているようだ。
この俺にカッコイイなどとお世辞が言えるようになっているとはな!
「あらあら、カンタ、チコ、お掃除放り出してどうしたの?」
そこへやって来たのは巫女さんの格好をした女性。
「あら、もしかして精霊神ヤーベ様でしょうか?」
「ええまあ、ヤーベですが・・・精霊神って?」
「ええと・・・王都でそのように宣言なされたとお伺いしておりますが・・・。3~4日前からでしょうか?すごい勢いで参拝する人々が増えまして。ちょっとしたパニックになるほど混雑しております」
「迷惑かかってた!」
そういや王都スイーツ大会でスラ神様降臨ってぶちかましたんだった。
もうこのカソの村の本神殿に人が集まっているとは。
恐るべしスラ神様パワー!!
「ご挨拶が遅くなりました精霊神ヤーベ様。僭越ではありますが、ご指名頂き巫女として働かせてもらっております、カンタとチコの母親でカンナと申します」
ぺこりとお辞儀するカンナさん。二人の子持ちとは思えないほど若く見える女性だ。
「あ、ドーモ。ヤーベです。神様やらせてもらってます」
こちらもぺこりと頭を下げる。
「やっぱヤーベだぜ! 神様だったから、なんか丁寧に話さないとダメとか言われたんだけど、やっぱヤーベとはこうでなくっちゃな!」
「うん!私もスライムさん好きー!」
カンタとチコが俺に抱きついてくる。
「コラ!神様に何てことしてるんですか!」
「こりゃ、ちゃんと精霊神様を敬わんか!」
カンナさんと村長が怒り出すが、すげー気まずい。自分の能力に理由をつけるために神と名乗ったけど、自称であり、詐称ともいう。なのに子供の方が怒られる。切ないぜ。
「いやいや、カンタとチコはこの世界に来て初めて会った人間ですからね! 特別な存在ですよ」
そう言ってカンタとチコの頭をワシワシしてやる。
カンタも褒められたガキ大将みたいやドヤ顔を見せ、チコちゃんはにぱっとヒマワリのような笑顔を見せた。
「精霊神様・・・」
カンナは少しばかり困った顔をしながらも、仕方ないわねぇ、と溜息を吐いた。
「ところで、夕飯はこれからかい?神殿閉められるなら、これからバーベキューやるんだけど、一緒に来るか?」
「行く行く!」
「行きた~い」
カンタとチコが諸手を上げて賛成する。
「あらあら、よろしいのですか?」
「ワシも行くぞい!」
「あ、ザイーデル婆さんとか呼んで来て。サリーナに会いたいだろうし。でも「転移の門」はあまり情報が広がってもらうと面倒だから、ザイーデル婆さんだけにしてもらうか」
「了解ですじゃ!精霊神様!」
そう言って元気に走って行くカソの村の村長。本当に元気だな。
そしてザイーデル婆さんがカソの村の奇跡の野菜を籠一杯に抱えながらやって来る。
「ホッホッホ、精霊神様ご無沙汰しておりますぞ」
「元気そうで何よりですよ」
そう言って握手する俺とザイーデル婆さん。
「それじゃ、バーベキュー会場へご案内~!」
俺は大手を振って「どこ〇もドア」を作り出す。
「出張用ボス」の前で直接空間を開かないのは、この「出張用ボス」自身に大きな力があると感づかれたくないからだ。あくまでも「転移の扉」は俺が持っていると認識しておいてもらいたいのだ。
ドビラをガチャリと開けてカンタとチコの背中を押してやる。
ふふふ、驚くかな?
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