第23話 町の門をくぐってみよう
台風としてはトップクラスの威力で上陸するというニュース情報でした。
どうぞ皆様も十分お気を付けください。
振り返れば、まだローガが血涙を流しながらお座りしている。
尻尾も全く振られていない。
ちょっと手を振ってやるか。
ローガよ2本足で立ち上がって前足を全力で振るのはやめなさい。
後遠吠えもやめなさい。旅人に警戒されるから。
さてさて、早速ソレナリーニの町に入るとしよう。
『ボス、町の入口に20人ほどの人間が並んでおります』
ヒヨコ隊長、ナイスな報告だ。出来る部下は違うね。
「イリーナ、早速町の入口に並ぶぞ。早く町に入ろうじゃないか。で、イリーナはこの町に何度か入っているだろ?お金いるのか?」
「いや、私は冒険者登録したから、たとえFランクでも町の出入りにはお金はかからぬよ」
それは良かった。
てか、イリーナってFランクなのね。たぶん、Fランクが最も低いんだろうな。うん。
それにしても、だいたいラノベのテンプレで初めての町訪問って何かトラブルが発生するパターンが多いよね。
だが、ここはヒヨコ隊長の調査により、亜人がほとんどいない人間ばかりの町と判明している。そして、ここにはイリーナとリュックに隠れた俺、そしてペットに見えるであろうヒヨコ隊長しかいない。くっくっく、弱そうなゴブリンだとかイチャモンを付けられたりしてケンカを売られる心配は皆無!テンプレは回避すべきものなのだ!(力説)
「ねーちゃんカワイイなぁ!」
「その辺でお茶でもせーへん?」
「お茶以外もいろいろしちゃおーぜ!」
ズドドッ!
俺は器用にもリュックの中でひっくり返った。
「わわっ!ヤーベ殿大丈夫か?」
こしょこしょと小さな声で俺の方に声を掛けてくるイリーナ。
リュックが大きく揺れたから心配をかけてしまったか。
それにしても町に入る前の審査待ちでナンパとか、あまりにも斜め右上すぎて予想すらしなかったわ!
「な、なななんだ、お前達・・・。私に構わないでくれないか?」
イリーナが明らかにビビッてオタオタしている。
・・・イリーナよ、君はこんな雑魚もあしらえないのかね。帰ったら地獄の特訓だな。
「おいおい、アレ、Dランクパーティ<オーガキラー>の連中じゃねーか?」
「マジかよ?相当タチ悪いって噂のか?」
「ああ、街中でも結構ヒデェらしいぜ」
「近寄りたくないなぁ」
「あの女の子も可哀そうに」
「冒険者なんて一人でやってるから・・・」
人々のコソコソ話が聞こえてくる。
リュックに入って直接視覚が使えなくとも、俺様にはぐるぐるエネルギー(笑)で鍛えた視覚強化と聴力強化がある。魔力ってとっても便利。
そしてコイツラは相当タチが悪い冒険者ってところだな。
Dランクの冒険者が調子に乗るってラノベでもテンプレだよな。
やっぱり多少結果が出てランクが上がっていい気になる頃合いなんだろうな。
そのうち男の1人がイリーナの手首を掴む。
「ほらほら!こんなことで並んでないであっちの森でイイコトしようぜ!」
ナンパちゃうやん! もう誘拐やないか~い!
おっと、思わずどこかの男爵チックに突っ込んでしまったぜ。
いずれ叙爵して貴族生活でも・・・いや、面倒が多いだけだな。
とりあえず、イリーナを連れて行こうなどと。
ならばこのスライムのヤーベ容赦せん!
バチィン!!
「ぐわっ!」
「な、なんだ?」
イリーナは何が起こったかわからないようだ。
これぞ必殺のスライム流戦闘術奥義<ライトニングボルト>だ!
原理は単純で「静電気」だ。だからこの電気は実は魔力ではなく静電気による物理的衝撃なんだよね!
ただ、静電気を起こしたのは俺のスライム細胞を魔力コントロールして使ったけどね。
プラス電荷とマイナス電荷をそれぞれスライム細胞に持たせ、高速振動を起こすと一瞬で数万ボルトの静電気を発生させることが出来た。
ちなみにこのスライムボディは雷耐性が強力で俺は全然痺れない。
アースコート代わりに被膜の如く薄く伸ばした俺の触手をイリーナの手首を掴んでいる男の手のひらに滑り込ませ、<ライトニングボルト>を喰らわせたのだ。
・・・<ライトニングボルト>ってカッコ良くない?(自画自賛)
もちろん俺の魔力でパワーを上げると間違いなく相手が黒焦げになる気がするから、威力はそれなりに抑えてある。
器用だねって?
ふふっ。泉の畔での生活は驚くほどヒマなのだよ。
どれだけ泉の周りに出てくるホーンラビットで<ライトニングボルト>の威力調節の練習したか・・・。まあ、ローガ達にはホーンラビットのご馳走がたくさん食べられて嬉しいって好評だったけどな。・・・ちなみに最初丸焦げになって完全に炭化してしまったので、『さすがにコレは食べられません』とローガに食事を拒否られてしまった。
その後も3回くらい炭になってしまったので、『さすがにコレは・・・』を3回喰らって俺は心の中で『さすコレ』と略すようになった。まあ俺の心の中だけの事だけど。ローガにさすコレって言っても伝わらんだろうし。
「こっ・・・このアマ!!」
ライトニングボルトを喰らって痺れてダメージを負った右手を左手で抑えたまま、激高する男。他の2名もそれぞれ武器に手をかけた。
うん、容赦不要と判断シマス。
ビッビッビッ!
僅か3発。
周りの連中は何が起こったのか全く分からず、ただ3人の男たちが眉間から血を吹いて倒れたのを見た。
ちなみにイリーナも何が起こったのかわからないで呆然としていた。
これも必殺のスライム流戦闘術<指弾>! ・・・指がないのに指弾とはコレ如何に。
まあ気にしないでくれたまえ。
どうせイリーナにも指弾と言う技だと説明して、イリーナが目にも止まらずやったことにするのだからな。
「うおっ!あのお嬢ちゃんすげえ!」
「<オーガキラー>の連中をぶっ倒しちまったぜ!」
「あんな可愛いのに腕利きか?」
周りの連中が騒ぎだしてしまったな。面倒なことにならなきゃいいが。
コイツらどうしよう?個人的にはあの森あたりに埋めてしまいたいが。
『ボス?ちょっと剣呑な感じですが悪い事考えてません?』
『おっ?何でバレた?』
『ボスはなんやかんやでイリーナ嬢の事大事にしてますからね。連れて行かれそうになって反撃したのはわかりますし、倒した後もまだオシオキが足りないって感じでしたよ』
と笑顔で言うヒヨコ隊長。
俺も気づかないうちにイリーナを大事に思ってるのかぁ。
ない気もするケド。
「こらあ、お前ら何を騒いでいる!」
どうやら門の衛兵が騒ぎを聞きつけて助っ人を呼んでこっちに来たようだ。
門の外にいた2名以外にもう一人増えて3人でこっちに向かってきた。
門はさらに別の2名が受付を担当しているようだな。
「ヤーベ殿、どどど、どうしよう・・・」
イリーナでは説明できまい(何せ全部俺がやったし)。手助けするか。
俺は触手を細く伸ばし、イリーナの左耳に差し込む。
「ひゃわっ!」
「こ、コラ!変な声を出すな」
思わず喋って突っ込んでしまう。
「ヤーベ殿ぉ・・・耳はぁ・・・耳はよわいのだ・・・」
(やめて・・・ヘンな気持ちになるから)
とりあえずイヤホンをイメージしてイリーナの耳にぶっ刺す。
『イリーナ、聞こえるか?』
「ひゃわわっ! ヤーベ殿の触手が私の耳を蹂躙して・・・くっお・・・ん?ヤーベ殿の声がはっきり聞こえるぞ?」
『イリーナ、俺の声をイリーナの耳に直接届けている。今俺の声が聞こえるのはイリーナだけだ』
「ヤ、ヤーベ殿の声が私だけに・・・くっ!なんて甘美な!こうして「私だけは特別だよっ」と私の気持ちを捉えて・・・くっ犯せ!」
『それは良いから。衛兵に尋ねられたら、俺の言う通りの事を繰り返して衛兵に言うんだ』
ぶっち切りでスルーして用件だけ伝える。妄想に突っ込んでいるヒマはない。もう衛兵は目の前だ。
「お前か、騒ぎを起こしているのは!」
『いや、違うな。騒ぎを起こしたのはコイツらだ』
「いや、違うな。騒ぎを起こしたのはコイツらだ」
「おいおい、3人とも眉間から血を吹き出してるじゃねーか。お嬢ちゃんがやったのか」
『そうだ。ここで町に入るために並んでいたのに、3人で私を拉致してそこの森に連れ込もうとしたのだ』
「そうだ。ここで町に入るために並んでいたのに、3人で私を拉致してそこの森に連れ込もうとしたのだ!」
俺の言葉を繰り返してるだけのはずなのに、自分が連れ込まれそうになったのを思い出したのか、怒気を含んで説明するイリーナ。怒る気持ちはわかるけどね。
『まさか身を守った事を咎めるわけではあるまいな?』
「まさか身を守った事を咎めるわけではあるまいな?」
衛兵を睨みながらセリフを言うイリーナ。いつの間にか腕組もしてるし、演技うまい?
「いや、そんなことを言うつもりはないが・・・」
その間に他の2名が周りの人たちに聞き取りをしているみたいだ。
概ね事実を皆伝えている。
・・・コイツらの評判が地に落ちていてよかったよ。
3人の衛兵が揃う。
「ああ、お嬢ちゃんの説明通りだ。問題ない。この3人は俺たちが詰所へ連れて行くよ。それにしてもお嬢ちゃん強いんだな?」
「ああ。この程度の奴ら、問題ない!」
ふんすっと腕を組んだまま胸を反らすイリーナ。
うおーい!誰がそんな事を言えと言った!?
「ちなみに、この3人をどうやって仕留めたんだ?正確に眉間に打ち込んでるみたいだが?」
「えっ? え、えと・・・気合?」
「何故に疑問形?」
「どうやってこんな攻撃を・・・」
「なんかすげぇ攻撃だよな? もしかして凄腕か?」
3人の衛兵に囲まれるように問いただされることに。
Fランクのポンコツ冒険者が凄腕なわけないでしょーに!
勝手な事喋るからこういう事になるんだよ、まったく。
よく見ればヒヨコ隊長も唖然としているようだ。
『冒険者の切り札はメシのタネでもある。詮索は些か無粋ではないか?』
「ぼっ、冒険者の切り札はメシのタネでもある。詮索は些か無粋ではないか?」
あたふたと答えるイリーナ。
「そりゃそうか、自分の手の内は簡単には明かさないわな。りょーかい」
「一応冒険者のギルドカードを見せてくれ」
『見せていいぞ』
「見せていいぞ」
「は?」
『アホか!お前が見せていいって口で言ってどうするんだ!ギルドカードを衛兵に見せるんだよ!』
「ああ!そうかそうか。うむ、これがギルドカードだ」
と言って胸元からギルドカードを取り出す。
「お、お前Fランクなのか!? その腕で? コイツらDランクパーティの5人の内の3人だぜ!」
『登録したばかりなのでな、誰でも最初はFランクからなのだろう?』
「登録したばかりなのでな、誰でも最初はFランクからなのだろう?」
『ついでにニヤッて笑え』
「ニヤッ」
口で言って笑うやつがいるか!
「ま、まあ確かに登録したてはFランクだろうけどよ・・・。まあいいや、この3人を捕縛して詰所に運ぶから、一緒に町に入りな。冒険者なら入街税も不要だしな。迷惑を被ったんだし、並んで待つ時間くらい短縮してやるよ」
「あ、ありがとう」
(や、やっと町に入れる・・・)
俺はリュックの中でぐったりした。
まさか、冒険者ギルドどころか、町にもまだ入れないとは・・・
書いていて、話が進まないなーと思う今日この頃です。
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(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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