第168話 その事情を汲んでみよう
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「どうぞお入りください」
宰相ルベルク殿の案内で大きな玄関扉を開けて元プレジャー公爵の邸宅へ入って行く。
非常に大きなエントランスだ。
「いらっしゃいませ、旦那様」
「「「「「いらっしゃいませ、旦那様」」」」」
「うおっ!」
いきなりの挨拶に驚いた。
中央には白髪にモノクルを装備した、ザ・執事といった執事服の老人が。
その後ろには30人はいるだろうか、メイド服の女性がずらりと並んでいる。
ザ・執事さんの挨拶の後に、一斉に挨拶してきたメイドさんたち。非常に若い声だと思ったのだが、よく見ればほとんどが若い女性ばかりだ。メイドさんと言えば、ベテランのおばちゃんがいてもおかしくない気がするが。
よく見れば、その後ろには白い衣服の料理人らしき人が数名。作業服を着た老人が数名。
「ん?」
さらによく見ると、メイドさんたちの表情が一様に暗い。
顔に傷がある者も多い。さらに片腕がない者までいる。これは・・・?
「よくお越しいただきました、ヤーベ・フォン・スライム伯爵様」
中央のザ・執事さんが俺に声を掛けて来る。
「お初にお目にかかります。私はセバスチュラ・イクウィットと申します。出来ましたら親しみを込めてセバスとお呼びいただければこれに勝る幸せはございません」
にっこりとして優雅に腰を折るセバスチュラ。おしい、セバスチャンではないのか・・・。
だが、愛称がセバスというのは実にポイントが高い。
「ヤーベ・フォン・スライム伯爵だ。後ろは奥さん達だ。それで・・・君たちは?」
「ヤーベ卿。実はこの邸宅を使用して頂きたい理由が彼女たちにあるのだ」
宰相ルベルク殿が改めて俺に伝えて来る。
「その先は私が説明致しましょう」
そう話を引き取ったのはセバスだった。
「私の後ろにいるこの者達は元プレジャー公爵家にお仕えしていたメイドたちや職人たちになります」
「ああ、元々プレジャー公爵家で仕事していたんだね。ならこの家の事もよくわかっているわけか」
俺は簡単な認識をした。元々この家で働いていたのだから、家の事がよくわかっているはず。ならば新規で雇うより即戦力だ。
「・・・実は、そういった話ではございません」
あれ?そうなの?
「この家の執事長は私の教え子でした・・・。ですが、その男はいかな理由があったとはいえ、執事としての領分を超え、プレジャー公爵に悪事の一端を担がされてしまったのです。それは自分の部下たちへの支配にも影響を及ぼしました」
目を伏せて辛そうに話すセバス。
「セバスチュラは唯一この家で働いていたわけではない。この家を切り盛りしてもらうために引退していたセバスチュラに依頼して来てもらったのだ。この家の執事長他数名はプレジャー公爵と共に捕縛されている」
セバスの身の上を説明してくれる宰相ルベルク。
「この者達は大半が虐待を受けたり、女性としてむごい仕打ちを受けた者、過酷な状況で仕事をさせられていた者達ばかりなのです」
「なっ・・・」
俺は言葉を失う。その表情が暗い物であった理由が分かったような気がした。
「そんなことが・・・」
「なんてひどい・・・」
イリーナにルシーナも言葉を失っている。
フィレオンティーナは怒りに身を震わせていた。
「プレジャー公爵家の人間だけでなく、すでに捕縛されていますが使用人の上位数人がメイドたちに酷い事をしていたようです」
説明をされているうちにますます俯き表情を暗くしていくメイドたち。
「・・・それで、俺に何を望む?」
「この邸宅でこの者達を雇って頂きたいのです。プレジャー公爵家の取り潰しにより、この者達は取り潰しの家で働いていたという負い目が出来たため、再就職が難しいのです。その上、虐待など酷い目にあっており、その能力が十全に発揮できない者もおり、ますます働き場所を探すのが難しいのです。ですが、恩給を手厚くするので仕事を止めたい者は去っても良いという話に、この者達は誰も頷きませんでした。働かねば生活がままならない者達ばかりなのです」
見れば顔に大きく傷を受けている女性もいれば左腕がない女性もいる。
あまり考えたくないが、プレジャーのクソ野郎どもが彼女たちに暴力を振るった結果だとすれば許せるものではない。
「ルベルク殿。プレジャー公爵の差し押さえた財産から彼女たちへの賠償金というか、治療金というか、そういったものは出ているのですか?」
「いえ・・・実際に誘拐されたりした家族への補償等は調査の上差し押さえた財産から支払われるのですが、彼ら身内の者達はその対象外となってしまうのです・・・」
「・・・・・・」
「そんな・・・酷い・・・」
サリーナが自分の事の様に悲しむ。
「わかった。ルベルク殿。この館にしよう。そして高そうな調度品が置いてあるが、それらは全て俺の物という事でいいのか?」
「ええ、建物内にある物は全てヤーベ殿に下賜されます」
「ならば、この建物内の調度品を全て売却してくれ。絵も机も何もかもだ」
「ええっ!?」
ルベルク殿が驚く。セバスもメイドたちもびっくりした顔をしている。
「その金を彼女たちに均等に分配してくれ。足りなければ俺もだそう。一生働かないでいいだけの金額を渡す。無理してこんな嫌な想い出の詰まった屋敷で働く必要はない」
「さすがヤーベだな!」
「はいっ!」
イリーナにルシーナも賛成してくれるようだ。
「あ、あのっ!」
控えていたメイドの一人が声を上げる。
「どうした?」
「で、出来ればここで働かせて頂けませんでしょうか!」
「え? どうしてだ? 君たちが働かなくても十分生活できるだけの金額を保証するが? 辛い目に合ったんだ。自分のやりたいことをやって生きて行く方がいいのではないか?」
無理して働かなくてもいいと思うんだけどな。
「ここでは確かに地獄のような想い出しかありません。なんども逃げようと思ったこともあります。今、この館の調度品を売って、私たちに一生働かなくてもいいお金を頂ける、と言ってくださいました。あのプレジャー公爵のような酷い貴族様と違って、英雄ヤーベ様はきっととても信用できる方だと思っております。そんな方の元で働きたいのです。傷で見目醜い者もおります。能力が十全に発揮できない者もおります。ですが、私たちにどうか居場所を与えては頂けませんでしょうか?精一杯働きますのでお願いできませんでしょうか?」
「「「「「お願い致します!」」」」」
全員が頭を下げる。すごいな。俺なら間違いなく一生遊んで暮らせるお金をもらったら働かない自信がある。
だが、そんな彼女たちはそれでもここで働かせてくれと言う。
ならば、俺もその彼女たちの想いに答えよう。信頼をもって彼女たちの居場所を作ろうじゃないか。
「わかった。ただ、無理する必要はない。辞めたい者はいるか? 十分な金額を渡すぞ」
だが、誰も手を上げない。そんなに全員ここで働きたいのか。ならばその期待に応えよう。
「そうか、ならば約束しよう。この屋敷でしっかり君たちに仕事をしてもらう。君たちが辛い思いをしてきた分を吹き飛ばして幸せな生活が出来るくらい俺も頑張らせてもらうよ。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願い致します!」
「「「「「よろしくお願い致します!」」」」」
メイドたちが涙を流して頭を下げて来る。後ろの料理人たちも職人たちも同じように頭を下げる。
そんなにつらい思いをしてきたのなら、この屋敷での生活はこれから逆に笑顔が絶えないものにしてやるぞ。まずはローガ達も交えて庭で大バーベキュー大会だな。
「この者達のまとめ役はぜひ私にお任せ下さい」
セバスが優雅に頭を下げて来る。
「もちろん。よろしく頼むよ」
俺は笑ってセバスに答えた。
とりあえず屋敷とここで働く使用人たちは確保できてしまったな。
ならば、王国にリフォームの我儘を一杯伝える事にしよう。
奥さんズの意見も一杯聞いてね!
「さあ、屋敷で働いてくれる人も決まった事だし、この屋敷に住むことを前提に、改良点や改造して欲しい場所をチェックして回るぞ~!」
「「「「「おお~」」」」」
奥さんズが元気よく返事をする。
「おお~でしゅ!」
リーナも遅れて元気よく返事をした。
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