第163話 すっかり見落としていた大ピンチを切り抜けよう
王城―――――
「ふおおっ!おっきな壺でしゅ! こっちにはおっきな絵でしゅ!」
リーナがきょろきょろしながら歩いている。
「いや、リーナ。それ前にもやったから。危ないからちゃんと歩きなさい」
そう言って手を握って歩く。
「了解なのでありましゅ!ご主人しゃま!」
何故か最近ちょっと軍人っぽい感じのリーナが出る時がある。ヒヨコ将軍の悪い影響でも受けているのだろうか?心配だ。
そしてイリーナよ。キィィィとか言って買ってやったハンカチをまた咥えて引っ張っているが、今度破っても新しく買ってやらないぞ。後、フィレオンティーナ。急にふらついても手を握って歩かないから、ちゃんと歩きなさい。
以前は前室に集まった後、それぞれ着替えに連れて行かれたが、今回はすでにドレスに着替えて準備万端でコルーナ辺境伯家から出発してきた。なんでも以前は俺が貴族ではなかったために王城で準備してくれたらしいのだが、すでに俺は子爵。貴族として王城に登城する場合はちゃんとした格好で準備した状態で来るのが正しいらしい。そう言えば男爵の時に子爵へ陞爵する謁見の時も俺とフィレオンティーナはコルーナ辺境伯家で着替えてちゃんとした格好で来たっけ。やれやれ、貴族とは面倒臭き生き物なり。
俺はと言えば、同じ服は少々ダサいらしいのだが、何せ二日前に着たばかりだ。その前は四日前だったし。そんなわけで、アクセントになるアクセサリーやポイントチーフだけ変更している。女性たちはさすがに同じというわけにもいかないらしく、四日前の謁見時とは違うドレスをあつらえている。フィレオンティーナに至っては三着目だ。まあ、一から作らせているのではなく、仕立て屋にあるドレスを手直して選んでいるから出来る芸当だけどな。結婚式となれば、お色直しのドレスを含めて一から作らなければならないだろうな。
・・・いくらかかるんだろ?
ゲルドンだけはフルアーマーだから鎧綺麗にするだけでよかったんだよね。
イリーナのドレスは薄いブルーでスカートを絞ったシルエットの出るタイプだ。
ルシーナとサリーナはそれぞれ薄めの黄色と緑のドレスでスカートがふわっとした可愛いタイプ。
さすがのフィレオンティーナは腰の括れと胸元を強調した薄紫の大人ドレス。
リーナも子供らしく可愛めの白いドレスを着させてもらった。ダークエルフとはいえ、リーナは肌の色がそれほど濃くないので白いドレスも健康的に見える。
すでに謁見の間には呼ばれた貴族たちがスタンバイOKらしい。
そして、俺は呼ばれて後から入るらしい。また全員がこっちを見るパターンだな。あれ、すごく緊張するからやめて欲しいのだが。
ちなみに、俺だけならその場にいて、呼ばれれば国王の前に出ればいいらしいのだが、今回は奥さんズとリーナも褒賞対象のため、後から謁見の間に入る運びとなった。
「あ、ゲルドン様、兜はお脱ぎになって脇に抱えて膝をつくようにお願いしますね」
「・・・え?」
・・・しまった―――――!!
ゲルドンはオーク顔だよ!!
てか、オークそのものだよ!
建前上使役獣だよ!しまった!扱いはローガ達と同じじゃん!
普通に会話してたから連れてきちゃったよ!どどど、どーしよう!?
「あ、か、兜脱ぐだか・・・?」
「ええ、国王様の前で兜をかぶったままなのは不敬に当たりますので」
ダラダラダラ~
今ゲルドンは滝の様に汗が流れている事だろう。
俺も気分はそうだ。
スライムだから汗かかないけど。
「お、おでの顔は相当へちゃむくれてるだで、こんな顔を国王様の前に晒すわけには・・・」
「何をおっしゃいます。英雄様の顔が傷だらけだろうと、そんなことを気にされるワーレンハイド国王ではありませんとも」
「あ・・・そうだか・・・」
うわ~、脱がないという選択肢はないのか。どうするか!?
ヤベー!久々やべちゃんヤッベー!!
急にゲルドンの顔をボコボコにして、こんなんなっちゃいました~って、ダメだな。
魔法!変身魔法・・・そんな都合のいい魔法覚えてねーよ!俺はノーチートなんだよ!
あ、あれで行こう!
『ゲルドン! 俺のスライム細胞でお前のマスクを大至急作るから、俺が合図したら兜を脱げ!』
『りょ、了解だで!助かっただで!』
久々、行くぞ!スライム流戦闘術究極奥義<勝利を運ぶもの>!
俺は見えない様に極細の触手をゲルドンに伸ばす。
足から伝ってゲルドンの顔まで来た触手を兜内で一気に広げる。
『おお、何かが顔に張り付いただよ。呼吸は大丈夫だべか?』
『目と鼻の部分だけ少し穴開けとくから、御意、とありがたき幸せ、以外喋らないようにな。口動かないからたくさん喋るとバレる恐れがある』
『アイアイサーだで』
『よし、いいぞ!』
俺の合図でゲルドンが兜を脱ぐ。
「ほうっ!どこがへちゃむくれなものですか、とてもイケメンではないですか。謙遜もそこまで来ると嫌みですぞ?」
そう言って案内役を務める男がゲルドンを褒める。
「え、おで色男だか?」
「貴方が色男でなかったら王都に色男はいないことになりますな」
『ヤーベ、おでそんなに色男にしてもらっただか?』
『えっ? 咄嗟だったからね、どんなイメージ・・・ぶほっ!』
振り返った俺は思わず噴き出した。
そして奥さんズは目が点になっている。
「ゲ、ゲルドン殿・・・随分と男前になったな・・・」
「え、ええ・・・そうですね・・・」
「う、うん・・・カッコイイね・・・」
「ふふっ、きっと貴族の令嬢方が放ってはおかないでしょう」
フィレオンティーナだけ楽しんでるな。ありゃ。
他のイリーナ、ルシーナ、サリーナはオークであるゲルドンの素顔を知っているからな。
今のイケメンからのギャップを知っているから、唖然としている。
慌てて作ったゲルドンの顔は、ラノベでいうところのイケメン王子様の顔だった。
それも完璧超人クラスの。
これ、素顔って言ったら問題でるよな・・・。でも見せてしまったからには今さら変えられん。
さらっと過ぎて誰の記憶に残らないことを祈ろう。
「ヤーベ子爵とその奥方、部下のゲルドン殿、入られます!」
荘厳な音楽隊のトランペットの音が響く。
こうやって入るのは三度目だが、何回やっても慣れないものだな。
俺は定位置で膝を付く。
俺の後ろにはイリーナたちも続いているはずだ。
「ヤーベ子爵、その奥方、そしてゲルドンよ。表を上げよ」
宰相ルベルクの声が響く。その案内に基づき、顔を上げた。
ワーレンハイド国王がにっこりとして玉座に座っている。
その右隣にはリヴァンダ王妃が美しいドレス姿で立っていた。
以前からも美しいとは思ったが、今回は淡い緑のドレスを纏っている。
非常に爽やかで落ち着いたイメージだ。
そしてその反対側、国王の左隣には薄いピンク色のドレスを纏ったカッシーナが立っていた。頬を染め、煌めき輝くような笑顔をこちらに向けている。
チラリと左右を見れば、若い貴族たちは完全にカッシーナ王女に見惚れているようだ。
「この度のプレジャー公爵による王都簒奪事件を未遂に防いだ功績、誠に大儀であった」
宰相ルベルクではなく、直接ワーレンハイド国王が立ち上がり声を掛ける。それほどまでにプレジャー公爵の謀反は重く受け止められているという事だ。
「プレジャー公爵とゴルドスターによる王都襲撃の計画では、場合によってはこの王都が壊滅しかねないような状況に追い込まれかねなかった。それを一人の犠牲者も出すことなく防ぎ切ったヤーベ子爵とその奥方達、部下のゲルドンには敬意を最大限表するものとする」
そして宰相ルベルクが拍手を打つと、その場にいる貴族たちにも雪崩を打つように拍手が広がって行った。
「ヤーベ子爵は本日をもって伯爵に陞爵するものとする。そして王都に伯爵家として家を持つことを許可する。この邸宅については別途宰相ルベルクより候補地を提示するので、その中から選んでくれ」
「謹んでありがたく」
そんなのいらねーとかマジで言えない状況だよ。カソの村の神殿マイホームも一晩過ごしただけだってのに、王都に邸宅だってさ。どうなってるの俺のスライム人生。
「また、ヤーベ伯爵の奥方達にも褒賞をとらす。ギガンテスを撃退したイリーナ嬢、ルシーナ嬢、サリーナ嬢には一代限りの騎士爵を、また雷撃サンダードラゴンとワイバーンの群れを退治した<竜殺し>でもあるゲルドン殿にも一代限りの騎士爵を授ける」
「「「「ははっ!ありがたき幸せ」」」」
朗々と宰相ルベルクの説明が続く。きっと奥さんズの騎士爵はどうせ俺の奥さんになるんだし意味無いよね、でも名誉だからいいよね、みたいなことだろうな。本当なら金貨の方がよっぽどありがたいぞ。
「ゲルドン殿と共に雷撃サンダードラゴンとワイバーンを仕留め、<竜殺し>となったフィレオンティーナ殿は一代限りではあるが男爵へ陞爵することとする」
ざわつく下位貴族たち。
一代限りとは言え、男爵を賜るのは相当なことなんだろうな。
フィレオンティーナほどの美女でも男爵というんだな。貴族位だから、女爵とか言わないか。
「リーナ殿にはヤーベ伯爵の使役獣であるローガ達が一万の魔物を殲滅した褒賞を代わりに受け取ってもらう。金貨にして2000枚になる。後で目録を渡すので受け取って欲しい」
「はいなのでしゅ!」
元気よく答えるリーナに謁見の間が少しほっこりした。
あーあ、何かいろいろもらったよ、メンドクサイ柵ばかり。
実質実があるのは家と金貨くらいか?
家なんて王都に縛りつけておくための鎖にしか見えないけどね。
謁見なんて早く終わってゆっくりしたいよ。
だが、俺の気持ちをスルーするかの如く、カッシーナが一歩前に出る。
えっ?もしかして、ここで何か言っちゃうの?
こっちへの相談なし?
勘弁して~~~~!
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