第115話 カッシーナ王女を守り切ろう
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また、今回は6000字オーバーと拙作としては長めです。お時間に余裕のある時にお楽しみください。
今後もコツコツ更新して参りますのでよろしくお願い致します!
『ぴよぴよぴよ~』
「うふふっ、貴方はとても人懐っこいですのね? ヤーベ様も貴方の様にいつも会いに来てくれればいいのに」
カッシーナ王女は自身がいつも籠っている塔の部屋で寛いでいた。
木製で出来た窓の扉を開き、窓の淵に留まっているヒヨコに指を指し出していた。
ヒヨコがその嘴でカッシーナの指先を突く。
「うふふっ、くすぐったいよ?」
ぴよぴよとカッシーナの指先を突きながら愛想を振りまき、周りを注意しているヒヨコ。
もちろん、ヒヨコ隊長である。
(このまま襲撃者が来ないといいが・・・)
そう願うと碌な事にならないか、そう思った瞬間、すさまじい殺気が襲う。
(なんだっ!?)
見れば、ひょいひょいと下から壁を伝って登ってくる人物が。
『ピヨヨ!!(侵入者だ!!)』
そう言って器用に窓の扉を閉めてカッシーナを押して窓から離そうとする。
「どうしたの?ヒヨコちゃん?」
カッシーナが首を傾げるが、
バキィ!
木の扉が蹴り壊され、空から皮鎧を着た茶髪の男が部屋に入り込んできた。
「ん~~~ふふふ、王女様を暗殺、いー気持ちになりそうだなあ」
「な、何者です!」
カッシーナは突然の侵入者に驚きながらも、少し距離を取り部屋の入り口近くに体を寄せる。
「俺? 殺し屋さん。お宅を殺せって雇われてね。いーよねー、異世界。ホント最高!チート能力で殺し放題だし。アンタ、王女さんだっけ? 殺る前に犯ってもいいかなー、うふふふふ」
「な、何なんです、あなた・・・」
(異世界!? チート能力!? まさか!? コイツ・・・ボスの言うヤベー奴か! だとしたらマズイ! 俺一人で守り切れるような相手じゃない!)
「でも仕事は簡潔に素早くねー、死ね!」
いつの間にか両手に短剣を持って切りかかってくる殺し屋。
「ピヨヨ!(シールド!)」
ガキキキン!
「おろ? 何? 王女の魔法? それともまさかヒヨコが魔法使うの? 珍しいね」
両手からの超高速斬撃をすべて魔法のシールドではじかれたことに素直に驚く殺し屋。
(マズイ! この攻撃力、次はこのシールドじゃ防げない!)
シールドは王女の前、空中に維持したままだ。下手をすると王女の後ろに回り込まれたらアウトだ。
(一か八か、先にこちらが背後から攻撃する!)
ヒヨコ隊長が全力で足元から裏へ回り、魔法を準備しようとしたその瞬間、
「ざ~~~んねん!」
すでにヒヨコ隊長の高速移動は殺し屋の目に捕らえられていた。
カウンター気味に連続の斬撃がヒヨコ隊長を襲う。
(くっ・・・シールド!!)
ガガガガッ ズバァ!
『ピピィ―――――!』
ぎりぎりシールドが間に合って致命傷には至らなかったようだが、胸をざっくり切られて血しぶきを上げながら壁に叩きつけられて床に落ちる。
「ヒヨコちゃん!」
「どうされました、姫!」
バンッ!と入口の扉を突き破る勢いで開けてメイドの1人が飛び込んで来る。
カッシーナ王女に仕える3人のメイドの1人、最も年長のお局様的な立場にいるレーゼンであった。
「レーゼン!殺し屋です!」
「御下がりください!姫」
そう言ってレーゼンはメイド服のスカートをふわりと巻き上げると太ももに隠したダガーを両手で抜いて構える。
奇しくもお互いが両手に短剣を持つスタイルであった。
瞬時にゼロ距離で短剣をぶつけ合う二人。
王国騎士団の団長グラシア、副団長のダイムラー共にカッシーナ王女の護衛を忘れると言う大ポカをやらかしているわけだが、普段から騎士団はカッシーナ王女を警護していないため、ある意味仕方のない事でもあった。
だが、王妃が可愛い娘を守っていないわけはなく、王妃の子飼いの手練れの1人が常にカッシーナ王女をメイドに扮して守っていた。それがレーゼンであった。
レーゼンは王妃がこのバルバロイ王国に嫁ぐ前から付き従う腕利きの従者であったのだ。
「はははっ!素晴らしいね!ここまでの手ごたえは本当に久しぶりだよ!よく僕の速度についてこれるもんだね」
ニタニタと不快な笑みを湛えながら短剣を振る手を止めない。
「舐めてもらっては困ります。このレーゼンがいる限りお前はカッシーナ姫には指一本触れさせない」
両手の短剣を逆手に持ち、構えなおす。
「いやー、すごいすごい、でもねぇ、俺は俺TUEEEEなチート持ちだしぃ、アンタみたいなBBAに負けるわけないっしょ」
ゲスい笑みを浮かべながらへらへらする殺し屋。
「・・・ぐっ!?」
レーゼンが口から血を流す。
「レーゼン!」
カッシーナが悲鳴の様な声を上げる。
「こ・・・これは・・・!?」
「<毒の霧>。俺と打ち合っている間に剣の先から毒の霧が出ていたのさ。それに気づかずに接近戦を挑んで来たから毒に犯されたってわけさ。まあ、後で俺も犯すけどね~」
「き・・・貴様っ!!」
レーゼンが再度距離を詰め短剣を突き出すが、すでに最初の切れもスピードも失われていた。
「はははっ!哀れだねぇ」
数合切り合った後、蹴りを打ち、レーゼンが吹き飛ばされる。
「ははっ、燃えて消し炭になりなよ。<炎の槍>!」
「きゃああ!」
動けないレーゼンを<炎の槍>が直撃する。
燃え上がるレーゼン。
「レーゼン!レーゼン!」
カッシーナ王女が素手でレーゼンに覆い被さり、火を消そうとする。
自分の手が火傷するのも構わずレーゼンを叩いて火を消した。
「さてさて、そろそろ仕留めさせてもらおうか。本命は明後日のターゲットなんだし。王女様は単なる前座だしね~」
(・・・明後日が本命だと・・・?)
息も絶え絶えのヒヨコ隊長だが、それでも情報収集を怠らない。
かなりヤバイ殺し屋、その目当ては王女ではなく、明後日に狙う誰か・・・。
(何としてもボスにお伝えせねば・・・)
「どうする?自殺するなら止めないけど?」
見下すように冷めた目で見る殺し屋。
カッシーナは黙って殺し屋を見つめる。
一分一秒を稼ぐように。きっと、きっとあの人が助けに来てくれる。そう信じて。
「はあ、メンドクサイ。はいさようなら」
そう言って右手を振り上げる殺し屋。
だが、
ゾグンッ!
「な、なにっ!?」
圧倒的なまでの魔力によるプレッシャー、殺気による威圧。
「なんだ!?どこだ!?誰だ!」
余裕無く声を荒げる殺し屋。だが、部屋の中には自分と王女、瀕死のメイドしかいないはずだ。
「!!」
ゆらり、という言葉がぴったり合うように窓の外から空中を歩いて部屋へ入ってくる黒いローブの男。顔には銀色の仮面をかぶっていた。
「なんだお前?」
漆黒のローブを頭まで被り、手足すら見ることは無い。
銀の仮面だけが鈍く光っている。
「我が名はダークナイト・・・闇に潜みし悪を切る者なり・・・」
完全に気分は逢○大介大先生の大ヒットラノベ、「陰の実○者になりたくて!」の主人公だ。あれほどズレ漫才の如くかみ合っていないのにバッチリ決まっちゃう話はマジでたまらない。あまりのニヤリ感に職場のデスクで休憩中に読んでいた際に自分がニヤリとして事務員からかなり白い目で見られたのを思い出す。
「コイツだいぶ痛いヤローだな。所詮この世界の連中は俺TUEEEEのチート持ちである俺様には勝てねーんだよ!」
そう言って両手に持った短剣で切りかかってくる。
俺は瞬時にその2本の腕を掴む。
「なっ!? 見切りやがった!?」
ボギィィィ!!
「ギャアアアア!!」
そのまま両肘を砕くように逆向きに折り曲げる。
そのまま突き飛ばすように両腕を放すと、男はしりもちをついた。
見ればカッシーナが泣いており、その隣で倒れているメイドは大やけどで瀕死のようだ。
そして反対側の壁には叩きつけられて床に落ちているヒヨコ隊長の姿が。
怒りに任してぶっ飛ばしてやりたいが、ダークナイトってカッコつけたキャラを出してしまった以上、キャラ崩壊は避けたいところだ。
だが、あまり時間を掛ければ助かる者も助からなくなる。
「<闇の圧力>」
ズドンッ!
「ギアアアアア!!」
両手をへし折られた殺し屋がさらに闇の圧力で上から押し潰されそうになる。
え、いつのまに闇の精霊魔法が使えるようになったのかって?
この前ウィンティアやベルヒアねーさんたちから光の精霊と闇の精霊の行使についてアドバイスを受けてたんだよね。
まだ俺に加護をくれたり契約してくれたりはしないけど、魔力を対価に呪文行使は可能になったのだ。
光と闇、いかにもラノベのお約束的な力だね!
やがて殺し屋の体がメキメキと軋んで音を立てる。
「ぐおおお!」
『ボ・・・ボス! お伝えしたいことが!』
『ヒヨコ隊長か? すぐ回復させてやる、少しだけ待っていろ』
俺は無理に力を使わぬよう休むように伝える。
『その殺し屋、本命は明後日のターゲットらしいです。後、俺TUEEEEとか、チート能力がどうとか言っておりました。たぶん、ボスが注意しろと言っていたヤバい奴だと思われます!』
『そうか・・・、見事な情報だ。とにかく休め。すぐ回復させてやる』
こいつが転生者のクズヤローだという事はわかった。
だが、この場で殺すのはまずいかもしれない。明後日の本命のターゲットが誰なのかわかっていない。カッシーナの前でこのまま<闇の圧力>による「へっ、汚ねぇ花火だ」を実践してもあまり気分が良くないこともある。
それならば煽ってヘイトを俺に向けておけば、本命とやらを狙う時も殺気丸出しにして俺を探して挑発してくるかもしれない。そうなれば誰をターゲットにしているのか探りやすくなるだろう。
「おい、ザコ。すでにボロ雑巾の様になっているザコよ。この場で貴様を殺せば部屋が汚れる。さっさと失せろ」
そう言って俺は<闇の圧力>の魔法を解除する。
「ぎ、ぎさま・・・おぼえでいろよ・・・がならずごろす!」
真面に口も回らないながらも捨て台詞は欠かさない。ウン、やられキャラとしては申し分なし。
窓からその体を宙に躍らせる殺し屋。普通なら確実に死ぬ高さだろうけど、チートとやらを持っている俺TUEEEE君は死なないんだろうね。
『クルセーダー、聞こえるか?』
『はっ!待機しております』
『窓から飛び出た男を追ってくれ。但しかなり能力の高い男らしい。こちらに意識が向いたら全力で離脱しろ。決して深追いするな。どうせ明後日にはこの王城にまた来るらしいからな。絶対にお前達が死ぬことは許さんぞ!』
『ははっ!』
一応ヒヨコたちに追跡はさせてみる。
だが、相手はヤバイ転生者だ。無理はしない様に指示は出しておく。
「ウィンティア、フレイア、力を貸してくれ」
「お待たせ、ヤーベ」
「ヤーベ、呼んだか?」
お前達、ダークナイトって名乗って普段と違うカッコしてるんだから、ソッコー俺の正体をばらすように名前を呼ぶのは止めなさい!
「合成魔法を使う。俺のイメージを読み取り、合わせてくれ」
「うん!」
「任せろ!」
水の精霊ウィンティアの<生命力回復>。細胞の活性化は体温近くに温度を上げればなお活性化が働く。ウィンティアの細胞活性化に熱エネルギーを加えてより効果を高めるようにイメージする。
「合成魔法<生命力活性回復>!」
その魔力に触れたレーゼン、カッシーナ、ヒヨコ隊長のダメージが完全に回復して行く。
「レーゼンの火傷が・・・跡形もなく・・・」
カッシーナは自分の手の火傷が綺麗に治っている事にも気づかず、レーゼンに抱きついて泣いている。
『ヒヨコ隊長。見事な仕事ぶりだった。お前のおかげでカッシーナは無事だったよ』
怪我が治っても体力までは完全に回復しない。
よたよたと飛び上がるとヤーベの肩に止まった。
『すみません、カッシーナ王女を危険に晒してしまいました・・・。まだまだ力が足りません。護衛失格ですね』
『お前が護衛失格なら、他に護衛を頼める奴がいなくなって困るから却下な』
『ボス・・・! ありがたき幸せ・・・』
肩でうなだれながらも感動しているっぽいヒヨコ隊長。
「ヤーベ様・・・」
呼吸が落ち着いたレーゼンから離れて、ヤーベの背中に抱きついて来た。
「また、助けて頂きました・・・」
「我が名はダークナイト・・・闇に潜みし悪を切る者・・・」
「ヤーベ様、私は貴方に命を救われてばかりなのです。なのに、何もお礼が出来ていないのは心苦しいばかりです」
聞いちゃいねぇ!
「その仮面、私が今している半分の仮面とそっくりですね・・・」
ぎくっ! カッシーナにもう会えないかと思ったので、ドワーフのゴルディンにデザインを描いて銀の仮面を製作してもらったのだ。
まさか速攻で使う羽目になるとは思わなかったけど。
「もうお前は仮面が必要ではないのではないか?」
とりあえずカッシーナの意識を俺から逸らそう。
「ヤーベ様にちゃんとお礼を出来ていない今は、誰にもこの素顔を見せないつもりです・・・。あ、でも先日母にだけはちらっと見せちゃいました。本当によかったねって喜んでもらえたんです。それだけでもヤーベ様にいくら感謝してもしきれません」
そう言ってさらに後ろからギュッと抱きしめてくるカッシーナ。
・・・困った。
そうは言ってもいつまでもこのままでいるわけにもいかない。
レーゼンというメイドも傷が回復しただろうが、体力は回復し切っていない。休ませてやらねばならない。
そう言って振り返ろうとしたのだが、
「あ、見ちゃだめです!」
そう言って俺の顔を両手でカッシーナが押さえた。
「レーゼンの傷を治してくださったことは大変感謝致しますが、今の彼女は服が燃えてしまい全裸に近い格好になってしまっていますので・・・」
おおっ!それは計算外のさらに外。
傷が治ったかしっかりチェックしなければ・・・
「ひてて・・・にゃにうぉしゅりゅ・・・」
後ろからカッシーナにほっぺたを引っ張られる。
「ヤーベ様、今悪い事を考えたでしょ!」
何故だ!イリーナと言い、美女はみんな魔法使いなのか!?
「カッシーナ様!大丈夫ですか!」
「カッシーナ様!何があったんですか?」
その時、メイドが二人部屋にやって来た。
「うわっ!部屋がぐちゃぐちゃです!」
「レーゼン様!?何でメイド服がぼろぼろでほぼ裸なんですか?」
「ああ、レーゼンの替えの服を持ってきてちょうだい。それから着替えたら今日はベッドで休ませてあげて。あとこの部屋掃除お願いね」
「「はいっ!」」
元気よく返事をするメイドたち。
だが、カッシーナが指示を出して再度振り返った時には、すでにヤーベは窓の縁に立っていた。
「ヤーベ様!」
カッシーナが窓に駆け寄ろうとするが、それより早く俺は空に体を投げ出した。
「ヤーベ様!また私を連れて行ってくださらないのですか・・・」
涙を流しながら窓の縁から身を乗り出すカッシーナ。
「カッシーナ、またな」
俺は一言声を掛けて空を飛び、王城から離れて行った。
『・・・一言、出ちゃいましたね』
ヒヨコ隊長がぼそりと言う。
「言わないわけにはいかなかったよ・・・あの涙を再び見てしまったからな・・・」
俺は深く深く溜息を吐いた。
「カッシーナ様・・・今の真っ黒な方は?」
「えっと・・・空を飛んで行かれたようですけど・・・?」
ヤーベが飛び去ってしまった部屋。
メチャメチャに荒らされた部屋を片付けながらメイド達がカッシーナに尋ねた。
「あの方は私の未来の夫ですわ・・・」
カッシーナはメイドたちを振り返らずに、窓の縁にもたれ掛かりながらヤーベが飛び去った空をずっと見つめていた。
「「ええっ!?」」
カッシーナ王女もまた、外堀から埋めるタイプの様であった。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
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