第91話 シスターアンリの話を聞こう
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この世界の神聖魔法と呼ばれる<癒し>や<完全なる癒し>などは、傷自体を治すが、<癒し>では骨折の治療は難しく<大いなる癒し>でないと治療できないらしい。また、例え<完全なる癒し>であろうと、体の中の異物は取り除いてからでないと体内に異物が残ってしまうらしい。
だが、ウィンティア曰く、<生命力回復>は神の力で無理矢理癒すわけではなく、生命の持つ力をあるべき姿に戻す手伝いをしている、との説明だった。
俺なりの解釈をすれば、細胞にある遺伝子情報から、怪我を負ってしまった状態の前の正しい状態に戻る様に働きかけている、というイメージだろうか。そのため、異物がある状態で使用すると、体内から異物が押し出されて排除された後に傷が塞がるようになるという。とっても便利だな。
ただし、あるべき姿に戻す、という事なので、手足などの末端を欠損すると回復できない。あるべき細胞がそこにすでにないからだ。傷の様に、周りの細胞が活性化して塞ぐようなことが出来ないという事だろう。
こういう時は神聖魔法の<完全なる癒し>だと欠損も回復するらしい。さすが最上級魔法のようだ。尤も使い手はあまりいないらしい。
おっと、回復魔法の講釈を頭の中でしている場合じゃない。
元気になったマリンちゃんを連れて散歩に出かける。
もちろん、出かける先は・・・「南地区の教会」である。
社畜時代の俺様の格言に「問題は 固めてまとめて 片付ける」というのがある。
問題の連鎖を読み解き、関連づけて一気に片付けてしまおう、というわけだ。
そんなわけで、マリンちゃんを連れたまま、この同じ南地区にある教会に出向き、シスターアンリに会おうという戦略である。
教会なら、孤児院とかの運営とか伝手があったりするかもしれない。
良さげな所ならマリンちゃんも預けられるかもしれない。
「でも、ゴミ集めのお仕事をしないと、ご飯を食べるお金が貰えないから・・・」
マリンちゃんが悲しそうに俯く。どうも、足が治ったのですぐにでもゴミ集めの仕事をしなければと思っているようだ。
「そのゴミ集めの仕事、どうやってお金になるの?」
「集めたゴミを収集屋さんに持っていくと、重さを測ってお金をくれるの」
ふむ、つまりはなんでもたくさんかき集めればお金になるわけか。
「わかった、でも今日はお休みだ。マリンちゃんの代わりにゴミを集めて来てくれる頼もしい仲間を紹介しよう」
俺はそう言って手のひらからスライム触手を伸ばし、丸く固めていく。
「わわっ!ナニコレ?」
「<スライム的掃除機>発進!」
俺はぐるぐるエネルギーをぶち込み、触手を切り離す。
すでに頭の中に<気配感知><魔力感知>でくみ上げた南地区のマップが頭に入っている。その町中を<スライム的掃除機>がくまなく走り回るイメージをインプットして命令する。
『ごみを回収し、亜空間圧縮収納の指定箇所に保管せよ』
亜空間圧縮収納もフォルダで区切るかのようにイメージで保管分離が可能になった。
そこでゴミだけ集めるフォルダを作ったというわけだ。
<スライム的掃除機>のイメージは、もちろんル〇バだ。
「行け!」
「キュピー!」
あれ?鳴き声発してたぞ。そんなイメージは無かったけど。
なんだかシュゴゴゴゴ!っとはでな音を立てて通りのゴミを吸い込みながら移動していく<スライム的掃除機>。たくさん回収して来てくれ。
「さ、ゴミ集めはあの子に任せて散歩に行こう」
マリンちゃんは目を白黒させていた。
「こんにちは~」
俺は教会の扉を開けて中を伺う。
「はい、どちら様でしょうか?」
出て来たのはずいぶんと若くてきれいなシスターだ。
この娘がシスターアンリなのか?
てっきりそこそこ年のいった熟女が出て来るとばっかり思っていたのだが。
「すみません、王都に来たばかりで右も左もわからないままお尋ねするのですが、教会は孤児院のような役割も担っているのでしょうか?」
俺はストレートにシスターに聞いてみる。
「ええ、その通りです。この教会も孤児院を運営しています。現在は8人の孤児たちが生活しているのですが・・・」
「そうなのですね、実はこのマリンちゃんなのですが、路上で生活している孤児のようなのです。良ければシスターのところで雨露を凌がせてやっては頂けないでしょうか?」
「それはそれは・・・もちろん受け入れたいところなのですが、実は今この教会は王都聖堂教会本部から支援の打ち切りを通達されているのです・・・。撤回と支援延期を申し入れているのですが・・・」
そう言って表情が暗くなるシスター。
「失礼シスター。お名前をお伺いしても?」
「え、ああ、私はアンリと申します」
やはり、この若いシスターがアンリさんか。
となると、教会の動きもきな臭いな。
「私は田舎からやって来た無学な者でして。実は教会の運営やシステムがよくわかっておりません。教会は力無き者の味方のようなイメージでおりましたが、支援を打ち切るなど、どういう事なのでしょうか?」
「自らを無学と呼び、他者に知識を尋ねられる方は無学な方などではありませんよ。教会は聖堂騎士団の活躍による依頼料と、寄付が収入のメインとなります。たまに不用品を集めたバザーなども開催するのですが、そちらは微々たるものです。教会支部は寄付の5割を聖堂教会本部に毎月上納する決まりになっています」
「5割も。恐ろしくぼったくりですな」
俺の感想に苦笑するシスターアンリ。
「ですが、集められた資金を、運営がうまくいかなかった教会や孤児院、寄付が集まりにくい貧しい村の教会などに支援金として振り分けられるので、救済の面もあります」
「なるほど」
ある所から取り、無いところへ配る。一見よく出来たシステムのようだ。
「ですが、この南地区の教会はなぜか支援打ち切り、孤児院も解散で引き取り手を探さないといけない状況なのです」
さらに表情が暗くなるアンリ。
「支援打ち切りで、孤児院も解散ですか。聖堂教会も酷い判断をするものだ。ちなみにこの教会はどうなるのです?」
「この教会は昔祖母が土地を買って建てたものです。一応今は私が権利書を持っています」
ああ、なるほどね。アンリちゃんが土地建物の所有者なんだね。
「孤児院も聖堂教会のドムゲーゾ枢機卿が2名の女の子を引き取ってくださると手紙が来てはいるのですが・・・」
引き取りがあっても暗い顔をするアンリちゃん。
「その2名はかわいい女の子なんですか?」
「・・・そうです」
はっきりと告げるアンリちゃん。
辛いね。
土地が欲しい者。
孤児の中の可愛い少女が欲しい者。
アンリちゃん自身が欲しい者。
ああ、碌でもないウィンウィン関係。
「なるほど。きっと聖堂教会は支援を打ち切り、孤児院を立ち行かなくして、欲しい少女だけ引き取り、その後この土地と建物を売る様に迫る人間が来て、無理やりにでも売却させようとしてくるんでしょうね。残った孤児たちのために、なんてなだめすかされたりして、書面にサインでもしようものなら、安く買い叩かれてこの建物から追い出されるでしょう。そして困り果てたところへ、したり顔であなたを狙った低級貴族のボンボンが支援を持ちかけて来るでしょうね。貴方そのものを手に入れるために」
「な、なんてこと・・・」
顔が青ざめるアンリちゃん。
「教会への寄付ですが、5割を聖堂教会本部へ納めなければならないとの事、では、貴女個人の資産ではどうでしょうか?」
「個人の資産・・・ですか? それなら、自分で寄付しない限りは大丈夫だと思いますが・・・」
「そうですか。それではまず金貨10枚を貴女個人にお渡しします」
「ええっ!? き、金貨10枚も!」
「金貨10枚程度では孤児たち全員を養っていくのには不足でしょう。ですが、聖堂教会本部がどのような手を打ってくるかわかりません。ですから最悪奪われてもいいような額でまずはお渡しします」
「う、奪われてもいいような額が金貨10枚なのですか・・・?」
「まあそうです。その金貨も商業ギルドで発行される個人預金カードを使用しましょう。これなら必要な時に貴女本人が商業ギルドからお金を引き出せます。教会に置いておいては泥棒に入られるかもしれませんしね」
「な、なるほど・・・商業ギルドで発行している預金カードですか。そのようなシステムには一生縁がないと思っていましたよ」
アンリちゃんが口に手を当てて笑う。
「そして聖堂教会へは縁切状を送り付けて、今後の支援は一切無用、こちらは個人教会として聖堂教会とは一線を引くと伝えましょう。どうせ支援打ち切りですし、ちょうどいいですよね」
「ですが・・・それでは聖堂教会のシスターの座を失うことになりますが・・・」
「アンリさん。貴女が大事にしたいものは何ですか? 聖堂教会のシスターの座ですか? この土地建物といった財産ですか? それとも、連れ去られそうになったり、路頭に迷う羽目になってしまいかねない子供たちですか?」
「もちろん子供たちです!」
俺のぶしつけな質問に即座に大声で答えるシスターアンリ。
「聖堂教会は非道にも少女と土地建物を貴女から奪うため、支援を打ち切りました。そんな組織に貴女は未練がありますか? アンリさんは神聖魔法を使用する事は?」
「できますが・・・」
「聖堂教会という組織から外れ、シスターという座を聖堂教会の組織の中で失ったとして、それがどうしたのですか? 神聖魔法が使えなくなるのでしょうか? それとも孤児たちから見て、貴女はシスターではなくなるのでしょうか? 違いますよね? 貴女の心の持ちようは何も変わらないはずだ」
シスターアンリはハッと衝撃を受けた様な表情になる。
「何も変わらない・・・そうですね、聖堂教会の組織から外れても、何も変わらないのでした。どうせ支援は打ち切られるのですから。であれば、きっぱり絶縁して、自分たちだけで何とかやって行けるよう検討しなくてはなりませんね!」
アンリちゃんの表情が少し明るくなってくる。
「その通りです。そのような悪の柵から脱却して、孤児たちが安心してのびのびと生活できるような環境を頑張って整えて行きましょう!」
「はいっ!」
「僕も応援しますので、このマリンちゃんも孤児の仲間たちと一緒にここで面倒を見て頂けますか?」
「もちろんです! マリンちゃんもそれでいいかな?」
「・・・いいの? お姉さんとお友達と一緒に暮らせるの?」
マリンちゃんがぽろぽろ涙を流す。
シスターアンリが膝を付きマリンちゃんを両手でギュッと抱きしめる。
「ここはお金もあまりないけど、みんないい子達ばかりなのよ? みんなで仲良く頑張りましょうね」
「はいっ!」
にっこりとシスターアンリが微笑むと、マリンちゃんも涙を拭いて元気よく返事をする。
さてさて、お金で支援するのは簡単だが、敵はそう簡単には引いてはくれまい。
どのような戦略で行くか、俺は頭の中で思案を巡らすのだった。
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