人質組~ 塔の上のプリンセス ~
むかしむかし、あるところに……からは始まらない。
今の今の真っ只中、むかしむかしはガストレアという公爵が治めていて現在は過激派革命組織のアジトになっている塔の中に、それはそれは美しいお姫様が囚われていた。
「くっ!!殺せっ!!」
「いえ、殺しませんけれど」
「……言ってみただけですわよ……」
……とりあえず『ここだ!!』とばかりの勢いで様式美を踏襲してみたはいいものの、すげなく躱されて結構本気でへこんでしまう、そんなお姫様が囚われていた。
しかし、囚われの身……という字面から受ける印象ほど待遇が酷いわけではなない。
あてがわれた一室から出てはいけないという制限はあるものの、部屋の中でならば自由の利く、いわば軟禁状態。
足枷をはめられて牢屋に閉じ込められているなどということもなければ、両手をつるされ、半裸に剥かれて屈強な亜人種に辱めを受けているなどということもない。
立場的、状況的に一番近しい例をあえて挙げるならば『悪い魔法使いが高い塔の天辺にしまい込んだ宝物』として、そのうちキザな恋泥棒が攫いにくる薄幸の美少女というところ。
もちろん、彼女を捕らえた側の人間が品質の高いニセ札を刷っていたり、公国の王位を狙っているような野心家というわけでもないので、その例えもまた正しくはないのだが……。
「これこそヒロイン。これこそお姫様。……悪くない。悪くないですわ。うふふふふ……」
それでも囚われの姫君は、実に満足そうに恍惚とした笑みを浮かべる。
「…………」
そして、そんなお姫様の姿を静かに見つめる若い女が一人。
「古国、ラ・ウール王国第一王女、アルル=シルヴァリナ=ラ・ウール。どのような人物かと思っていましたが、なかなかに面白い性格をしているようですね」
肩口で切りそろえられた短めの茶髪と瞳。
肉付きが薄い体躯。
言葉のわりに一つも面白がっているようには聞こえない淡々とした口調。
冷めているというよりは覚めているといった風にのっぺりとした無表情。
性別、歳の頃、全体的な体のラインなど、パッと見た感じでは、姉であり親友である眼鏡の才女に似た印象を持つ女。
しかし実際、彼女にとっての恋泥棒の方をより思い起こさせる女の佇まいに、囚われの姫君、アルル=シルヴァリナ=ラ・ウールは、ふぅ、と小さな溜息をこぼす。
「……貴女がここに顔を見せたのは初日以来ですわね?」
「ええ、何かと忙しい身の上なものですから」
「キチンと寝ていらっしゃいます?寝不足は美容の大敵でしてよ?」
「ご心配なく。適度に休息は挟んでいますから」
「蓄積疲労というものは得てして本人が一番気づきにくいものですから、わたくしのようにどなたかに指摘された際は、素直に従うことをお勧めいたしますわ」
「なるほど、考慮しておきましょう」
「お食事はどうです?三食、食べられていますか?」
「いいえ、食事は摂ったり摂らなかったりです」
「あら、それもいけません。せっかくの素敵なスタイルが崩れてしまいますわよ?」
「興味ありませんので」
「それはご自身の容姿に?それとも食事に?」
「両方です」
「なんて勿体ない。美味しいお食事は日々の生活と女の体の部分を豊かにし、容姿を磨くことはそれだけで女の心の部分を充実させますのに」
「興味ありません」
「…………」
「…………」
「では、逆に貴女が興味を抱くものはございますか?」
「はい、あります」
「やけにキッパリと……。それはなんですの?」
「今は一人の男性に」
「……なんだ、ちゃんと女の子しているじゃありませんの」
「はい、私の性別は女です」
「……お相手の殿方は貴女のことをどう思っているのでしょう?」
「はい、今のところ私のことなど見向きもしていません」
「見向きも?」
「はい、私の存在自体を認識しているかどうかも怪しいでしょうね」
「……そんな貴女が興味を抱いている殿方も、貴女が美容にもっと興味を持ち、その女を磨いていけばきっと振り向いてくれるのではないでしょうか?」
「いえ、時が来れば必ずや彼は私を見てくれるでしょう」
「またキッパリ……。大した自信ですわね」
「狙った獲物を逃したことはありませんから」
「……見た目に反して実はガッツリ肉食系?」
「食事に興味はありません」
「……いえ、食事の趣向の話ではなく」
「冗談です」
「冗談でしたの……」
「興味ありません」
「……冗談が?」
「いえ、言ってみただけです」
「……なるほど」
「冗談です」
「…………」
「…………」
「……えっと……」
「冗談です」
「なにが!?この間が!?」
「はい」
「あ、そうですの……」
「はい」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
―― からみ辛っ!! ――
アルルなりに、この『革命の七人』の幹部の女、それもどうやら首領の副官らしいネクラス・ボーングラフという女の人物像と、あわよくば有益な情報でも探ろうかと会話を試みた結果、実のあるものは何も得られず、『この女、からみ辛い』という結論一つしか導き出せなかった。
「……何をやってるんでしょう、わたくし……」
「人質をやっているのかと思われます」
「……わかってますわよ」
「私との会話で何か探れましたか?」
「わかっているなら言わないで下さいまし。……まぁ、貴女の性格も存外に面白いということは理解できましたわ」
「はい、これでも昔から面白くて親しみやすい人柄だと言われてきました」
「……それも冗談?」
「いえ、本当に。村一番の快活な娘だともっぱらの評判で」
「それは絶対に嘘!!」
「いえいえ、本当に」
「それが本当なら、なんて陰気な村で育ちましたの貴女は……」
「村が定めた訓示に『晴れ続ける空はない』というのがありました」
「陰気!!」
「『目には目を歯には歯を。それでも失ったものは返らない……』というのも」
「素敵な戒め!!だけどやっぱり、なんか陰気!!『……』で含みもたせた訓示ってなんですの!?」
―― ああ、コイツ、ホントにからみ辛い!! ――
敵地で単身人質になってまでどうしてツッコミに励まなければいけないのだと、囚われているストレス以外のところで心労が溜まってしまうアルル。
しかし、ここに来て約三日。
世話係の人間と初日にこの女が来て以来、デレク・カッサンドラはおろか、『革命の七人』の誰一人とも接触がなかった。
だというのに、唐突にまたこの副官が訪れたということは状況に何かしらの動きがあったからなのだろうと、アルルならずとも容易に予想ができた。
「楽しい会話はこの辺りにして、そろそろ私の用向きを済ませてもよろしいですか?」
「……どうぞ」
楽しい会話?という部分にまたしてもツッコミそうになったアルルではあるが、そこをグッとこらえてネクラスの言葉を待つ。
「あなたにも教えたかと思いますが、私たち『革命の七人』と討伐連合軍との間で戦争が行われます。……実際には討伐軍というよりは私たちとラ・ウール王国、そして開戦予定時刻は本日の正午ちょうどでしたが、既に各戦場では激しい戦闘が行われています」
「……革命だ正義だと大仰なことを言っても所詮は賊ですか……随分と適当なものですわね。もはや戦争の体を成していないではありませんの」
「開戦時刻が大幅に繰り上がった主な原因は、帝都ラクロナが総督府『光玉宮』にラ・ウール王国の旗を堂々と掲げた暴走列車が突っ込んできたことにあります」
「ごめんなさい」
戦争の体を木っ端みじんにした主犯に心当たりがあり過ぎたアルルは、先に仕掛けたのは敵の方だと勝手に決めつけてしまったことを、素直に頭を下げて詫びた。
「ええ、もう、ホントうちの幼女がすいません……」
「いえ、始まってしまったものは仕方ありません」
「お恥ずかしい限りですわ……」
「いえ、本当にお気になさらず。各種段取りが前倒しになったため、私の睡眠時間と食事の回数、あなたとこうやってお話をする時間がゴッソリと削られたくらいなものですから」
「美容の大敵はうちでしたの!!」
「いえいえ、お気になさらず」
「ううう……なんでわたくしが自分を人質にしている敵への罪悪感で押しつぶされそうになっているんですのぉ……」
頭と胸とお腹の三か所が同時に痛くなる囚われの姫君。
そんな彼女を尻目に、ネクラスは平坦な調子を崩さずに続ける。
「ともかく、帝都ラクロナと王都ラ・ウールにおいて両軍は目下戦闘中、局面は中盤ほどに進み、今のところ総合的に見れば若干、討伐連合軍の優勢というところです」
「中盤……若干の優勢……。劣勢であるのに貴女がそうまで落ち着いているのは、その中盤以降に逆転の芽があるからですの?」
「はい。というよりも、序盤の展開はこちらとしてはどうでも良いのです」
「どうでも?」
「はい。どれだけ数が多くとも雑兵同士のぶつかり合いなど、首領・デレク・カッサンドラは初めから頭に入れていません。彼が見たいのは中盤から終盤にかけて、あなたもご覧になった七人の幹部が……本当の意味での『革命の七人』が舞台に登場してからの戦場ですから」
「本当の……意味?」
アルルは女の言葉について怪訝な顔をしながら考える。
「……ようするに、5千人ほどいるらしい構成員たちは本当の『革命の七人』ではない。あくまでも『革命の七人』はその名の通り七人だけだと仰るのですか?」
「はい、デレク・カッサンドラはそういうお考えです」
「…………」
さらにアルルの眉がひそまる。
本物?七人?
どういうことだろう?
幹部を特別に贔屓するのはわかる。
おそらくは実力もその革命への熱意も、他の5千に比べて勝るからこその幹部だ。
だから満を持して登場させようとしている戦況の中盤……盤面の劣勢を覆すことができると信頼を置いているのもわかる。
しかし、どうでも良いとはなんだ?
『革命の七人』だけでなく『ドラゴノア教団』もこの戦争に参加しているわけだが、その二つを合わせて数千にも及ぶ仲間の生死すらどうでも良いと?
……それではまるで
「捨て駒のよう、と思われていますか?」
アルルの思考を呼んだネクラスが先に言う。
「はい、その考えで間違いはありません。彼らは押し並べて捨て駒です」
そして彼女はあっさりと肯定する。
「今頃は戦場でも……きっとあなたの聡明にして忠実なる右腕、アンナベル=ベルベット副団長辺りはもう気づいている頃でしょう。あまりにもこちらで兵士の扱い方が雑であることに」
「……なるほど……理解しました」
「あなたもまた聡明のようです。色々と疑問や人間的な道徳観からくる怒りなどを私にぶつけたいかと思いますが、そこを押さえて事実をそのまま受け入れることができる。なかなかできることではありません」
「……おかげさまで狂人と呼ばれる正気を疑う輩をこれまで多く見てきましたから。……そんな相手にどれだけこちらが正論や倫理や怒りをぶつけたところで、どうにもならないことは実際に学んでいます」
「ならば良かったです。ここで義憤に駆られ、私を押しのけて首領の元にでも行かれたら面倒だと思っていました」
「誤解はしないで欲しいのですけれど、わたくし結構、怒っていますわよ?ええ、それはもう、デレク・カッサンドラの首根っこを掴んで今も一生懸命に己の革命という大義を信じて戦っているお仲間たちの面前へと引っ立ててやりたいくらいには」
「いえ、あなたのお気持ちは重々承知していますよ、アルル姫」
「ただ、今のわたくしは虜囚の身。……もう国際軍事法も何もあったものではないのでしょうけれど、それでもわたくしが今個人的な怒りを暴走させれば、わたくしの軍にも、そしてあなた方の軍にも多大な被害が及ぶことでしょう。……『光玉宮』に幽閉されているらしい、父上や皇帝陛下……そしてラ・ウールやラクロナの無辜の民の命も含めて……」
「あなたがそこまで人間のできた方で本当に良かったです。そうですね。あなたのその激しい憤怒を抑え込めるだけの冷静さ……いえ、ある種の冷酷さですか。それのおかげで、私たちが取らなければいけなかった幾つかの面倒で、非道で、残酷な手段を行使しなくて済んだこと、心より感謝いたします」
「……ならば、もう少し感謝しているように言ったらどうなんですの……」
「していますよ。最大限に」
「……そうですか」
実際に、このネクラス・ボーングラフという女は人質という体裁を取って軟禁しているこの銀髪の少女に最大限の感謝を抱いていた。
もしも、彼女がこの『革命の七人』というまるで首領の精神をそのまま象ったような、土台自体からすでに歪みきっている組織の在り方に対する一時の感情で目の前にいた自分に牙を向けてきたのなら。
実際に『光玉宮』内で拘束している皇帝以下要人たち誰かの首を見せしめに持ってこなければいけなかったし、それでも懲りないようならば、王都ラ・ウールの街か集落を一つ二つ焼き払はなくてはいけなかった。
そんな命令を、ネクラスはデレク・カッサンドラより受けていた。
これは『革命の七人』に課された試練であるのだから、部外者のいらぬ介入は良しとしない。
他ならぬ自分に試練を課すと言った『シルヴァリナ』ではあるが、彼女もまた己の感情を抑え込んで潮目が来るまで耐え忍ぶ試練を越えなければならない。
高潔な彼女のことだから、今すぐにも自分を打倒し、あるいは戦場で散り行く仲間たちのために馳せ参じたいと思っていることだろうし、この『革命の七人』という組織の内情を知ったらば敵たる彼らにもまた同情をするのだろう。
だから彼女が己の感情に負けた時、それは試練に不合格ということである。
その怠惰、その脆弱さには相応の罰を与えて然るべきである……。
「私にも良心というものはありますから。……それに面倒ですし(ボソリ)」
「……本音漏れてますわよ?……はぁぁ……それにしても、ほとほと『正義』に狂ってますわね、お宅の首領様は……」
もはや隠し立てすることもないと判断したネクラスは、首領から内密に受けていた勅命を包み隠さずアルルへと話した。
「試練、試練、試練、何を置いても試練、また試練……。交渉の際に大いに利用させてもらっておいてなんですけれど、どうしてあそこまで行動原理が徹底していますの?あのデレク・カッサンドラという男は?」
「わかりません」
正直に、キッパリと副官たる女は言い放つ。
「幾つかの客観的事実から推察することはできますが、あくまでも推察。彼をそこまで突き動かしているモノの正体は私にもわかりかねます。誰よりも傍に控えているこの身ですら」
「……よく、あなたは付いていけますわね」
「私にも色々と事情があるのです」
「そうですか……えっと……」
「ネクラスです。元ラクロナ帝国軍第四西方統括部隊所属、ネクラス・ボーングラフ。階級は大佐でした」
「大佐?その若さで大佐ですの?」
「色々と事情があるのです」
「……そのあれやこれやの事情とやら、話したくはないのですわね?」
「ご自愛いただければ幸いです、王女殿下」
「村一番の快活で親しみやすい女の子が秘密主義を掲げるのですか?」
「ご自愛ください」
「…………」
そうして恭しく頭を下げる姿は堂に入っており、実に優雅。
それだけで育ちの良さがうかがえて、アルルには少なくともただの陰気な村の陰気な農家で陰気な野菜を作っていたという田舎娘には思えなかった。
そして、このどこかの性悪幼女とは違う種類に掴みどころのない、腹に何かイチモツを抱えているような女。
彼女のことをアルルは正直、苦手ではあれどもあまり嫌いにはなれなかった。
帝国に仇なす敵、自分の父親を拉致監禁した敵、母国の平和を脅かす敵。
怪しさ満天、奇々怪々、奇妙奇天烈。
ネクラス・ボーングラフという女について知り得る極々限られた情報ではあるが、それらを踏まえた上で働く『シルヴァリナ』の直感は、彼女をおおむね肯定的にとらえてしまっている。
「……まぁ、いいでしょう」
なので、アルルはとりあえず退くことにした。
「では、せめてその幹部の方々……本物の『革命の七人』でしたっけ?デレク・カッサンドラが試練を与えている七人のことを少し教えて欲しいのですけれど、よろしいですか?」
「はい。なんなりと」
頭を上げたネクラスは、相変わらずあっさりキッパリと言う。
「……いいんですの?」
「はい。特に口留めされているわけではありませんし、支障はないかと判断しました」
「ホント、あなたという人がわかりませんわ、ボーングラフ大佐……」
「元、大佐です。気安く『ネクちん』とお呼びください」
「急に気安すぎっ!!」
「では、親しみを込めて『ネク姉』と」
「急に親しみすぎっ!!」
「では、蔑みを込めて『ネク豚』と」
「急に卑屈っ!!距離感とるの下手クソですの!!」
ワーワーと騒ぎ立てる一国の姫君を不敬もなんのそのとガン無視し、ネクラス・ボーングラフはおもむろに両手を広げる。
そうすると何もない空間からフワリ、紙と羽ペンが現れて彼女の両手にそれぞれ収まった。
「……物質変換?……いえ、≪空間転移≫ですか。なんとも鮮やかなお手前ですの。随分と簡単に扱っていますが、それ、かなりの大魔術ですわよ?」
「恐縮です。では、称賛を込めて『ネクゲラ……」
「言わせませんわ!!そして、それ、スプーン曲げる人!!」
ギャーギャーとうるさく、そして色々と反応が過剰気味なファンタジー世界のお姫様をガン無視し、スラスラとネクラスは紙の上にペンを走らせる。
【帝都組】
◎アーガイル=デト=クエンサー(37歳)
性別・男。
元ラクロナ帝国軍第二特務部隊所属 階級・少佐。
諜報などの裏方仕事の中でも特に暗殺に特化。
ラクロナ大陸最東端、アルポロンで使われる『カタナ』を愛用する剣士。
剣の腕前は帝国軍でも随一。剣術指南役を歴任。
性格は不愛想で無骨で無口。
◎メイリーン・サザンクライ(28歳 絶対サバよんでる)
性別・女(賞味期限切れ)
元ラクロナ帝国軍第一中央近衛部隊所属 階級・中佐。
部隊では魔導部隊の隊長を務める(人望は皆無)。
帝国の定める魔術師の階級では現在6名しかいない最高位の≪S級≫号を取得。
近代魔術の権威として比類なき地位を確立(でも人望は皆無)。
性格と性癖に難あり(性悪、加虐趣向、弱い者イジメ大好き)。
痴女(笑)。
◎モリグチ・トオル(21歳)
性別・男
性格は気弱で人見知り。
異世界人。
「続きまして……」
「タイムタイムタイムタイムタ~イム!!」
まるでリング上でボコボコにされるボクサーを庇いながら拳のラッシュの間へと割って入っていく勇敢なるレフェリーのごとく、ツラツラと仲間の情報を漏洩していくネクラスをアルルが慌てて止める。
「なにか?」
「なにか?じゃないですわよ!!なにシレっと進もうとしてるんですの!!」
「??」
「はて?って顔しないで下さい!!くそ、なんか可愛いなぁ、もう!!」
「問題がありましたか?」
「ああ、もう!!……ツッコミどころがありすぎて……はぁぁ……」
「???」
不思議そうに首を傾げる『革命の七人』の副官。
なんだかこの表情のなさといい天然な感じといい、アルルは本当にタチガミ・イチジを思い出してしまう。
「……まずモリグチ、さん?ですか?その異世界人ってなんですの?」
「異世界から来た人です」
「それは、そうなんでしょうけれど……異世界人?≪現人≫?」
「やはり≪現世界≫という存在、異世界という概念をご存知でしたか。さすがですね、王女殿下」
「ええ、まぁ、それは……一体、どこから見つけてきたんですの?」
「はい。私があなたの工房に侵入した際、≪門≫を使わせていただきまして、ちょっと連れてきてしまいました」
「あれ、貴女でしたの!?≪門≫ぶっ壊したの!?」
「はい、その節は申し訳ございませんでした。やはり私程度の魔力ではうまく使いこなせなかったようで、帰還の際に壊れてしまいました」
「またツッコミどころが増えて……どうして≪門≫の存在や使用法を知っていたとか色々聞きたいんですけれど……まずは、連れてきてしまったというのは?」
「はい。ちょうどあちらの世界に出たところ半死状態だった人間を発見。放っておいてもよかったのですが、≪現人≫というものの生態に興味がありましたので、こちらに連れ帰り、治療を施しました」
「命を救った行為は素晴らしいですが……興味ですか?」
「はい。おそらく、あなたが≪門≫を作成し、魔法・≪次元接続≫を発動させたのとほぼ同じ理由かと思います」
「……なるほど」
「≪次元接続≫、≪門≫、≪現世界≫……情報を得てから随分と興味をそそられ、つい先日、好奇心の赴くままに侵入してしまいました」
「ただの好奇心って……そんなキャラづけですの?」
「私、気になります」
「え?」
「はい?」
「……え?」
「なにか?」
「…………」
「…………」
「……わかりました、もういいです。……次に進んでくださいませ」
「いいのですか?まだ何か引っかかる点があれば」
「問い詰めていけば無限にツッコミを入れる羽目になりそうなので、もうサクサクいきましょう……」
「はい、そういうことであるならば。……あ、ちなみにメイリーンのことは嫌いなので、ところどころに毒を入れていました」
「気になっていたけれども!!
【ラ・ウール組】
◎ノックス・ヘヴンリ―(68歳)
性別・男。
ドラゴノア教団教祖 階級・大神官。
ドラゴン崇拝を掲げるドラゴノア教で現在唯一残った組織の長。
打倒・帝国の理念が一致し、最近『革命の七人』と同盟を結ぶ。
教義の関係で『シルヴァリナ』には誰よりも強い執着を抱く。
性格は一言で言えば狂人。
デレク・カッサンドラとはまた異なる方向に頭のネジが飛んでいる。
古代の魔術、特に死者の魂を使った禁忌の呪術系の研究家でもある。
◎カロン・エルロン(??歳)
性別・女
◎カノン・エルロン(??歳)
性別・女
双子。
人形遣い。
幼い容姿、稚拙な言動ではあるが、年齢は不明。
殺傷性は幹部の中でも一番。
児戯のように殺戮を行う残虐性も一番。
よくメイリーンをからかって遊ぶ(ざまぁ笑)。
「いや、メイリーンいじりはもういいですから……」
「失礼。無意識でした」
「……貴女の性格も大概ですわよ?」
「何か気になった点はありますか?」
「……あのマッドなおじいちゃん、『シルヴァリナ』にだいぶご執心のようでしたけれど、よくこの部屋に一度もやってきませんでしたわね?」
「首領の方から接触をするなときつく言い含められていましたから。それでも何度となくこちらへの突入を試みていたのですが、その度に私が抑え込みました」
「わたくしの与り知らぬところで……ありがとうございます」
「いえ、私の睡眠時間と食事の回数が……」
「ホント、ごめんなさいですわ!!」
「ですが安心してください。『シルヴァリナ』の秘匿事項について知る者は私と首領、そして彼ぐらいなものですから、ノックスが何故こうまで貴女に固執しているのか理解できない者が殆どです。端から見れば若い娘に夢中になっているイタイご老人にしか映っていないでしょう」
「それはそれで安心できないのですけれども……重ねてありがとうございます」
「それでもメイリーンはどこか訝しんでいましたでしょうか。腐っても≪S級≫の称号を持つ魔術師ですから。……そう、腐っても……腐っても……腐って……ぷぷぷ」
「ぷぷぷ、と言うならせめて笑って!?」
「私、笑っていませんか?」
「え?笑ってたんですの!?そのタイプした文字のような無味乾燥な声で!!」
「それで、エルロン姉妹についてはどうですか?」
「こほん……正直、貴女にもわからないところが多いようですわね?」
「はい。補足できることといえば私が『革命の七人』の一員になるよりも前……まだ組織という体裁を取る以前から首領とともに行動していた最古参だということぐらいです」
「残虐性を持った人形遣いの子供。……戦闘スタイルが目に浮かびますわね」
「常に二人で行動を共にし、その連携も素晴らしいです」
「そうなのでしょうね」
「メイリーンをからかう時の連携と言ったらそれはそれは秀逸で……ぷぷぷ」
「メイリーンいじりはもういいですの!!」
【王女収監組】
◎デレク・カッサンドラ(38歳)
性別・男。
元ラクロナ帝国軍第一中央近衛部隊所属 階級・大佐。
現『革命の七人』首領。
魔属性の『風』の特性を生かした攻守兼用の≪風の鎧≫を常に纏う。
卓越した剣術、豊富な経験値、戦闘の才能で組織最強の存在。
何よりも『正義』を貫き続けるその精神力の強さが最大の武器。
性格は正義。
性癖も正義。
ようするに、正義の変態。
「こんなところでしょうか」
「いや、自分のところのボスを変態で済ませていいんですの?」
「しかし、事実ですから」
「確かにあの『正義』への狂い方は変態的ですけれども……」
「あの方を語るにはただ一言『正義』と言っておけば事足りるかと」
「雑、とは言えないですか。まさしく正義の体現者ですものね」
「そして現在、私に戦争の指揮を丸投げし、首領はこの塔の地下にて瞑想にふけっています」
「それが貴女に与えらえた試練、ということなのでしょうね」
「はい。そして戦争の勝敗に関係なく、首領とあなたは相まみえることが決まっているのです。自身を万全の状態にまでもっていくため、完全な勝利のため、集中力を研ぎ澄ませているところです」
「……必ずしも、わたくしと戦うとは限りませんけれどね」
「……あなたのお仲間の誰かが首領を打倒してしまう、と?」
「ええ、そうですわ」
「強いですよ?デレク・カッサンドラという男は」
「ええ、承知しています。おそらく、わたくしがこれまで出会ってきた人間の中でも、断トツに強いのでしょう。……しかし、わたくしはもっともっと、断トツという言葉を軽く越えていくほど、強くて弱くて、格好よくて格好悪い……そして誰よりも気高くあろうと懸命に生きる最高の殿方を一人、知っていますの」
「あの、あなたのナイトのことですか?」
「彼は決して『正義』になんて屈しない。光になんて飲まれない。……だって約束したんですもの。互いに生きてラ・ウールの王宮へと帰り、今度こそ二人でラスト・ダンスを踊りましょうと」
「約束、ですか」
「貴女にも想い人がいるようですので、おわかりになるのではなくて?根拠らしい根拠とはなりえない、どこまでも愛という感情の赴くままに流された手放しの信頼。デレク・カッサンドラが聞けば、それは他人への依存、妄信という惰弱だと切り捨ててしまいそうですけれど、なにを仰います。……女は好いた殿方との約束があれば、それだけで強く生きられる生き物ですわ」
「はい。ごもっともかと同意します。私もただ彼の傍にありたいという一念だけで、ここまでやってきたのです」
「……つかぬことをお伺いいたしますが、そのお相手ってデレク・カッサンドラのことなのでしょうか?」
「いえ、違いますよ」
「相変わらずキッパリですわね……」
「あんな変態と彼を一緒にしないで下さい。怒りますよ」
「……それ、あなたが怒られますわよ。さっきからボスに対する敬意がまったく感じられないのですけれど……」
「ぷんぷん、です」
「だから口だけで感情表現しないでくださいまし……」
「彼は素敵な男性です。……それはもう、あなたの想い人と同じくらいに」
「それは是非ともお会いしてみたいですわね」
「ムラムラでメラメラ、です」
「何が!?このタイミングで思い出すだけで滾って欲情するほどイイ男なんですの!?それとも会ってみたいと言ったわたくしに対する嫉妬心がメラメラですの!?」
「あ、そうそう。一応、流れ的に私のことも教えておきます」
「……ホント疲れますわね……このマイペース……」
◎ネクラス・ボーングラフ(秘密です♡)
性別・女(キュピキャピだお♡)。
元ラクロナ帝国軍第四西方統括部隊所属 階級・大佐(偉いんだお♡)。
歌って踊れる陽気な性格(みんなの輪の中心☆)。
好きな食べ物・ケーキ(ついつい食べすぎちゃう♡)。
好きな言葉・絆(みんなで一つのことを頑張るって素敵☆)。
好きな男性のタイプ・やさしい人(でもいざという時は男らしいの♡)
性癖・空欄(え~だって恥ずかしいじゃないですかぁ♡♡♡)
性感帯・空欄(も~エッチなんですからぁ♡♡♡)
スリーサイズ・B♡W♡H♡(大事な人にだけ教えてア・ゲ・ル♡)
「あとは……」
「ホント疲れる!!このペースっ!!」
「はい?」
「初対面の頃との印象が違いすぎますわよ貴女!!どれだけキャラ崩壊してるんですの!?なんですの!?そのクソみたいなプロフィール!!どこの設定ペラペラなアイドルですの!?『♡』の大洪水に目がチカチカするだけで、何一つとして有益な情報開示されてないじゃないですの!!唯一知り得たのはケーキが好きってことだけ!!」
「はい。村では『隣に住んでいるからいつでも会いに行けるアイドル』として有名で地元の祭りなどではよく舞台に上がっていましたけれども」
「いやいやいやいや!!貴女本当に何者!?それ絶対≪現世界≫のヤツ!!なんでそんな知識があるんですの!?」
「私、気になります」
「≪現世界≫のヤツ!!!!」
少しでも我が愛すべき眼鏡の才女とキャラ被りと思っていた自分の節穴具合が腹立たしいアルル姫だった。
コンコン……
囚われの王女が、明らかに仲間内に見せている堅物そうな姿とはまったく違う天然なのかなんなのかよくわからないキャラを発揮する敵の副官に激しいツッコミを入れているところで、部屋のドアがノックされる。
「あのぉ、お姫様?入ってもいいですか?」
「はい、どうぞ。大丈夫ですよ」
ドア越しにアルルへと尋ねられた声に、何故だかネクラスが応答する。
「あ、やっぱりネクラスさんでしたか……」
そして開かれたドアから少しだけ様子をうかがっていた少女が部屋へと入ってくる。
「外までお姫様の声が響いたので何かあったのかと思っちゃって」
「いえ、問題ありませんよ」
「……はぁ、ようやく解放されるんですのね。……このツッコミ無限ループから……」
「えっと……お疲れ様です?」
ガクリと脱力してベッドへと倒れ込むアルル。
部屋に入ってきた少女がイマイチ状況を把握できてはいなくとも、憔悴しきった姫君へと労いの言葉をかける。
「何があったんですか?」
「少し王女殿下と楽しくお話をしていただけです」
「……また変なことばかり言ったんですね、ネクラスさん?ダメじゃないですか。お姫様を困らせちゃいけませんよ」
「おお!天使!天使が舞い降りられた!!」
ガバリとベッドから起き上がり、少女へと思い切り抱き着く涙目のアルル。
「え?え?ええ!!??」
ムッチリとした体を押し付けられてワチャワチャと困惑する少女。
「ずるい、私も。……えいっ」
絡み合う二人に意味もなく加わる過激派革命組織の幹部。
「嫌ですのぉ~もう嫌ですのぉ~淡々系天然ブリ女の相手はもう嫌ですのぉ~……」
「ちょ、お、お姫様、く、苦しい……か、顔が胸に埋まって……」
「えーのんか。ここがえーのんか」
「きゃ!ちょ、ね、ネクラスさん!?ど、どこを触っ、きゃあ!!とゆーかどこを揉んで……」
「むむむ!?こ、これは、わ、わたくし以上の張りと質量……」
「きゃあん!お、お姫様まで!や、やめ、きゃああん!!」
「いえいえ、王女殿下。実はこの娘、お尻の方もまたなかなかなものを」
「……ふむ、くるしゅうない。くるうしゅうないぞ」
「ひゃぁぁぁんん!!」
「えーのんか。えーのんか」
「くるしゅうない。くるうしゅうないぞ」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
荒野に咲いた美しき三輪の花によるユリンユリンな絵面。
それを止めることは、どこの世界の誰の価値観を持ってしても等しく『悪』。
こんなキレイなモノばかりで世界のすべてが埋め尽くされたのなら。
きっと『正義』や『悪』といった価値観も、どのような些細な争いごとすらもこの世から根絶してしまうことだろう。
「ちょ、調子に……乗りすぎた……(はぁ、はぁ、はぁ)」
「ひ、ひどい……(グス)」
「失礼、取り乱しました(ツヤツヤ)」
弄ばれた少女の本気泣きで正気に戻ったアルルの手によって、事態の収拾はつけられた。
三者が三者とも盛大に着崩れ、髪も何もボサボサ。
しかし、服や髪は整えられても、少女の心には魔術でも消すことのできない傷が残ってしまった。
「ご、ごめんなさい。ちょっと、わたくし、あまりの苦行の最中に舞い降りた常識人の降臨にテンションがビッグバンしてしまって……」
「ぐすっ……こんなことする人だとは思っていませんでした、お姫様……」
「ううう……わ、わたくしのイメージが……」
「気にすることはないです、王女殿下」
「貴女はもっとイメージ大事に!!貴女の本性を知ったら卒倒する仲間が出てきますわよ!!絶対!!」
「いえ、部下や同僚の前では猫被ってますから」
「どうせならわたくしの前でも被っていてほしかった……って部下?いいんですの?この娘は?」
「彼女は大丈夫です。部下でもなんでもない、『革命の七人』とはまったく関係のない私個人の関係者ですから」
「関係者?」
その妙な言い回しに、アルルは首を傾げる。
「わたくしの世話をしてくださっていましたが、部下でも同僚でも従僕でもなく、『関係者』ですの?」
「彼女との関係を何と言ったものか、私の語彙ではうまく表現できません」
「ん?」
「一応、こちらに連れてきてしまった張本人として私にも責任があります。彼女に対し、最大限の配慮と待遇をしているのですが、当人がただジッとしているのが嫌だというもので、私や王女殿下専属の世話係として働いてもらっています」
「……ん?」
割とポンコツではあるが、基本的にはあらゆる面でいわゆる『天才』の異名を欲しいままにするアルルの頭脳が何かを訴える。
「どこかで似たような関係性を見たような……」
「はい、そうですね。実際、王女殿下の傍に当初は似たような関係性で結ばれた者がいると思います」
「……ネクラスさん?」
「ネクちんと」
「(無視)貴女そういえば≪門≫を使ったんですわよね?」
「はい。それで≪現世界≫へと渡りました」
「……そして瀕死の≪現人≫を連れて来た……」
破壊された≪門≫の現場検証を行った時、リリラ=リリスが何かを言っていた。
―― 誰かが行き来したの。行きは一人。来は……おお、三人か ――
一人目、ネクラス・ボーングラフ。
二人目、モリグチ・トオル。
三人目……。
「……すいません、貴女、ちょっといいでしょうか?」
「……ぐすっ……はい……なんでしょうか、お姫様?」
「貴女のお名前、聞いたことがなかったですわよね?」
「名前……あ、そういえば自己紹介がまだでした……」
「ついでにご出身のお国なども、ご一緒に教えていただけませんでしょうか?」
「出身?生まれた国ですか?地名ではなく?」
「できれば国の方でお願いします。……結構、大事なことですの」
まるで絵本の中から飛び出してきた、真っ白なドレスを着たキレイなお姫様。
いつになく真剣な彼女の表情に、少女も身を引き締める。
……その小さな体の背筋をまっすぐに伸ばして。
「私の名前は夏目ミカン。出身は日本……えっと、お姫様から見たら異世界にあたる≪現世界≫?から来ました」
三人目、ナツメ・ミカン。
小さな体に似合わぬたわわすぎる双丘を携えた、ツインテールの少女はそう名乗った。
「ナツメ・ミカン……≪現人≫……」
豊満な胸を『STAND A LITTLE TALLER』、ちょっとだけ高く立ち上がれる、という文字の入った大きめのTシャツで隠した少女は……。
「はい、そうです。改めてよろしくお願いします、お姫様!!」
ナツメ・ミカンは異世界などという場所に連れて来られた苦悩などまったく滲ませない素敵な笑顔を浮かべ。
そう答えた。




