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マジカル・ビート・タクティクス -異世界ってこうですか?-  作者: YAMAYO
RHASE:02 囚われの姫君
30/75

第五章・その男、漢につき~ICHIJI‘S view②~

 「……るるる~るるーるーる~……」


 「…………」


 なんだろう、胸を引き裂くようなこの切なさは。


 「るーるーるるーるーる~……」


 「…………」


 なんなのだろう、自分などでは彼女を救えないのだというこの無力感は。


 「るるる~るるるーるぅ……るるるるーるるーるぅるぅ……」


 「…………」


 膝を抱え、天空的な城のテーマを口ずさむ小さな小さな黒い背中。


 滅びの呪文こそ唱えはしなかったけれど、割と本気で誰かに滅びをもたらそうとした一撃が、ただの気合と根性ごときに敗れ去ったこと。


 何よりその一撃に込めた悪意なり憎悪なり皮肉なりに相手がまったく気づかず、むしろなんだかポジティブな捉え方をされたこと……。


 「……ラ〇ュタは……なかったんや……ははは……」


 突き付けられたそんな現実に打ちのめされた≪創世の魔女≫は、いつかドナの街で一度顕れた≪関西の幼女≫と化して空を見上げる。


 そこに、あの城がどこにも浮かんではいないことを、もう彼女は知っているはずだというのに……。


 大丈夫、大丈夫だ、リリー。

 

 アレはきっと君の心という果てしなく広い天空を、今も優雅に漂っているはずさ。


 「これは夢……いや、夢だけど、夢じゃなかったんや……」


 ……そう、リリラ=リリス=リリラルルの完全なる敗北(主に精神的)。

 

 それは決して、夢などではなかった。



               ☆★☆★☆



「……え~こほん、そんなわけで……」


 平和な朝の団欒が一転、一人の男の闖入によってもたらされたカオス渦巻くカラ騒ぎ。


 それでもまぁ、のど元過ぎればなんとやら。


 人も空気もとりあえず落ち着くところに落ち着き、まるで祭りの後にも似た妙な寂寥感漂う中、アルルが代表して仕切り直す。


 「改めまして、イチジ様。こちらはギャレッツ・ホフバウワー。我がラ・ウール王国王室近衛騎士団の団長を務める者です」


 「お初にお目にかかる」


 「いいえ、熊ではありません。これはヒトです」


 「……もしかしてまだ本調子じゃないのかな、アルル?」


 なんで和訳風味だよ。

  しかも無料翻訳ソフト並みの安易な直訳。


 静まったかに見えたドタバタの余韻の尾は、俺が思っているよりも長かったのかもしれない。


 「こほ!こほん!!……色々と逸脱したところばかりですが、れっきとしたヒトです……と言いたかったのですわ」


 「気楽にギャレッツと呼んでくれて構わない。……それで貴殿がアル坊肝いりの異世界人とお見受けするが、よろしいか?」


 「あ、はい。立神一です」


 「なるほど、なるほど。いやはや騒ぎ立ててしまって誠に申し訳なかった。吾輩、どうにも興奮すると周りが見えなくなるタチでなぁ、ともあれタチガミ殿、以後お見知りおきを」


 「こちらこそ、よろしくお願いします」


 「なに、そうかしこまらんでも大丈夫だ。聞けば吾輩と同じくらいの歳だというではないか。十年来の友人のようにもう少し砕けた態度で接してくれた方がこちらとしては嬉しい」


 「……同年代?」


 「来月、二十九となる」


 「…………」


 まさかの年下だった。

  というかアラサーだった。


 どう若く見つもっても外見はオーバーフォーティ。

  貫禄にいたってはもはやオーバーエイジ枠って感じだろ。


 「これから何かと顔を合わせる機会も多くなるであろうが、共に励んでいこうではないか」


 変な空気感も我関せずという具合に、キラリと真っ白な歯を煌めかせながら赤毛の熊……もといギャレッツがグイっと差し出してきた手を反射的に握り返す。


 なんて固く、そして自然な握手なんだ。


 一応、三十年生きてきて、容姿も性格も性質も多種多彩、十色の人間を見てきたつもりだけれど、こんなに爽やかで裏表のない握手を求められたのは初めての経験だった。


 ほんの些細な動作の一つ、強く短い触れ合いだったとはいえ、それだけでこの男の爽やかで裏表のない人間性を垣間見れたような気がする。


 少しの嫌味も雑味もなく、敬意と礼節をわきまえた理想的な握手。


 きっと初対面から彼に好感を抱く者は多いのだろうし、こんな何かとひねくれた俺であってもそのご多分に漏れることはなかった。


 ……ただ、初対面より前の初遭遇。


 そのアクがあまりにも強すぎて素直にその爽やかさを受け入れられず、言動や行動から裏表がないというよりは単なるバカなのでは?という下方に向けた補正が自ずとかかってしまうのが残念と言えば残念なのだけれど。


 「それで、そちらのお嬢さんが件の獣人の……」


 それからギャレッツは相変わらずアンナの傍らに立っていたココへと水を向ける。


 幼女の低い目線に合わせるよう甲冑をカシャカシャいわせながら膝を折る姿もまた自然。


 子供相手にはそうしなければならない外連味というか義務で渋々みたいなところもまるでない、気ままに湧き出る思いやりからさらりと動いた感じの紳士的な態度。


 しかし、せっかくの優しい気遣いもその大きな体躯では幾ら屈んでみたところで、結局は盛大にココが見上げるような形になってしまうことが、やっぱりこの男の残念なところだった。


 「ん。ココはココだゾ」


 「うむ、ココ殿か。良い名であるな、うんうん」


 「ババさまがつけてくれたんだゾ」


 「吾輩はギャレッツ・ホフバウワー。尊敬する父上が名付けてくださった」


 「きゃべっつ?」


 「否、ギャレッツ」


 「ほふばんぱー」


 「否、ホフバウアー」


 「……ほうふぱわー?」


 「否、否。ホフバウアー」


 ……多分、見た目に引っ張られちゃったんだろうな、ココ。

  確かに見るからパワーが豊富そうだし。


 「……んん??(くんくん)……」


 互いの名乗りを終えたところで、ココが可愛らしい狐耳が急にピンと張り、おもむろに鼻をクンクンとさせた。


 そして……。


 「ねぇねぇ、ぱわーのおじさん?」


 「うむ、どうかしたか、ココ殿?」


 「どうしておじさんからゼノ君の匂いがするんだゾ?」


 「匂い?」


 俺たちにはもちろんわからなかったけれど、どうやら彼に染みついた相棒の匂いを、ココの鼻は敏感に感じ取ったらしい。


 そういえば、俺が殴り倒して昏倒させてからのゼノ君の所在が不明のままだった。


 「さすがは獣人の嗅覚といったところか」


 そう言ってうんうん、と感心したようにうなずくギャレッツ。


 「いや、なに。監視役としてしばらく一緒にいたからな。吾輩からあの青年の匂いがしていてもおかしくはない」


 「うーん、そうじゃないんだゾ」


 「はて?そうじゃない?」


 「うん、そうじゃなくて……チ」


 「んん??」


 その場にいる誰もが、この獣人の幼女が何を言いたいのかわからず首を傾げた。


 俺の魔力を食らった時に見せた大人びた口調ならいざ知らず、平常運転の舌足らず具合では彼女が訴えかけたいものがどうにもわかりづらい。


 「チ、だゾ」


 「チ?」


 「うん、チ」


 「チ??」


 「うん、チ。まっかなまっかなチ」


 「まっか……おお、もしや『血』。血液のことであるか?」


 「そうだゾ。血だゾ」


 ようやく相手に自分の意が伝わり満足そうに笑うココ。


 ……そう、あくまでも無邪気で、朗らかな笑顔のままで。


 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 なんとも物騒な問いかけがぶち込まれた。

 

 「え?」「え?」「え?」


 『血』という言葉に同音異口で驚きの反応をしたのは、俺、アルル、アンナの三人。


 「そんなに匂うか?(くんくん)」


 『血』という単語を聞いても平然としていたのがギャレッツ。


 「うむ、きちんと流したと思ったのだが……」


 「ギャ、ギャレッツ!どういうことですの!?」


 そして発せられた言葉の意味そのものに誰よりも過敏に反応をしめしたのはアルルだった。


 「確かにお兄様が裏で糸を引いていたとはいえ、第一王女たるわたくしの客人と、近衛騎士団の副団長に矛を向けた咎人。その罪とわたくしの立場上、手厚く保護しろとは言いませんが、しかし彼の……ゼノさんの処遇が決まるまで他の者が無茶な尋問や人権を無視した粗雑な扱いをしないようにとあなたを監視役の任につかせたはずですのに!!」


 「待った待った、落ち着けアル坊。誤解だ誤解」


 「……申し訳ありませんが、ココさんの鼻の方をわたくしは信用していましてよ?」


 「まぁ、血は出たな、うむ、盛大に」


 ギャレッツは困ったような顔をしながらも、素直にゼノ君に傷を負わせたことを認める。


 「殴った殴らなかったということであるなら、もちろん殴ったんだろう」


 「ではやはり……」


 「ああ、殴った。殴って蹴って肘や膝をいれた」


 「なにもそこまで残酷なことを……」


 「そして同じくらい殴られもした」


 「見損ないましたわよ、ギャレッツ。まさかあなたほどの者がいたずらに虜囚に手をあ……え?殴られ?」


 「うむ、蹴られたし、肘や膝をいれられたし。他にも投げられて絞められて、なんならむしろ手数ではあの青年の方がはるかに勝っていただろう」


 「え?……どういう状況……ですの?」


 「拳で語り合った、とかじゃないか?」


 「おお、まさしく!まさしくそれだ、タチガミ殿!」


 さきほどのココと同じように、自分の真意を理解されたのが相当うれしかったのか、こちらも屈託のない大きな笑顔を浮かべバンバンと俺の肩を叩くギャレッツ。


 ……いや、痛い痛い。


 手のひらが大きいから叩かれる範囲もめちゃくちゃ広い。


 そして、痛い。


 「やはり男同士、女人には想像できぬことでも簡単に分かり合えるというものだな!がっはっは!!」


 「……いや、俺もその経緯というか、どうしてそんな暑苦しい流れになったのかはわからないけれど」


 「したり、したり!!がっはっは!!」


 「…………」


 正気か、ゼノ君?


 こんな加減も人の気も知らない輩と一言でも肉体言語で会話したくないよ、俺。


 「はっ!?もしや、ひょろりとした痩身の中に切れたナイフのような危ういハートを持ち入学初日で早々に一年生をシメ上げた新入生と、その漢気と人離れした巨体でもって番格に君臨し続ける三年のバンカラによる下剋上対決ですの!?」


 「どんなシチュエーションでの話なの、それ?」


 「でもここら辺りの川に土手なんてありませんし、夕暮れに染まるグラウンドや校舎の屋上なんてものも……」


 「いや、ロケーションの話でもなくて」


 こっちはこっちで、理解の方向が大分ぶっ飛んでるな。


 だからもう少し世界観とキャラクターを大事にしていこうよ、ファンタジー世界のお姫様。


 「いやいや、意識のなかったうちは大人しかったのだが、目を覚ました途端、暴れるのなんの。ここはどこだ~だの、ココはどこだ~だの。『ここ』と『ココ』の違いを聞き分けるのにしばらくかかってしまったわ。がっはっは」


 「そしてイントネーションの話か……」


 さらには王宮メンツでの流れるようなコンビネーションというところまである。

 

 ここまでくれば、わざとこちらに韻を踏んだツッコミをさせているのではないかと勘繰ってしまうのは、俺の精神もまた、このざわつく空気感に侵されているからなのだろうか。


「それで、団長?そもそもこちらにどんな御用向きがあって来たのでしょう?」


 しかし、ここには彼女がいた。


 「察するに今まさに話題にのぼったゼノさん、ひいてはココさんの処遇が議会によって正式に決定した旨を姫様にご報告するため……といったところでしょうか」


 とある多感な少女が開けてしまった箱の底にはちゃんと希望が残されていたように。


 この混沌とした世界にはアンナベル=ベルベットという良識と常識が残されていた。


 「おお、そうだったそうだった」


 アルルがものの見事に失敗した軌道修正。

  相も変わらず、そぞろな空気。


 それらをただメガネの弦を一度クイっと持ち上げるだけでアンナは瞬く間に整えてしまう。


 さすがとしか言いようのない手際。

  さすがという言葉だけでは足りない手慣れた感じ。


 ああ、なんという既視感。


 ……奔放な上司や一癖も二癖もある同僚たち。


 奇人ばかりの環境でもまれ続けた挙句、そんな役回りを否応なく押し付けられてしまったんだろうというところまで、パクに瓜二つだな、ホント。


 「さて、アル坊よ」


 そして奔放な上司は部下の苦労もつゆ知らず、ゴソゴソと胸元から数枚の書面を取り出してさっさと本題へと移る。


 「王政議会、並びに元老院のお歴々が昨晩遅くまで審議をして採決された幾つかの事項について報告だ」


 「……ええ、お願いしますわ」


 「まずは獣人・ゼノ。さきほどアル坊が言ったとおり、タチガミ殿とベルベットを襲撃した咎については、どうにか本人の自供と明確な裏付けが取れたことによってナルル・テンペスタ・ラ・ウール第一王子の関与が証明された。私怨でもなければ何か組織的な背景があるでもない、あくまでナル公との間で交わされた契約に基づく純粋な仕事の一環だ。……ラクロナ大陸の西方に位置するラ・ウールからさらに南西部に位置するズペリン公国を活動の中心として『何でも屋』を生業としていた彼は、その業界では中々に名が知れているらしい。人探しに物探し、ちょっとした探偵業や力仕事の労働力、そして暗殺を極点とする各種荒事の代行。表だったものでも表には決して出せない後ろ暗いものでも、相応の対価さえ積めば文字通り何でもこなし依頼の成功率も高い。……まぁ、その正体がとうに滅びたはずの獣人族の末裔であることは巧妙に隠していたようだがな」


 「確かに『亜人の大陸』エドラドルでも正式に絶種認定されている獣人族・≪王を狩る者(セリアン・スロープ)≫の存在が明らかになれば相当な騒ぎになりますものね」


 「ある程度の条件を満たさない限り……獣化の為の魔力を体に回さない限り、ゼノさんの風貌は私たち幻人となにも変わりありませんから、隠蔽も難しくはなかったのでしょう」


 「ですが……お兄様は知っていたような節がありましたわよね、アンナ?」


 「はい。むしろゼノさんが獣人族であることありき……その各方面に優れた能力に期待を寄せて依頼をしたという趣でした」


 「うむ、その辺りを含めそもそもどうしてタチガミ殿の命を狙ったのか、吾輩もナル公に直接聞き取りをしたかったのだが……どういうわけか自室にこもって出てこようとしないのだ」


 「え~と……そ、それは……」


 「『尻がぁ、尻がぁ……』といううめき声が扉越しに漏れてくるばかりでなぁ」


 「あ、新手の痔でも患ったのではないでしょうか。ね、ねぇ、アンナ?」


 「……きっと、そうなんでしょうね、はい。私は何も知りませんけれども」


 なるほど、アルルが何かしたんだな、これ。


 「…………」


 しかし、そうか。


 結局、首謀者たるアルルの兄……ナルルというこの国の王子が俺を襲撃させた理由はわからないままか。


 顔も知らない誰かから知らず恨みを買うことはこれまで幾らでもあったわけだけれど、さすがに異世界に来てまでそんな因果に付きまとわれるとは思ってもいなかったな。


 「尻の穴の具合はともかく、責を一番に負うべきはナル公だ。しかし被害者たるタチガミ殿と巻き込まれただけのベルベットがこうしてピンピンしている以上、依頼は失敗。その上、二人が事を大きくしたくないとして訴えを起こさなかったがために、その罪自体が最初からなかったこととなる。別段、ナル公が公務をすっぽかしたり報酬のために国費を横領したりなんかもしたわけじゃない。青年の方にしても今は王室の管理下にある廃聖堂を半壊させた器物破損や、国境を超える際に正規の手続きを踏まなかった不法入国あたりを裁けないことはないなのだが、正直、その程度の罪科でわざわざ各省庁の長を臨時招集して大仰な議会を開くことなど本来はあり得ない。……ようするにだ。議会が開かれた本題は誰かの罪を暴き、裁くためのものではなく、獣人と言う特別にして特殊にして特出した存在の扱い方についてだった」


 「扱い……ああ、なるほど……そういう……道理で沙汰が下されるのが早いと思いましたの」


 何かに得心がいったと何度も頷くアルルではあったけれど、その形の良い眉がひそめられた険しい表情は一つも納得がいっていないという感じだ。


 「ゼノさんを囲おうという思惑ですのね」


 「うむ、さすがだアル坊。ここまで言えばもう十分だったか」


 「ええ、狡猾な古狸連中の考えそうなことですもの」


 「そう言ってやるな。お前と年寄り様方とで見据えるものがまるで違っていることはわかるが、それでもお互いの目は、国の平穏という同じ方向を向いているではないか」


 「たとえ目指している方向は同じでも、その過程がいちいちわたくしの癪に障るんですの」


 「癪に障るときたか……。これでお前が何の力もないただの小娘であるなら単なるワガママで済んだかもしれんが、なまじ行動力と説得力、そしてこれまでの実績があるから無碍にもできないところが厄介だな」


 「それで……そんな生意気な小娘が必ず余計な茶々を入れてくるであろうことを知っている同志諸兄たちは……議会の最高権力者たるラ・ウール十三世が不在のうちに言質を取り、外堀を埋め、お父様が帰っていらしてももはや覆しようもないところまで密な契約をさせようという魂胆から、普段ではまずお目にかかれないほど早急に決を下した彼らは、一体、どんな≪マホウ≫を使ったのでしょう?」


 「いやはや、アル坊には敵わん」


 ギャレッツがきまり悪そうにガシガシと自分の髪を掻く。


 「取り上げるほどでもない罪をさも大ごとのようにあげつらい、糾弾し。彼が自身の平和のためにひた隠しにしてきた獣人族の末裔あるという事実を世間にバラすぞと暗にチラつかせ。……そして、それでもおそらくは頑なに提案を拒んだのでしょう。話に聞いているだけですが、彼はその若さのわりに確固たる己の信念みたいなものをちゃんと持っている方のようですから。安い挑発や脅迫にはそうそう屈しないでしょう。どれだけ自身に不利益が及ぶことであったとしても、矜持に反することを決して是としない。それこそ誇り高き≪王を狩る者(セリアン・スロープ)≫の戦士として。……しかし、最終的にゼノさんは議会の提案を……建前上、ラ・ウール王国の総意を飲まざるを得なくなった。それがこの報告のオチですわね、ギャレッツ?」


 「うむ、いかにも。本日付で獣人族・ゼノはラ・ウール王国王室近衛騎士団の所属となった」


 「……王を狩る獣に首輪をつけたつもりになってご満悦なのでしょうね、きっと……」


 一層、眉根が釣りあがったアルル。


 「……アルル……」


 議会だの元老院だのと、まるでついていけない俺を置き去りに進んでいく話。


 被害者という立場で関わっていたはずなのに、どうやら俺のことなんて最初から噛ませ犬程度にも思われていなかったらしい。


 まぁ、それはいい。


 別にゼノ君や黒幕たるアルルの兄に何か処罰を与えてほしいだなんて露ほども考えていなかった。


 元より、俺自身だってゼノ君並みに立場があやふやなところをアルルの厚意でもって許されているようなところがあるのだ。


 それこそ、その議会とやらで糾弾されてもおかしくはないレベルで。


 「ええ、大丈夫。大丈夫ですわ、イチジ様」


 だから、俺が気になることは今のところ一つ。


 「ちょっと、怒りとそれ以上の呆れによって頭が真っ白になりかけてはいますが、大丈夫。わたくしが超絶美少女にして王国最高峰の頭脳の持ち主、そしてイチジ様の未来のお嫁さんであることは変わりません」


 思い出したかのような高慢キャラも。

  とってつけたかのような俺への妄執も。


 どことなく上ずべりしてしまうほどにアルルを怒り心頭にさせたものが一体何であるのか。


 それだけがとても気になった。


 「ゼノさんが自身の矜持を曲げてまで、こちらの提案に与しなければならなかった理由……イチジ様には想像できますか?矛を交えた者同士、彼の人間性をわたくしよりもよく知っているであろう、イチジ様には?」


 「……まぁ、相当なことだろうなというくらいしか」


 「ええ、それでいいのですわ。それでいい。イチジ様はそのままでいたくださいませ。何の躊躇いもなくそこに行きつき、何一つ悪びれもぜず大義のためとこんな卑劣な手段を正義面して振りかざすアノ者たちのようには決してならないでください」


 ……いや、気がかりだったというべきか。


 なんだかその時のアルルの静かに微笑んだ顔が。

 

 白く輝く瑞々しい肌が。

  白銀に煌めく美しい髪と瞳が。


 「ただ≪王を狩る者(セリアン・スロープ)≫という希少な戦力を保持したいがために、我がラ・ウール王国の議会は、ココさんを人質に取ってしまったのですわ……」


俺の目には、とても儚く、そして危うげに見えた。

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