最後の一葉
正月も三が日の過ぎた頃。冷たい風が吹き荒ぶ中、急ぎ足で実家に帰る。と、年の離れた妹は炬燵で伏せっていた。生気のない、虚ろな目。向かうその先は窓ガラスの外。庭の枯れ木、枝の葉はわずかに残るのみ。風景は寂寥感に浸らされる。近付いた私の影に気付いたのか、妹は声を漏らした。
「残り一枚。それでワタシは終わってしまう」
妹は体が丈夫な方ではなかった。外で遊ぶよりは内向きで、両親も色々買い与えていた。でも、それが逆に害する結果となってしまうとは。今さらどうにも、ではあるのだが。
「仰々しい物言いはやめてくれ」
「その最後の一枚も、もう消えるの」
一段と強く風が吹いた。窓ガラスに焚き付ける。私はやや苛立ちを覚えた。
どうして、どうしてこんなにも早く、吹き飛んでいく。
「一枚でもあれば…」
やっと声を絞り出すと、妹はしなやかな白い細首でこっくりと頷いた。私は求められた一枚を取り出す。
「ひでーよ。期待値との落差」
妹は途端にしおらしくなくなった。がばっと起き上がり、尖った口が回転し始める。
「けちっ。天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずって言われてるでしょ」
勢いに押されること暫し。だが、私は踏みとどまった。いつもここで妥協してしまうから、妹が毒となる。教育的にもススメられない。
「今年はここまで」
取り替えて渡したのは一葉。二枚のうちの一枚、諭吉ではない。これ以上はないと言い切った。ただ、それだけでも手のひら返し。
「お年玉ありがとう、お兄ちゃん!」
かわいい。ああ、かわいい。年の差のせい?、どうして妹はこんなにもかわいいのだろう。光を反射する大きな黒目は、その中に私を捉え。華奢な体躯は、すらりとした立ち姿を見せる。触れるだけで砕けてしまいそう。一礼すれば、長く艶やかな黒髪が、掛かるように私の前に垂れ落ちる。
如何にもあざとい、のだが。
「遅ればせながら、あけましておめでとうございます。お兄ちゃん♡」
気付けば、財布の中の最後の一葉も妹の手に。