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第9話 魔物を倒して町へ行く

 夜になり、若い身体に戻った俺はモンモンを連れて近くの森へ入る。


 魔物は暗がりを好む。

 月や星の光も届かないような森の奥や洞窟を。


 ……しかし暗くてなにも見えない。

 森へ入るにはたいまつを持ってくるのが普通だが、そんなものを持っているわけもなく、手ぶらだ。


 高位悪魔を屠れる俺からすれば、魔物など取るに足らない存在だ。

 暗闇から奇襲されたかといって、どうということもない。が、突然出てきたらビックリはするので、やっぱり灯りはほしかった。


「お前、悪魔なんだから目から光とか出せないのか?」


「うん? うん。やってみよう」


 できるのかな?


 しばらくして……


「……ううん。できなかった」


「そうか」


 別に期待はしていない。


 それからしばらく暗い森の中を歩いたが、魔物は一向に現れなかった。


「悪魔なら魔物のいる場所とかわからないか?」


 ダメもとでモンモンに聞いてみる。


「やってみよう」


「できなきゃ帰るぞ。こんなところで朝になったら魔物どころか熊に食われる」


 この森に熊が生息しているかどうかは知らないが。


「ううん……」


「だめか?」


「あっちにいるような気がする」


「どっちだ?」


 指を指しているようだが、暗くて見えない。


「あっちだ」


「だからどっちだ?」


「そこだ」


「なに? ――うわっ!」


 眼前になにかが降ってくる。


 俺はモンモンを抱いて飛び退り、降ってきたなにかを凝視した。


 熊か? ……いや、違うな。


 大きさは熊と同じくらいだ。

 しかし背中になにかついている。左右に広がって、まるで羽でも生えているように。


「あれはバットベアだ」


 モンモンが言う。


 バットベアとは熊にコウモリの羽がついた弱い魔物だ。

 こいつは低位悪魔の鼻くそからできていると、誰かに聞いたことがある。


「ぐおおっ!」


 咆哮を上げて襲い掛かってくる。


「なにがぐおおだ。うるさい」


「ぐお……」


 軽く蹴り飛ばすともう動かなくなった。

 悪魔からできているとはいえ、所詮は鼻くそなのでこの程度だ。


「さてと……」


 俺は剣を使ってバットベアから必要なものを採集する。


「牙と爪と……目玉も持ってくか」


「うええ……気持ち悪いなぁ。そんなものまで取るのか」


 背中にすがりついてき、肩のうしろから顔を出してモンモンは嫌そうな声を出す。


「薬を調合するのに使えるんだ」


「鼻くそだぞ」


「薬になるんだからしょうがない」


 採ったものを皮袋に入れて腰に下げる。

 これだけでも売れば飯代くらいにはなるだろう。


「森を出るぞ」


「採ってくのはそれだけでいいのか?」


「十分だ。朝になる前にここを出なきゃならないしな」


 じじい状態でバットベアに襲われたら間違い無く死ぬ。

 早く出なければと、俺はモンモンを担いで足早に森を抜けた。


 森を出て街道を進む俺とモンモン。

 朝になり、俺は拾った木の棒を杖にひいひい言いながら歩いていた。


「疲れた……。ちょっと休もう」


「さっきも休んだぞ。わたしは腹が減って死にそうなんだ。急ごう」


 腕を引かれるが、俺はもう動けない。


「片足の無い年寄りに無理をさせるな……はあ」


 どっこらせと、杖を放り出して草むらに倒れる。


 若い状態とくらべて、老いた体は動きづらくてしかたがない。

 右足のことがないにしてもだ。えらく疲れやすいし、歩いてるだけで身体のあちこちが痛くなって嫌になる。


 少し前までは衰えの苦痛などそれほど気にならなかったが、夜だけでも若くなるので年寄りに戻ったときの反動がでかい。


「腰が痛い。ちょっと揉んでくれ」


「しょーのない老人だ」


 しぶしぶといった様子でモンモンは俺の腰を揉む。

 悪魔にしては親切な奴だ。


「これでいいか?」


「ああ。もう少し左だ。そうそこ」


「……ぐう」


「おい」


 いつの間にか、モンモンは俺の背中に覆い被さって寝ていた。


 近くの町についたのは昼を過ぎ、夕方近くになってからだ。

 採集したバットベアの牙などを売った俺たちは、飲食店を見つけて入った。


「わたしに肉を持ってこい」


「はあ、肉と言われましてもいろいろとございますが」


「牛の肉だ」


「ではステーキで?」


「すていき? うーん……すていきでいいのか?」


「牛のステーキを2つ持ってきてくれ。あと水を」


「かしこまりました」


 頭を下げてウェイターが去っていく。


 なかなか賑わっている店だ。客が多い。

 それゆえ、身なりが汚い俺は目立つ。

 もしも俺ひとりだったら、乞食として追い払われていただろう。それが普通だ。

 追い払われなかったのは、身なりと容姿の整った、小奇麗な子供を連れていたからだと思う。


「すていきは牛の肉か?」


「ステーキは料理の名だ。牛でも豚でも、肉を切って焼けばステーキになる」


「はー……そうなのかー。知らなかった」


 モンモンはテーブルに額をつけ、両手を左右に広げた。

 この行動になんの意味があるのかはわからない。


「なにしてるんだ?」


「こうするとなんか落ち着く」


 変な奴だ。

 イスに座ってじっとしているのが苦手なのか、それからもモンモンは形を変えつつ妙なポーズを取り続けた。


 ステーキがくると、モンモンは犬のようにがっついて食べ始めた。

 両手で持って肉にかぶりつき、むしゃむしゃと咀嚼している。


「うめー」


「そうかい」


 俺はナイフで切ってから、肉を口に運ぶ。

 と、そこで周囲の視線が乞食の俺からモンモンに移っていることに気付く。


「うめーぞ、うめー」


 両手で掴んで、モンモンは肉をかじっている。

 いくら子供のなりでも食い方があまりに下品だ。目立って当然だろう。


「おい、ナイフとフォークを使って食え」


「んあ? もう食べちゃったぞ」


 手に掴んだ肉を、丁度、口に放り込んだところだった。


「ああ、まあ……ならいいもう」


「おう。レイヴンのもくれ」


「あっ」


 食いかけの肉をぶんどられる。

 ひどく行儀の悪い奴だ。乞食の俺でも、一緒にいて恥ずかしくなってきた。


 早く出よう。

 そう思い、木の棒を取ろうとすると……


「――ちょっとすいませんっ!」


「えっ?」


 背後から怒気が篭ったような声をかけられる。

 なんだと振り返ると、そこには耳の尖ったエルフの若い女が立っていた。

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