第1話 右足を失う
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「ぐあっ! あ、あ……」
突然の激痛に俺は目を覚ます。
足だ、足が焼けるように痛い。
なんだ? なにが起こったんだ?
「――よお、レイヴン。気分はどうだ?」
「アレクスっ……貴様なにをっ!」
ベッド脇には悪魔討伐の仲間、剣士のアレクスが右手に斧を持って立っていた。
「なにをってほどのことはしてない。あんたの右足をもらっただけだ」
「なんだと? あっ……」
上体を起こしてみれば、右足の膝から先が無く、おびただしい血が流れていた。
痛いなんてもんじゃない。平静を保つのがやっとなくらいの激しい痛みだ。
「こいつっ! 殺してやるっ!!!」
怒りに任せて立ち上がろうとするも、右足が無いので立つことができない。
ベッドから転げ落ち、身体が木の床に叩きつけられる。
見上げれば、アレクスが嘲笑うようにこちらを見ていた。
クソクソッ! 三下剣士のくせに最強の俺にこんなことをしやがってっ!
俺は怒りで頭がどうにかなりそうだった。
「おい、終わったのか?」
「ああ、見ての通りさ」
「貴様ら……っ」
ぞろぞろと見知った顔が俺の部屋に入ってくる。
剣士のアレクス、エルフの弓使いカナ、拳法使いのサイード、レプタールの盗賊タゲン、悪魔憑きの魔道士ナデュラス、東方の槍使いハンゾウ、盲目の賢者マキナ、女たらしの老人僧侶ヤーマス、そして獣人のラーバン。
全員が俺の仲間だ。……いや、アレクスはもう違う。
だが、他の連中も騒ぎを聞いてここへ来たという風ではなかった。
「殺すって話だ。こいつまだ生きてるぞ」
「すこし遊んだだけだ。これから殺すよ」
アレクスとサイードが話している。
仲間が集まってるというに、誰ひとりこの状況を作り出したアレクスを糾弾しない。
むしろ蔑むような視線を俺に向けている。
つまりこいつらはグルだ。グルになって俺の足を奪った。
「どういうことだお前らっ! なんでこんなことをしたっ!」
「どうもこうもない。みんなあんたが嫌いなんだ」
全員が俺を見、賛同の言葉を吐く。
俺たちは悪魔を殺しながら世界を回るデーモンバスターだ。
高位の悪魔を殺し、国へ戻って多額の報奨金を貰い、賞賛を受けるのが仕事だ。
その帰路の道中、小さな町の宿に泊まってこんなことが起きた。
「あんたはいつも自分ひとりで戦ってると思ってる」
「事実そうだろっ! クソがっ!」
今までこの役立たず共をを率いてきたのは、最強のデーモンバスターである俺だ。
今回の仕事だってほとんど俺ひとりで片付けた。
俺が貰う金と賞賛のおこぼれを貰うこいつらに、感謝される覚えはあっても、嫌われて殺される覚えはない。
「今回の報奨金の半分はあんたがもってく。今回だけじゃない。いつもそうだ」
「使えないお前らにもいくらかやってるんだっ! なんの不満があるっ!」
「もういい。あんたはここで死ね。金と賞賛は俺らだけでもらう」
アレクスの斧が振り上がる。
「三下共がっ! 俺を舐めるなよっ!」
「なっ!?」
咄嗟に逆立ちし、振り下ろす斧を握るアレクスの右手を左足で蹴る。
俺はそのまま肘を曲げ、腕の筋肉だけで飛び上がって窓から外へ脱出した。
「クソっ! 追えっ!!」
2Fから転げ落ちた俺は、運良く杖になる木の棒を拾い、それを地面に突いて必死で逃げた。
そのへんの村人なんかとは違う。
俺は世界最強の人間だ。
足を1本なくしたくらいで、雑魚に捕らわれるほど弱くはない。
だが、切断された右足の断面から血が流れ、意識が朦朧としてくる。
いくら最強でも、気を失えば無様に殺されてしまう。
「こっちだっ! 森に入ったぞっ!」
幸いにして町は森の中にあり、現在は夜だ。
深い森の奥に隠れてしまえば、そうそう見つかることはない。
「森に入られ……と厄介で……ね」
「だ……寝……せば……ったんだっ!」
「右……が無……だ。そ……遠……は」
声が遠くなっていく。
俺は森の深いところを目指し、急いで声から離れた。
惨めだ。屈辱だ。
自分よりも格下の剣士に右足を奪われ、情けなくもこうして逃走している。
ここで逃げ切ったとて、右足の無い俺は武人として死んだも同じ。もうまともに戦えない。
生まれてこのかた、戦いしかやってこなかった。それ以外の生き方を知らないのに。
どのくらい逃げてきただろうか?
そろそろ朝日が昇っても良い頃なんじゃないかと思う。
「あれは……」
洞窟だ。
俺はそこへ転がり込んだ。
「傷を……クソッ。得意じゃないんだけどな……」
慣れない治癒術を右足の切断面にかけ、なんとか傷を塞ぐ。
血は止まった。とりあえず……生きている。
大きく息を吐き出した俺は、ガックリと俯く。
生きているからなんだ? この足でどうやってこれからを生きていくつもりだ?
いっそ死んだほうがよかったんじゃないか? ……いや
「死ぬ前に……この恨みは晴らしておきたいな」
俺をこんな目に合わせた奴らを殺さなければ、死んでも死にきれない。
とはいえ、この足だ。戦うとなれば、困難であろう。
さてどうするかねと、意外にも冷えている頭で俺は考えた。
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