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サラ視点→ヴォルター視点となります。
どっちも俺表記だからわかりずらくて申し訳ないです···。
サラはベンチでヴォルターに書類を渡された。
なんだこれ。ただの夜会の一覧表じゃん。そういえばヴォルターは騎士団の仕事してんだっけ?
人々の世話焼くなんて、ヴォルターにはピッタリな仕事だよな。
でもやっぱ仕事だし、辛いこともあったりするのかも。
それで疲れて、こないだは亡霊みたいになってたんかな···。
うん、わかるようん。
仕事とかしたことないけと、疲れるとどうでもよくなる気持ちはわかるよ、うん。
気づいたら、嫌ぁな顔したヴォルターと目があった。
なんだよ、俺がお前の仕事の苦労を思っているのにその顔。
親の心子知らずってこれか。
で、大叔母様が言ってくる夜会の話とか、お前俺の話聞いてたん?
逃れられるならば、とっくにしてるんだよ。
例えば血ぃ吐いてても行かせるぜ、あの人は。
俺がどの夜会に出ようが、誰を気に入ろうが、俺の勝手
いいな。
お前、なんかいいよな。
なんかすごい眩しい。羨ましいんだろうな、俺。
お前がそんなに自由だと、俺もなんでもできる気がしてくる。
1人じゃ絶対不可能な、大叔母さまを見返すなんてことも、していいかもって思えてくる。
2人なら、できることもあるかもっ···て。
そばにいていいかな?
迷惑かけないようにするから、迷惑かけない間は、
そばにいたいな。
で、
俺たった今、心の中でさ、迷惑かけないって誓ったんだよ。
ほんとお前、俺の心ヴォルター知らずだよ。
ドレス作るのすっげ〜〜〜かったるいんだぜ?
お前に迷惑かかりんぐじゃん?
は?なに?買い物?
自分の好きなもの···?すげぇ、すげぇ街に行くの?通り過ぎないで!!??
俺は、恥ずかしい事に、街に行く前の日、ろくに寝れなかった。
ヴォルターは、いつも村に来るときみたいな格好で、朝現れた。
うっわ、俺なんか恥ずかしい···。
家じゃ麻のシャツとか着てられないからこういう格好なんだよ。
でもこれ、絶対変だよね。
街にこういう格好の人、誰もいなかったらどうしよう。
なんでそんなに穏やかに笑ってんだよ、くっそ、余裕かましやがって〜。
街に来た俺は、新しい発見が目まぐるしかった。
それ全部、ヴォルターに教えてあげたかったけど、よく考えてみたら、ヴォルターはここで働いてるんだよな。
全部見慣れてるか···。
色とりどりの綺麗な飴。よく見えるようになってる透明なビン。
誰かに気に入られて、そこから出ることができても、あとは食べられるだけ。
俺は何もできず、ただそれを見てることしか、できない。
欲しい物はどれ?って、言われるけど、選べない···。
だって全部欲しい···。
さすがに店の全て欲しいって言ったら怒られるよな。
怒ってもう連れてきてくれないかもしれないよな。
でもこの中から、何個かだけなんて選べない···、皆なんでそんなにすぐ選び取ってくんだ?
赤いチョコの包み紙を、取った理由教えてくれ···。俺には青の包みとの違いがわからない。
両方食べ比べないと、わからない···!!
飽きることなく見てたら引っ張られた。
あ〜、飯ね。って事は俺もう家帰れって言われてんのかな。
もうちょっといたかったな。店丸ごと買うの、我慢したけど、やっぱもうおしまいか···。
これなら全部欲しいって言えばよかった···。
おい、なにコイツら。
歩くって、俺ん家までかなって。結構距離あるけど、俺散歩ならいいなって思ったのに
コイツらと騒ぎてぇぇぇ!!
スモウしたい、スモウ。俺こないだおやっさんに教わったんだよ。
なぜかヴォルターには内緒にしろって言われちゃったんだけど、ヴォルターにも、おやっさんには内緒にさせればよくね!?
あぁ、でもあれか。俺今
お姫様
か···。
ヴォルターは、みんなと仲良さそうだな。
みんなと混ざると、どれが偉い人かわっかんね。
あぁ〜、なんかこれ、この味。うっまい。
え〜、すごい。冷めてない肉ってうまいんだな。
でもこないだのパンは熱々じゃなかったけどおいしかったな。
ヴォルターって、おいしいものいっぱい知ってんだ。
一個のお皿に乗った肉とか野菜とかを、2人でちょっとずつ食べてって、最後の一個、見てたら「お前の分だぞ、それ」ってヴォルターが言った。
そうなの?どれが誰のって決まってたんだ!俺お前の食べなかった?大丈夫?
馬車から降りると、看板のマークがなんか見たことあるとこだった。
俺がドレス作ってるとこだから当然か。
俺、店には来たことないんだよな。
なぜかヴォルターのうしろに隠れる俺。
すげぇ、発見。俺、ヴォルターにすっぽり隠れるぞ!
これ、いつかなにかに使えそうだから心のメモにとっとこ。
『こんにちわ』
って、変な声するから見たら
ちょ、俺やばい···
鳥の言葉がわかるように、なりました!!!
『いらっしゃいませ』
ふ、ふふふ、お前の店だったんだな、ここ。
俺、ここの店長あんま好きじゃないって思ってたけど。
今日はいないみたいだな。
いちお教えとくけど、お前見てないとこで店長ヅラしてる人がいるんだよ。気をつけたほうがいいぜ。
『あら〜、奥さまぁ〜』
うんうん、え、俺ヴォルターの奥さんじゃねーよ?そう見えた?
俺がなんとかして、鳥さんの誤解を解こうとしていたら、ヴォルターがやってきた。
おいお前邪魔すんなし。お前にも関わる事よ?
今後お前が、謂れのない不貞行為で摘発されても困るだろ?
「これが、俺が着てもらいたい色。だいたいな。この中だったらどれがいい?」
って言って、並べかけられた生地は、どれも綺麗だった。
さっきのお菓子みたいな色じゃなくて、もっとこう···
森の色とか
茶牛の色とか
朝焼けの色、とか、そういう感じがして
そっか、こういう切り取り方もあるなって、思った。
そうすれば、俺はあの村にいながら夜会に来れる。
あの人達と一緒なら、絶対楽しいと思うんだよね。
選んだのは、深い深い青い色。
ちょっとキラキラ光ってて、夜空みたいな色。
夜会のバルコニーから見上げた夜空の色。
ごめん村のみんな、俺、まずはヴォルターがいて欲しくて。
だって今日、村じゃないけど楽しかった。
ヴォルターは俺の知らない事いっぱい知ってて、それを教えてくれて
でも待っててくれる。
だから、今日、心地よかった。
なんか俺、ひどいな。ヴォルターのせっかくの休み潰しちゃって。
金も使わせたし、結婚してるって誤解もさせちゃった···!
あの鳥さん、噂好きかな?
俺と話してるときはそうでもなかったけど、常連相手だとわからないと思うんだよね。
ヴォルターにはいつもと同じ風景だっただろうし、つまらなかったかもな。
「なにすんだよっ」
ほほほほほっぺをつかむな!しゃべれねぇ!
ってか、手ぇでかっ!あとあったかっ!!
すげぇ優しい笑顔で、ヴォルターが、綺麗な紫色の包み紙をくれた。
「結局お前、何も買わなかったな。次は自分の欲しいモノ、ちゃんと俺に言えよ」
って、優しい顔だったから非難してるわけじゃないなってわかって。
お前、って、言いそうになった。思わず。
お前のことを生地みたいに切り取って、マフラーとかにして、くるくる首に巻きつけときたい。
でもそんな縛り付ける真似、お祖母さまと何も変わらない。
俺にもあの性格が遺伝してるのかな。
ヴォルターがくれた包み紙にはブドウの絵が描いてあって、中身は飴玉だった。
俺は丁寧に包み直して、きれいな箱に大切にしまった。
紫は今日、ヴォルターにすくい上げられて、あのビンから
自由になったんだ。
ーー
サラは紫の飴玉を机の上でコロコロ転がしながらボーっと窓の外を見ていた。
村に行こうと思って、村人Aモードになったけど、今日はヴォルターが仕事だったって思いだしたら、なんか動く気がしなくなった。
鳥さんの誤解も解きたいけど、村と違って街のことは何も知らない。
店の位置もわからないし、馬車用意させるには本邸に行かなきゃならないし、
と、結局ぐだぐだしてたら窓の外が赤くなってきた。
あ···、こないだの生地の色···。
なんかすごいあったかい色。
焚き火の···色···みたいな······。
あれ、今日何日だっけ?
サラは、ん〜···と考えると、
「んがぁぁぁぁ」
と、レディらしからぬ叫び声を上げた。
ーー
ヴォルターは街道の警備をしていた。
今日は村の収穫祭で、そのせいでいつもより少し往来が多い。
たぶんサラも行くだろうと思って注意して見てたけど、それらしい人影は見当たらなかった。
俺が休憩してる間に行ったか。他に用があったか。
なんにしても、道案内したり、落とし物処理したり、ヴォルターは働いていた。
もう暗くなる頃、やっと迷子の子が見つかって親元に戻り、本当なら帰還するところだったけど
もしかしたら、親も気づかない迷子がいたら困ると、思い至ってしまい
部下に報告を任せて、街道から少し外れたところまで見回ることにした。
こんなに暗くなって、帰り道もわからなかったら心細いだろう。
そう思って進んでいたら、そこにサラがいた。
「迷子発見」
「あん?」
サラは、村にも行かず、かといって帰るわけでもなく、なんか立ってた。何してるの君。だめだよ、良い子は帰る時間。
「お前何してるん?早く帰らないと暗くなるぞ。危ないだろ」
あ、これサラのセリフね。
でも、思うでしょ?
「それは俺のセリフだ。何してんだお前は」
サラは、ポリポリと頬をかく仕草をして
「実は今日、村の祭りなんだ。でも俺忘れてて、さっきやっと思い出したんだ」
あらまぁ、でもいいじゃない。今からでも行けば。
門限とかあるなら帰ればいいし、ここいても意味ないぞ?
「去年参加した時は、朝から色々な催し物があってな。村長さんが説明してくれたんだけど、全部に意味があって、今年これだけ収穫できましたよ〜、神様のおかげですよ〜、あんがとね〜って、そういう場なんだよ」
ヴォルターは頷いた。
「あそこは農村だからな、古くからの伝統があるんだろうな」
うん、とサラは頷く。
「だから、途中から行ってもダメだろ?ちゃんと感謝しきれない」
あぁ、なるほどね。
行きたいけど行けない。でも行きたいの。っていう揺れる思いを、君はそのままその体の動きで表現してるのね。おもしろいね。
ヴォルターは理解して
「このくらいの時間だと、村では何するんだ?神様だって鬼じゃないんだ。途中参加だってお許しくださる。村長は怒るかもしれないけどな。俺とこっそり祝おう」
サラは笑顔になって、活き活きし始めた。
「あのな、暗くなるともう皆家に帰るんだ。暖炉を囲む。火がいるんだ」
あ、そう。火打ち石ちょうどあるから、う〜ん、どうすっかな枯れ木集めさせるか。って振り返ったら、サラがものすごい量の落ち葉をかき集めていた。
あ、そうね。それでもいいね。手早いね?
俺は枯れ葉で火をおこすと、近くにあった乾いた倒木を突っ込んだ。
これで一時間はいけるな。
「そしたら、皆でくっついて座る」
あ〜、それたぶん、暖炉の前狭いからだろ?ここなら別に···。
いや、くっついた方がいいだろ、何言ってんだ。伝統だろ。
伝統なら仕方あるまい。
俺は厳かな気持ちで、サラの肩に触れそうなほど近くに座る。厳かに。
「本当はここにクルミを殻ごと入れる。それでな、今年あった出来事を皆で話すんだ。嬉しかった事でも、悲しかった事でも、苦労したな〜って事でもいいんだって」
お前からいいよって言われて困った。
今年っていうか、ここ半年、目まぐるしすぎて何話せばいいか···。
しかも全部サラの事だし、本人目の前に言うのも···。
「びっくりしたことなら···あるかな、侯爵令嬢が実は少年だったとか」
あははっ、とサラは笑う。「それ逆や」と突っ込みも忘れない。
「俺も、夜会の貴公子が女恐怖症なのは笑ったな」
「牛乳飲めない、とか」
「バッタさわれないだろ」
「首の後ろにホクロあるし」
「えぇっ、知らねぇ···。お前は、自分の思い通りにならないと鼻にしわよるよな」
「ガキじゃあるまいし···お前のほっぺは今に落ちる。あんな柔らかいものはくっついてられないはずだ」
「お、お、お、お前の手はすごい大きいっ!あと、お前の背中に、俺すっぽり隠れるんだぞ」
へっへ〜ん、てドヤ顔してる。う、うん知ってる。お前小さいからな、顔も体も。
「お前のお陰で夜会が楽しくなった。あっという間に時間がすぎる」
「俺、初めてドレス出来上がるの楽しみにしてる。早く着てみたいな」
「俺も見たい。きっと似合うと思うんだ。バルコニーに立ってるときのお前綺麗だったし」
サラは目を丸くしてこっちを見上げた。う···、つい言ってしまった···。何口説いてんだ、くそ···。
「俺も、あのバルコニーから見た夜空みたいだなって、思った。お前が···」
サラがそう言いかけた時、パチッ、パッチンと、2回焚き火が爆ぜた。
俺は思わずサラを庇って焚き火とサラの間にしゃがんだ。
ちょっと肩を抱いてしまっていて、離れなきゃいけない距離だなって思うけど、まだ爆ぜたら困るし、サラの肩が細くて頼りなさげで、離しがたかった。
「危なかった。当たってないか?どんぐりが混ざっていたかもしれないな」
俺は明るく言った。考えてない考えてない、やましい事なんか考えてません神様!
サラは、そんな俺の服をちょん、と摘むと、顔を預けてきた。
「俺の親は」
サラが言う。
「愛し合ってもいないのに義務だけで俺を産んだ。必死に産んだのに女だった。俺が存在してることが、そのまま親不幸な事だった」
「でもお祖母さまにとっては一族の希望だった。俺がいないと続かない。本当は男だったら、もっと良かったけど、でももう俺しかいないから、俺じゃなきゃ止まってしまう」
サラの、服を握る手が強まる。
俺にピッタリくっついてて、表情は見えない。
「たまに、思う。止まるから、だからそれが何だって。だって母は少しも幸せじゃない。父も、弟も、俺だって」
「クルミが、暖炉で爆ぜたら、その数だけ神様が願いを聞いてくださる。俺、皆が愛し合う家族になりたい。お前の所みたいに、マコんとこみたいに、いつも笑ってて、たまに怒鳴られて、でもそれはマコの為で。そう、なりたい。でも無理かな。クルミじゃないし、朝から感謝ささげたわけでもない」
俺は、サラをそっと抱いた。変な気持ちは掻き消えてて、ただただ、この手の中の存在を守りたかった。俺の手で、いつまでも。
ふっと笑うと、サラは顔を上げた。
泣いてなかった、泣いてると思ったのに。
「爆ぜたのは2回だったな、お前は何を願う?」
俺の願いは、
俺の、気持ちは、このでかい図体いっぱいに溢れかえってて、もう抑えようがなく出口を求めてる。
そんな顔で聞くな。
もう抑えられないだろ···。
「俺がお前の特別になりたい。俺の中でそうなのと同じように」
言葉にしたら、すごく単純だった。なんかもっと、ドロドロと蠢いてた気がするのに、す···っとでてきて、夜の空気に溶け込んでいった。
俺はゴチャゴチャ、ガチャガチャうるさかった頭の中がスッキリして楽になった。ついでに涙まで出そうになった。
う、気持ちだけじゃなくて水分までもれそう、俺。
でもまぁ、どんぐりの願いだし、ちょっとしまらないよな···。
って、ちょっと照れながら俺の胸元で停止してるサラを覗き込む。
サラはきょと〜んとしてる。
あれ···?もしもし?
「俺···え?だって、お前何言って···。俺ができる事なんて何もないじゃん、ヅラ見抜くくらい···かな」
う、うん。いや、ヅラはいいよ。知らないほうが幸せなことってあるじゃん?
「はぁぁ〜、びっくりした。願いって言ったろ?ドッキリしかけろって言ってないぞ?」
おほほほほほおいおほいおい、これで通じないの、うそでしょ。神様、俺今からクルミ買ってくるからさ。何個爆破させたら願い聞いてくれる?
「帰ろうぜ、焚き火も消えてきた。なんか俺今日すっきりした!ありがとな、ヴォルター」
眩しい笑顔で片手上げて、家の方角へかけていくサラ。
送ってく事も思いつかずに呆然とする俺。
吐き出せて良かったな、重かったもんな。でもな、
俺全然すっきりしない、なんでかな···。
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