杏奈
僕は横目でシュートの顔を見た。彼は片目を軽く閉じて笑った。
やはり彼らの目にはいつものシュートにしか見えない様だ。
間違っても彼は死んでここに転移してきたなんて言っても誰も信じないだろう。
その日僕は久しぶりにいつもの仲間達と冒険の旅に出た。気心知れた仲間との冒険は楽しかった。
何よりももう二度と会えないと思っていたシュートと一緒に居られる事が、僕には信じられない程嬉しかった。
いつものように彼は最前線で突っ走る僕を庇って戦ってくれていた。
フルダイブのVRMMO「シルバーソードストーリー」から現実の世界に戻ったのはもう朝方だった。
僕はベッドの上で上半身を起こしてため息をついた。
現実の世界に帰ってきた。これからが僕の正念場になる事が分かっていた。
そう思っていたが、今は眠い。そのまま僕は寝た。そして昼前に目が覚めた。
僕はまた同じようにベッドから体を起こして携帯電話を取り出した。
暫くその携帯電話を見つめてから、同級生に電話をかけた。
3コールで相手は出た。
「研二どうしたの?」
そう僕の本名は研二だった。なのでシュートが勝手に浸けたキャラ名を強く反対できなかった。
「うん。杏奈さぁ。ちょっと話があるんだけど、今、例のゲームに参加できる?」
「ゲーム?」
「うん。僕とシュートがやっていたVRMMO」
「ああ、あれね。まだやっていたんだ?」
杏奈は呆れたような声で聞いてきた。
「うん。昨日からまた始めた」
「そうなんだ……あんまりあそこは行きたくないんだけどな」
杏奈も僕と同じ気持ちだった事はよく知っている。
「うん。でもちょっと話がしたいからできれば今から入って来て欲しいんだけど……」
僕達は話がある時はよくこのゲームの世界で待ち合わせして会っていた。
「うん。判った。じゃあ今から行く。場所はいつもの広場で良いんだよね」
「うん。そこで良いよ」
杏奈は思った以上拒まずにダイブしてくれた。
僕も携帯電話を切ると同じようにダイブした。
「ねえ、どうしたの?」
杏奈の方が先に来ていた。
ヒーラー系に比重を置いた冒険者の杏奈は白魔法が得意だった。アンデッド系の魔獣との戦いも得意だった。
ここでは彼女はローリーと呼ばれていた。
そして僕とシュート以外にここに参加している数少ない同級生だった。
「わざわざこんなところに呼び出してごめんね。でもここに来るのは久しぶりだろう?」
そう言えば彼女と話をするのも久しぶりだった事に気が付いた。
「うん。シュートが死んでから全然来ていない。ジュリーは?」
ローリーの言葉に元気がなかった。
「昨日久しぶりに来た」
「パーティ組んだの?」
「うん。いつもの面子とね」
「そうなんだ。また再開するんだ?」
「うん。ローリーは?」
「もう私はいいかな。ここに来る意味ないから」
彼女はそう言うと寂しそうに俯いた。
「シュートに会えないから?」
「そう。あんたもだから来なかったんでしょ?」
「うん。でもこれからはここに来ようと思っている」
「そうなんだ。もう立ち直ったんだね」
ローリーの声に少し憤りと寂しさを感じたような気がした。
「そうだな。立ち直ったと言えば立ち直ったかもしれない」
「私はダメね。あんたみたいに割り切れないわ」
そう言うとローリーは首を振って空を見上げた。
僕もつられて空を見上げたが再び視線を彼女に移すと
「いや、あれを見たら多分ローリーも割り切れると思うよ」
と言った。
「あれって?」
ローリーは不思議そうな顔で僕を見た。




