え?実戦?
「じゃあ先生。そろそろ名案とやらをお願いします!」
イサベラは期待で机をきしませながら、カローナに催促する。
チャッキー人形の暴走をのりこえ、その後はアンデットの召還から操作への流れを繰り返しながら、ノーミスで課題をクリア。コツは完全に掴んでいた。チャッキー人形の首を回転させつつ、カローナに催促する余裕まである。
「まあ、待ちなさい。話はまだ終わっていないわ。まずはチャッキーの首を止めなさい。だめ、睨んでもだめ。いいから止めなさい。」
不満そうなイサベラが術を解くのを見てうなずきながら、カローナは続けた。
「いい?わかっていると思うけど、今日のアンデットを召還して操作するというのは、ほとんど全ての死霊術の基本になるわ。これができないと、戦闘ではほとんど役に立たない。鬼火は威力が弱いし、かといって連発すれば、今のあなたならすぐに魔力がすっからかんになる。パペット・アンデットも、いつも手ごろなアンデットが戦闘時にそばにいるとは限らない。滅多にないけど、死霊術師同士の戦いでは、さっきみたいに暴走させられることもあるから、実践では揺るがない支配力が必要よ。」
「・・・ん?んん?先生!今、実戦と仰いましたか?」
「言ったわ、それが何か?」
「もう戦争とかないじゃないですか。モンスター討伐とかも重労働の割りに報酬は少ないし、戦いに明け暮れた、先生みたいな殺伐とした、灰色の青春は嫌です。将来は街で降霊術占いとかやって、楽して儲けて暮らしたいですぅ。」
「ふふん、いつまでその減らず口が叩けるかしら?さて、説明は終わり!これからいよいよ、友達作り大作戦の名案を発表します。」
「え?」
「題して『ダンジョンでお友達を探すのは間違っていない』大作戦よ!」
「何ですかそれ、期待はずれすぎて涙が出そうです。人間のお友達は諦めろって言うことですか?」
「これこれ、話しは最後まで聞きなさい。さっき実戦って言ったでしょ?イサベラには、パーティーを組んで、ダンジョンに入ってもらおうと思っているの。」
「ダ、ダンジョンでお友達って、まさか冒険者の人たちと?いやぁぁー!!ムキムキはいやぁぁー!女の子の友達がほしいんです!知ってるじゃないですか!」
「いやいやまさか。さすがに冒険者とパーティーを組ませるのは、どんな人間がいるかわからないし、危なっかしいわ。あなたが死霊術師とばれたら、下手したら討伐対象よ?」
「お、脅かさないでください。」
「くくっ、人の青春を灰色とかいった罰よ。まあ、討伐対象というのは冗談にしても、死霊術師に対する警戒心は強いでしょうね。だから今回は、死霊術師に理解のある、ここ王立魔法学校の生徒といってもらうわ。」
「『理解ある』って、ここでもめちゃくちゃ避けられてますよ。うっ、思い出したらまた涙が。」
「ほらほら元気出して、ようはきっかけヨ!きっかけ!私だって一緒に戦場をかけ抜けて、信頼関係を作れたんだから、イサベラだって近場のダンジョンでちゃちゃっと実戦やって、パーティーのハートを鷲づかみよ!ふふっ」
「ダンジョンかぁ、あまり気乗りはしないですけど、そんなにうまくいきますかね。」
「逆にきくけど、ここで座っててもうまく行くと思う?」
無理だ。この教室は明らかに避けられている。イサベラはうつむきながら首を振った。
「でしょ?じゃあ善は急げね。早速ディアードの所にいくわよ。実はもう約束してあるのよ。多分もう待っているはずよ。」
「い、今からですか?」
樹魔法師ディアード、慌てもしたが、イサベラはその名を聞いて少し安心した。何度かあったことはある、おっとりとした微笑を絶やさない優しい女性だ。
(あれ?もしかして、この作戦いけそう?)
イサベラはそう思った。このときは。