第一話:電話
BLの一歩手前の友情ぐらいが目標なので、苦手な方は辞めたほうがいいかもです。
----ただいま留守にしております。ピーという発信音のあと、お名前と御用件をお話し下さい。ピー............
「......、久し振りですね。この間、君のことを見掛けました。相変わらず食事をきちんとしていないようですね。すっかり痩せて。......君は、未だに後悔しているんですか?私を助けてくれると言ったのに、側に居てくれると言った筈なのに、......私の仕打ちに怒っているのでしょうね。............、近い内にまたお会いしましょう」
......ピー、*時*分一件です。
マンションの一室に空しく響いた。
1DKの部屋には、独身の一人暮らしらしくテレビに炬燵がぽつんとある。
冷蔵庫はなく、キッチンも使われた感じがしない。
一人暮らしではよく見掛けるカップメンや缶ビールの姿も見えなかった。
ただ、一つ生活感が窺えるものは部屋の端に積み上げられた本だけだ。----どれも古く、使い込まれた教科書だが。
その時、玄関の扉が開き一人の痩せた男が入って来た。
その男は、この部屋の主で博文という。
博文は、二十代後半の容姿をしていた。
しかし、その顔はもっと老成したもので表情にも疲労感が浮かんでいる。
十二月だというのに、黒のカッターシャツに黒のパンツという軽装な出で立ちで、しかしそれに苦痛を感じているようではない。
彼は、光の加減によっては青くも見える程の黒髪で、しかし典型的な日本人の顔をしていながら肌の色が蒼白く、一切の黄味がかった部分が見当たらなかった。
また、そんな顔の中でも一際特徴的なのが、サングラスで隠されている片方だけの碧眼である。
博文は、留守電のボタンが点滅しているのに気が付き、メッセージを聞いた。
溜め息がひとつ。彼は、うなだれたまま暫く動くことが出来なかった。
「......疲れた。というか、痩せたって......そりゃあ痩せるだろう。ずっと食ってないし。......食えないし」
博文は、サングラスで隠されている瞳をぼんやりと空中に彷徨わせた。
しかし、そこには何も見出だせなかったのか、先程よりさらに暗く陰った瞳でただ電話を見つめることしか出来なかった。
留守電で響いた声の持ち主は、かつて博文の親友だった。
親友の名前を、シモンという。
シモンを親友と呼べた期間は、十余年に及んだ。
しかし、博文はシモンの前から逃げ出したのだ。
孤独のために縋ってきた彼を。
どうしようもなく苦しみ悩みながら、拒絶することも許されず逃げ出したのだ。----ただ、それまでの自分という存在を守るために。
「逃げ出す事は出来ない。何者も、自分の影からは......。俺がしていた事は、無駄な事だったのか?シモンの前から逃げて、我慢し続けても全く収まらない喉の渇き。......死にたい」
しかし、博文は死ぬ事が出来なかった。
死のうと試みた事はあったものの、どうしてもシモンとの約束が止めるのだ。
どうすれば、楽になれるのか。
博文は、ずっと考えてきた。
まだ答えは見つからない。
「シモンに会いたい......」
逃げ出したものの、楽にはならなかった。
いや、もっと酷くなったといってもいい。
孤独に怯える彼の前から逃げておいて、今さら会うなんてと何度も思い止まってはきた。
しかし、自分勝手と言われようともう我慢出来なかった。
耐えられなかった。----自分の存在に。
彼なら答えてくれるかもしれない。
孤独に苦しんではいたが、自分と同じ苦しみはなかったように思うから。
何でもいいから、例え納得出来ない答えであってもいいから、もう自分という存在を許したかった。
----自分という、人の血を飲む事でしか生きられない存在を。......彼が創り出した、こんなに忌わしく哀しい存在を。
初めて書いたのですが、思った以上に大変でした。……一週間に一回ぐらいを目指して頑張るので、のんびり覗いて下さい。