この中にサンタがいる!
今日はクリスマス。全国のよいこの枕元にプレゼントが置かれる日だ。
オレの息子――大治も例に漏れず、プレゼントを受け取った。しかし、まさかこれがこんな大事件に発展するとはな……
「昨日寝る前に戸締りを確認した。全ての出入り口には鍵がかかっており、外部からの進入は不可能だった。そして、本日僕の枕元にはプレゼントが置いてあった」
大治はリビングに集められたオレと嫁とを交互に見やる。隣で嫁が震えている。
「急いで戸締りを確認したところ、鍵はかかったままだった。これが何を意味しているか分かる?」
ついに嫁は泣き出してしまった。こら! オレだって泣きたいんだ。
そんな俺たちの心境を少しも酌まずに大治は言い放った。
「つまり、パパかママがサンタクロースだ! そして――」
大治は巨大な靴下を逆さにする。
どさどさどさ
中から十冊の漫画が出てきた。疑いようもない、あれは先日ブックオンでオレが購入した中古本だ。小学生なら何でも喜ぶだろうと思い購入した。勿論値札は剥がしてある。
「――この中古本を僕に押し付けた犯人でもある!」
ば、ばかな! 状態がいいのを厳選したはずだ。一目で中古本だなんて分かるはずがない。
そ、そうか、はったりだな! カマかけようたってその手には乗らんぞ。
「おそらく犯人は中古本とばれないように隠蔽工作を行ったのだろう、値札などは付いていない。
しかし! この漫画の一巻に付いているはずの付録が見当たらない! 従ってこれは確実に中古本、状態がいいことから考えるとブックオンで購入したと見た! 合計千円ぽっきり!」
なんということだ……完全にオレの犯行が読まれていただと!? しかも値段までも。
嫁がこちらをジト目で見つめてくる。え? プレゼント代は三千円用意したはずだ? 残り二千円はどこに行ったかって? さあ、どこに行ったやら。あははは。
「僕は妖怪金貨を頼んだはずだ。一体それはどうなった? ちゃんと手紙はママに預けたよね?」
嫁がおずおずと頷く。
一応何が欲しいのか調べるために、大治にサンタへ手紙を書いてもらった。嫁はそれを投函する振りをして、オレに渡してくれたのだ。
「まあ確かに僕の欲しがってた金貨はプレミアがついてて、高かったのは認めよう。それを考慮してプレゼントを漫画に変更したのも百歩譲って許す……しかし!」
大治は地団駄を踏み、かみ殺したようなうめき声をあげる。
大治、泣いているのか? どうして……
「なんで最終巻だけ買ってないんだよ! この漫画は11巻で完結なんだああ!」
臓腑をえぐられるような衝撃を受ける。オレはなんてことをしてしまったんだ……
最後の一巻だけお預けだなんて、誕生日のご馳走の後にケーキが無いのに等しい!
自分の息子の期待に応えられなかっただけではなく、彼を――実の息子を裏切ってしまった。
目頭がじんわりと熱くなり、大治の姿が霞む。
「大治……お前……」
嫁が前に出ようとするオレの服をつかむ。
大治の夢を壊さないでほしい? すまん……オレは息子を裏切ってしまった。これ以上ウソをつき続けたくないんだ……
制止する嫁の腕を振りほどき、大治を抱きしめる。
「大治すまん! パパが悪かった。許してくれ……頼む!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているであろうオレを、大治は優しく抱き返す。
「大治……こんなオレを許してくれるのか?」
大治は慈愛に満ちた表情を浮かべ、静かに首を縦に振る。
「大治! 大治いいいいいいい!」
オレはもう夢中で抱きついてわんわん泣き叫んださ。
とてもオレの子とは思えないほど立派になって――
「じゃあ、妖怪金貨買って?」
――ちくしょう。