すーぱーじじいあーるぴーじー
最近じいちゃんがやばい。
もともと、すぐ何かに影響されてマネをしたがるじいちゃんだった。
「わしはゴムの使い手じゃ!」などと言って、麦わら帽子をかぶり、真冬に半そで短パンで外に飛び出して、隣の梅田さんに家まで担ぎ込まれたことは近所では有名な話だ。
「もう、じいちゃんもいい年なんだから家でおとなしくしててよ」
布団でうんうん唸るじいちゃんに僕はそう告げた。さすがにじいちゃんは反省したのか、しばらく家で静かに余生を過ごしていた。
しかし、2,3日もすると
「テレビなう」
「トイレなう」
「入れ歯はずしなう」
「くしゃみなう」
などと、数分おきに(ひどいときは秒単位に)じいちゃんのツイッターアカに呟かれるようになってしまった。
僕はじいちゃんが少し気の毒になった。今思えば一瞬の気の迷いだったのかもしれない。
「じいちゃん、これあげるよ」
僕が子供のころ狂ったように遊び続けたゲーム機。今ではプレミアさえつく代物である。
じいちゃんは顔をくしゃくしゃにして喜んだ。そのときのじいちゃんの無邪気な笑顔を思い出すと、とてもすがすがしい気分になる。
さすがにそのためだけに、ゲーマー用4Kテレビを購入したときは引いてしまったが。
8ビットのゲーム機にはもったいなさ過ぎる。
まあ、そんなこんなでじいちゃんのツイート数は激減した。
よかったよかったと思っていたのだが……
つい先ほどじいちゃんからラインが入った。
「孫よ、わしは皇后様を助けるために今から皇居にいってくるぞい」
どうしよう、確実に警察沙汰になる。
道端で偶然じいちゃんを見かけた梅田さんによれば、しいたけを食べながら、トンカチ片手に歩いていたらしい。
緑の帽子に紺色のオーバーオール、じいちゃんなんで2人プレイ……
今はひたすらリアルタイム検索でじいちゃんを捜索中。
検索ワード 皇居 じじい 〇いーじ
おっ! 早速反応あり!
「ル〇ージが皇居周りをカートで爆走中ワロタw」
違う! じいちゃんじゃない!
じいちゃんにあげたのは8ビットゲーム機、16ビットは持っていないはずだ。
さしずめ物好きな外国人がふざけていたのであろう、よくあることだ。
またもやネットの網に目撃情報が!
「なんかしいたけ持ったみどりのおじいさんが皇居で暴れてる、東京ってすげえ」
ついにやらかしてしまったか……このままではじいちゃんがつかまるのも時間の問題だ!
僕はいてもたってもいられなくなり、家を飛び出した。
玄関を出ると、目の前には真っ黒の大型バイクに跨るおばあさんが! 総排気量2000ccを乗りこなすおばあさんなどこの辺りでは一人しかいない。
「坊主乗りな!」
梅田さあああん!
彼女の老練なテクニックのおかげでなんとか皇居にたどり着いた。
ヤ〇ーニュースにはまだそれらしき見出しはない。僕は梅田さんに別れを告げ、目撃情報のあった場所に急行する。
いた! じいちゃんだ。
なにやらトンカチで橋を叩きまくっている。
「じいちゃんなにやってんだよ!」
じいちゃんは僕の顔を見上げると、なぜか怒気のこもった声で叫ぶ。
「見て分からんか! すてーじ1-4をクリアしようとしているんじゃ!」
橋を落として亀を堀に沈めるつもりらしい。よく見ればじいちゃんの横にはミドリガメがひくひく動いている。
なんて用意周到なんだじいちゃん。
なんとかしてじいちゃんを家につれて帰ろうと試みたが、こうなるとじいちゃんは頑固で梃子でも動かなかった。
考えろ、考えるんだ僕! じいちゃんは役を演じきっている、そんなじいちゃのRPGを終わらせるには……あれだ!
最寄のコンビニであるものを買ってきた僕は、じいちゃんにそれを差し出す。
「孫よ、なんじゃこれは?」
「くりまんじゅう」
じいちゃんの顔色が見る見るうちに真っ青になった。トンカチを落とし、その場に崩れこむ。
こうしてじいちゃんの冒険は終わりを告げた。