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真冬の怪談 恐怖こたつむり

「俺、東京の大学に行くわ!」


 はるばる大阪から上京してはや半年が経った。

 東京の風は冷たく、なかなか友達を作れないでいる俺は、今日も寂しくぼっち飯を食べていた。

 おふくろの味がなつかしいなあ、と思いつつ、学食の焼き鳥丼を掻きこむ。

 当初は苦痛のあまりに、トイレで飯を食おうかとも考えたが、人間慣れてみると怖いもので、今では周囲の目も全く気にならない。

 それに、楽しいことだってある。他人の話を盗み聞きすることだ。誰々が誰々とチョメチョメした。あの教授はカツラだ。などと話題には事欠かない。


「すいません、ここ座っていいですか?」

 

 ほうら、さっそくお客様だ。今日も楽しい話を聞かせてもらおう。

 

「どうぞ」


 さあ今日の獲物は女子二人。茶髪のロングに黒髪ぱっつんか、なかなか興味深い。 

 俺ほどになると、座る人数で話題が推測できる。

 一人は論外、三人は恋話、四人以上はドラマ、テレビの話、そして二人はプライベートの話だ。

 大学生活半年にもなると、しだいに昼飯を食べるメンバーも決まってくる。二人ということは、かなり親密な関係にあるとみた。さあ、聞かせてもらおうか。


 「この間ネット通販で、初めてコタツを買ったの」

 「ええ、まじ? コタツデビューしたの? どうだった、めっちゃ気持ちいいでしょ」

 「うん、もう最高! 昨日も入りながら寝ちゃった!」

 「入りながら寝ちゃうとよくないよ? ああ、もしかして……出た? こたつむり」

 「こたつむり? なにそれ」

 「ああ恐ろしい恐ろしい、こたつむりに取り憑かれるとね……」


 怪談話だと? 思いもしない展開だ。


 まずい、一人暮らしにとって怪談話ほど危険なものはない。ゴールデンでついつい心霊モノを見てしまった日には大変なことになる。くそ、退避せねば。

 半分ほど残ったどんぶりを持って立ち上がる。空いた手でかばんを肩にかけ、椅子を元に戻す。ここまで約二秒。


 走り去ることだけは避けたい、痛い子に思われるのには抵抗があるからな。


 落ち着いて優雅に女子生徒の後ろを通る。落ち着け、聞こえない聞こえない。

 

「コタツから出れなくなっちゃうんだ。そして、取り憑かれた子はこたつむりになっちゃうの」

「キャーー」

「ぎゃあああああ」


 一目散に出口へと走る。周りが引いた目で俺を見るが知ったこっちゃない。

 あ、どんぶり。授業終わったら返しに行きます。

 


 午後の授業はあの妖怪のせいでちっとも頭に入らなかった。

 授業後、食堂にどんぶりを返した俺は帰路についていた。

 非常にまずいことになった。タイミングの悪いことに俺は昨日コタツを購入したばっかりだ。

 心は無理でも、せめて身体だけはあったかくなろうと思ったのだが、まさかこんな罠が仕掛けられているなんて。

 コンビニの角を曲がり、坂を下る。いつもはなんともない夕方の空も不気味に思えてくる。坂を下るとそこは異世界だったって展開にはならないでくれよ。

 俺の願いが叶ったのか、坂のふもとは異世界の入り口ではなく、見慣れたわが家の入り口が待っていた。アパートの鍵を開け中に入る。キッチンを抜け、七畳間へ侵入。

 うお、でたな! わが宿敵。中央にはコタツが陣取っていた。差し込む夕暮れの光にさらされ、禍々しいオーラを噴出させている。


「おい、こたつむり!」


 しーん、当たり前だが返事はない。よかった、ただのコタツのようだ。

 部屋の電気を点ける。ついでにコタツもスイッチオン――


「コタツからでれなくなっちゃうんだ」


 ――はまだ早い。ふと女子生徒の言葉がよぎり、じわじわと恐怖がにじり寄ってくる

 こういうときは、大声を出せばいい


「うおおお、こたつむりなんかいないんじゃ! かかってこいやワレ!」


 ドンドンドン


「すいません」


 最近ウワサの壁ドンをくらってしまった。

 壁ドンにあこがれる女性たち、簡単です。壁の薄いアパートで大声を出すと夢が叶います、ハイ。

 しかし、声を出したおかげで恐怖はやわらいだな。改めてコタツを起動。ぬくぬく……幸せ。

 安心してしまったのか、そのまま眠ってしまった。

 

 ハッと目を覚ますと、時計は十一時を示していた。おっと、眠り込んでしまったか、いけないいけない。腹は減っているが、この何事にも変えられないような気持ち……今日はもういいや。お休み………


 

「こたつむりめええええええええ」


 ドンドンドン


「すいません」


 くそ、こたつむりめ! 危うく取り憑かれるところだったわ、俺の体はわたさねえぞ。


「でて来いこたつむり」


 勢いよくコタツをめくる、しかし何もいない。

 俺は昔から霊感とかが皆無だったから見えないのかもしれない。だが、確かに感じたぞお前の魔の手が俺の体に伸びるのを!

 もう、怖いとかは感じない。生き残ってやるという男の生存本能が俺の中の血液を沸き立たせる。アドレナリンの抽出による脳の覚醒により眠気は吹き飛んだ!  さあ勝負だコタツムリ、俺とお前のどちらが勝つか、一晩中勝負してやる。

 


 その日から俺は家に帰ると、必ずコタツに入るようにし、こたつむりと戦った。戦いに集中できるようにコタツ周りには、リモコン、携帯の充電器、飲み物、軽い食べ物を常備するようにした。

 トイレや風呂以外はコタツから極力出ないように心がけている。

 そして今日も俺とこたつむりの戦いは続く。

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