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「お久しぶりですね……」

〜前回のあらすじ〜

厄介なマモノたちと再会し鍋を囲みました。

♦♦♦


 時はめぐり、再び朝がやってきた。二人は長らく滞在した宿の退出の受付を済ませ外に出た。


「さぁ! 行きましょうか!」


 ルカはその背に新調した革張りのリュックを背負っている。季節は秋。やがてめぐり来る冬にセラのような体毛を持たないルカは衣服で対応しなければならない。荷物が多くなる事は自然なことであった。

 二人は北西へと歩き出した。それはこの街に来るために歩いて来た時の方角と同じであった。街のはずれを通り過ぎ、平地を抜けると辺りは木々に覆われた山岳地帯へと突入した。



♦♦♦




「はぁ、もう疲れたわ」


 ルカが作った簡易的拠点で焚き火の熱に当たりながらセラがつぶやいた。


「今日ほっとんど歩きっぱなしじゃないのよ」

「ええ……」

「なんであんたまで元気ないのよ」

「ええ……」

「もう、何なのよ……」


 昨日からルカはずっとこんな感じである。常に何か考え事をしているかのようで、心ここにあらずといった様子だ。一体何が彼をそうさせているのか。セラには皆目見当もつかなかった。わからないことを考えていても仕方が無い、そう思いセラは心地よいまどろみの中へと落ちていった。


………………

…………

……

…………

………………


 ふと、セラは目を覚ました。炎は消えていて辺りは真っ暗だ。セラは重い瞼を擦りながらルカの姿を探す。しかしいくら周りを見渡しても荷物があるばかりでその姿はない。


 一体どこへ行ってしまったのだろうか。


「ちょっとー? ルカ〜?」


 少し不安になったセラは小声でルカの名を呼びながら辺りを適当に彷徨った。


 と、突然。木々の向こうから蒼白くまばゆい光が飛んできた。そして一瞬にして元の闇に戻る。


 ルカと何か関係があるのだろうか。セラはその方向へ歩きだした。


 歩くこと数分。セラは先程と同じ様な光が先から薄っすらと差し込んできていることに気が付いた。その光の発生源へ用心深く足を進めていくセラ。どうやら光はこの先の湖上の何かから発せられているようだった。木々の影に隠れながら歩を進めていくと、その湖のほとりに一つの人影が見えた。


 ルカだ。


 更にセラは接近する。残り数メートルといった所か。セラは薄っすらと光る青白い物体に目を凝らす。


 それは何とも形容し難いものであった。輪郭はボヤけ、ハッキリとした境界線は確認できない。ただの蒼白い光の集合体とも見て取れた。


 と、その時その物体に変化が起きた。


 ボヤケた光が一点に集まり一段と輝く。それが少し大きくなったかと思うと、一気に光り輝いた。


「…………ッ!」


 突然の出来事にセラは思わず目を瞑った。そしてそのまぶたを開けると先程光が居た場所には一人の少女が立っていた。


 少女の目は例の光の如く蒼白い色をして、全身に凛々しい気を放っていた。


 すると突然ルカはその少女にひざまずき始めた。少女はそんなルカの額を引き寄せ、自らの額とくっつけた。数秒の後、開放されたルカは少女と何やら話を始めたのであった。


 彼女は何者なのか? ルカは何をしに来たのか? 


 そんなような疑問がセラの脳内を駆け巡る。だがいくら考えてもわかるわけがなかった。


 セラがしばらく観察を続けていると不意に少女の瞳がこちらを向いた。セラは慌てて木の影に隠れた。


 _____見つかっちゃった……?


 心の中で十秒数え、恐る恐る湖の方をのぞき込んだ。


 セラの瞳を少女の(まなこ)が捉えた。


 その瞬間、セラの身体に電気ショックが走る。まるで感覚が奪われ、自我が身体の隅っこに追いやられたような不思議な感覚がして、体が動かせなくなってしまった。


 一体どうなってるの!?


 少女が糸をたぐり寄せるように手を動かすと、セラの身体が勝手に前に踊り出た。そしてそのままずるずると引きずり出されてしまった。



♦♦♦



 ルカはセラが寝ていることを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。そしてそのまま歩き出した。


 少しするとひっそりとたたずむ湖のほとりへと到着した。透き通ったその水は明るく丸い月を揺らしていた。


「お久しぶりですね……」


 湖を前にしてルカはそう呟く。すると水底から蒼い光が湧き上がって来た。その光は瞬く間に湖全体に広がり辺り一面を照らし出した。やがて光は一点に向かって集まってきた。すべての光が一つになったその姿はまるで燃える炎のようにおぼろげに輝いていた。


 そして再びその光は強く発光した。光が収まった時にはそれは少女の姿へと変貌を遂げていた。


「ずいぶんと派手な登場の仕方ですね」


 薄ら笑いを浮かべながらルカは言う。対して少女はフン、と鼻を鳴らした。


「まさかお前の顔を再び見るとはな。どれ、何があったか見せてみよ」


 少女は自らの額を前に付き出した。それを受け入れるようにルカは彼女の前でひざまずき、額を合わせた。冷たい波動がルカの身体を駆け巡る。隅々まで回ったかと思うと、それは再び少女の中へと戻っていった。


 彼女は額を離し、吟味するかのように腕を組んだ。


「なるほど……。これはまた妙な事が起きているのだな……」

「はい」

「して、魔物に求婚とはどういうことなのだ?」

「…………」


 ルカは一瞬口をつぐんだ。


「……。彼女には申し訳ないけど、守るべきものを作りたかったんです。そうでもしなきゃ僕は……」

「くくく、ならばちょうどいい。本人に聞いてもらおうではないか」


 そう言うと少女はルカの後方の木へと目線を向けた。そして彼女が腕を動かすと、その影からセラが飛び出してきた。



♦♦♦




 強制的に引きずり出されたセラはわけもわからず呆然としていた。今も身体が動かせないのだ。


 そんなセラへ少女は手を伸ばした。冷たい感覚が頬を撫でる。少女はそのまま引き寄せ、額と額を擦り合わせた。


 瞬間、セラの中に少女が流れ込んでくる。ヒンヤリとしたそれはまるで蹂躙するかのように全体をくまなく回り、戻ってゆく。


 少女が額を離すとセラの硬直も解けた。解放されたセラはおずおずと口を開く。


「な、何をしたの……!?」

「ちょいと君の記憶を覗かせてもらったのさ」

「記憶……? 一体……何者なのよ?」


 驚くセラにルカが囁く。もはやセラにとってはルカなどそっちのけだ。


「これは……彼女は、精霊です」

「せ……精霊!?」

「くくく、そうだぞ。我は精霊だ」


 精霊と名乗る少女は随分と偉そうに胸を張った。


「こんな少女が……?」

「この身は仮初の姿にすぎん。我には実態などないのだ。その気になれば____」


 そう言うと精霊はまばゆい光に包まれたかと思うと、次の瞬間には妖艶なハーピーへと変幻していた。


「じょっ、女王様!?」


 セラは驚きながらも反射的に彼女に向かってひれ伏していた。それを見て精霊は高らかに笑う。


「お前の記憶から読み取らせてもらったぞ。フフ、どうだ。これでわかっただろう?」

「え、えぇ。どうやら本当に精霊様のようね……」


 恐る恐る顔を上げながらセラはルカに言う。


「でもどうしてアンタはここに行ったのよ? しかもまるであたしに知られないように」

「…………」


 ルカは下を向いたままで何も答えようとはしなかった。そんな彼らを見て精霊は言う。


「セラよ、こやつにもそれなりの考えがあるのだ」

「でもそんなの言ってくれなきゃわからないじゃない」

「ふむ、まあそうだな」


 精霊はセラの考えを受け入れるとしばし思考にふけった。


「ならばお前も見てみるといい」

「え?」


 精霊は先程と同じ様にセラをたぐり寄せ、額と額を密着させた。温かくもどこか冷たい何かがセラの中へ流れ込んでくる。


「こ……これは」

「それはルカの記憶だ」

「…………」


 セラは頭の中に次々と様々な場面が浮かび上がって来た。




♢♢♢




 青空の下、山に囲まれた原っぱの中にその子供と大人はいた。


「父さん! また新しい技を教えてよ!」


 少年はじゃれるように父親に飛びつく。その背丈は父親の半分にも満たない。


「この前父さんから教えてもらったやつ、もう覚えちゃったんだから! 」


 そう言って彼は木の枝を剣に見立て、力強く踏み込むと木の剣を素早い動作で振り抜いた。ブォンと風切り音が唸る。


「ハハハ、ルカは筋がいいな。立派な男になれるぞ」


 父親は幼いルカの頭をくしゃくしゃっとする。


「ねえ、何かないの? カッコイイ技!」

「うーん、そうだなぁ……。じゃあちょっとだけ向こうむいててくれるか?」

「うん!」


 ルカは素直に頷くと反対を向いた。今度は一体どんな技を教えてくれるのだろうかと期待を膨らます。とそんな彼の臀部に突然。


「秘技、ダブルストレートクラッシュ砲!!」


 ドスっ!

 ゴツゴツとした四本の指が大きな音と共に小さな穴へねじ込まれた。父親は素早く指を抜き去り汚れた指にフッ、と息を吹きかけ言った。


「又の名を……四本指カンチョー」


 そして振り返り歩き出した。その背中はこの世の掟でも語っているかのように厳かなものであった。


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」


 大いなる痛みの波動がルカのアナルを襲う!


「はぐぅぅぅ!! お尻が! 穴がぁぁっ!」


 ルカは尻を抑えながらその場をのた打ち回る。それでも地獄のような鋭い痛みは消えそうにない。まるで尻の中で爆撃テロが起こったかのようだ。


「どうだルカ? お父さん格好良かっただろう?」

「微塵もカッコよくないよ! 痛いよ! ダサいよ!!」

「ふふ、そうか」

「なんで笑ってるの!?」 


 しばらくするうちに段々と痛みは引いていった。尻に平和が訪れる。


「さあ、もう帰ろうか。母さんが待ってるからな」


 そう言って父親はルカに背を向けた。その時をルカは見逃さなかった。


直腸の支配者(レクタル・ルーラー)!!」


 そう叫びルカは木の枝を掴み父の尻に目掛けて付き出した。

 ズブリ!

 木の枝は二つの布地と穴を越え彼の直腸へと突き刺さった。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!」


 醜い悲鳴が山に木霊する。

 のた打ち回る父を横目にルカはこの木の枝を宝物にしようと決心したのだった。



♦♦♦



「一体何をしたら尻から血が出るっていうのよ!」


 家に帰ったルカたちは母親にこっぴどく叱られていた。ズボンを血だらけにしていては当然のことである。


「もう、しっかりしてよねあなた」


 父の臀部を消毒しながら母は言う。


「あなたはこのカシミナ村の村長なのよ? あなたがしっかりしなくてどうするの」

「そんな大げさなもんじゃないさ」


 彼はそう言って笑った。

 ルカの住んでいた村、カシミナ村は決して裕福ではなかったが安定した生活を実現させていた。そしてルカの父親は人口役千人程度のこの村を治める村長であった。しかし村長と言ってもそこまで大した事はしていない。何しろ役場というものが存在しないのだ。強いて言うならば彼の家が役場の代わりを果たしていると言っていいだろう。村人が彼の家を訪ね、相談や苦情、はたまた依頼などをする。その内容はほんの些細なものだ。

 会議なんかで決めたわけではないが、不思議と彼を頼る人が多かったのだ。自然と彼はこの村の長のような存在になっていたのだった。




♦♦♦



 ある日の昼下がりのこと。彼はまだ全快していないお尻を無意識のうちにさすりながらいつものようにルカの相手をしていた。


「いいか、ルカ。大切なのは腕っぷしだけの強さじゃなくて真の強さなんだ」

「しんのつよさ?」

「そうだ、これから力だけじゃどうにもならなくなる事がお前の前に立ちはだかるかもしれない」


 そう言う彼の目はいつに無く真剣だ。


「そんな時お前やお前の大事なものを守るためにはまた違う強さが必要なんだ」

「ふーん。どんなの?」


 彼はにこやかに笑いながらルカの頭を優しくなでた。その心地良さにルカは目を細める。


「そうだなぁ、お前はまず大事なものを見つけないとな」

「ふーん」

「ふーん、ってなんだふーんて」


 と、そんな二人の元へ一人の男性が駆け寄ってきた。


「村長!」

「おう、どうしたんだ? そんなに慌てて。また女の話か?」

「違う! 魔物が……魔物がやってきたんだ!」

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