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「約束ですよ」

〜前回のあらすじ〜

ルカがハーピーのセラに求婚しました。

「え……え?」


 ハーピーは突然の求婚に驚きを隠せなかった。なんせ今あったばかりなのだから。それに相手は人間である。そんなハーピーに追い打ちをかけるようにルカはしゃべる。


「どうしたんだいハニー。そんな固まっちゃって」

「は、ハニー!?」


 ハーピーは素っ頓狂な声を上げた。


「何!? 何なのあんた! いきなりあって結婚だなんて! 頭に脳ミソ詰まってないわけ!?」


 ハーピーはオツムの可哀想な人間を迷惑げに睨んだ。


「ええっ!? ダメですか!? やましい事しか考えてないのに!!」


 飛んだ誤算だと言わんばかりにルカは声を上げる。この男、どういう思考回路をしているのだろうか。


「ダメに決まってるでしょ! 私は魔族、あなたは人間なのよ?」

「だからなんだって言うんだ!! そんな種族の壁なんて二人が愛し合えば関係ないんですよ! うん!」

「はぁ!? 無理よ無理! それにあたしはあんたのこと好きでもなんでもないのよ!? ていうか誰よあなた!!?」

「申し遅れました。私、ルカと申します。キリッ」


 ルカは自己紹介をしてキリッと言った。自分で言った。ハーピーは呆れ果てている。


「なんなのよあんた……」

「あなたの夫です」


 よくもまあそんなことをすらすらと言えるものだ。もはやこの男に恥ずかしいという感情が欠如しているのではないかと思えてくる。


「なんであたしなのよ……」

「惚れたんです」

 

 ルカはまっすぐにハーピーの目を見つめてそう言った。

 はぁ……、とひとつため息をつくとハーピーは無意識に脚をさすった。


「もう……帰ってくれない?」


 ハーピーは苛立った声をあげる。


「………………」

「……はやく」

「……わかりました。では失礼します」


 そう言い残すとルカは足早にその場を去ってしまった。辺りに静寂が訪れる。


「一体全体何なのよ、あいつ……」


 ハーピーは立ち上がろうとした。脚に鋭い痛みが走る。


「ッ!」


 そして再び座り込んでしまう。着地に失敗したときに足をくじいたのだろうか。大した怪我ではない。しばらくすれば痛みも引くだろう。


「もう……なんなのよ今日は」


 セラは揺れる木の葉を見上げながらそう漏らした。

 すると。


「僕とあなたの出会った日ですよ」


 そんな声が帰ってきた。


「え!?」


 声のした方を振り返るとそこには帰ったはずのルカの姿があった。


「いやぁー、何の日か? って記念日に聞かれたら答えるしかないですもんね。いやぁ、まさに理想の彼氏像ですよこれは」

「…………」


 再びいきなり現れたルカをハーピーは鋭く睨みつけた。しかしルカはそんな彼女に手を差し伸べた。


「なによ……」


 怪訝な顔でハーピーはルカとルカの手を見る。


「脚、怪我してるんでしょう?」

「…………」

「違いますか?」


 二つの視線がぶつかりあった後、ハーピーは顔を背けて呟いた。


「……ニンゲンには…………頼らない……」

「なんでそう種族が違うだけで拒むんですか?」

「……ニンゲンはヒドイ……から……嫌い」

「あなたにヒトのなにがわかるんですか?」

「……仲間が被害をうけた……から……ヒドイ……」

「そんなやつが居たから僕もそういうやつだと?」

「…………」


 ハーピーは答えない。


「あなたのその考えで行くと僕にとってハーピーは麗しい種族ってことに……あれ? あってる……」

「…………」

「なにか言ってくださいよ」

「…………」


 揺れる草木を眺めるセラは未だに口を開かない。


「まったく、素直じゃないんですから」

「…………」

「まぁ、そこも可愛いんですけどね」

「…………」


 ルカはハーピーの正面で背中を向けた。


「ほら、乗って。おぶってあげますよ」

「え?」


 彼女は振り返ってキョトンとした顔を見せる。


「え?」


 予想外の反応、と言ったようにルカは聞き返す。


「いや、あたし飛べるんだけど……」

「えぇ!? 怪我してるんじゃなかったんですか!?」

「それは足だけよ。羽根はなんともないもの」


 そう言ってハーピーはバサバサと羽を動かしてみせた。


「なんでケガしてないんですか! おんぶさせるとこでしょ今のは!! それで体全体で『女の子』を感じたいんですよこっちは!!」


 ルカはすごい剣幕でハーピーをまくしたてる。


「………………」


 彼女はまたもや無言で冷たい目線でルカを見ていた。


「なんですか! じゃああれですか! 『抱かせて』って直接言えば抱かせてくれるんですか!!?」

「………………」

「抱かせて」

「失せろ」

「だぁぁぁぁぁぁああああ!!」


 と、ここでルカにあるの脳内にある仮説が浮かび上がった。


(もしかしてこの子、飛ぶことが苦手なんじゃ……!)


「それじゃああたし帰るわ」


 そう言ってハーピーは何の滞りもなく宙に舞い上がった。


「飛べるんかーい!」

「さっき言ったばっかりじゃない……」

「くそぅ……僕の計画が台無しじゃないですか」

「知らないわよそんなの」


 ハーピーは呆れ顔だ。


「あ! そういえばまだ名前教えてもらってませんよ! なんて言うんですか!?」

「えー……」


 露骨に嫌な顔をされ、内心少し傷ついたがめげずにルカは突き進む。


「ひ、人に名前を聞いておいて自分は言わないだなんて! その〜、なんというか……アレですよ!!」

「それはあんたが勝手に名乗ったんでしょ……。まぁ……名前くらいいいか」


 ハーピーはそう呟くと言った。


「あたしはセラよ。この世で一番嫌いなものはあんたよ。まぁ、もう二度と合うことはないでしょうけど。それじゃあ」


 そしてそのまま飛び去ってゆく。ルカは即座に木に登り始めた。なんとか上まで登り終えると、彼方にハーピーが飛んでいるのが見えた。


「逃しませんよ……フヒヒ……」


 その顔はまさにストーカーの顔であった。






♦♦♦





「ハァ…………ハァ………」


 ルカはハーピーが飛んでいった方向をただひたすら真っ直ぐに進んでいた。彼を動かしているのは最早執念である。


「くそぅ……どこだ、どこにあるんだ」


 ルカがセラの住処を見つけようと奮闘していると、近くから羽音が聞こえてきた。目を閉じ、聞き耳を立てる。音が聞こえなくなるまでルカはその状態を保った。


「……よし」


 顔には満面の笑み。大型の予想はついた。ルカは軽やかな足取りで進んでいった。





♦♦♦




「ここか……。ここが、ハーピーの集落か」


 ルカはハーピー達の集落に堂々とつったっていた。そんな堂々としているからにはすぐに目立つわけで……。


「!?」


 一匹のハーピーと目が合う。ルカはウインクをした。恥ずかしさを微塵も見せずにウインクをした。


「ニンゲンよ! ニンゲンがいるわ!!」


 案の定、ハーピーは叫んだ。その声につられて他のハーピーたちが姿を現した。


「え? ニンゲン!?」

「どういうこと?」

「なんでこんなところに!?」


 ルカの周りを色んな言葉が飛び交う。ルカはそんな中目が合うすべてのハーピーにウインクをしていた。


「くそ……なんでみんな睨み返してくるんだ!」


 ルカは改めて周りを見渡した。沢山の可愛らしい目が鋭くルカを睨みつけている。


「にしてもみんな可愛いな……天国か、ここは……うぅっ!」


 感激の涙がルカの頬を伝う。そんなことをしているとルカを囲うハーピー達の円の中から一匹の凛々しいハーピーが出てきた。



 ハーピー達はその凛々しいハーピーのために道を開ける。


「あなたは……クィーンハーピーですね」

「いかにも」


 ルカはクィーンハーピーと目を合わせた。吸い込まれそうな翡翠色をした綺麗な瞳だ。ルカは思わず息をのんだ。それほどに、美しい。


 続々とハーピーたちが姿を現す。気づいた時にはルカはハーピーの円の中に居た。皆ニンゲンという物珍しさに釣られてやってきたようだ。


「わらわの村に何か用があるのか? ニンゲン」

「ルカです。以後お見知り置きを」

「…………それで?」


 クィーンハーピーはルカのことをじっくりとねめまわす。ルカはビシッ、と姿勢を正して言う。



「私、ルカは、セラさんのことを嫁にもらいに来ました!」



 辺りの空気が止まる。


 と、そこにセラがやってきた。


「えっ! なんであんたがここにいるの!?」


 ハーピー達の視線が一気にセラに注がれる。


「セラよ………」

「あ、はい。なんでしょうか女王様」

「おぬしはあのニンゲンと知り合いなのか?」


 あんぐりとした表情でクィーンハーピーが尋ねる。セラは複雑な顔をして答えた。


「さっき森の中で初めて会いました……」

「初めてだと?」

「はい。そしていきなり……」

「いきなり?」

「そっ、その……け、結婚しよう……だなんて言ってきて……」


 セラは顔をあからめながら消え入りそうな声で言った。


「そのうえしつこいんです! 女王様! どうにかしてください!」

「わかった」


 クィーンハーピーはルカの方に向き直った。それまでざわついていたハーピー達も、空気を読み口を止めた。


「ルカとやら、おぬしを信用するために頼まれてほしいことがある」

「はい、お義母さん!」

「だーれがお義母さんじゃたわけ。最近、ニンゲンの村を襲う魔物の集団がいると聞く。そいつらをどうにかして欲しいのだ。やり方はおぬしに任せる。わかったか?」

「はい。でも、どうして人を助けるようなことを?」

「ちがう」


 クィーンハーピーはキッパリと言った。


「わらわたちのためだ。魔物がニンゲンを襲えば、腹いせに魔物を襲うであろう?」

「なるほど」

「最後におぬしに一つ忠告がある」

「なんですか?」

「他のニンゲンにここのことは絶対に話すなよ?」


 クィーンハーピーは毛を逆立ててルカに迫った。それは目だけで人を殺せてしまうんじゃないかと思うほどの鋭さであった。


「わかってます」

「ならばいい」

「帰ってきたらあなたと一対一で話してみたいですね」

「フッ……帰ってこれるならばな」

「約束ですよお義母さん」

「だーから誰がお義母さんじゃ!」


 ルカはクィーンハーピーにウインクをするとハーピーの集落をあとにし、例の魔物を探しに行ったのであった。

 ルカの姿が見えなくなるとクィーンハーピーはセラに言った。


「おぬしはあやつを観察しにいけ」

「え!?」

「あやつが話をでっち上げるかもしれぬ。そのために監視するのだ」

「は、はい」


 セラは仕方なしに頷くと羽を羽ばたかせていった。

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